■平澤寿康の周辺機器レビュー■
OCZ Technologyの最新SSD「Vertex 4」が、4月中旬に登場した。同社が昨年(2011年)買収したIndilinxの最新コントローラ「Everest2」を採用し、シーケンシャルリード最大535MB/sec、512Byteランダムライト最大120,000IOPSと、高速なアクセス速度が特徴。登場当初は、スペックに比べ実際のアクセス速度が若干伸び悩んでいたものの、5月に入り提供が開始された新ファームウェアの導入により改善された。今回は、Vertex 4の特徴などを紹介するとともに、最新ファームウェア導入によりアクセス速度がどのように変わったのか、チェックしたいと思う。
●Marvell製コントローラをベースとしたIndilinxオリジナルコントローラではまず、Vertex 4の仕様から見ていくことにしよう。
Vertex 4は、昨年発売されたVertex 3の後継として位置付けられている製品だ。最大の特徴は、採用されているコントローラが、Vertex 3のSandForce製コントローラから、Indilinxの「Everest2」に変更されているという点だろう。前述の通り、OCZは2011年3月にIndilinxを買収しており、自社製のコントローラを採用した製品と言ってもいいだろう。ちなみにVertex 4は、買収後にIndilinx製コントローラを採用する製品として2製品目となる。容量は、64GB、128GB、256GB、512GBの4製品がラインナップされ、現時点で日本では128GB、256GB、512GBの3製品が販売されている。
ところで、このEverest2は、コントローラ自体はIndilinxが独自に開発したものではなく、実際はMarvell製のコントローラである「88SS9187」と同等のものだ。ただし、ファームウェアはIndilinxが独自に開発したカスタムファームウェアとなっている。コントローラが同じでも、ファームウェアが異なると当然挙動も全く違うものになる。そういった意味では、Everest2は事実上Indilinxのオリジナルコントローラと考えていいだろう。
このEverest2の特徴は、なんと言ってもランダムアクセス速度の高速さにある。実際の利用場面では、シーケンシャルアクセスよりもランダムアクセス、それもランダム4Kアクセスが最も多く発生する。つまり、SSDにとってシーケンシャルアクセス速度よりランダムアクセス速度が使用時の快適さを決定づける重要なポイントと言える。そこでVertex 4は、ランダムアクセス速度に特化してチューニングしているそうだ。
表1は、Vertex 4の発売当初のスペック(ファームウェア V1.3導入時)をまとめたものだ。これを見ると、ランダムアクセス速度の高速さが非常に目立つ。従来モデルのVertex 3 MAX IOPSでは、ランダム4Kリードが55,000IOPS、ランダム4Kライトが65,000IOPS、Max IOPSが85,000IOPS(いずれも240GBモデルの速度)で、Vertex 4は全モデルがこの速度を大きく上回っている。Vertex 3 MAX IOPSは、Vertex 3をベースにランダムアクセス速度を高めた製品だが、それよりもさらにランダムアクセス速度が高いところからも、Vertex 4の特性がよくわかると思う。
容量 | 128GB | 256GB | 512GB |
シーケンシャルリード | 535MB/sec | 535MB/sec | 535MB/sec |
シーケンシャルライト | 220MB/sec | 380MB/sec | 475MB/sec |
ランダム4Kリード(QD32) | 90,000IOPS | 90,000IOPS | 95,000IOPS |
ランダム4Kライト(QD32) | 85,000IOPS | 85,000IOPS | 85,000IOPS |
Max IOPS | 120,000IOPS | 120,000IOPS | 120,000IOPS |
【Vertex 3 MAX IOPS製品仕様】
容量 | 120GB | 240GB |
シーケンシャルリード | 550MB/sec | 550MB/sec |
シーケンシャルライト | 500MB/sec | 500MB/sec |
ランダム4Kリード(QD32) | 35,000IOPS | 55,000IOPS |
ランダム4Kライト(QD32) | 75,000IOPS | 65,000IOPS |
Max IOPS | 85,000IOPS | 85,000IOPS |
また、アクセスデータの種類によらず、常に高速な速度が発揮されるという点もEverest2の特徴としている。現在、多くの製品で採用されているSandForce製コントローラでは、データ圧縮機能を利用してアクセス速度を高めているが、これにはデータ圧縮が効かないデータを読み書きする場合には、速度が低下するという問題がある。しかし、Everest2ではどのようなデータでも常に最大の速度を発揮するという。この点は後ほどのベンチマークテストで検証したいと思う。
他にもEverest2には、NANDフラッシュへのアクセスを最適化することによりNANDフラッシュの寿命を延ばすOCZの独自技術「Ndurance Technology」の最新版となる「Ndurance 2.0 Technology」や、AES-256暗号化機能、Advanced ECC機能なども搭載。こういった特徴を背景として、Vertex 4は保証期間が5年と、現在市販されているSSD製品としては最も長く設定されている。これは、OCZがVertex 4の品質に絶対的な自信を持っているからだろう。
OCZの最新SSD、Vertex 4。特にランダムアクセス性能に優れる製品だ | コントローラは、Indilinxの「Everest2」を採用。Marvell製コントローラ「88SS9187」をベースにIndilinxオリジナルファームウェアを組み合わせたオリジナルコントローラだ |
●最新ファームウェアでシーケンシャルライト速度が向上
5月中旬に最新ファームウェアV1.4の配布が開始され、アクセス速度が向上。「OCZ Toolbox MP」を利用しアップデートを行なう |
ところで、表1に併記したVertex 3 MAX IOPSの仕様と見比べると、やや気になる部分がある。それはシーケンシャル速度だ。シーケンシャルリード、シーケンシャルライトともVertex 3 MAX IOPSに劣っており、特に128GBと256GBモデルではシーケンシャルライトが大きく劣っている。
いくらVertex 4がランダムアクセス速度に特化した製品とはいっても、これでは製品の魅力もやや色あせてしまう。しかし、5月中旬に提供された最新ファームウェアでは、シーケンシャル速度が大きく改善されている。
表2は、Vertex 4に最新ファームウェアであるV1.4を導入した場合の仕様だ。これを見るとわかるように、シーケンシャルリードは全モデルが550MB/secとVertex 3 MAX IOPSと同じになった。また、128GBと256GBモデルではシーケンシャルライト速度も大幅に向上している。これでもまだシーケンシャルライトはVertex 3 MAX IOPSに若干劣っているが、この速度差は実使用上では十分気にならないレベルであり、速度の面での見劣りはほぼ解消されたと考えていい。
容量 | 128GB | 256GB | 512GB |
シーケンシャルリード | 550MB/sec | 550MB/sec | 550MB/sec |
シーケンシャルライト | 420MB/sec | 465MB/sec | 475MB/sec |
ランダム4Kリード(QD32) | 90,000IOPS | 90,000IOPS | 95,000IOPS |
ランダム4Kライト(QD32) | 85,000IOPS | 85,000IOPS | 85,000IOPS |
Max IOPS | 120,000IOPS | 120,000IOPS | 120,000IOPS |
OCZのSSDは、以前より発売後のファームウェアアップデートが他社に比べ頻繁に行なわれるという特徴がある。そして、どの製品でもそのたびに性能を改善するとともに、同じコントローラを採用する他社製品よりも優れた性能を引き出してきたという経緯もある。
もちろん、ユーザーとしては当初からコントローラの能力を最大限引き出してほしいと思うが、実際には自社開発ではないコントローラやNANDフラッシュの能力を引き出しつつ、さまざまな環境で安定した動作を実現するとなると、なかなか難しいのも事実。だが、Indilinx買収後は、Indilinxのコントローラ開発チームとOCZのファームウェア開発チームが密接に連携できるようになったそうだ。今後もファームウェアをアップデートしていくそうなので、さらなる性能の改善も期待したい。
●Intel製のNANDフラッシュを採用Vertex 4シリーズは、2.5インチHDDサイズで、厚さは約9.3mmと9.5mmよりわずかに薄いが、側面や底面のネジ穴は2.5インチHDDと同じ位置に用意されており、デスクトップPCはもちろん、ノートPCなどのHDD交換用途にも問題なく利用できる。ちなみに製品パッケージには、3.5インチベイに取り付けるマウンタも付属している。接続インターフェイスは、SATA 6Gbpsだ。
今回は、128GBモデルと512GBモデルを試用した。双方の基板を見ると、NANDフラッシュメモリの容量は異なるが、搭載チップ数などは同等となっている。
コントローラは、先に紹介したように、IndilinxのEverest2を採用。基板中央部に斜めに取り付けられている点が目に付く。NANDメモリフラッシュチップは、128GBモデル、512GBモデルともにIntel製のMLC NANDチップを採用。128GBモデルでは、容量64Gbitチップ「29F64G08ACME3」を基板表裏に8個ずつ計16個搭載。512GBモデルでは、容量256Gbitチップ「29F32B08JCME3」を基板表裏に8個ずつ計16個搭載している。これらは、どちらも25nmプロセスチップだ。
キャッシュ用のDDR3 SDRAMは、基板表裏に1個ずつ計2個搭載する。128GBモデルはMicron製の容量4GbitのDDR3-1333チップ「D9PBW」が、512GBモデルは同じくMicron製の容量4GbitのDDR3-1600チップ「D9NZR」をそれぞれ採用。容量はどちらも1GBと大容量で、512GBモデルでは高速なDDR3-1600対応チップを採用するなど、かなり贅沢な仕様となっている。
●新ファームウェアの効果は絶大
では、速度をチェックしていこう。今回は、ベンチマークソフトとしてCrystalDiskMark v3.0.1c、HD Tune Pro 5.00、AS SSD Benchmark 1.6.4237.30508、Iometer 2008.06.28の4種類を利用した。テスト環境は下に示す通りだ。テストに利用したのは、Vertex 4の128GBおよび512GBモデルで、出荷時のファームウェア(V1.3)と、最新ファームウェア(V1.4)で同じテストを行なった。
CPU | Core i7-2700K |
マザーボード | ASUS P8Z68V PRO/GEN3 |
メモリ | PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB×2 |
グラフィックカード | Radeon HD 5770(MSI R5770 Hawk) |
HDD | Western Digital WD3200AAKS(OS導入用) |
OS | Windows 7 Professional SP1 64bit |
まず、CrystalDiskMarkの結果から見ていこう。
ファームウェアV1.3時の結果を見ると、シーケンシャルリードは128GBモデル、512GBモデルともに450MB/sec前後となっており、十分高速な数値となってはいるものの、どちらも公称値の535MB/secを大きく下回っている。シーケンシャルライトも公称値に届いておらず、128GBモデルは200MB/secも下回っている。
一方、ランダムアクセス速度は、512KBリードや4K QD32リードなどリード速度は非常に優れた結果となっている。また、512GBモデルはライトもかなり高速だ。128GBモデルは512Kランダムライトおよび4K QD32ライトが190MB/sec程度と、シーケンシャルライトとほぼ同等の速度にとどまっている。ランダムライト速度の公称値は、128GBモデルと512GBモデルで差がないことを考えると、この結果はかなり物足りないと言わざるを得ない。
ファームウェアV1.4導入後は、シーケンシャルアクセス、ランダムアクセスともに速度が向上。512GBモデルでは、速度向上はシーケンシャルリードのみ。だが128GBモデルは、シーケンシャルライト、ランダムライトも大幅に向上している。公称値と比較すると、まだ若干物足りなさを感じるが、それでもV1.3と比較するとその差は歴然で、これならおそらく体感でも十分に差が感じ取れるはずだ。今回はテストを行なっていないが、256GBモデルも、同様の結果が得られるはず。ファームウェアV1.4の効果は絶大と言える。
128GB V1.3 1,000MB | 512GB V1.3 1,000MB | 128GB V1.4 1,000MB | 512GB V1.4 1,000MB |
128GB V1.3 4,000MB | 512GB V1.3 4,000MB | 128GB V1.4 4,000MB | 512GB V1.4 4,000MB |
次に、テストデータを0Fillに設定した場合の結果だ。Everest2の仕様通り、ランダムで測定した結果とほぼ同等の結果となっており、データ形式によらず安定したアクセス性能が発揮される。
この傾向は、HD Tune Pro 5.00の結果でも同様だ。ファームウェアV1.4導入後は速度が大きく向上し、CrystalDiskMarkとほぼ同等の速度が計測されている。ただ、ファームウェアV1.4導入後は速度のブレがかなり大きく、まれに速度が大きく低下してしまう場面も見られる。速度の上限は引きあげられたものの、まだ安定して高速な速度が引き出せる状態にはなっていないようだ。こういった点が影響し、テスト結果が公称の速度に届いていない。今後のファームウェアのアップデートで速度のブレも改善されることを期待したい。
次に、AS SSD Benchmarkの結果だ。こちらも傾向はCrystalDiskMarkとほとんど同じだ。ほぼ同様の数値が得られ、ファームウェアV1.4導入後は大きく速度が向上している。また、Compression Benchmarkの結果からも、データの圧縮効率によらずほぼ一定の速度が引き出せていることがはっきりとわかる。
最後にIOmeterのFile Server Access Patternを利用した計測の結果だ。こちらは、これまでの結果とは若干傾向が違っており、Queue Depthが1の場合には、128GBモデル、512GBモデル双方ともファームウェアV1.4の方がやや結果が劣っている。しかし、Queue Depthが32の場合には双方ともファームウェアV1.4の方が結果が向上している。このようにややちぐはぐな結果になっていることを見ると、ファームウェアV1.4でもまだコントローラの性能がフルに引き出せていない可能性が高そうだ。ただ、現状でもランダムアクセス性能は十分に優れており、Vertex 4がランダムアクセス性能に特化してチューニングしたSSDであることは十分見て取れる。
Iometer 2008.06.28 Windows 7 Professional 64bit | Vertex 4 128GB | Vertex 4 512GB | |||||||
Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | ||||||
ファームウェアV1.3 | ファームウェアV1.4 | ファームウェアV1.3 | ファームウェアV1.4 | ファームウェアV1.3 | ファームウェアV1.4 | ファームウェアV1.3 | ファームウェアV1.4 | ||
File Server Access Pattern | Read IOPS | 2855.81 | 2358.08 | 4131.67 | 5411.40 | 3597.84 | 3356.90 | 12264.32 | 18042.89 |
Write IOPS | 715.11 | 590.55 | 1034.93 | 1353.80 | 903.64 | 838.65 | 3070.16 | 4503.64 | |
Read MB/s | 30.84 | 25.48 | 44.72 | 58.48 | 39.04 | 36.38 | 132.59 | 195.21 | |
Write MB/s | 7.72 | 6.42 | 11.24 | 14.64 | 9.76 | 9.06 | 33.24 | 48.66 | |
Average Read Response Time | 0.32 | 0.39 | 7.43 | 5.87 | 0.25 | 0.27 | 2.45 | 1.72 | |
Average Write Response Time | 0.13 | 0.14 | 1.23 | 0.18 | 0.10 | 0.11 | 0.62 | 0.21 | |
Maximum Read Response Time | 9.50 | 294.31 | 1554.63 | 1843.66 | 468.35 | 454.91 | 3625.33 | 4374.97 | |
Maximum Write Response Time | 1.29 | 0.43 | 75.09 | 93.41 | 1.93 | 1.86 | 174.74 | 184.78 |
テスト結果を見る限り、初期出荷のファームウェアV1.3導入状態では、128GBモデルや256GBモデルでアクセス速度、とくにライト速度が遅く、従来モデルであるVertex 3シリーズと比較してもやや見劣りする部分があった。
しかし、新ファームウェアのV1.4を導入すれば、アクセス速度が大きく向上し、現在市販されているSATA 6Gbps対応SSDと比較して、見劣りしないレベルに到達したと言える。初期ロット購入者はもちろん、これから購入する場合でも、ファームウェアのアップデートの必要性を確認し、V1.3の状態であれば必ずアップデートした上で利用すべきだ。ファームウェアV1.4の状態であれば、優れたランダムアクセス性能は十分に魅力があり、実利用時の快適度を優先してSSDを選択したいという人におすすめできる。
Vertex 4は、現時点でもコントローラが持つ性能を最大限に引き出せておらず、まだ発展途上の製品と言えるかもしれないが、OCZは今後も定期的にファームウェアのアップデートを行なうとしているので、今後のさらなる性能向上にも期待したい。
(2012年 5月 31日)