■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
全世界で200万本の販売実績を持つPCユーティリティソフト「PC Matic」が、日本に本格的に上陸する。すでに今年2月から英語版をオンラインなどを通じて試験販売してきたが、このほど、新たに日本語版を追加。オンライン販売に加えて、パッケージ版を用意し、「フリーミアム」と呼ばれる一部機能を無償で提供し、その後、有料版を販売するという仕掛けによって市場への浸透を図る。
PC Pitstop COOのキース・リンデン氏 |
さらに、サードパーティーとの連動による製品提供や、PCメーカーへのバンドル戦略も将来的には視野には入れる考えだ。開発元である米PC Pitstop最高執行責任者(COO)のKeith Linden(キース・リンデン)氏は、「PC Maticは、2007年の開発当初から、マルチランゲージ対応を視野に入れて開発してきたもの。すでに欧州ではドイツ語、フランス語、スペイン語版などを発売。今回の日本語版が、2バイト言語では初の製品になる」とする。Keith Linden氏と、日本での総発売元となるブルースターの坂本光正代表取締役社長に、PC Maticの日本における販売・マーケティング展開について聞いた。
PC Pitstopは、Gatewayで上席副社長を務めたRob Cheng(ロブ・チャン)氏が1999年に設立した企業で、これまでに「Optimize」、「Erase」、「Exterminate」、「Disk MD」、「Driver Alert」などの製品をリリース。2007年には、これらの製品の機能を一本化した「PC Matic」の開発に着手。2009年8月の発売以来、PCチューニングソフトウェアとして全世界で200万本の販売実績を持つ。
日本では、2010年2月から試験販売を開始。これまでに約2,000本を販売した。当初は、オンラインでドル建てでの支払いだけに限定していたが、日本円での決済や、コンビニでの支払いができるようにしたほか、ベクターを通じた販売などにより、日本での販売に弾みがつきはじめていた。
ブルースター代表取締役社長の坂本光正氏 |
「当初は、オンラインだけの販売を想定していたが、試験的に英語パッケージ版を用意したところ、全体の5%程度がパッケージで欲しいというユーザーになった。これは予想外の反応。そのため、今回は日本語版パッケージを用意し、店頭でも販売できるようにした」(坂本社長)という。
パッケージ版の販売は、マグノリアを通じて行ない、店頭ルートに流通させる。
具体的な機能については、既報の記事を参照されたいが、日本で発売する新製品には、「PC Matic 2011」という年号がつき、米国でもまだ発表されていないリアルタイムのウイルス検知エンジンを搭載したセキュリティ機能が搭載されることになる。検知エンジンは、OEM調達したものを利用する。
「セキュリティ機能は、米国でも日本と同時期に提供されることになる。1本のソフトで、パソコンの快適さと安全を守ることができる。これにより、これまでのPCチューニングソフトウェアの領域から、セキュリティソフトとも競合する製品に進化する」(坂本社長)と位置づける。
PC Maticパッケージ版 |
利用者は、ソフトウェアをダウンロードすれば、2億以上のパターンファイルによって、所有するPCの内部を無料で診断できる。診断内容は、ウイルス感染チェックなどのセキュリティ、ディスク状態、レジストリ、不必要なスタートアップ、ドライバ更新の必要性など。さらに、自分のPCが世界中でどの程度の性能を発揮しているのかがわかるというワールドランクの機能も搭載されている。
無料でPCの診断を行なったのちに、知識のあるユーザーであれば、診断結果を元に自身でチューニングを行なえばいいが、手軽に最適化したいというユーザーは、PC Maticのライセンスを有料で購入すれば、チューンアップを自動的に行なうことが可能になる。
またクラウド型のサービス形態としており、インストールされるソフトは、サービスエージェントであるため、プログラムサイズが小さく、さらにサーバー側でプログラムが更新されるため、常に最新機能を利用できる環境が提供されるのも大きな特徴だ。
「約半年間の試験販売の間に、日本のユーザーからもらった意見を新製品に反映した。SSDをスキャンしないでほしいという機能は、日本のユーザーが所有するPCにおいて、SSD装着率が高いことから出てきた意見。これをPC Pitstopに伝えたところ、すぐに改良してくれた。また、日本のPCベンダーからは、すべてのドライバを自動で最新版にアップデートするのを無効にできるようにしてほしいという要望や、Windowsの互換性認証ロゴを取得してほしいという要望もあったが、これらもすぐに対応してもらった。いまは、ワールドランク上位の人のPCがどんなスペックかを知りたいという要求を日本からあげており、検討してもらっている。日本からの意見を迅速に反映してもらえる体制が整っており、これが新製品にも反映されている」(坂本社長)という。
オンラインでの価格は、最小単位となる5ライセンスで年間4,980円。店頭で販売されるパッケージも5ライセンスが最小単位で年間5,980円。そのほか、10台ライセンスが年間9,980円、50ライセンスが年間59,800円で提供される。
最小単位を5ライセンスとした販売手法は、個人ユーザー向けとは言い難い点もあるが、米国でも最低ライセンスは5単位のまま。リンデン氏は、「米国での事例をみても、5ライセンスでの販売で問題にはなっていない。欧州で、試験的に1ライセンスなどの小さなライセンス単位で販売をしてみたが、販売数量が増加するわけでもなかった。平均的に2~3台のPCを所有しているという家が多いことも、5ライセンス単位での販売が問題にはなっていない理由の1つだとみている」とする。
個人向けには5ライセンス、企業向けには10ライセンス、50ライセンスを販売すると位置づけている。だが、将来的に渡って、この制度を踏襲するわけではないようだ。
「まずはマーケティングの観点から5ライセンスを前提とした。一般的にマーケティング費用は売上高の15%程度とされるが、こうしたコスト構造に落ち着き、PC Maticの認知が広がった段階では、少ないライセンス数での提供を考えたい。これはかなり先の話になるだろう」(坂本社長)とする。
一方、米国では、PC Maticの購入層にユニークな傾向が出ている。なんと購入者の約45%が、女性ユーザーの購入だという。
リンデン氏は、「女性ユーザーを分析してみると、年輩の人が多いのが特徴。PCをより快適に使いたいが、そのための知識がないというユーザーに評価されている」とする。
実は、日本における今年2月からの試験販売でも同様の結果が出ている。坂本社長は、「PCチューニングソフトウェアという領域の製品であることを考えれば、ほとんどが男性であり、パワーユーザーの購入が中心だと思っていただけに意外な結果」と前置きしながら、「日本における試験販売での女性ユーザー比率は約35%。女性は、1台のPCを長く使いたいという要望があり、快適にPCを利用するためにPC Maticを購入している。PC Maticを使ったことで、快適に動作するようになったという感謝のメールを、年輩の女性から頂くといった例も出ている」という。
「日本においても、女性やシニア層にPC Maticを使ってもらいたいと考えている」とリンデン氏。今後は、女性層やシニア層などを意識したマーケティング戦略を日本でも展開していく考えだという。
ブルースターでは、PC Maticの日本での本格販売開始に当たり、フリーミアムのビジネスモデルを生かした面展開型のマーケティングに踏み出す。
すでにグリーンハウスとの連携により、同社のUSBメモリの中にPC Maticを搭載。購入したユーザーは、それを使ってPCの無料診断ができるようになっている。「すでにUSBメモリ各社との商談を開始しており、2~3社がPC Maticを標準搭載したUSBメモリを販売することになりそうだ」という。
また、PCソフトウェアメーカーに対しても、既存のパッケージソフトウェアの中に同梱してもらう提案を開始。数社が前向きに検討を開始しているという。加えて、CD-Rなどのメディアメーカーと連携して、PC Maticを購入する際に使用できる500円割引のクーポンをメディアに同梱するといったことも行なう考えだ。
「将来的にはPC本体に標準搭載してもらえるような働きかけも行なっていきたい」(坂本社長)という思いもあり、すでに韓国トライジェムが生産するエバレックスには、PC Maticが搭載されることが決定。同PCは日本でも販売されることになる。
各社がPC Maticのバンドルに前向きなのは、PC Maticの診断機能を無償で利用できるという付加価値が提供できるとともに、有償で提供されるチューニング機能やセキュリティ対策機能をユーザーが購入した場合には、一定のコミッションが、これらベンダーに支払われるというアフィリエイト型の仕組みを用意しているからだ。そのユーザーが2年目に再度契約を延長した場合にも、同様に引き続きライセンス費用が支払われることになる。
「フリーミアムの制度を最大限に生かして、幅広く浸透させていきたい」と坂本社長は意気込む。
リンデン氏は、「日本では、まずは月間1万本の販売を期待している」と語る。
PCチューンナップとセキュリティソフトという2面性を持ったPC Maticは、フリーミアムという手法によって、どんな風に日本の市場の受け入れられるのか。これからが楽しみだ。