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「第12世代Core」搭載ノートはなぜ快適なのか?“10年に1度の大変革”と呼ばれるその新アーキテクチャを解説

第12世代インテルCoreモバイル・プロセッサー

 COVID-19によるパンデミックの発生により、リモートワーク、テレワークが浸透してきたことで、ビジネスパーソンにとって高性能なノートPCは以前にも増してビジネスに欠かせない「武器」となっている。より高速なプロセッサがあれば、ビデオ会議を快適に行なうことができるし、ビデオ会議をやりながらプレゼン資料を編集するなど、マルチタスクに仕事をこなすことも可能だからだ。

 そうしたノートPCの性能にこだわるビジネスパーソンにとって注目の製品が、この冬に相次いで発表されている。それが第12世代インテルCore モバイル・プロセッサー(以下、第12世代Core)だ。1月4日にはゲーミングノートPC向けの「Hシリーズ」が発表され、2月には薄型ノートPC向けの「Pシリーズ」、および超小型ノートPCやタブレット向けの「Uシリーズ」が追加発表され、全ラインナップが出そろった。

 結論から言うと、第12世代Coreは、ビジネスはもとよりクリエイティブやゲーミング用途でも、旧プロセッサを凌駕する性能を発揮できる。その性能向上の鍵となるのが「ハイブリッドアーキテクチャ」。本稿ではその辺りを中心として、第12世代Core搭載機がなぜ快適なのかを解説していく。

オフィスアプリケーションも、コンテンツクリエーションもどっちも速いハイブリッドアーキテクチャ

パフォーマンスコア(Pコア)とエフィシェントコア(Eコア)という2つの種類のコアがある第12世代Core

 IntelのCPUは何年かに1度、大きなアーキテクチャの変革を行ない、性能が大きく引き上げられる。近年で言えば、2019年に投入された第10世代Core(開発コードネーム:Ice Lake)はその最たる例と言える。Ice LakeではSunny Cove(サニーコーブ)と呼ばれる新世代のCPUアーキテクチャを採用し、性能を引き上げた。その後第11世代Core(開発コードネーム:Tiger Lake)ではWillow Coveと呼ばれる、その改良版が採用されている。

 そして最新の第12世代Coreだが、最大の特徴は「ハイブリッドアーキテクチャ」とIntelが呼んでいる、2種類の異なるアーキテクチャのCPUコアを採用していることだ。Intelはこのハイブリッドアーキテクチャの導入を「10年に1度の変革」と表現しているほど。具体的には、パフォーマンスコア(Pコア)と呼ばれる高性能な処理に特化したCPU(Golden Cove)と、エフィシェントコア(Eコア)と呼ばれる高効率のマルチスレッド処理に特化したCPU(Gracemont)という2種類のCPUコアを搭載したアーキテクチャとなる。

 Intelのハイブリッドアーキテクチャがユニークなのは、他社のハイブリッドアーキテクチャが電力効率を主目的にしているのに対して、電力効率を上げる目的だけでなく、高性能を実現するためにも利用しているという点にある。

 CPUが行なっている処理は大きく分けると、タスクを順々に実行する逐次処理と、複数のタスクを並列に実行するマルチタスク処理の2つがある。前者は主にWordやExcelのようなオフィスアプリケーションで多用されている処理。これまでのIntel CPUが得意だった部分で、第12世代CoreではPコアが主に受け持つ。

 それに対してマルチスレッド処理は、従来のIntel CPUでも処理できないことはなかったが、消費電力が増えてしまうなど、実行効率に改善の余地があった。そこで、Intelのハイブリッドアーキテクチャでは、1つ1つのCPUコアが小規模なEコアで複数のタスクをまとめて同時処理することで、低消費電力ながらマルチタスク性能を引き上げたのだ。

2つのCPUの制御はIntel Thread DirectorとWindows 11が自動で処理

Intel Thread Director、OS(現時点ではWindows 11)側のスケジューラに、CPUから利用情報が渡され、それに基づいてOS側がそれぞれのCPUに最適なアプリケーションを自動的に割り当てる

 しかし、CPUがそうしたハイブリッドアーキテクチャに進化しても、既存のアプリは従来アーキテクチャを前提に作られていて、そのままでは、アーキテクチャのメリットを享受できない。Intelは開発者向けにハイブリッドアーキテクチャの情報を公開し、ネイティブ対応を呼びかけているが、多くのアプリケーションがそうなるまでには数年単位での時間がかかることになる。

 そこでIntelが第12世代Coreと同時に発表したのが「Intel Thread Director」だ。Intel Thread Directorは、CPUの利用率などを常時監視し、その情報をOSに渡す機能を持っている。現時点では対応するOSはWindows 11で、Windows 11ならそうしたCPUの利用率に関する情報を常に受け取り、Pコア、Eコアそれぞれに最適なアプリケーションを割り当てながら実行できる。

 例えばワープロや表計算といったアプリはPコアに割り当て、動画のエンコードやトランスコード処理はEコアに割り当てて実行という具合で、これによりPコア、Eコアそれぞれを効率良く実行可能になり、システム全体の性能を向上できる。

 つまり、Windows 11を使っていれば、ユーザーは難しい設定などをしなくても、第12世代Coreの利点を最大限享受できるのだ。

モバイル向けはH、P、Uという3つのシリーズで展開

モバイル向け第12世代Coreには、H、P、Uという3つのシリーズがある

 ノートPC向けの第12世代Coreには、大きく分けると3つのシリーズがあり、うち1つに2つの種類があるため、実質的には4つのシリーズがある製品構成になっている。

 3つのシリーズとは、H、P、Uの3つで、Uシリーズにはパッケージの形状とTDP(熱設計消費電力)の違いから通称でU15と呼ばれるシリーズと、U9と呼ばれるシリーズに分けられる。なお、HとPもTDPの45W、28WのものについてはH45、P28という通称で呼ばれることもある。

【表1】第12世代Coreのシリーズごとの違い
HシリーズPシリーズUシリーズ
通称H45P28U15U9
ターゲット形状ゲーミング/コンテンツ制作薄型ノートPCウルトラポータブルPCタブレット
パッケージBGA1744(50×25mm)BGA1744(50×25mm)BGA1744(50×25mm)BGA1781(28.5×19mm)
CPU(最大構成、Pコア+Eコア)6+86+82+82+8
GPU96EU96EU96EU96EU
メモリLPDDR5/DDR5/LPDDR4x/DDR4LPDDR5/DDR5/LPDDR4x/DDR4LPDDR5/DDR5/LPDDR4x/DDR4LPDDR5/LPDDR4x
Thunderbolt 44442
PCIe Gen 48レーン(dGPU用)+2x4レーン2x4レーン2x4レーン1x4レーン
PCIe Gen 3x12レーンx12レーンx12レーンx10レーン

 各シリーズの違いは、TDPとパッケージ。U9だけは28.5x19mmという底面積の高密度パッケージが採用されており、基板を小さくする必要があるタブレットなどに採用しやすいように設計されている。残りの3つ(H45、P28、U15)は通常サイズのパッケージが採用され、TDPと細かなスペックが異なるのみとなっている。

Hシリーズのブロック図
Pシリーズのブロック図
Uシリーズのブロック図、いわゆるU9の方はより小型の高密度パッケージになっている

 TDPとは、どれだけの発熱を処理できるようにするかという指標で、CPUのこの数字が大きければ大きいほど、ノートPCは放熱機構をより強力にする必要がある。放熱機構を強力にすると、CPUの性能は向上させることができるが、その代わりに筐体のサイズを大きくする必要がある。つまり、小型化と性能はトレードオフの関係にある。

 このため、TDPの数値が高いH45は、筐体が大きくてもいいので性能が必要とされるゲーミングノートPCや、コンテンツクリエーション向けと位置付けられている。TDPが低くなるP28、U15は、それぞれより薄型のノートPC向けと位置付けられている。

 したがって、ノートPCの重量が多少重くても、とにかく性能が高いノートPCが欲しいユーザーであればH45を、性能と軽さのバランスを取りたいユーザーであればP28を、軽量さをとにかく重視するならU15を、軽量さに加えてタブレットのような手軽さを重視するならU9をというのが、お勧めの選択ということになるだろう。

Pシリーズの最上位モデルCore i7-1280PはCPUコア数が倍増

Pシリーズに用意されている製品のリスト、最上位モデルのCore i7-1280Pに注目

 前述の通り、一般的な薄型ノートPCに採用されるのが、P28ことPシリーズだ。このP28は、第11世代搭載機と比較して、第12世代Coreの中で最も強化された製品と言っても過言ではない。

第11世代Core(Core i7-1195G7)と第12世代Core(Core i7-1280P)の比較

 同じ薄型ノートPC向けでTDP 28W製品の最上位(第11世代はCore i7-1195G7、第12世代はCore i7-1280P)で比較してみると、第11世代のCPUコアはPコア相当が4基になっているのに対して、第12世代はPコアが6コアへと2コア分増加。さらに、Eコアが8コア分追加されている。つまり、CPUコアが合計で10基増えていることになる。

 Eコアは4つで、Pコア1つ分の実装面積なので、Eコア8つはPコア2つ相当だと考えることができる。つまり、第12世代のCore i7-1280Pの6コア(Pコア)+8コア(Eコア)は、Pコアに換算すると8コアあるのと同じだと言え、第11世代に比べて同じTDPで2倍のCPUコアが搭載されているのが第12世代CoreのP28なのだ。

 この6コア(Pコア)+8コア(Eコア)という構成は、P28の中でも最上位モデルになるCore i7-1280Pだけのスペックで、下位モデルではPコアが4コア、Eコアが8コアとなっているが、先ほどの計算を同じく当てはめると、Pコアで6コア相当となる。つまり、下位モデルでもコア数が増え、性能が向上している。

 第12世代CoreのノートPCは、既にHシリーズを搭載したものが市場で販売されており、PシリーズやUシリーズを搭載したノートPCも、もう間もなく販売が開始されるとみられている。在宅ワークで今使っているノートの性能に不満があるのなら、第12世代Coreを一番に検討するといいだろう。