PCで4K&HDRなUltra HD Blu-rayを観てみよう

PCで4K&HDRなUltra HD Blu-rayを観るにはどうすればいい? 世界初の対応ドライブ パイオニア「BDR-S11J」の動作環境などをチェック!

次世代のBlu-ray Disc規格「Ultra HD Blu-ray」がいよいよ普及の兆しを見せている。既発売タイトルでいえば「パシフィック・リム」、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」、「デッドプール」といった人気タイトルのUltra HD Blu-ray版がリリース済み。2017年上半期も、「ハリー・ポッター」シリーズや「ジェイソン・ボーン」シリーズのUltra HD Blu-rayでの再発が予定。もちろん新作タイトルも「シン・ゴジラ」、「バイオハザード:ザ・ファイナル」などのリリースが予定されている。

通常Blu-rayの4倍の解像度(4K)に、これまでにない色表現を実現する広色域とHDR対応など、これまでにない映像体験を味わえるUltra HD Blu-rayだが、再生環境はまだ普及しているとはいえない状況だ。対応プレイヤーおよびレコーダーは数えるほどしかないし、ゲーム機の対応も昨年末にリリースされた「Xbox One S」ぐらいだ。

そんな状況に一石を投じるべく発売されたのが、パイオニアによる世界初のPC向け内蔵Ultra HD Blu-ray対応ドライブ「BDR-S11J」シリーズだ。この製品により、いよいよPC向けのUltra HD Blu-ray再生環境が整っていくと思われる。

パイオニアから発売した「BDR-S11J-X」と「BDR-S11J」

とはいえ、現状では要求するPCスペックに制約も多く、注意も必要だ。そこで今回は、「BDR-S11J」を用いてPCでUltra HD Blu-rayを再生する際のポイントをまとめるとともに、ドライブを開発したパイオニア、プレイヤーソフトを開発したサイバーリンク、そしてその両社に開発協力した日本ギガバイトの3社にインタビューを行い、この先の展開について聞いてみた。

左からサイバーリンクの馬場規隆氏、パイオニアの鍵谷亮一氏、日本ギガバイトの岡田宇弘氏

PCでのUltra HD Blu-ray再生、必要な環境をチェック!

では、まず「BDR-S11J」ならびに標準添付のプレイヤーソフト「PowerDVD 14」(Ultra HD Blu-ray対応の特別版)でUltra HD Blu-rayを再生する際の要求スペックを見てみよう。

CPU
Intel 第7世代デスクトップ向けCorei7/i5プロセッサー(KabyLake-S)
Intel 第7世代ノートブック向け Core i7/i5プロセッサー(KabyLake-H)
(Uプロセッサーは非対応)
マザーボード
Intel SGX 対応intel 200シリーズ マザーボード
HDCP2.2/HDMI2.0a出力対応Intel 内蔵GPU出力対応(HDMI出力用)
GPU
Intel HD Graphics 630 第7世代プロセッサー向け内蔵GPU
メインメモリ
6GB以上
外部ディスプレイ
4K解像度(3840 x 2160以上)HDMI2.0a(要HDCP2.2)対応ディスプレイ

見ての通り、現時点で対応するのはインテルから今年始めにリリースされたばかりの「KabyLake」プラットフォームのみとなっている。さらに具体的に言うと、CPUおよびチップセット側の機能として「Intel SGX」に対応することが必須となる。

Intel SGXとは、Intel Software Guard Extensionsの略で、CPU内にユーザーからはアクセス不可能なデータ保護領域を作成する機能。Ultra HD Blu-rayの著作権保護機能である「AACS2.0」は従来のBDよりもはるかに強固なセキュリティを実現するため、PCでの再生においてはプロテクト解除のために「SGX対応」が必須とされているのだ。

さらに、CPUとマザーボードがSGXに対応していても、ベンダー側で機能をオフしている可能性もある。SGXがデフォルトでオフになっているマザーボード場合は、ユーザーが自分でBIOSに入り、項目をオンにする必要がある。さらに問題となるのは、そもそもBIOSに設定項目が用意されていない場合。この場合はまさに「試してみないとわからない」状況になってしまうので、注意が必要だ。

多くの場合、BIOS側でSGXをオンにする必要があるだろう

また、SGXでプロテクト解除したデータのセキュリティを確保するため、映像の外部出力は「内蔵GPU経由のみで可能」となっている。つまり、GeForceやRadeonといった外部GPUからUltra HD Blu-rayの映像出力をすることは、現状では不可能となっている(ただ、この状況は変わる可能性もある。詳しくはこのあとのインタビュー参照)。

映像出力に関しては、内蔵GPUの出力と、出力先のディスプレイが、ともにHDMI2.0aとHDCP 2.2に対応していることが必要だ(HDMI2.0aとHDMI2.0の違いはHDR対応のみなので、HDMI2.0でも再生自体は可能と思われる)。HDCP2.2対応は必須となるが、注意したいのは、「HDMI 2.0対応」だからといって必ずしも「HDCP 2.2対応」とは限らないこと。このあたりも、機器購入前にメーカーサイトなどでしっかりとチェックしておきたいところだ。

ディスプレイ解像度は、もちろん4K対応が必要(これ以下の解像度でも再生は可能と思われるが)。HDR対応のディスプレイであればUltra HD Blu-rayの広色域を堪能できるが、HDR非対応でもプレイヤー側でダウンコンバートされるため、視聴自体は問題なく可能だ。

以上、必要なPCスペックについて見てきたが、どうしても「現時点では、これをイチから揃えるのはなかなか厳しい」と思えてしまう。もちろん、CPUやチップセットについては現世代以降であれば問題なく対応するだろうから「時間の問題」ではあるのだが、そういった意味では、今回の対応ドライブの発売は商業的には「早すぎ」と思えなくもない。

そこで、今回はドライブを発売したパイオニア、Ultra HD Blu-ray対応のPowerDVDを開発したサイバーリンク、そして機材提供や検証で両社に協力した日本ギガバイトの3社に共同インタビューを実施。なぜ「今」「このタイミングで」製品を発売するに至ったか、今後の展開は、など気になる部分をお聞きした。

4K対応はもちろん、広色域とHDRこそがUltra HD Blu-rayのすごさ

取材開始直後、「まずは」ということで、サイバーリンクの馬場規隆氏に、実際にPCでのUltra HD Blu-ray再生デモを見せていただいた。

実際にPCで再生したUltra HD Blu-ray映像をデモ。映像ソフトは「宮古島 〜癒しのビーチ〜【Ultra HD Blu-ray(4K HDR) + Blu-ray Disc】」。©VICOM INC./Sony PCL Inc.

4Kということで、もちろん解像感の素晴らしさは言うまでもない。ヘリで上空から海面を映したカットでは、かなりの遠距離からにもかかわらず、海中を泳ぐ魚影が視認できる。

また、Ultra HD Blu-rayならではの広色域によって、宮古島の特徴的なエメラルドグリーンの海の色が非常に美しく表現されている。

HDR対応によるコントラスト感も強烈だ。海面に照りはえる太陽のきらめきは目にまぶしく、日の出のシーンでは朝日の鮮烈さと山並みの黒さのコントラストが美しい。それでいて、山並みの黒は潰れず、階調を保持できている。

サイバーリンク株式会社の馬場規隆氏

サイバーリンク 馬場氏「BDR-S11J」に付属するPowerDVDは、バージョンこそ以前と同じ14の表示ですが、Ultra HD Blu-ray対応の特別版となります。実際にUltra HD Blu-rayを鑑賞してみると、解像感の違いはもちろん、色域が広くなることで色の再現度、表現自体が根本的に変わっていることがわかると思います。

Windows 10はまだOSの色空間がHDRに対応していませんが、今回のPowerDVDではIntelの内蔵GPUのAPIを直接叩くことで、HDR再生を可能にしています。HDR対応のUltra HD Blu-rayを再生すると、ディスプレイ側でちゃんとHDR信号を認識していますね。

最近はネット動画配信で4K画質というのも出てきていますが、Ultra HD Blu-rayが必要とされる理由のひとつは、やはりこの「HDR」です。それに、4Kで画質を追求するには、ネット配信ではビットレートの面でかなり不利になります。Ultra HD Blu-rayの瞬間ビットレートは最大で120Mbpsくらいありますが、現状ではこれだけのビットレートをインターネット回線で安定して維持するのは困難でしょう。

日本ギガバイト 岡田宇弘氏

日本ギガバイト 岡田氏今のHDRをはじめ、Ultra HD Blu-rayの素晴らしさは店頭のデモで実際にユーザーさんにアピールする必要がありますね。弊社では、店頭デモ用のPCに機材をご提供したりと、パイオニアさん、サイバーリンクさんと共同でUltra HD Blu-rayの普及に向けて動き出しています。

現在の要求スペックの高さは承知の上で「世界初」を目指した

―今回のUltra HD Blu-rayのPC対応ですが、PCの要求スペックが非常に厳しくなっていますね。これは仕方ないことなのでしょうか。

サイバーリンク 馬場氏従来のBlu-ray Discはソフトウェアによってプロテクションを解除していましたが、のちに暗号鍵が流出してしまうなど、問題が起きました。そこでUltra HD Blu-rayで採用されたDRM「AACS2.0」では、ハード側のセキュア領域でプロテクションを解除しなければならなくなりました。それにはインテルの第7世代CPUプラットフォームに搭載されるSGXが必須なのです。

また、PCI Expressなど外部バスにデータを渡すと、そこにユーザーがアクセスできてセキュリティホールになるため、映像も内蔵GPUから出力する必要があります。そういった事情により、Kaby Lake世代のCPUとIntel 200チップセット対応マザーボードが必要になりますが、すべてのCPU・マザーボードが対応するわけではありません。BIOS側でSGXがデフォルトでオフになっている場合がありますし、そもそも設定項目が存在するかどうかもベンダー次第です。そこで、ユーザーさんの環境でUltra HD Blu-rayが鑑賞できるかがわかるアドバイザーツールを用意し、パイオニアさんのWebサイトからダウンロードできるようにします。

―今後、インテル以外のGPUでの再生も可能になったりはしないのでしょうか。

サイバーリンク 馬場氏今回は最初のステップとして、まずPC環境下でUltra HD Blu-rayを再生させること、それ自体が重要でした。もちろん今後、さまざまなメーカーのGPUからも出力できたほうがUltra HD Blu-rayドライブの普及も早まると思うので、各GPUメーカーと協力して対応策を模索していきます。

―今回の製品はデスクトップ向けの内蔵ドライブですが、USBの変換をかませるなどしてノートPCでUltra HD Blu-rayを再生することもできるでしょうか。

サイバーリンク 馬場氏「PowerDVD」に関していえば、上記環境を満たしたCPU+チップセットであれば、内蔵ディスプレイなら問題なく表示できるはずです。ただし、SGXが有効になっているかどうかは確認する必要があります。残念なのは、ノートPCの内蔵ディスプレイは、そのほとんどがHDRに対応していないことです。もちろん再生自体は問題なく可能ですが、HDRの美しさは格別なので、HDR対応の内蔵パネルを搭載したノートPCが早く発売されて欲しいですね。

パイオニア 鍵谷氏ドライブ側も、ノートPCでの再生自体は問題ないはずです。ホスト側がUltra HD Blu-rayの再生に対応していれば、USBに変換しても再生できます。ただし、相性等の問題もあるため、弊社として公式に推奨するわけではありません。

―まだハードウェア側の要件が十分に整っていない状態での発売ですが、その狙いはどこにあるのでしょうか。

パイオニアの鍵谷亮一氏

パイオニア 鍵谷氏それは、我々パイオニアの、なんとしても世界初で出してやるぞ、というパイオニア精神がまずあります。確かにまだ世間の環境は整っていませんが、我々が世界初のPC用BDドライブを出した時を思い返しても、HDCP対応のディスプレイが少なくて、やはり環境的には厳しかったです。それでも、開拓者として世界初の製品を出し、業界をリードすることで規格の普及を推進しようとするのが、パイオニアです。Ultra HD Blu-rayが普及した時に、すでに市場に再生環境があるのが重要です。弊社の製品が信頼性を何より重んじるのもそこで、規格が普及するまでは壊れることなく使ってほしいという想いがあります。

一筋縄ではいかなかった「世界初」の開発

―世界初の製品ということで、苦労した部分も多いのではないでしょうか。

パイオニア 鍵谷氏パイオニアはPC用ドライブのほか、BDレコーダーなどのAV用ドライブを手がけていることもあり、Ultra HD Blu-rayに関する技術的な蓄積はあります。今回のUltra HD Blu-rayドライブも、その知見を活かして開発することができました。とはいえ、AV向けと違う部分も多いので、やはり非常に苦労しました。

従来から大きく変わったのはファームウェアです。ファームウェア開発にあたってはまず、Ultra HD Blu-rayディスクのデータを物理的に読めるよう対応することと、ドライブとホスト(再生アプリ)とのやり取りでAACS2.0に対応することを優先して進めました。

大変だったのは、AACS2.0への対応ですね。ファームウエアの設計、実装は進めるものの、当初は再生する環境がないわけですから、動作評価には苦労しました。開発にあたっては、同時にサイバーリンクさんにもPowerDVD対応版の開発も進めてもらいながら、ギガバイトさんが対応マザーボードの「Gaming 9」を出すまで手探り状態でやっていましたので、半年以上の時間がかかりました。

日本ギガバイト 岡田氏開発当初はそもそも対応するマザーボードが発売されていなかったので、弊社から試作機をパイオニアさんとサイバーリンクさんに貸し出しました。当時はインテルのプロトタイプのようなボードはありましたが、まだプロダクションレベルではありませんでした。

パイオニア 鍵谷氏ギガバイトさんには試作マザーボード、サイバーリンクさんからはソフトを提供してもらいながら開発を進めてきましたが、ようやく様々な環境が整った状態で動作するようになったのは2016年末頃でした。

―光学系や駆動系などのドライブの構成自体は変わっていないのですか

パイオニア 鍵谷氏Ultra HD Blu-rayの記録密度はBD-Rの三層メディア(BDXL)とほぼ同じなので、基本的な構成は変わっていません。Ultra HD Blu-rayはビットレートが増えているので、回転数をあげる必要がありますが、当社のドライブは将来を見越してオーバースペックなものを作っています。そういった意味では、今回ようやく機能がハードに追いついたという印象です。

ディスクの回転を安定させるクランパーは、パイオニア製ドライブおなじみのパーツだ

トレイの形状にもドライブ内の風の流れを安定させるための工夫がある

パイオニア 鍵谷氏静音化やディスクの回転の安定化といった、パイオニアが得意とする機構も寄与するところが大きいですが、もう少しUltra HD Blu-rayのディスクを「ゆっくり」回せないか、とも考えています。もちろんUltra HD Blu-rayに合わせたチューニングをしていますが、ビットレートはいつもピーク値で推移するわけではないので、バッファにデータをためてディスクをなるべくゆっくり回すようにすれば今より静かになるかもしれません。ただ、ドライブ内蔵のバッファは容量が小さいので悩みどころです。

サイバーリンク 馬場氏光学ドライブは回転しはじめでスピードが出にくいので、そこでプレイヤーソフト側でバッファをどうコントロールするかが重要です。再生開始時にコマ落ちしないようにするためのチューニングは結構細かくやりました。PCの推奨スペックでメモリが6GB以上となっているのも、バッファリングも含め、従来のBDと比べると高いスペックが要求されるからです。

3社が協力しUltra HD Blu-rayのエコシステムをつくる

―最後に今後の展望を聞かせてください

パイオニア 鍵谷氏今回、各社が協力して開発することで、いろいろなことができる可能性が見えてきました。今後はこうした取り組みをもっと発展させて、何か共同で企画できればと思います。繰り返しになりますが、Ultra HD Blu-ray対応は、なんとしても世界初でやりたかったことでした。開発はけっこう前からスタートしていましたが、早くに始めすぎても検証環境がない、かといって遅すぎると世界初ではなくなってしまう、ということで時期を読むのに苦労しました。今回は内蔵ドライブでしたが、今後、外付けのポータブルドライブもラインアップしていくのでご期待ください。

日本ギガバイト 岡田氏今回発売される世界初のUltra HD Blu-rayドライブは、PC業界全体のゲームチェンジャーになりうると思います。弊社もUltra HD Blu-rayの対応製品を拡充していきたいと考えています。

サイバーリンク 馬場氏Ultra HD Blu-rayの普及に当たっては、エコシステムを育てていくことが大切です。その第1歩にようやくいまたどり着いたところです。現状では制限が多いことは事実ですが、ユーザーさんの需要が高まりマーケットが盛り上がることで、業界全体も変わってくるはずです。ハードルはまだ高いですが、パネルやデバイス、ソフトなどを含めたエコシステムが構築されれば、ユーザーさんに楽しんでいただける環境の整備も進んでいくと思うので、そのためにもPC業界全体で市場を盛り上げていきたいです。そのためには、HDCP2.2のチップを積んでいて、SGXが有効化できて、かつリーズナブルな価格のマザーボードが市場に必要です。

パイオニア 鍵谷氏それが市場に出回るようになると、もう1段ギアが上がるはずですね。ギガバイトさん、ぜひよろしくお願いします(笑)。


今回のインタビューで3社が口をそろえていたのが、市場を盛り上げるには「ユーザーさんからのフィードバックが重要」ということ。今後、PC用Ultra HD Blu-rayの開発スピードを早めるためにも、SNSやブログでのリアクション、メーカー各社のアンケート調査などはぜひ積極的に行って欲しい。それが環境の整備や市場の活性化、さらに製品の低価格化につながっていくはずだ。