レビュー

圧巻の22フェーズ電源採用、BIOSTAR新フラグシップ「Z590 VALKYRIE」を試す

Z590 VALKYRIE

 台湾BIOSTARは、Intel 500シリーズチップセットのマザーボードより、新しいフラグシップの位置づけとなるラインナップ「VALKYRIE」シリーズを追加した。今回はそのなかからATXフォームファクタの「Z590 VALKYRIE」が広報より送られてきたので、写真を中心にレポートをお届けしたい。なお、国内ではRocket Lake-Sの発売にあわせて3月30日にアユートから発売され、価格はオープンプライス、店頭予想価格は4万2,680円前後の見込み。

OC向けなのか? ゲーマー向けなのか? ……とにかくフラグシップだ

 同社のマザーボードのラインナップは、これまでゲーミング向けの「GT Racing」シリーズのみがサブブランドとして存在していて、それ以外は型番のみとなっていた。今回登場する「VALKYRIE」は、GT Racingのさらなる上を目指したフラグシップサブブランド。現時点ではATXのZ590 VALKYRIEと、Mini-ITXの「Z590I VALKYRIE」の2つがラインナップされている。

 ではどのあたりがGT Racingと差別化されているのかというと、同じZ590チップセットを搭載したZ590 VALKYRIEと「RACING Z590GTA」の例で比べてみると、

・14フェーズデザイン→22フェーズデザイン
・デュアルBIOS対応、スイッチで切り替え
・POSTコード表示用7セグメントLEDを装備
・オンボードの電源/リセット/CMOSリセットスイッチを装備
・6層基板→8層基板
・LN2用に起動時のクロックを800MHzに固定するスイッチを搭載

 といった、オーバークロッカーに関連しそうな機能/実装あたりとなる。

製品パッケージ
デュアルBIOSを搭載し、スライドスイッチで切替可能。800MHz固定のLN2モードスイッチなどもある
オンボードスイッチを搭載。検証時や極冷オーバークロックには有効だ

 極限のオーバークロックが盛んに行なわれていたSandy Bridge/Ivy Bridge時代と比べると、今は熱が冷めた感もあるのだが、Rocket Lake-S世代ではIntel XTUの機能強化でより多くのオーバークロックパラメータをユーザーが変更できるほか、メモリクロック/タイミング変更を再起動なしで行なえるようにしているなど、Intel側が力を入れている。また、メモリスロットの接続がTトポロジーではなくデイジーチェーンである点や(CPUに遠いメモリスロットから挿す必要があるが、信号面では有利)、VRMにアクティブ冷却ファンを搭載している(4基)点など、オーバークロックを意識した実装が多く垣間見える。もしかしたら、Rocket Lake-Sではもう1回オーバークロックのブームが来ることを想定しているのかもしれない。

VRMヒートシンクはファンによるアクティブ冷却。水冷と組み合わせても安心だろう

 ところが製品ページでは「THE GAME HERO」などと書かれていて、オーバークロック競技向けというより、オーバークロックをして性能を求めるゲーマー向けの色が濃い。ゲームを本当に楽しむユーザーは、性能を極限まで引き出すオーバークロックより、安定性を追い求めるはず。そういった意味で本製品は両立しない性格を併せ持っており、ゲーマーにとってオンボード電源/リセット/CMOSスイッチや、LN2切り替えスイッチはなどは無用の長物だろう。

 ただ、22フェーズの電源やファンつきVRMヒートシンクや8層基板など、高負荷時の安定性向上に寄与する実装/部品選定となっており、これはシリーズで唯一無二。今回、Core i9-10900Kを試しに載せてみたが、たしかにシステム全体として発熱が少ない印象だった。極限オーバークロックを想定した実装は、間接的にゲーマーに安定性というメリットをもたらす。「ゲーマー向けフラグシップを作ったらオーバークロックにも耐えそうなので、機能として充実させてみました」という程度に捉えておけばいいだろう。

CPUソケット周り。ファンの搭載でVRMヒートシンクが高くなっており、大型ヒートシンクとは干渉しやすい。簡易水冷を想定しているのは間違いない

メジャー部品を多数採用

 BIOSTARのマザーボードといえば、電源ICからコンデンサまで台湾メーカー製部品の採用が多いのも特徴だったのだが、Z590 VALKYRIEはメジャーブランドを多数採用している点が特徴。VRMコントローラはルネサス(Intersilブランド)製のデジタル制御の「ISL69269」、Dr.MOSは同じく「ISL99390」だ。なお、22フェーズのうち20フェーズはフェーズダブラーによる。これらの部品はいずれも他社のハイエンドマザーボードで採用実績が多くあるもので、信頼性は折り紙付きだ。

 コンデンサのメーカーは明らかにしていないが、2万時間の高耐久固体コンデンサの採用が謳われている。本機はVRM部にファンを搭載しているほか、背面もバックプレートで放熱している。さらに多フェーズで発熱が抑えられているので、これら部品の安定性や寿命について心配する必要はなさそうだ。

 VRMヒートシンクに小型のファンが4基取り付けられているが、かなり静かに動作していて、動作中気になることはなかった。とくにCPU周辺を冷却できない簡易水冷CPUクーラーなどと組み合わせた場合、その威力を発揮するだろう。ただ、このファンを装備するゆえヒートシンクに高さがあり、ヒートパイプが横に出ているようなCPUクーラーとは干渉しやすい(実際、PROLIMATECHのARMAGEDDONは装着できなかった)。本機とハイエンドCPUを組み合わせるなら、水冷は必至だろう。

合計22フェーズの電源VRM部分
デジタル電源PWMの「ISL69269」を採用。CPUコアは20フェーズで供給している。コントローラ自体からは10フェーズをコントロールしているのだが、フェーズダブラー「ISL6617A」を利用し倍増させている
Dr.MOSは「ISL99390」で、各社のハイエンドマザーボードで採用実績が多い
VRMファンは合計4基搭載されている。アイドル時の騒音はほとんどない

 M.2スロットは、CPUに一番近いスロットがPCI Express 4.0対応。これはRocket Lake-S搭載時のみ利用でき、Comet Lake-S搭載時は使用できない。ただ、ほかにもComet Lakeで使えるPCI Express 3.0/SATA 6Gbps対応のM.2スロットが2基あるため、困ることはないだろう。ヒートシンクも装備しており、熱対策もバッチリ。このほかストレージインターフェイスとしてSATA 6Gbpsも6基搭載しているが、このうちの2基は、PCIe 3.0のM.2 2基と排他利用となる(M.2にPCI Express SSDを装備している場合は利用可能)。

M.2は上の1つがPCI Express 4.0対応、下の2つがPCI Express 3.0/SATA 6Gbps対応。SATAのM.2 SSDを利用する場合は、SATA 5/6ポートと排他となる
PCI Express 4.0対応スイッチ「PI3DBS」を装備し、x16とx8+x8を切り替える

 このほか目立つ実装としては、Realtekの2.5Gigabit Ethernetコントローラの「RTL8125B」とオーディオコーデック「ALC1220」、eLANのLED制御用マイコン「eKTF5832」、Pericom Semiconductor(DIODES INCORPORATED)のPCI Express 4.0対応スイッチ「PI3DBS」などがある。なお、USB 3.0/3.1ポート周辺にはリドライバがあり、信号品質を確保している。

 唯一惜しいのは、無線LANモジュールが非搭載/非同梱な点。本機のバックパネルにはWi-Fi用アンテナの接続コネクタがあり、モジュールを装着するスロットへ伸びるケーブルも用意されているのだが、モジュールは未実装で、アンテナも同梱されていない。無線モジュールがあっても使わない場合無効にするのは容易だが、使いたいのにモジュールやアンテナを買って自ら増設するのは難易度が高い。せっかくのハイエンドなのだから、あらかじめ装備してほしかったところだ。

背面には大型のバックプレートを装備しており、放熱に一役買っている
拡張スロットはPCI Express x16形状が3基のみ。2基目は上のPCI Express 4.0 x16とレーンを共用しており、利用する場合4.0 x8+x8となる。下のx16は3.0 x4で、チップセット接続
背面パネルインターフェイスはUSB 3.2 Gen2x2(Type-C)、USB 3.1×5、USB 3.0×2、DisplayPort、HDMI出力、2.5Gigabit Ethernet、PS/2、音声入出力。無線LANアンテナコネクタはあるが、アンテナとモジュールは同梱しない
2.5Gigabit Ethernetコントローラの「RTL8125B」
Realtekのオーディオコーデック「ALC1220」
前面パネルのUSB 3.0はHubチップ「ASM1074」を利用
USB 3.2 Gen2x2にはリドライバの「PI3EQX」、USB 3.1にはリドライバ「PI3EQX10」が使用されていて、信号の安定性を確保している
背面にもUSB 3.0リドライバ「ASM1464」を搭載する
RGB LED制御用8bitマイコン「eKTF5832」
HDMI出力の信号品質を確保するためのITE製バッファ「IT66318FN」
IDTのクロックジェネレータ「IDT6V4」を搭載し、より安定したクロック供給を可能にしている
Z590チップセット
付属品は至ってシンプルだ
チップセットのヒートシンク上部にLEDを装備
チップセットヒートシンクやI/Oポートカバーにイルミネーションがあるのだが、光り方は地味だ

BIOSやソフトウェアはシンプル。第10世代Coreでも十分に性能を引き出せる

 一見機能豊富なZ590 VALKYRIEだが、BIOSの作りは至ってシンプル。ほかの自作向けマザーボードで設定できる項目は、本機でも一通り用意されている、と思えばいいだろう。Advancedモードでの設定項目の画面は、細長い左ペインが状況監視となっている以外、表示のほとんどが項目であり、一覧性が高い。

 設定ユーティリティの「VALKYRIE AURORA」もできることがシンプルに限定されている。ファンの回転数カーブ設定はそこそこ自由度が高いが、LEDの発色パターンはそれほど多くないし、オーバークロック設定もベースクロックとベース倍率、電圧のみ。このあたりはIntelから公式に提供されているXTUを使えということだろう。

BIOSの設定画面。特筆すべき点はとくにない。シンプルで使いやすいBIOSだ
統合ユーティリティ「VALKYRIE AURORA」。機能がかなり絞られていて、できることは少ない。オーバークロック関連はIntel XTUに任せるべきだろう

 本来、Rocket Lake-Sこと第11世代Coreと組み合わせてこそ真価が発揮されるマザーボードなので、まだそれが入手できない記事執筆時点で、Core i9-10900Kを載せてPCMark 10だけ走らせてみたが、(当然)ほかのシステムとスコアに大差なかった。第11世代Coreが正式発表されている最中、第10世代CoreとZ590をこれから買うユーザーはいないとは思うが、仮につなぎなどの目的で購入したとしても、システムの性能が制限されるといったことにはならないことはおわかりいただけたとは思う。ただ、第11世代Coreとともに、下位のCore i3/Pentium/CeleronがComet Lake-Sベースながらも若干スペックアップして発表されているので、それらとともにZ590を導入し、上位のRocket Lake-SのCore i5/i7/i9の価格がこなれてきたら乗り換えるというのも手だ。

PCMark 10の結果

 ちなみにZ490ではBIOSの更新で第11世代Coreに対応可能ではあるものの、DMIの接続が4レーンに限定されるため、足回りの性能が十分に発揮できず、500番台チップセットを使う必要がある。アップグレードとしてはCPUだけ刷新というのは悪い選択肢ではないが、いっそのこと500番台とともに購入したほうがいいだろう。

あえていじらなくても価値がある一枚

 北欧神話に出てくる女神を意味する「VALKYRIE」と冠した本製品は、ユーザーがフラグシップに対する期待を裏切らない機能と品質を備えていることがわかった。10GbEではなく2.5GbEとなっている点や、Wi-Fiが非搭載な点など、ネットワーク周りではフラグシップらしからぬポイントもあるのだが、8層基板や電源周りの実装などは随一であり、オーバークロックをしないユーザーにとって十分魅力的に感じられる。

 とくにVRMファンは、簡易水冷CPUクーラーの導入を考えているユーザーには頼もしい装備であり、高消費電力で高発熱なハイエンドCPUと組み合わせても安心。値段はそこそこ張るが、価格に見合う品質だ。ハイエンドCPUでPCを組んで、長時間プレイ、もしくはつけっぱなしで放置プレイするようなヘビーゲーマーにおすすめしたい。