レビュー
高い静粛性が魅力の「Palit GeForce RTX 3070 JetStream OC」
2020年11月21日 06:55
Palit Microsystemsの「GeForce RTX 3070 JetStream OC」は、GPUにGeForce RTX 3070を搭載したオーバークロッカー向けのビデオカードだ。国内ではドスパラが販売をしており、実売価格は69,800円となっている。今回Palitの協力により1台サンプルを入手できたので、レビューをお届けしたい。
Palitは現在、GeForce RTX 30シリーズのラインナップとして、ゲーミング向けの「GamingPro」、ゲーミング向けプレミアムの「GameRock」を展開しているが、JetStreamシリーズはこれらとは少し趣旨が異なり、オーバークロッカー向けという位置づけ。工場出荷時の動作クロックはGameRockがもっとも高く、続いてJetStream、GamingProという順番だ。
ゲーミング向けが派手な外観とイルミネーションを採用しているのとは対象的に、JetStreamの見た目はおとなしい。一応、側面の「GeForce RTX JetStream」という文字列はアドレサブルRGB LEDによって派手に光るものの、ファン側には光る要素がない。
JetStreamは3つのシリーズのなかでもっとも古く(Kepler世代)から登場しているものであり、ヒートシンクの冷却性と静音性ではかなり定評がある。ただ、今回のGeForce RTX 30シリーズに関して言えば、意外にも3080以上ではJetStreamブランドで登場しておらず、3070が初となる。
オーソドックスな作りだが短基板がユニーク
先述のとおり、JetStreamはゲーミング向けではないため、パッケージも内容物も至ってシンプル。付属品はPCI Express 6ピン×2を8ピンに変換するケーブルが1本、マザーボードのARGB制御と同期するためのケーブル1本、そしてマニュアルのみとあっさりしている。
ビデオカード本体は、ヒートパイプ4本を使った大掛かりなヒートシンク、ビデオメモリや電源回路の放熱、そして基板の剛性強化に役立つ金属製のフレーム、さらに金属の強化バックプレートを採用している。スペック上2.7スロット占有するとされているが、事実上3スロットは使えないと思っていいだろう。
GeForce RTX 3070は、3080や3090のような300W超のTDPではなく、本来220Wとされているのだが、本機はファクトリーオーバークロック済み、なおかつオーバークロッカー向けということもあり、公称最大270Wとされている。これは従来のハイエンドの2080の215Wをも大きく上回る。そのため、このような大掛かりなヒートシンクとなっているわけだ。
本機では2つあるファンのうち1基は、ファンからの風をそのまま背面に通すデザインとなっている。これによりケース下部に熱溜まりが生じることを防いでいる。そのため基板は本体の実際の長さ(304mm)に反して短く、その分幅(136mm)があるデザインとなっている。現代的なコンポーネントの格納を考慮したケースであれば、サイドパネルとの干渉はあまり考えられないが、比較的スリムなケースを使う場合などは十分に注意したい。
ファンは直径90mmの大型のものが2つ採用されている。デュアルボールベアリングとIP5X防塵を謳う「TurboFan 3.0」となっており、振動は少ない。ブレードの形状も波打っている感じでかなりユニークだ。実際、負荷時の騒音のほとんどは風切り音であった。なお、負荷が低いときにファンの回転を止める「0-dBテクニック」も採用されていて、アイドル時回転することはなかった。
ヒートシンクカバーはプラスチック製でややチープな印象だが、先述のとおり本機は派手さを求めたものではないので、これはこれでありだ。2つのファンのあいだの「風」の漢字が、わざわざ別のクリアパーツを用いて実現されているのはチャームポイント。アメリカンなデザインのパーツが多いなか、アジアンな感じはなかなかイカすとは思う。
基板が気になったので分解してみた。先述のとおり本機の基板は短いため、パーツはびっしり積まれている。この小さいスペースのなかに合計13フェーズもの電源回路や、RGB LED制御をよく積んだなぁとは感心する作りであった。
ただその“弊害”として、PCI Express 8ピン×2のコネクタが本体中央に来ているのが気になった。この位置だと、ケーブルを下に這わせるとイルミネーションの邪魔に、横に這わせるとエアフローの阻害に、上に這わせるとマザーボードの上空を邪魔して、CPUクーラーと干渉しそうだ。電力ロスが生じるが、できればケーブルなどで隅にコネクタを配置してほしかったところではある。
高クロック動作も得意だが、静音BIOS 2の利用がオススメ
最後にGeForce RTX 3070 JetStream OCの実力をベンチマークで見ていこう。今回用意したシステムは、CPUがXeon W-1290P(ES品)、DDR4-2666メモリ32GB(8GB×4)、マザーボードがSupermicroの「X12SCA-F」といったやや特殊な環境だが、事実上Core i9-10900+Z490環境に近いものだと捉えていただければ幸いだ。
じつは本機の基板背面にはBIOSを切り替えるスイッチがあり、出荷時のBIOS 1は高性能モード、BIOS 2は静音モードとなっている。BIOS 1では、動作中のターゲットTDPは270W、ファンの回転速度は最大で2,300rpm前後で推移していたのに対し、BIOS 2はそれぞれ250W、1,700rpm前後だった。このさいの違いも見ていこうと思う。
ついでに、せっかくのオーバークロッカーモデルとされているので、GeForce Experience(GFE)でベータ実装された自動チューニング機能(Alt+Z→パフォーマンスで表示される「パフォーマンスチューニング」)を試し、その結果でベンチマークもとってみた。
このパフォーマンスチューニングでは、トグルをオンにすると、自動で電圧とクロックの最適解が見つけられ、オーバークロックがなされる。こうした自動機能は昔からGeForceのドライバに隠し機能として存在はしていたのだが、チューニング中にブルースクリーンになった、もしくはソフトが落ちたのを記憶して、その直前のクロックで動かすといった適当な挙動のものだったが、GFEの機能は温度や電圧、ボードパワーなどを細かく監視しているためか賢く、システムを不安定に至らしめるようなことはしない。今回の3070 JetStream OCでは、+136MHzという結果が得られた。
ただ結果を見ればわかるとおり、GFEの自動オーバークロック機能は性能向上こそあったものの、スコア差は誤差程度でありあまり意味がなかった。これはターゲットのTDPが270W固定のままだからであり、クロックを引き上げたところでTDPが引き上げられていないので、それが頭打ちとなるのだ。裏を返せば、3070 JetStream OCはすでに270Wでの動作に最適化していて、じゅうぶんなチューニングがなされたモデルであるということだ。
ただそれよりも注目したいのは、TDPが250WになるBIOS 2の設定。BIOS 1のファンの騒音もそこまで大きいものではないのだが、はっきり言ってBIOS 2の静かさとじゅうぶんな性能を体験すると、BIOS 1が無意味に思えてくるほど。それでもNVIDIAが提示するリファレンスの性能より高いのだから、性能によほどこだわりがないユーザーなら、BIOS 2を使うことをおすすめしたい。
GeForce RTX 20世代をスキップしたユーザーに
今回のGeForce RTX 30シリーズは、プロセスの進化もあって、ラインナップ全体を通して性能が前世代より大幅に引き上げられている。NVIDIAの“数字的な世代交代”は、x80が次世代のx70、次次世代のx60の性能相当するのが恒例であったのだが、30シリーズに関しては2ランクほどのジャンプアップがあると言ってもいい。これは、かつてGeForce 7000が8000シリーズ、GeForce GTX 500が600シリーズに変わったときぐらいのインパクトだ。
GeForce RTX 3070に関して言えば、従来の2ランク上に相当するGeForce RTX 2080 Ti並みの性能を実現している。そのRTX 2080 Tiは2年前の発売時18万円前後だったことを考えると、7万円を切る3070 JetStream OCはかなりお買い得だと言ってもいい。ダルビッシュ有氏やPerfumeののっちさん、Henry Cavill氏といった著名人が軒並み2080 Tiを選択したことを考えれば、なおさらだ。