レビュー

今年の冬は電力がヤベェ!自然もヤベェ!だからポータブル電源を買うしかねぇ!Anker「555 Portable Power Station」レビュー

家族3人が2、3日の停電をやり過ごせるバッテリ容量1,024WhのAnker「555 Portable Power Station」。価格はAmazonで15万円前後

 この夏、電力需要が逼迫して危うく停電しかけた東京電力管内。でも夏はエアコンで外気33℃を28℃に5℃下げる程度。そこで現役引退した火力発電を引っ張り出してなんとか需要をまかなっているが、この冬がヤベェ。冬は外気0℃を20℃まで上げるとすれば、夏場の電力の4倍が必要になる。

 これを見込んで九州、四国を始め西日本は、すでに原子力発電所を再稼動させている。でも問題は東日本。福島原発の記憶も新しいため世論の逆風が非常に強く、2022年夏の段階では「原発再稼動の準備してね」という政府の言葉のみ。一部は条件付きとなっている。

現在停止中の柏崎刈羽原発。2022年6月16日の朝日新聞によれば、東京電力ホールディングスは火力の燃料高騰のため、2023年7月に柏崎刈羽原発を再稼動する予定で来春からの電気料金の改定の算定基準にするとしている

 このまま原子力発電所が再稼動しなければ、昨今問題となってる電気代の急騰に加え、東日本では輪番停電で凍えながら冬を過ごすことになりかねないのだ。

 さらに不安にさせるのが台風や地震などの自然災害。稀に見る大型台風が上陸したり、東日本大震災以降は「え? そんなところが?」という震源で地震が起きたり、西日本は南海トラフ地震がいつ起きてもおかしくないと言われている。

 というわけで家電おじさんという職業柄、毎日のように家電の質問を受けているが、ほぼ週一で聞かれるのが「ポータブル電源(ポータブルバッテリ)って必要? 必要ならどこがいい?」ということ。モバイルバッテリほど安くないし、本当に今すぐ買う必要があるか? なんて誰にも分からない。だから「必要と思ったときが買うとき」と家電おじさんとしてはクソ返答している。

 とりあえず言えるのは、どこのポータブル電源を購入すべきか? それは「Anker」(アンカー)が無難ということだ。実はAnker以外にも「Jackry」(ジャクリー)というメーカーもあり、性能やコストパフォーマンスはほぼ互角。唯一違うのはJackryはポータブル電源専門メーカーという点だ。

 ただ一般に知名度が高いのは「Anker」。モバイルバッテリやUSB充電器など、スマホの周辺機器で圧倒的な強さを見せる。

 それゆえボクはAnkerをイチオシしている。ここでは家族3人が2、3日の停電をやり過ごせるバッテリ容量1,024WhのAnker「555 Portable Power Station」を紹介しよう。

 なお、もしあなたがJackryをご存知のキャンパーや車中泊ッカーなら「Jackry」がオススメ。それはカラーリングにオレンジが使われているので暗闇や草むらなどでも目立って蹴飛ばされないからだ(笑)。でも実は大事なのよ……。

電気の復旧は2、3日ってとこから最適な容量を選ぶ

 ポータブル電源選びで質問が一番多いのは「バッテリ容量」だ。小さなものから大きなものまでありすぎで、どれを買えばいいか分からないのだ。

 その1つの目安となるのが、災害時のインフラ復旧までにかかる日数だ。電気の復旧は2、3日と言われている。ガスや水道が1カ月以上かかるのに比べとても速い。しかも東日本大震災でも6日で9割の家庭が復旧している。以前台風の影響で千葉県内で1カ月も停電したことがあるが、こちらは例外と考えていいだろう。

北海道胆振頭部地震のライフライン停止率の変化
西日本豪富のライフライン停止率の変化
東日本大震災のライフライン停止率の変化(いずれも出典 : 内閣府 防災ページの資料)

 必要なバッテリ容量は、南海トラフ地震の警戒域や東海沖地震の警戒域なら1週間、東日本や九州、日本海側沿岸では2、3日を見ておけばいいだろう。首都圏直下も警戒されているが、来たら終わりなので考えない(笑)。

 そこで日数と家族全員のスマホの数をかけたのが最低限ほしい容量だ。あとは情報収集用のTV(1日1時間)とPC、1日5~6時間の夜間照明が最低限となるだろう。あると便利なのが車載用の小さな冷蔵庫や夏場の扇風機だ。

 ガスも止まるのでホットプレートも使えたほうがいいと思うかもしれないが、熱源は焚き火や携帯ガスコンロが使えるので、エネルギーは分散したほうがいい。

555 Portable Power Stationが指針としているさまざまな機器ごとの利用時間(回数)

 ポータブル電源の広告には、用途と利用時間が表記されているので、必要な電力の合計値を大まかに調べてバッテリ容量を出すといい。もちろん内蔵バッテリ容量と、利用時間の割合からきっちり計算してもいいだろう。冒頭で家族3人なら1,024Whの「555 Portable Power Station」がオススメした理由は、実はこういう計算だったというわけ。

スマホだけなら100回くらい充電できる1,024Wh

 iPhoneユーザーなら内蔵バッテリ容量が「Wh」表記されていることが多いので「大体何回充電できるぐらい」と容量の想像が付くが、Androidやモバイルバッテリは「mAh」表記が多いのでちょっと掴みづらい。

 家電おじさんもAndroidユーザー(っつーかアンチApple)なので、とりあえずスマホの充電をシミュレーションして、何回充電できるかを実際にテストしてみる。2.4Aで5台同時に急速充電しているのと同じ条件にしてテスト。結果一晩たってもポータブル電源の残量は100%、そのまま1日放置してもまだ100%。結局テスターの電池のほうが先に切れて、実験は強制中断に終わった。やっちまったー!

何も考えずにとりあえずスマホが何回充電できるかをテストしたら、バッテリ残量が一晩経っても変わらず……。スマホの充電をシミュレーションする装置がめっちゃ発熱するので扇風機を回す(笑)

 で、後からマニュアルを見たら「320,000mAh」と! ちょっ! まっ! 32万ってもう「mAh」の「ミリ」を使う意味ネェ! 3TBのHDDを「俺のストレージ3,000,000(300万)MBだぜ!」とか言ってるようなモンだ。つまり最近の標準的なモバイルバッテリは1万mAh程度なので、それが32本分(笑)。一晩充電実験しても電池減らネーわけだわ。

 ということで実際にスマホを充電するのはあきらめて、理論値で計算すると、大体デカイ液晶のスマホを100回くらい充電できる感じだ。3人家族が1日1回充電しても、1カ月以上充電できる計算だ。

左から3つのType-CコネクタはUSB PD 3.0対応。右側のType-AコネクタはAnker独自のPowerIQ対応

 USBコネクタは、左からUSB Type-C 100W、Type-C 60W×2、Type-A 2.4A×2となっている。なおType-Aコネクタは、Anker独自のPowerIQという急速充電規格に対応しており、次の表のスマホに対応している。

【表1】USB Type-Aコネクタが対応している充電方式
充電方式最大電流
USB BC DCP
(4年ほど前のAndroidなど)
2.1~2.4A急速充電
Apple方式2.4A

 もちろんどんなデバイスでも充電可能だが、対応機なら最大2.4Aの急速充電可能だ。イヤフォンなど小型のデバイスを充電する場合は、POWER SAVINGモードをオフにしておかないと充電が中断されるので注意。

Type-AコネクタでPowerIQ 1.0非対応デバイスを充電すると5V 1.5A

 Type-Cコネクタは、USB PD 3.0に対応している。電圧と電流の組み合わせは、次の表の通り。60Wコネクタは2系統あるが、それぞれのコネクタで最大60W(20V/3A)での急速充電が可能だ。

 USB Type-Cで充電するPCは100Wコネクタに接続、スマホやモバイルバッテリの充電には60Wコネクタに接続して使い分けるといい。

【表2】USB Type-Cの急速充電モード
電圧100Wコネクタの最大電流60Wコネクタの最大電流
5V3A3A
9V3A3A
15V3A3A
20V3A3A
20V5A-
USB PD 3.0対応しているデバイスなら高電圧での急速充電が可能
USB PD 3.0非対応だと5V 2.4Aの急速充電

 以下はType-Aコネクタで2A(端数の計算面倒だった。ゴメン!)で充電したときを想定した、電流と電圧の変化だ。電圧は負荷無接続(スマホをつないでいない状態)で5.1Vあり、スマホを接続するとやや電圧が下がる(これは故障や性能の問題ではない)。

 そのため電流は2Aに達していない、この事象も問題なし。グラフを見ると電流は0.1A程度の効果は見られるが、まったく問題なく非常に安定して充電できる。

Ankerならコンセントと同じ電気で家電を選ばない!

 上の見出しの意味がポカーン? という方も多いはず。実は激安のポータブル電源や車の12Vから100Vを得るコンバータという装置を使うと、動かない機器がちょくちょくある。扇風機や掃除機などは、モーターがうねりを上げる場合がある。デスクトップPCは動作しない。逆にLED照明やACアダプタ式のノートは格安品でも動く。

 このようにポータブル電源によって動く家電、動かない家電があるのは、コンセントの「波」の形だ。

 次の図は東京電力の波形だが、きれいな波型を描いている。

東京電力の波形。並みの頂点が少し凹んだ形

 Ankerは東京電力よりもさらにキレイな波型になっている。また電源ボタンを長押しすると、西日本の60Hzの電力にも変えられるようになっている(この機能は意外に少ない)。

Anker 555 Portable Power Stationの100V 50Hz電源
Anker 555 Portable Power Stationの100V 60Hz電源。1秒間に60個の波があるので50Hzより感覚が狭くなっている

 一方、動かない家電があるコンセントの波形はこんなだ。

波というか階段。これで動く家電があるってのも不思議

 これで家電が動くほうが不思議なんだが、省エネ性とか深く考えてないあっぱっぱーな家電は動く。でも最近は省エネ化のために「PFC」という回路を入れている家電が多く、この回路はコンセントからキレイな波型の電源をもらうのが前提になっているため、先に示した家電以外にも多々あるはず。最近のTVやレコーダ、ゲーム機や調理家電は省エネに設計されているので、もしかすると格安品だと動かないかもしれない。

 Ankerのポータブル電源は、電力会社以上にきれいな波なので「動かない家電はない」を宣言できる。Ankerで動かなかったら家電は……、そりゃ壊れてます。

コンセントは6口。右下にあるスイッチはPOWER SAVING切り替え(オンにすると電気が流れていないときにポータブル電源の待機電力を切る)
アース付きのコンセントも挿せる。コンセントの上下を逆さまにすれば上段にもアース付きコンセントが挿せる。ただしアースは取れない(アース線の役割はしない)

 なお、100Vのコンセントは6口あり、合計で10A(1,000W)を出力できる(定格)。瞬間的なピークは1,500Wまでとなっている。

 また700W程度の家電を接続した状態で電圧の状態を計ったのが次のグラフだ。電圧は100~97Vの範囲で落ち着いており、電力会社に課されている範囲107~95Vの範囲内に余裕で収まっているので、家電に対する悪影響もまったくない。

シガーソケットの12Vやライトとしても使える

 そのほかの機能としては、車のシガープラグが付いているので直流12Vの電源が取れる。つまり車載の冷蔵庫や掃除機などが最大120Wまで使える。利用可否の境界は、車中泊用エアコンは使えないが、1合炊きの1人用炊飯器ならギリ使えるってあたりだ。

車のシガーソケット12Vコネクタも装備。USBが足りないとき、無線機を使うとき、車中泊グッズを使うときに便利
電球色のライトも付く。十分に本も読める明るさを確保できるほか、緊急時にはSOSのモールスを送ることが可能

 さらに、デザインに見える正面の細いバーは電球色のライトになっている。13kgある本体を机に置いておくかは別として、文庫本や地図なら十分読める程度の明るさを確保できる。

 また、日本で使い道があるかは微妙だが、ボタンを長押しすると「SOS」のモールス信号を光で送るモードに切り替わる。電波法上は非常時以外に送信したらお縄になる「SOS」なので、居場所を目立たせるために使うなどは避けたほうがいいだろう。

 なお、USBコネクタはスマホなどを接続すると自動的に各ポートの電源がオンになるが、シガープラグと100Vコンセントはボタンを押すと初めて電源がオンになる。

 これは内部回路の待機電力がバッテリを消費してしまうためだ。POWER SAVINGモードをオンにすると、USBも含め各コネクタで電気を使っていなければ自動的に電源をオフにして待機電力をゼロにするモードもある。

見やすい液晶表示。左上の緑はPOWER SAVINGモード中。電池の下の数値は出力している電力。右下はこの状態で使うとあと何時間持つかを示す。右上コンセントの横には周波数が表示されている

 状態の表示は大型の白色液晶になっているので、非常に見やすいのが特徴だ。ただ上下に表示されている細かなモードアイコンは、大人EYE(老眼)の人にとってはちょっと見づらい。スマホの拡大鏡アプリが必須になりそうだ。

繰り返しの充放電にも強いバッテリと高速充電

 飛行機に持ち込み禁止の1,024Whという大容量だけに、付属の専用ACアダプタでフル充電までおよぞ5~6時間かかる。加えてUSB Type-C(100W)からの同時充電も可能で、この場合は4時間程度まで短縮可能。

 ただしUSB Type-C(100W)のみからの充電は11~12時間かかるので注意。車のシガープラグからも充電可能で、この場合は9~10時間かかる。エンジンを切ったままの状態だと、車のバッテリのほうが上がってしまうので、必ずエンジンをかけた状態で充電すること。

バカでかいACアダプタが標準で付属し、フルチャージまで5~6時間。右下には充電完了までの時間が表示される
充電中でも出力が使える。ただし大電力を使うとバッテリに負荷がかかるので注意

 なお急速充電中や大電力を消費中は「離陸するんじゃネ?」というほど爆音の空冷ファンが咆哮するので注意。充電しながら電力を使うことも可能だが、そもそも意味がないし爆音要注意。

 別売になるがソーラーパネルでの充電も可能になっており、4枚1セットで1セットの場合は12時間(およそ3~4日)、2セットの場合は半分で充電が可能となる。

別売のソーラーパネルを使うと太陽光で充電が可能。パネルと本体を接続する充電ケーブルは付属

 内部に使われている電池は、スマホや家電で使われている「リチウムイオン電池」とは異なり、一度に大電流を放出できないが繰り返し充電回数が飛躍的増えている「リン酸リチウムイオン電池」が採用されている。

 一般的なリチウムイオン電池は500回程度の充放電で寿命となり、充電しても利用時間が極端に短くなる。しかし本製品で使われているリン酸リチウムイオン電池は3,000回の充放電を繰り返しても、容量が80%という蓄電池系にベストな電池だ。

 中をバラしたわけではないので、これは筆者の推測の域を出ないが、リチウムイオン電池の特性を知り尽くしたAnkerだけに、個体差の大きい電池を平均化する製造技術や、乾電池のような個々の電池の充電方法はキッチリ実装されていると思われる。

ちょっと大きいがいざというときに役立つ用心棒として

 家族3人が2、3日の停電をやり過ごせるバッテリ容量1,024WhのAnker「555 Portable Power Station」。大きさは取っ手を除くとA4のコピー用紙がまとまった1箱と同じぐらいだ。重さは13kgなので、これもコピー用紙1箱+2Lのペットボトル程度。

幅と高さはこんな感じ。左右幅は35cm、高さは29.5cm
底面は幅35cmの奥行きが18.8cm。重さは13.1kg

 少し大きく重いが、停電時に持ち出す程度なので気にならないだろう。頻繁にキャンプや車中泊で使うとなると少し重いので、容量の少ないバッテリを2個用意するといい。

 年々被害が大きくなる自然災害。もしものときに備えて用意してはいかがだろうか。