笠原一輝のユビキタス情報局

いよいよ立ち上がるUHD BDのPC再生環境

~Intel SGXとHDCP 2.2対応に注意、HDR対応は次期Windows 10で進展

 パイオニアからUltra HD Blu-ray Disc(以下UHD BD)に対応したBDドライブが発表された(別記事参照)。UHD BDの特徴は、解像度が4Kになり、HDR(High Dynamic Range)やBT.2020などの広色域に対応するなど、映像がより鮮明で高画質になるというところにある。対応したコンテンツも徐々に出始めており、PCユーザーでも興味があるユーザーは少なくないだろう。

 その発表記事でも触れられているが、実際に再生するにはPC側に第7世代Coreプロセッサ(SプロセッサないしはHプロセッサ)、さらにはIntel SGX(Software Guard eXtentions)対応で、マザーボードがHDMI 2.0/2.0a対応である必要があるとされている。これらの条件が具体的にどういうことなのか、本記事で解説していきたい。

 また、PC業界は、UHD BDでも必要となるHDRへの対応を進めている。ハードウェア的には既に準備完了になりつつあり、この春にリリースが予定されているMicrosoftの次期Windows 10のアップデートRedstone2ことWindows 10 Creators Updateでの対応を待って本格的な展開が進んでいく見通しだ。

パイオニアが発表したBDR-S11J-X

より高解像度で、広色域に対応した映像を再生できるUltra HD Blu-ray

 UHD Blu-rayは、従来のBlu-ray Disc(以下BD)の延長線上にあり4K/UHDの高解像度やHDRに対応した、第2世代のBDとなる。

 従来のBDやPCなどでは、R/G/Bがそれぞれ8bitで色が表現されてきた。しかしHDRではこれが10bitやそれ以上に拡張されるため、より多くの色を表現することが可能になる。また、BT.2020という新しい色域に対応しており、ディスプレイ側が対応していれば、より鮮やかな色表現が可能になる。

 つまり、高解像度で、より色鮮やかな動画再生が可能になるわけだ。民生用のプレーヤーが先行し、対応コンテンツも販売が開始されている。PCユーザーにとって身近なのは、Microsoftが販売しているゲーム機「Xbox One S」で、これもUHD BDの再生に対応している。

AACS 2.0のDRMを解除して再生するのにIntel SGX対応が必要

 ただし、PCに実装する場合には、かなり厳しい条件を満たさなければいけない。第1世代のBDの時も、デジタル出力時にはGPUのディスプレイ出力がHDCPに対応している必要があった。現在ではHDCPに対応していないGPUやディスプレイは探すのが難しいぐらい当たり前になっているが、BDが登場した当時にはあまり存在していなかったので、当初、自作PCでBDを再生可能なPCを組み立てるのには難儀した記憶があるユーザーも少なくないだろう。

 UHD BDでは、それ以上に厳しい制約が付く。UHD BDで採用されているDRM(Digital Rights Management:著作権保護管理)の仕組みであるAACS 2.0が、より厳しい要件になっているからだ。

 PCを製造している台湾のODMメーカーの関係者などに取材したところ、過去にPCの再生ソフトウェアから暗号化鍵が流出してしまった経緯もあり、より厳しい鍵管理が求められているという。具体的にはソフトウェア側で暗号化鍵を持って解除することは認められず、ハードウェアによるセキュアな環境で暗号化鍵を解除する必要がある。

 このため、再生ソフトウェア(パイオニアのUHD BDドライブにはCyberLinkの「PowerDVD 14」がバンドル)は、Intel SGXを利用して暗号化鍵の解除を行なう仕組みになっている。Intel SGXとは、Intelの第6世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Skylake)の一部製品から導入が始まった、セキュアなソフトウェアの実行環境。

 CPUのハードウェアを利用して、外部のソフトからアクセスできないようなセキュアな実行環境を作り、ソフトウェアのコードやデータを悪意のあるハッカーからのアクセスを守る役目を果たしている。Windows用のUHD BD再生プレーヤーは、全てこのIntel SGXを利用して動画をデコードしながらディスプレイへ出力する仕組みになっている。

第7世代Coreプロセッサ

 このIntel SGXに本格的に対応するのが第7世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Kaby Lake)となる。このためパイオニアが発表したUHD BD対応要件には、第7世代Coreプロセッサが必須と書かれているのだ。重要なのは、このIntel SGXを利用するには、CPUだけでなく、マザーボード側も対応している必要がある点だ。同じくIntel SGXに対応している第6世代Coreが対応要件に入っていないのは、マザーボード側が対応していないからだと考えられる。

 第7世代Coreプロセッサ用のチップセットはIntel 200シリーズチップセットになるが、必ずしも全てのIntel 200マザーボードがIntel SGXに対応しているわけではないと関係者は言う。一部の製品だけが対応している現状で、そもそもマザーボードベンダーがBIOSでオフにしている場合も多いという(BIOS設定ユーティリティにその項目がそもそも用意されていない場合もある)。

 確実にUHD BDの再生を行ないたい場合には、購入前にマザーボードがIntel SGXに確実に対応しているかをチェックしておく必要がある。

外付けディスプレイに出力する場合にはHDCP 2.2への対応が必須

 そして2つ目の要件が、HDCP 2.2への対応だ。HDCP 2.2はHDCP(High-bandwidth Digital Content Protection system)の最新版で、従来のHDCP 1.4などに比べてより強固な著作権保護を行なうことが可能になっている。HDCPは基本的にはディスプレイ出力に対するDRMで、HDMIやDisplayPortなどのディスプレイ出力および、受信側のディスプレイ側もこれに対応しているかが問題になる。

 第6世代CoreプロセッサではHDCP 2.2には未対応だったが、第7世代Coreプロセッサの内蔵GPUは正式にHDCP 2.2に対応した。ただし、これはハードウェア的に第7世代CoreプロセッサがHDCP 2.2に対応したのではなく(つまりHDCP 2.2のトランスミッタをSoCに内蔵したのではなく)、ドライバレベルでの対応に留まっている。

 つまり、第7世代Coreプロセッサのシステムであっても、マザーボードによっては、HDCP 2.2非対応のものがある。

 PCメーカーがスペック表にHDCP 2.2対応かどうかを明示してくれている場合には分かりやすいのだが、最近のシステムはHDMI Licensingの方針などもあって、HDMIのバージョンを書いていないことが多い(書いてある場合もあって統一されていないのだが……)。その場合には購入前にメーカーにHDCP 2.2に対応しているかを確認する必要がある。

 自作PCの場合にはパーツメーカーがHDMI 2.0/HDMI 2.0a対応などとバージョンを書いている場合がある。HDMI 2.0/2.0a対応と書かれている場合には、同時にHDCP 2.2に対応していてもよさそうだが、実はHDMI 2.0/2.0aではHDCP 2.2は必須ではなくオプション扱いになっている。従って、HDMI 2.0/2.0a対応と書かれていてもHDCP 2.2には未対応ということは理論的にはあり得るのも注意が必要だ。

 さらにややこしいのは、第7世代CoreプロセッサのHプロセッサ(モデルナンバーの最後にJやHQ、HKなどがついているSKU)、Sプロセッサ(デスクトップPC向けのLGAソケットの製品)は全てHDCP 2.2に対応可能となっているが、Uプロセッサ(モデルナンバーの最後にUがついているSKU)とYプロセッサ(モデルナンバーにYが入っているSKU)に関しては、HDCP 2.2に対応可能な製品と対応不可能な製品が混在していると言うことだ。しかも、対応版、非対応版はどちらも同じモデルナンバーで、CPUIDなどではそれが対応なのか、非対応なのかをユーザーが判別することは不可能だと業界関係者は説明する。

 Intelに近い情報筋によれば、昨年(2016年)の9月にIntelが発表したUプロセッサ、Yプロセッサに関してはHDCP 2.2未対応で、1月以降に出荷されている最新版では対応版となっているとのこと。Sプロセッサは全て対応なので一般的なデスクトップPCは問題ないが、UプロセッサやYプロセッサが搭載されているミニPCなどでは、これが問題になる可能性がある。

 UHD BDを再生するシステムの要件をまとめると以下のようになる。

【表1】PCにおけるUHD BDの再生要件(筆者作成)
内蔵ディスプレイでだけUHD BDが再生できるPC外付けディスプレイでもUHD BDを再生できるPC
CPU第7世代Coreプロセッサ第7世代Coreプロセッサ(H/Sプロセッサ、U/Yは一部のみ)
Intel SGX対応必須必須
HDCP 2.2対応-必須
再生プレーヤーIntel SGX対応再生プレーヤー(PowerDVDなど)
ドライブUHD BD対応光学ドライブ

 既に述べた通り、HDCP 2.2が必要になるのは外付けディスプレイに出力する場合のみなので、ノートやタブレットの内蔵ディスプレイで再生する場合にはHDCP 2.2は必要ない。

課題は外付けGPUの対応とHDR対応、HDR対応は春リリース予定のRS2に期待

 なお、ここまで述べてきたことは、あくまで“再生できる”というだけであって、実際にユーザーが使うとなると、いくつかの課題があることも見えてきている。大きく言うと2つある。1つは外付けGPUの対応、そしてもう1つがHDRへの対応だ。

 現状でIntel SGXを利用して動画をデコードして再生するためには、Intelの内蔵GPUが必須になる。このため、外付けGPUを利用している場合でも、必ずマザーボード上のHDMI 2.0出力など内蔵GPUに繋がっているディスプレイ出力を使う必要がある。

 外付けGPUについては、GPUメーカーがGPUドライバでIntel SGXと同じような仕組みを用意しない限りはできない。と言うのも、CPU側のIntel SGXを外付けGPUが使いたくとも、データを汎用バスであるPCI Express上を通ってしまうので、AACS 2.0の要件を満たせなくなってしまうためだ。

 従って、現状ではゲームをする時にはAMD/NVIDIAのGPU側から、UHD BDを見るときにはマザーボード上のHDMI 2.0から出力するという使い分けが必要になる。この点はNVIDIAなり、AMDなりの早期の対応に期待したいところだ。

 第7世代CoreプロセッサのGPUはハードウェア的にはHDRの出力に対応しているが、PCディスプレイ側の対応やソフトウェアの対応はまだ進んでいないのだが現状だ。しかし、この状況にも大きな変化が起きている。

 1月のCESでは、Dellが27型のHDRディスプレイを発表(別記事参照)したほか、ASUS(別記事)やAcer(別記事)がG-SYNC/HDR対応のゲーミングディスプレイを発表している。

 また、Microsoftがこの春にリリースを予定しているWindows 10 Creators UpdateでHDR対応機能が追加される予定だと関係者は説明している。

 なお、システムがHDRに非対応でも、SDR(Standard Dynamic Range)での出力は可能だ。

DellがCESで発表した27型のHDR対応ディスプレイS2718D
NVIDIAがデモしたASUSのHDR対応ゲーミングディスプレイ(右)、左のSDRのディスプレイに比べてより色表現が向上しているのが写真でも分かる
AcerのHDR対応ゲーミングディスプレイ

 このように、厳しい制約が課されている中ではあるが、PCでのUHD BD対応も徐々に進んでいる。HDR対応も、RS2が登場するとソフトウェア的な制約もなくなり、あとは対応のディスプレイが登場すれば、本格的にPCでUHD BDを楽しむ環境が整う。そうなれば、自作PCだけでなくメーカー製PCでも本格的な実装が進んでいくことになるだけに期待したいところだ。