レビュー

新しいハイエンドGPUの基準「Palit GeForce RTX 3080 Ti GameRock OC」を試す

Palit GeForce RTX 3080 Ti GameRock OC

 Palit Microsystemsから、NVIDIA最新のハイエンドGPUを搭載した「GeForce RTX 3080 Ti GameRock OC」が発表となった。一見旧モデルのRTX 3080と同じように見えるこのビデオカード、実は性能面がブラッシュアップしているのだ。早速見ていこう。

NVIDIAの新しいハイエンド

 本製品はその名が示す通り、6月1日(日本時間)にNVIDIAが発表した新しいハイエンドGPU「GeForce RTX 3080 Ti」を搭載した製品だ。3080 Tiは3080の上位として位置づけられており、メモリクロックは19Gbpsで据え置きだが、ビデオメモリのバス幅を320bitから384bitに広げ、最上位の3090と同じスペックとした。

 これに伴いビデオメモリも2GB増えて12GBとなり、デスクトップ向けのRTX 30シリーズの最下位にあたる3060の方がビデオメモリが多い、という下剋上の関係を解消している。より高解像度/高リフレッシュレートを必要とするゲームで威力を発揮するだろう。

 GPU自身も3080から進化しており、CUDAコア数が8,704基から10,240基、Tensorコアが272基から320基、ROPが96基から112基と増えている。規模的には約17.6%増となっている。結果として、消費電力の目安を示すTGPを含めて仕様的には上位の3090に肉薄するものとなっている。

【表】GeForce RTX 3080 Tiと3080の仕様比較
GPURTX 3080 TiRTX 30803080からの差分
アーキテクチャAmpere(GA102)-
製造プロセス8nm-
CUDAコア数10,240基8,704基+17.6%
Tensorコア数320基272基+17.6%
RTコア数80基68基+17.6%
テクスチャユニット320基272基+17.6%
ROP数112基96基+16.6%
ブーストクロック1,665MHz1,710MHz-2.6%
メモリ容量12GB10GB+20%
メモリ速度19Gbps-
バス幅384bit320bit+20%
メモリ帯域912GB/s760GB/s+20%
消費電力(TGP)350W320W+9.4%

 スペックから見ても、少なくとも15%以上の性能向上が図れそうではある。GeForce RTX 30シリーズが発表されて以降、デスクトップ向けではRyzen 5000シリーズや第11世代Coreへの刷新が行なわれており、CPU性能が向上しているため、GPU性能をより引き出せる環境が整っている。それに伴ってGPU側もアップデートしました、というのがNVIDIAとしてのメッセージだろう。

 これらの特徴を踏まえた上でのGeForce RTX 3080 Ti GameRock OCだが、標準となっている「P」モードのBIOS 1では、このリファレンスの仕様からBoostクロックを1,665MHzから1,725MHz(+3.6%)にまで高めているほか、TGPを400Wまで高めており、さらに性能向上を図っている。「Q」モードのBIOS 2でもTGPは370Wに達する。この違いについては後ほど検証していく。

 なお、3080 Tiでは、先立って投入された3060と同様に、マイニング時のハッシュレート制限が課されている。NVIDIAはGeForceをゲーマーに届けるという意思を強めており、既存の3080/3070/3060 Tiにもハッシュレートを制限したLHR版を投入するなどより一層の強化を行なっているのだが、これは新たに投入される3080 Tiでも同じ考えだということだ。

RTX 3080 GameRock OC

派手な見た目はRTX 30のGameRockシリーズならでは

 というわけでパッケージから見ていきたいが、シリーズが共通していることもあって、少し前にレビューした「GeForce RTX 3070 GameRock」と見た目的にはほとんど同じだ。内容物としては、ビデオカードを支えるサポーター「Sag Holder」が増えている程度である。本体もぱっと見区別がつかないだろう。

 しかしよく観察してみると、基板の大きさが異なることに気づく上、ヒートシンクも大きく異ることがわかる。特にヒートシンクに採用されているヒートパイプが4本から6本に増えているほか、フィンピッチが若干広く、さらにフィン自体にエンボス加工がなされていてるなど、同じスペースに実装するものであっても、冷却性能向上のための工夫が見られる。

製品パッケージ
マニュアルとカレンダーに加え、ビデオカードを支える「Sag Holder」が付属した
本体と付属のPCI Express 6ピン→8ピン変換ケーブル
RTX 3070 GameRock(写真下)との比較。ぱっと見た感じでは区別がつかない
側面を見ると区別が付く。RTX 3070 GameRock(写真下)はPCI Express 8ピン×2だが、RTX 3080 GameRock OC(上)は3基
ヒートシンクのフィンピッチはRTX 3080 GameRock OCの方が広い

 3070 GameRockのTGPが標準で250Wであったのに対し、3080 Ti GameRock OCでは先述の通り400Wまで引き上げられている。この+150W分の冷却を行なうのに、このようなヒートシンクでの機構は欠かせないのは明らかだ。とは言え、ヒートシンク自体は先代の3080 GameRockシリーズとは共通であり、強化されたといったようなことはない。

 PCI Express補助電源コネクタは8ピン×3であり、コネクタの位置は3070 GameRockと比較してややケース前寄りにはなったが、使い勝手に大差はない。カード全長も変わっていないので、組み込む際の勝手に大差はない。2.7スロットを占有する点も共通である。

2.7スロット占有する大型の冷却機構
「GEFORCE RTX GAMEROCK」のロゴにもRGB LEDが仕込まれている
本体背面のバックプレートにも印刷がなされている
デュアルBIOS切り替えスイッチ。BIOS 1のPモードはパフォーマンス重視、BIOS 2のSモードは静音性重視だ
一部はくり抜かれており、ファンの風が通り抜けるようになっている
ヒートパイプは6本
ヒートシンクはエンボス加工がなされており、表面積を増やしている
GAMEROCKの文字
ディスプレイ出力はHDMIが1基、DisplayPortが3基
ファン中央にも同心円状のカバーシールが貼られている

 本機の最大の特徴はやはり派手な天然クリスタルのようなイルミネーションだろう。透明感のあるカバー表面いっぱいに広がるこのRGB LEDイルミネーション、同社は「The Dazzling Angel(まばゆい天使)」などと呼んでいるのだが、その名に恥じないほどまばゆい光を放つ。

 ユーティリティ上からエフェクトや発色などは3070 GameRockと同じため、詳細は割愛するが、もしこれらに満足できないのであれば、付属のARGB同期ケーブルを使ってマザーボードのピンヘッダと接続し、マザーボード側のユーティリティで制御や同期をする手もある。

天然クリスタルのような複雑な凹凸はRTX 30のGameRockシリーズならでは

もちろん高性能だが、OCの特性を活かすためには新世代CPUが必須

 最後に、ベンチマークをしつつ簡単にPモードとSモードの違いを検証していきたい。今回のテスト環境はRTX 3070 GameRockの時と同じく、CPUはCore i9-10900K、メモリはDDR4-2666 32GB、マザーボードはC9Z490-PGW、SSDはNVMe接続の512GBモデル、OSはWindows 10 Pro、室温は27℃といった環境である。ただしドライバは、NVIDIAよりレビュワー向けに配布された「466.54」を利用している。

BIOS 1のTime Spyの結果
BIOS 2のTime Spyの結果
BIOS 1のPort Royalの結果
BIOS 2のPort Royalの結果
BIOS 1のFire Strikeの結果
BIOS 2のFire Strikeの結果
BIOS 1のWild Lifeの結果
BIOS 2のWild Lifeの結果
BIOS 1のNight Raidの結果
BIOS 2のNight Raidの結果

 結果から言えば、PモードもSモードも誤差程度の違いしか出なかった。後述する消費電力とファン回転速度の計測ではしっかりとした差が出ているので、GPUがより高いクロックで動作しているのは間違いないのだが、決定的な差にはなっていない。計測誤差もあるだろうが、Core i9-10900Kがボトルネックな可能性が高い。3080 Ti GameRock OCを載せるのであれば、Core i9-11900KやRyzen 9 5950XといったハイエンドCPUと組み合わせた方が、より高性能を引き出せそうではある。

 続いてゲーム(黒い砂漠)プレイ中の消費電力やファン回転速度を計測してみた。今回もCooler Masterの「MasterBox Q500L」という、ATXにしてはかなり小さいケースに組み込んでいる。排気ファンは背面で回っている1,000rpmのファンと、CPU簡易水冷のファンのみという、正直かなり厳しい環境である。

 この結果Pモードでは最大で400Wに達し、ファンの回転速度も3,000rpm近くまで来た。さすがに騒音はそれなりにする印象だが、そこまで不快というわけではない。

 一方でSモードだが、これも最大消費電力が370Wとリファレンスより高い数値だった。ファンの速度は2,500rpm前後で、さすがにPモードよりは静かだが、3070 GameRockのSモードほどの静かさではなく、3070 GameRockのPモードと同レベルだった。

【グラフ】BIOS 1とBIOS 2の挙動の違い

 3070 GameRockからヒートシンクを強化していると言っても、決定的な大きさの違いはないので、消費電力も+150Wなのだから、ファンの回転速度が上がるのは致し方ないところだろう。それよりも、MasterBox Q500Lのような小さなケースで、エアフローが厳しい条件でも、400Wという驚異的な発熱をきちんと冷却できていることを評価したい。エアフローを重視し、大きな一般的なケースなら、もっと静音性を維持した状態で冷却できるだろう。

新規にゲーミングPCを組むユーザーにおすすめ

 3080 Tiは、3090ほど尖った性能や価格ではないにせよ、やはりハイエンドなGPUだ。3070をテストした直後だと、3割近いスコア差という格の違いを見せつけられる。その性能を引き出すためには、やはり最新のCPUと組み合わせることが重要だ。

 3080無印を発売直後に購入したユーザーにとって、3080 Tiがアップグレードパスになるかと言われればやや微妙なところ。すでにRyzen 9 5950XやCore i9-11900Kと組み合わせているならまだしも、発売時にあった1世代前のCPUと組み合わせているなら、CPUのアップグレードとともに考えたい。

 一方で3070以下のユーザーや、旧世代RTX 20/GTX 10シリーズのユーザーにとって、RTX 3080 Tiの高い性能は魅力的に映えるはず。特に144Hz/4Kディスプレイや165Hz/WQHDディスプレイと組み合わせるなら、そのディスプレイのポテンシャルを引き出せる。

 当然、ある程度予算があって、これから新規にハイエンドゲーミングPCを組むというユーザーなら、選択肢の筆頭に挙げておきたい。普段通りの進化なら、次世代は1回スキップしてもいいぐらいの性能だからだ。後は実売価格次第ではあるのだが、マイニング性能の制限といった仕組みが価格面でプラスに働いてくれることを期待したい。