山田祥平のRe:config.sys

【IDF特別編】Intelが提唱する壮大なダイエット計画で地球を救おう




 地球を守るには犠牲が伴う。その犠牲を、ITの力で少しでも小さなものにしようというのがIntelの考えだ。コンピュータをここまで身近なものにし、今なお、その勢いを衰えさせず、増殖させることを生業にしている以上、それは当然の務めということなのだろうか。大きな話題の少なかった今回のIDFだが、こうした基本的なことを考えるいいきっかけを作ってくれるのもIDFのいいところだ。

●なぜ節約が必要か

 エネルギーは有限で、それをできるだけ長く使い続けるためには、二酸化炭素がおよぼす環境への影響を最小限に抑える必要がある。電力をふんだんに使うことで暮らしを豊かにしようとしてきた立場で、どの口がそんなことを、とも思うのだが、そこはそこ、ITの力で地球の温暖化を抑制することはIntelにとって重要なミッションになりつつある。

 何かを削減するには、そのエネルギーを何かで代替する必要がある。例えば、単純な話、ダイエットを考えてみよう。体重を減らすことが目的だが、減った分の体重が何に変わるかというと、個人の満足感になって帰ってくるわけだ。その満足感が大きいから、食べたいものも食べず、苦しい運動をするなどして、懸命にダイエットに励む。

 でも、自分が普段から使っているエネルギーを削減することは、豊かな暮らしをマイナス方向にシフトすることでもある。暑い夏に冷房をガマンしたり、寒くても衣類を重ね着してしのいだりすることになる。

 見ていないTVを消したり、使っていない部屋の電気を消すといったことであれば、なんとなく納得できる。でも、それは大いなる無駄であって、つけっぱなしのTVでたまたま目にした番組やCMから突拍子もない感銘を受けることがあったり、ともる明かりにやすらぎを感じたりといったことは頻繁にある。ライトアップはやはり大いなる無駄でありながら、多くの人々に感動を与えることもあるのだ。地球にやさしいことは、人類にとってもやさしいことに直結するとは限らない。でも、それは、今を生きる人類にとってのことであって、これから何千年もの先に生きる人々の暮らしを考えると、義務に近いことなのかもしれない。

 Intelの最高技術責任者であるIntelラボ代表のジャスティン・ラトナー氏は、開催中のIDF北京において、その基調講演でパーソナル・エナジー・マネジメントをテーマにIntelのグリーン戦略について言及した。彼もまた、仕事の仕方、遊びの仕方は難しいと語り始めた。

●ライフスタイルを変えるのは難しい

 ラトナー氏によれば、まずは、生活の仕方を変えていく必要があるという。その上でITで何ができるかを考える。その筆頭はインフラの近代化だ。たとえば電力の供給を太陽熱や風力に頼る。その上で、節約するライフスタイルに転換を試みるという。

 ダイエットに取り組んでいるときには、とにかく頻繁に体重計にのっかり、現在の自分の状態を把握する。グリーンも同様で、エネルギーの収支を管理するためには、情報やそれを分析するツール、さらに動機が必要になる。PCがあれば、消費者は、身の回りですっかり身近になったコンピュータ的なデバイスを使って、常に、自分のエネルギー消費を管理できるようになる。もちろんクラウドもその体制を支援する。

 今、ぼくらが、世界中どこにいても、TVやラジオ、新聞、雑誌、インターネットや携帯電話網を使ってさまざまな情報を得られるのと同じように、常に情報としてエネルギー使用量を得られるようにし、消費者主導の消費行動の時代にすることができれば、地球の温暖化が防げるというのがIntelの考えだ。

 デモンストレーションでは、家中のいたるところに仕掛けられたセンサーによって、家の中がどのような状態にあるのかを把握するシステムが紹介された。その分析結果を見れば、時間ごとの電力の消費状態によって、宿題を終わらせなければゲーム機で遊んではいけないのに、息子がゲーム機に夢中になっていたことまでわかるのだという。

 また、主婦は主婦で、洗濯時に注水した水を一定の温度に上昇させるときのエネルギーが大きいことに着目、設定温度を下げて洗濯機を動かすようにすることでエネルギーを削減することに気がつけたという。

 そんなこと、ITがなくてもわかりそうなものだと思うのだが、人間はなかなかそうはなれないものらしい。

 Intelラボで開発された新しいセンサーも紹介された。これは、1つのデバイスをコンセントに差し込んでおくだけで、電圧変化のパターンを認識、どのような機器がオンになり、オフになったかという電気信号追跡と分析を行ない、ホームマネジメントシステムにその結果を無線送信、エネルギー管理を効率化するという。

 つまり、消費者は気がつかないうちに、多くのエネルギーを使っていて、その量を把握していない。それがわかればライフスタイルを変えられるというのだ。

 まさにダイエットである。体重計がなければダイエットの意欲はわかないし、継続の維持もままならない。摂取した食事の記録をリアルタイムで数値化できれば、ダイエットの指針になる。そういうことだ。

 しかもエネルギーのダイエットは孤独な作業ではなく、人類がこぞって取り組むべきプロジェクトだ。1人で節約しても効果はなかなか見えてこないが、家族がおもしろがってやれば大きな節約につながる。アメリカ全体が取り組めば、大きな火力発電所を2基作らなくてもよくなるという。

●本当のところはどうなんだろう

 IDFはIntelのテクノロジーをビジネスに転換するためのヒントを得るためのカンファレンスだ。その参加者にエネルギーの削減を訴えることは重要かもしれないが、はいそうですかと納得する輩ばかりではない。やはり、そこにビジネスチャンスを見つけたものが、最後に笑う。中国風に言えば、鄧小平主席の言葉を借り、先に富むか後に富むなら、先に富むということか。

 この壮大なプロジェクトに関わり、家庭、そして、地域社会や街をマイクログリッドに見立ててエネルギー管理していく過程では、さまざまなデバイスが使われ、それを結ぶネットワークが運用され、また、ステータスを分析するソフトウェアが稼働する。それが今後は大きなビジネスチャンスになり、エコシステムとしてまわっていくということだ。

 そのためのコスト、そして消費されるエネルギーは本当に何百年、何千年先の人々の暮らしを救うことができるのか。本当はコンピュータを使わないことが、地球を救うもっとも手っ取り早い方法かもしれないということをラトナー氏に聴きたかったのだが、個別のラウンドテーブルにまで出ても、最後まで口にすることができなかった……。もちろん、ぼく自身も、そんなはずはないと信じたいからだ。