レビュー

高性能で取り回しがしやすい「Palit GeForce RTX 3070 Ti GamingPro」

GeForce RTX 3070 Ti GamingPro

 Palit Microsystemsより、NVIDIAの準ハイエンドとも言えるGPUを搭載した「GeForce RTX 3070 Ti GamingPro」が、3月10日にも発売される見込みだ。従来の3070からGPUの強化のみならず、メモリがGDDRからGDDR6Xになり、バンド幅向上に伴う性能強化が期待できる。早速見ていこう。

フルスペックのGA104を搭載

 GeForce RTX 3070 Tiは、GeForce RTX 3070の上位モデルとして投入されるもの。GPUコアに内包するCUDAコア数は6,144基となり、RTX 3070の5,888基から4.3%ほど増えた。加えてブーストクロックも1.73GHzから1.77GHzへとわずかに向上している。

 これは、RTX 3070と共通のGA104ダイでありながら、無効にした部分がないフルスペックのものとなる。GA104登場から時間が経つにつれ製造がこなれてきて、歩留まり向上に伴い、このような製品が投入可能になったと理解するのが妥当だろう。

 その一方で大きく進化したのはメモリで、GDDR6から上位モデルと同じGDDR6Xとなった。このためメモリバス幅こそ256bitで容量も8GBと据え置きだが、帯域は448GB/sから608GB/sへと、実に35.7%も高速化されている。メモリ帯域を消費する高解像度などで威力を発揮しそうだ。

 この性能向上の代わり犠牲になったのは消費電力。3070のTGPは220Wとされていたのだが、3070 Tiでは290Wと実に70Wも増加しており、3080の320Wにも迫る勢いだ。コア数やクロック数の向上はもちろんのこと、GDDR6Xになった代償は大きい。

PCI Express補助電源は8ピン×2

 以下に3070と3070 Ti、そして上位の3080の比較表を用意したが、3070のブラッシュアップであることが明確にわかる一方で、上位の3080や3080 Tiとは比較すると、TensorコアやRTコア数、そしてテクスチャユニット回りで大きな差があることがおわかりいただけるだろう。

【表】GPU仕様比較
GPU3070 Ti30703080 Ti3080
CUDAコア数6,1445,88810,2408,704
Tensorコア数192184320272
RTコア数48468068
テクスチャユニット192184320272
ROP数9611296
ブーストクロック1,770MHz1,730MHz1,665MHz1,710MHz
メモリ容量8GB12GB10GB
メモリ速度19Gbps14Gbps19Gbps
バス幅256bit384bit320bit
メモリ帯域608GB/s448GB/s912GB/s760GB/s
消費電力290W220W350W320W

ダブルUヒートパイプで冷却性能向上

 それではこのRTX 3070 Tiを搭載したPalitのGeForce RTX 3070 Ti GamingProを見ていきたい。これまでPC WatchではJetStreamやGameRockシリーズをレビューしてきたが、GamingProについては初めて。パッケージはそれらと比べると一回り小さくなっているのが特徴だ。

GameRockなどと比べるとパッケージが一回り小さい
付属品など

 それもそのはず。前二者の本体サイズが136×304×60mm(幅×奥行き×高さ、ケース前面から見た方向の場合)であったのに対し、GamingProは112×294×60mm(同)と、特に幅が抑えられているからだ。このため、幅にあまり余裕のないケースへの組み込みがしやすくなっていて、ケース内での取り回しもかなりしやすい印象だ。

 一見、従来のRTX 3070 GamingProと比較して大差がないように見え、単にGPUを入れ替えただけのように見える本機だが、実は放熱機構が大きく進化している。同社が特許取得した2回折り返す「ダブルUヒートパイプ」により、数は6本ながらも6+2本分の放熱効果が得られるとしており、熱の拡散を20%向上させ、最大でGPU温度を5℃低減させたというのだ。

 もっとも、これは「同じ条件下であれば」という話であって、先述の通り3070 Tiは3070と比較して消費電力が約32%も増加しているので、必然的であったとも言える。「3070搭載品より冷えるようにしました」というより、「3070 Tiの冷却に必須だから搭載しました」として捉えるべきだろう。

GeForce RTX 3070 Ti GamingPro本体
ディスプレイインターフェイスはDisplayPort×3、HDMI
後ろ側のヒートシンクにダブルUヒートパイプ構造を採用し、冷却性を高めている
ヒートパイプの仕組みは側面を見るとよくわかる
直径85mmのファンを3基搭載
金属製のファンガード
中央のGPのロゴやその周囲がARGBで光る仕組み

 このほか、基板に実装されているメモリや電源部といった発熱スポットを覆う「Triple Aダイキャストプレートキット」によって放熱性や堅牢性を高めているほか、ダデュアルボールベアリングの「TurboFan 3.0」で、ファンの振動低減や長寿命化を図っているのが特徴となっている。

 ちなみにこのファンは直径が85mmとなっており、JetStreamの100mm、GameRockの90mmと比べるとかなり小さい。一般的に小口径ファンは大口径ファンと同じ風量を生み出すには回転数を上げる必要があり、風切り音といった騒音面では不利となる一方で、羽自体が軽量となるため振動音が少なくなる利点がある。実力については後ほど検証するが、小ささが本体の小型化にも寄与しているとも言えるだろう。

 本機もバックプレートが装着されているが、前面はハニカムで穴あき構造となっており、風がそのまますり抜ける仕組みとなっている。ケース前面に吸気ファンを備えているケースの場合、吸気したばかりの冷たい空気を利用して一部冷却を行なうことが可能となり、排熱を再吸気してしまうことを防げそうだ。

本体背面。バックプレートで保護されている
一部がハニカム構造でくり抜かれており、前方のファンの風がすり抜ける

 なお、本機にもARGBライティングは備わっているのだが、中央のファンを覆うファンガードとその周囲のみが光る。全面的に光る派手なGameRockや、側面のロゴが光るJetStreamと比べるとかなりおとなしめだ。一方でブラック&シルバーのツートーンデザインや、金属のファンガード部など、同社のRTX 30シリーズの中でもっとも落ち着いた直線的なものとなっていて、あまりユーザーを選ばない質実剛健なデザインと言えるだろう。

3070からの性能向上はわずか

 最後にベンチマークで性能を検証したい。GameRockやJetStreamシリーズではデュアルBIOSを採用しており、性能重視と静音重視の2つの動作モードがあるが、GamingProでは1つのみに絞っているため、ベンチマーク結果も1つのみとしている。

 CPUはCore i9-10900K、メモリはDDR4-2666 32GB、マザーボードはC9Z490-PGW、SSDはNVMe接続の512GB、OSはWindows 10 Pro、ケースはCooler Masterの「MasterBox Q500L」、電源はSilverStoneの「ST1000-G Evolution」、室温は27℃といった環境である。ドライバは、NVIDIAよりレビュワー向けに配布された「466.61」を利用している。

 今回は、以前にテストした3070 GameRockの結果を並べよう……と思ったのだが、ドライバのバージョンの違いからか、3DMarkにおけるWild LifeとNight Raidのスコアは振るわなかった。機材スケジュールの関係で3070 GameRockはすでに手元を離れているため、再テストできていない。

3070 Ti GamingProのTime Spyスコア
3070 GameRockのTime Spyスコア
3070 Ti GamingProのFire Strikeスコア
3070 GameRockのFire Strikeスコア
3070 Ti GamingProのNight Raidスコア
3070 GameRockのNight Raidスコア(スコア差が大きいので参考)
3070 Ti GamingProのWild Lifeスコア
3070 GameRockのWild Lifeスコア(スコア差が大きいので参考)

 よって、唯一結果が参考になりそうなスコアはFire StrikeとTime SpyのGraphics Scoreというわけだが、前者は+8%、後者は+7%程度。増加したCUDAコア数とクロック分プラスアルファといった程度で、GDDR6Xの広帯域の恩恵を活かしたとは言えない結果になってしまっているのが残念である。

 15分間ほどゲームをプレイした際のファン回転速度および温度の遷移だが、温度はゲーム開始直後83℃付近で高止まりしたものの、ファンの回転数は徐々に上がり、最終的に2,600rpm前後に達した。先述のとおりファンの口径がGameRockなどと比較して小さいので、GameRockの2,600rpmと比べれば静かであった。ただ、3070 GameRockのQモードは負荷時でも1,700rpm付近に抑えられているため、さすがにその静音性には及ばない。

Nier:Automataプレイ中の温度遷移

 もっとも、今回テストした環境も以前と同様排熱には不利なMasterBox Q500Lであるため、より大きなケース、もしくは通気性に優れたケースであればもっと静音で稼働できるはず。従来と同じサイズでも70Wの発熱増を押さえられていて、ダブルUヒートパイプデザインを十分活かしている結果と言えるだろう。一般ユーザーにおいては騒音や発熱で心配になることはまずない。

3080 Tiよりは扱いやすいハイエンド

 3070 Ti自体、3070無印からの性能向上は少ない一方で、消費電力が高いというのが弱点となりそうだが、既に動作させるための電源や冷却環境が整っているユーザーにとって、少しでも高い性能を求めるのであれば、そのニーズに応えることはできる。高くなった消費電力は、パワーターゲットを引き下げて運用するといった工夫で対処はできるだろう。

 その一方で、上位の3080や3080 Ti同じGDDR6Xになったとは言え、やはり一定の性能差が存在し、3080の存在を脅かすほどではないというのも確かだ。ともなれば、3070 Tiに期待したいのは供給量と実売価格。アッパーミドルらしい潤沢さと、NVIDIA公称の8万円台を実現できれば、魅力的な選択肢となるだろう。

 その中でのPalit GeForce RTX 3070 Ti GamingProだが、ユーザーを選ばないデザインと、優れた冷却機構、そして取り回しのしやすさあたりが評価できるポイント。また、Palit製品は価格も比較的安い部類に入り、選択肢に入れやすい。幅広いユーザーにおすすめできる1枚だと言えるだろう。