レビュー

Windowsの健康状態を無料で診断してくれる「PC Matic」最新版を試す

~世界唯一のホワイトリスト方式アンチウイルス技術も搭載

「PC Matic」

 「PC Matic」と言えば、海外で高い知名度を誇り、米軍(陸/海/空軍と海兵隊)が公式採用し、ホワイトハウスでも採用が決まっているWindows用のPCメンテナンス統合ソフトだ。開発元の米PC PitstopはかつてPCメーカーの米Gatewayで顧客サポートを行なっていた上級副社長が独立して設立した会社で、知識のないユーザーでもPCを快適に使い続けられるソリューションの提供を社の方針に掲げている。社名の「Pitstop」はレースにおける車両の整備施設およびその整備作業を指しており、定期的なPCのメンテナンスを行なえばPCは購入時の性能を維持できるという同社の考え方が社名にそのまま表れているというわけだ。

 PC最適化ソフトとセキュリティソフトの2つの顔を持つ「PC Matic」の日本語版がリリースされたのは2009年。それから6年、今年(2015年)に入ってリリースされた最新版では新たに資産管理機能が加わったほか、セキュリティ機能では現時点で世界で唯一とされるホワイトリスト方式が採用されるなど、大幅な進化を遂げている。ダウンロード版に加えてパッケージ版が加わったことも1つの目玉だ。

 そんな本ソフトがユニークなのは、ワンクリックするだけで最適化が必要な箇所をリストアップしてくれる診断機能を使うだけなら費用がかからず、何台でも無料で利用できることだ。いわゆるフリーミアムモデルというわけである。今回は本ソフトの具体的な機能の紹介のほか、無料で使える機能と有料版ならではの機能に至るまで、順に検証してみたい。

ビッグデータを用いた最適化機能

 「PC Matic」がユニークなのは、PC最適化ソフトでもあり、またセキュリティソフトでもあるということだ。この2本柱となる機能の概略と、今回新たに追加された特徴について見ていこう。

 まずはPC環境の最適化機能。Windows PCを使い続けると溜まってくる一時ファイルを削除してディスク容量を空ける機能のほか、レジストリの削除および最適化、OSおよびソフトウェアの起動高速化、プロセスを消費する不要なスタートアップの削除、メモリ最適化、MTU値調整によるネットアクセスの高速化、デフラグ(HDD利用時のみ)などの最適化機能を備える。デフラグについては、Windows標準のものよりかなり強力で、速度差を体感できるほどという。

さまざまな最適化機能を備える。必要に応じてオプション画面から項目をオンオフすることも可能

 これら最適化機能は、個別に見ていくとフリー/シェアウェアのソフトでも実現している機能も多いが、本ソフトの特徴は、これら最適化の診断にビッグデータを用いていることだ。同種のソフトでは、機器やソフトの組み合わせを無視して最適化を行なうため、安定性を高めるために最適化を行なったはずがむしろ挙動が不安定になるケースが多発しがちだ。筆者も経験があるが、この手のレジストリの最適化は、むしろトラブルの元凶という印象を持っている人も多いだろう。

 その点、本ソフトは既存ユーザーの稼働状況をもとにしたビッグデータを活用することで、過去にトラブルが報告されている機器やソフトウェアの組み合わせでの最適化は避けるように設計されている。つまり決め打ちで最適化を実行するのではなく、PCごとにチューニング内容をカスタマイズしているのだ。また、万一挙動が不安定になった場合のための復元機能も搭載するなど、二重の配慮がなされている。

復元機能を備えており、挙動が不安定になった場合も最適化前の状態にすぐ戻せる

 ちなみに、こうした安全性重視の設計は本ソフトの随所に見られる。例えば同種の最適化ソフトでは、Windows Updateの更新ファイルを削除してディスクの空き容量を大幅に増やせるとアピールするものが多いが、本ソフトではこれらに手を付けない設定になっている。もともとWindows Updateの更新ファイルのうち、Windowsのディスククリーンアップで削除されないファイルはWindows自身が必要と判断したファイルであるため、強制削除によるトラブルを回避するため、そのまま残す方針が採用されているわけだ。空き容量が増えるという売り文句にとらわれない本ソフトの方向性を象徴しており興味深い。

 最適化機能ではもう1つ、ドライバおよび著名ソフトウェアの自動更新機能を備えているのも特徴だ。iOSやAndroidアプリと異なり、WindowsではOS本体や一部ソフトを除き、手動でのアップデートが必要であり、セキュリティ上重要な更新が見逃されているケースも多いと考えられる。本ソフトを導入しておけば、指定のスケジュールでソフトウェアが最新版に自動アップデートされる。しかもAdobeを始めとする一部のソフトでは、オリジナルの自動アップデート用プログラムを無効化し、独自仕様の高速アップデートプログラムを取り入れるなど、高速化と軽量化を両立させた仕組みを実現しているのも面白い。

 これら最適化はスケジュール設定で自動実行できることに加えて、CPUやビデオ性能、インターネット速度などを基にした世界ランキングを表示する機能も備える。「あなたのPCは世界の上位何パーセントのところにいますよ」と教えてくれるこの機能は、最適化によるスコアの改善が目に見えて分かるだけでなく、最適化による性能向上の限界が見えるようであれば、ハードウェアのアップグレードや新規マシンへの買い替えを検討する際の判断材料としても役立つ。

CPUやビデオ性能、インターネット速度などを基にした世界ランキング(World Rank)も表示できる

世界で唯一、ホワイトリスト方式を採用したアンチウイルス機能

 本ソフトのもう1つの柱はセキュリティ機能だ。ウイルスやスパイウェアを検出しブロックする機能のほか、ランサムウェアの阻止、アドウェアの削除、トラッキングCookieの削除といった機能が挙げられる。これら機能だけを列挙すると他のセキュリティソフトと大差ないが、他のソフトが搭載していない、現時点で本ソフトならではの仕組みが1つある。それはホワイトリストによる判定を行なっていることだ。

 現在、ほとんどのアンチウイルスソフトは「ブラックリスト方式」と「ヒューリスティックスキャン」の2つの機能を併用することでウイルスの検出を行なっている。ブラックリストは既知のウイルスをブロックするためのもので、ヒューリスティックスキャンはウイルスらしき挙動をする未知のプログラムを検知する仕組みである。両者を組み合わせることで、初めて全方位的なウイルスの検出が可能になるわけだ。

 もっとも最近では、一定時間が過ぎてから起動する時限型のウイルスや、細かいモジュールごとに侵入して全体のパーツが揃って初めて破壊活動を行うタイプのウイルスも増えており、これらはヒューリスティックスキャンの段階ではウイルスらしき挙動が見られないため、検知できずにすり抜けてしまう。実際のところ、ウイルスの開発者もこうしたアンチウイルスソフトを手元に用意し、どのように細工すればすり抜けられるか日々テストを繰り返しているわけで、対策にも自ずから限界がある。

 そこで本ソフトでは、ブラックリストによる判定の前に、ホワイトリストでの判定を行なう仕組みを導入している。これは同社が保有する世界中の数十万件のプログラムのMD5ハッシュ値と照合し、改ざんの痕跡が認められなければそのまま実行を許可するというものだ。これならブラックリストとの照合およびヒューリスティックスキャンを行なわなくともシロであることが判明するので、重いスキャンプロセスを経ることなく実行が可能になる。同社曰く「PC Maticは、誰もがハイスペックなPCを購入する必要はなく、低スペックでも快適に使うことができることを目指すことをテーマに作られており、PCチューニング機能と、セキュリティ対策機能でホワイトリストエンジンを搭載したことで軽快さを実現しています。そのため、Atomのタブレットのような非力なプラットフォームでも軽快に動作する」とのことなので、重いセキュリティソフトに悩まされている人や、今後Atom製品を購入予定の人には朗報だろう。

 そして、ホワイトリストでは安全と確認できなかったプログラムについて、あらためてブラックリストおよびヒューリスティックスキャンが行なわれるのだが、面白いのは、ヒューリスティックスキャンをパスしても実行が阻止されることだ。従来型のアンチウイルスソフトでは、ヒューリスティックスキャンをパスしたプログラムは無条件で実行が可能になるが、それでは前述のような時限型や標的型のウイルスを検知できない。そのため本ソフトではヒューリスティックスキャンをパスしても、駆除こそされないものの、実行を阻止する仕組みになっているのだ。

本ソフトによる判定の流れ(同社ホームページより)。ブラックリスト/ヒューリスティックスキャンに加えてホワイトリスト方式を採用しているのは現時点で本ソフトのみ。またヒューリスティックスキャンに引っかからなくても実行は阻止されるのが特徴

 ここで当然のように出る疑問が、ホワイトリストに載っていないプログラムはこの仕組みでは一切起動できなくなるのでは? ということだ。しかしこれは2つの理由で、実用性に影響が出ないように配慮されている。1つはこのホワイトリストがカバーする範囲がおそろしく広いことだ。市販のソフトはもちろん、ネット上で配布されている全世界のフリーウェアやシェアウェア、過去十数年以上にも渡ってカバーしており、その数は数十万件と膨大であること。中には一大学教授が作った自作のプログラムまで含まれているというから驚きである。

 もちろん、リリースされたばかりでホワイトリストに登録されていない可能性はわずかに存在することになるが、日本国内のホワイトリストの更新作業を担当している代理店のブルースターによると、どんなに遅くとも中1日あれば登録が行なわれるとのこと。またホワイトリストになく実行できない場合でも、アラートがポップアップ表示されるだけで手動で許可してやれば自己責任で実行が可能なので、ソフトウェア更新後に一切実行できなくなってしまった、という心配は無用だ。

 これらの仕組みにより、ウイルスやスパイウェアをより効果的にブロックできるというわけだ。字面だけでは他のソフトと変わらないが、実際には仕組みからして異なっていることがご理解いただけることかと思う。このホワイトリスト方式を導入しているのは現時点で本ソフトのみであり、コンピュータセキュリティの調査機関「Virus Bulletin」が2014年4月に実施したテストで、未知のウイルス防御力において1位を獲得したというのも納得だ。

ホワイトリストは手動でのメンテナンスも可能だ
ブラックリストとホワイトリストはタスクトレイからも呼び出せる
コンピュータセキュリティの調査機関「Virus Bulletin」が2014年4月に行なった未知のウイルス防御力のテストで、本ソフトが唯一90%を超えて1位を獲得している(同社ホームページより)

遠隔地のPCも管理できる資産管理機能

 今回「PC Matic」の新バージョンで新たに加わったのが資産管理機能だ。これは本ソフトがインストールされた管理下のPCについて、ソフトウェアやドライバの更新状況やウイルス削除の履歴といった情報のほか、CPUやHDDなどの使用状態などをクラウドで一括管理できるというものだ。コンシューマ向けソフトでこうした機能を実装するのは珍しいが、本製品は1ライセンスあたり5台までのPCにインストールできるので、それを活かした機能ということになる。

マイページでは資産管理も行なえる。現時点では管理画面は英語だが、10月からは日本語での表示にも対応するとのこと。スマートフォンから見られるのも利点だ

 また本ソフトはライセンスの一部譲渡が認められているので、ライセンス5台の一部を実家の両親や親しい友人のPCにインストールし、クラウドを経由して長期間スキャンされていなければ知らせるといった使い方も可能だ。本稿をご覧の方の中には、1人で5台以上のPCを使っている人もいるはずだが、例えライセンスが余っても、有効活用する手段が用意されているのはありがたい。本ソフトがインストールされた古いPCを破棄して別のPCにインストールする場合も、この管理画面からライセンスを削除すればよい。

 ちなみにここまで紹介してきたのはコンシューマ向けのパッケージだが、法人向けの「PC Matic Pro」ではActive Directoryによる強制インストール、管理者によるリモートデスクトップ機能なども備えており、配下のPCについてドライバの一斉更新を行なったり、また何らかのトラブルが発生した際に各PCから警告メールを受信でき、また管理用サーバーが不要など、かゆいところに手が届く運用を可能にしている。こちらについてはライセンスは月額料金制での提供となる。

診断機能は無料で利用可能

 本ソフトは1ライセンスで5台までのPCに導入でき、1年ライセンス(通常版)が6,280円、永久ライセンス(EverGreen)が17,000円という価格体系だが、診断機能だけであれば無料で利用できる。つまり手持ちのPCに問題点があるかないかを調べるだけなら、費用は一切かからないわけだ。診断結果を見てから導入するか否かを判断できるのは大きな利点だろう。

 といったわけで、最後になったが、本ソフトのスクリーンショットを用いつつ、実際の使用感をざっと紹介する。今回は、Windows 7 ProマシンとWindows 8.1 Proマシン、計2台のPCにインストールして使用してみた。どちらのマシンもOSはクリーンインストールしたもので、前者は使い始めてから2年、後者は半年ほど経過している。

 まずは製品サイトから無料版をダウンロードしてインストール。ソフトを起動するとメイン画面が表示されるので、画面右下にある「無料スキャン開始」をクリックして診断を開始する。本ソフトはローカルで動作しているように見えるが、診断にビッグデータを活用していることからも分かるように、絶えずクラウドとデータをやりとりしており、オフラインで動かすことはできないので注意したい。

 診断は複数のメニューを実行することからやや時間がかかる。一瞬で終わる場合もあれば、マルウェアのスキャンのように数分を要するメニューもあり、トータルでは10~15分といったところだろうか。完了すると問題点およびアドバイスの項目が表示されるとともに、項目別に色分けした一覧画面が表示される。警告色の赤や黄色が多ければ、それだけ最適化の必要性が高いということだ。また前述の世界ランキングも表示される。

利用時にはインターネットに接続されている必要がある。このほかActiveXも必要
ホーム画面。右下の「無料スキャン開始」をクリック
この時点ではまだライセンスは未購入なので「続行」をクリック
診断を実行中。大きく「速度」、「安定性」、「セキュリティ」、「パフォーマンス」という4つのジャンルで診断が行なわれる。所要時間はおよそ10~15分程度
診断完了。今回は20の問題点と5のアドバイス項目が表示された。ちなみにライセンス購入後はさらにいくつかの診断項目が追加される
ダッシュボード。警告色の赤や黄色が多ければ、それだけ最適化の必要性が高い。クリックするとさらに詳細な情報も表示される

 ここまでが無料でできる範囲で、ここから先、つまり診断結果を受けてのチューンナップ作業については有料となる。スケジュール設定による繰り返しの診断/チューンナップや、リアルタイムのウイルススキャンも同様だ。またライセンス認証を行なったあとは、前述の管理画面が使えるようになり、同じアカウントに紐付けられた別のPCの診断状況なども参照できるようになる。

 さて実際の結果だが、使い始めて2年以上が経つWindows 7マシンは、数件の脆弱性、10件近い不要サービス、さらに修正が必要なレジストリは200箇所と、かなりの数の問題点が発見された。筆者は今回使用した2台のPCを始め、自分が管理するPCは別の最適化ソフトで月1回スキャンを行なっており、また不要なサービスも極力外しているつもりだが、それでもかなりの数の問題点が検出された。過去に最適化を行なったことのないPCや、前回の最適化から間が空いているPCであれば、おそらく相当数の問題点が検出されるだろう。

 この診断結果を受けて修正を行なった結果、OSの起動速度は49秒→43秒、またIEを起動してGoogleトップページの読み込みが完了するまでの速度は11秒→8秒と、明確な変化が見られた。後者はともかく、前者については体感的にも速くなったと分かるほどである。世界ランキングについては、実行前には下44%だったのが実行後は下46%という微妙な変化しかなかったが、これはそうダイナミックに変化するものでもないだろう。

 唯一、意図しない挙動だったのが、スタートアップに手動登録していたスクリーンショット撮影用のソフトのショートカットが削除されたことだ。おそらくは不要と判断されたのだろうが、問題点があったとすればこのくらいである。その後数日ほど使った限りでは、懸念していた挙動の不安定さも見られない。

最適化を実行中。所要時間は数分と、診断に要した時間よりもかなり短いが、これは最適化の内容にも依存するだろう
最適化完了。具体的にどのような対策がなされたのかが表示される
再起動し、再びテストを行なった結果。最適化前に比べて赤や黄色の数が減少していることが分かる
同じライセンスに紐付けけられている他のPCの情報も参照できる。管理下のPCの情報は今後ブラウザ上で一覧できるようになるほか、スマートフォンでも参照可能になるとのこと

 ちなみにもう1台のWindows 8.1 Proマシンについては、ほんの数件の自動起動の停止とレジストリの修正が行なわれただけで、OSやブラウザの起動速度はまったく変化が見られなかった。これはOSの違いによるものではなく、該当のPCがOSのクリーンインストールを行なってからまだ半年しか経過していないという事情によるものと考えられる。

まとめ

 ここまでざっと機能を紹介しつつ使い方を紹介したが、これらが全て有料であればまだしも、診断のプロセスについては無料で実行できるわけで、お得感は高い。診断結果を受けて、ライセンスを購入して一括で最適化を行なうもよし、極力コストを掛けたくなければ(知識は必要になるが)診断結果の詳細画面を参考にしながら自力で修正すればよいというわけである。

 今回挙げた結果はあくまで筆者の場合ということで、個別の環境での結果を保証できるものではないが、普段から別のソフトで最適化を定期的に行なっているPCでも相応の効果があったことからして、多くの環境では少なからず効果があると見てよさそうである。これまで最適化は行なったことがないユーザーはもちろん、他の最適化ソフトなどを使用しているユーザーであれば、なおのこと試してみる価値はありそうだ。

(山口 真弘)