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Architecture Dayに見た、Intelの底力と変貌【新GPU「Xe」編】

~GPUでもトップ性能を狙うIntelの秘技とは

データセンター向けのXe-HPのパッケージを公開するIntel上席副社長兼Intelアーキテクチャ/グラフィックス/ソフトウェアチーフアーキテクト/事業部長のラジャ・コドゥリ氏

 Intelは8月13日(現地時間)に、報道関係者を対象にした「Architecture Day 2020」と呼ばれる開発方針説明会で、近く投入予定の製品や技術についてさまざまな発表を行なった。前回の記事で解説した「XPU」(X Processor Unit)という言葉に象徴される異種混合のプロセッサという新しい性能向上のアプローチの肝となるが、Intelがコードネーム「Xe」(エックスイー)で開発を進めてきた新しいGPUアーキテクチャだ。

GPU界の眠れる巨人Intel

Intelが2019年に投入した第10世代Coreプロセッサー(Ice Lake)

 GPUと聞くと、AMDやNVIDIAの名前が先に出るかもしれない。しかし、調査会社「Jon Peddie Research」の発表によれば、2020年の第2四半期(4月~6月期)におけるパソコン向け全GPU(内蔵GPU+外付GPUを足した市場)では、Intelの市場シェアは64%となっており、Intel GPUがナンバーワンという状況が長らく続いているのだ。

 そうしたIntelの統合型GPUの最新バージョンが、同社がGen 11(第11世代)と呼んでいる第10世代Coreプロセッサー(開発コードネーム:Ice Lake)に搭載されている統合型GPUの最新版だ。ここ10年の製品では次のような統合型GPUがCPUへと搭載されている。

【表】Intelの内蔵GPUの進化
登場年世代開発コードネームGPUEU数(メインストリーム向け=GT2)製造プロセスルール
2010年初代Clarkdale/ArrandaleGen51232nm
2011年第2世代Sandy BridgeGen61232nm
2012年第3世代Ivy BridgeGen71622nm
2013年第4世代HaswellGen7.52022nm
2014年第5世代BroadwellGen82414nm
2015年第6世代SkylakeGen92414nm
2016年第7世代Kaby LakeGen92414nm
2017年第8世代Kaby Lake RefreshGen92414nm
2017年第8世代Coffee LakeGen92414nm
2018年第8世代Cannon LakeGen10公表されず10nm
2018年第8世代Whiskey LakeGen92414nm
2018年第9世代Coffee Lake RefreshGen92414nm
2019年第10世代Ice LakeGen116410nm
2019年第10世代Comet Lake-U/YGen92414nm
2020年第10世代Comet Lake-S/HGen92414nm

 こうして並べて見ると一目瞭然だが、従来のIntel内蔵GPUはノートパソコン向けがメインのユーセージだったこともあり、闇雲に演算器(IntelのグラフィックスではEUと呼んでいる、他社のGPUにおけるコアと同じものだと考えて良い)を増やして性能を上げるという方向によりも、消費電力とのバランスを取りながら発展させるアプローチを取ってきた。

バリエーション展開へ開発方針を転換

 ところが、Gen 11からIntelは、消費電力に影響を与えない範囲で、EUを増やして性能を上げていく方針に転換している。Gen 11のEUは64基と、初代Coreプロセッサーに内蔵されているGen 5(12基)と比較すると、実に5倍以上の演算器を搭載している。直近のGen 9の内蔵GPUと比較しても24基から64基と、約2.67倍になっており、Gen 11が非常に大きな「ジャンプ」であることがわかる。この増強により、メジャーなゲームタイトルをフルHDでプレイ可能になっているほどだ。

 ただ、内蔵GPUだけを設計していると、どうしても最新技術への対応が若干後追いになってしまう。そこで、IntelはGPUの開発方針を大きく転換することを決断した。それがXe GPUだ。

 Xeでは、内蔵GPUだけでなく、外付けGPUまでもカバーできるように伸縮可能なアーキテクチャになっていることが最大の特徴になる。最新グラフィックス技術などをすべてカバーするGPUアーキテクチャを設計し、そこからスーパーコンピュータ向けから内蔵GPUまでをバリエーション展開していく。

Xe-HPGでは、リアルタイム・レイトレーシングなど最新テクノロジにも対応する

 IntelはこのXeで、スーパーコンピュータ向けのHPC版となるXe-HPC、データセンター向けのXe-HP、そしてパソコン向けの内蔵版やローエンド版となるXe-LPという3つのバリエーションがあることをこのArchitecture Day 2020以前に公開してきた。今回のArchitecture Day 2020ではXe-HPGというゲーミング向けの製品バリエーションがあることが明らかにされた。

Xeでは1つのアーキテクチャからHPC向け(Xe-HPC)、データセンター向け(Xe-HP)、ゲーミング向け(Xe-HPG)、統合型向け(Xe-LP)の4つのバリエーションに展開されていく

 これらの製品はすべてXeというベースとなるGPUアーキテクチャから、演算器などを伸縮することでバリエーション展開されることになる。これによりIntelのGPUシェアは他社に対して、さらに差を広げることとなる。

GPUアーキテクチャのスケールアップだけでなく、パッケージングでのスケールアウト

Xe-LPのブロックダイアグラム、6つのサブスライスに16基のEUが内蔵されており、全体で96EUを内蔵している

 ただ、こうした伸縮可能なアーキテクチャというのは、Intelの専売特許ではない。外付けGPUを設計しているGPUベンダーも、1つのGPUアーキテクチャを設計し、そこから統合型、ゲーミング向け、データセンター向け、スーパーコンピュータ向けとバリエーション展開してきた。

 具体的には、GPUの内部を複数の演算器数を増減することで、アーキテクチャの伸縮を行なっている。たとえば、HPCやゲーミング向けハイエンド版にはフルバージョンのダイを作り、ミドルレンジ向けには半数のユニットを搭載したハーフバージョンを、そして統合型向けにはさらに演算器を減らし消費電力を必要最小限に抑える。

 Xeでも、こうした手法が用いられると考えられる。IntelはArchitecture Day 2020で、Tiger Lakeに内蔵されているXe-LPのEU数を96基と発表しており、今後登場するXe-HPG、Xe-HP、Xe-HPCはさらにEUの数を増やしていく。

 だが、IntelがXeに用意している伸張手段はそうしたGPUアーキテクチャのレベルだけではない。もう1つの手法として用意されているのが、パッケージレベルでの伸縮だ。これこそがXeの柔軟な拡張を実現するうえでのIntelの秘密兵器と言える。

 Intelでは直近のCPUの性能向上のために、新パッケージング手法を採用している。第10世代Coreプロセッサー with Hybrid Technology(開発コードネーム:Lakefield)にはFoveros(フォベロス)という、3次元にチップを積層するパッケージング技術が採用。また、Kaby Lake-Gの開発コード名を持つ第8世代Coreプロセッサーでは、AMDの外付けGPUとIntelのCPUを1つのパッケージに実装するため、EMIB(イーミーブ)と呼ばれる2.5Dのパッケージング技術が活用されている。

 また、Intelは2019年に、EMIBとFoverosを同時に使い、横方向(2D)と縦方向(3D)の両面で拡張できるパッケージング技術Co-EMIBを開発したことを発表している。

 これにより、Xe-HPでは、EMIBを利用して1ダイが搭載される通常版の1タイル、2ダイが1つのパッケージに封入される2タイル、4つのダイが1つのパッケージに封入される4タイルという3つのバリエーションが用意される。

Xe-HPではEMIBを利用して1タイル、2タイル、4タイルとパッケージ内でスケールアウトしていく

 さらに、Xe-HPCではFoveros、Co-EMIBの利用も検討されており、2Dだけでなく3D方向にダイを重ねたかたちでも提供される可能性がある。そうなると、ダイのなかだけでなく、ダイの数もスケーリングされる。つまり、アーキテクチャ的な伸縮(スケールアップ/ダウン)だけでなく、パッケージレベルでの伸縮(スケールアウト)も追加されるのだ。これにより、Xeの性能は、GPUダイの性能×パッケージ技術というかけ算になり、Intelならではの強みが発揮されることとなる。

第10世代Coreプロセッサー with Hybrid Technology(開発コードネーム:Lakefield)に採用されている3Dパッケージング技術のFoveros(フォベロス)
Kaby Lake-Gに採用されている2.5Dパッケージング技術のEMIB
FoverosとEMIBの両方を組み合わせたCo-EMIB

製造は外部ファウンドリにも委託

 もう1つ注目したいのが、Xeのダイが、Intelの工場だけでなく、外部工場、つまりファウンドリで生産される点。ゲーミング向けのXe-HPGと、Xe-HPGに関しても一部の製品は、ファウンドリで製造される計画だ。外部の工場も使うことで競争上メリットがあるのはもちろんだが、自社工場/自社生産にとらわれないところにIntelの変化を感じる。

Xeのロードマップ。生産もIntelの工場だけでなくファウンドリでの外部委託生産も行なわれる

 しかし、現在ゲーミング向けGPUを開発している他社と同じような製造技術で製造することになり、製造技術で差が出なくなる。つまりは、アーキテクチャだけの勝負ということになる。裏を返せば、IntelがこのXeのアーキテクチャに大きな自信を持っていることの現われと言え、市場投入が待ち遠しい。

Intelが1月のCESで公開したXeのテストカードとなるDG1。Xe-LPが搭載されており、メーカーの研究開発向けで、このテストカードのままの形態では一般消費者への販売は行なわれない

 このように、IntelはXeによりGPUビジネスを本気で展開しようと考えており、現在の2社だけの外付GPU市場に本格的に割り込んでいこうとしていることは間違いない。その先に待っているのは3社による熾烈な競争だろう。その時にはXeという新しいGPUアーキテクチャだけでなく、Intelの持つ豊富なパッケージング技術は競争上の大きな武器となる可能性が高い。

 筆者が繰り返すまでもなく、競争は技術革新や価格下落などユーザーに利益をもたらす。その意味で、IntelがGPUに本腰を入れて参入することは、諸手を挙げて大歓迎したい。