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光回線の代替として人気の「ホームルーター」、大手キャリア4社の速度と導入時の注意点などを比較

ネット回線を簡単に開通できる5Gホームルーター。

ホームルーターとして認知されている「FWA(Fixed Wireless Access)」は、工事不要で導入できる手軽さとモバイル通信の高速化で人気に。現在は携帯4社すべてがサービスを提供している

 世界的に見ても光ブロードバンド回線を使えるエリアが広い日本。しかし中には、あえて光回線を引かずに「ホームルーター」と呼ばれるサービスを使っている人も意外と多いようだ。

 日本においてホームルーターとは、主として光などのケーブル回線の代わりにモバイル回線を使って固定のブロードバンドサービスを提供する「FWA(Fixed Wireless Access)」のことを指している。海外では光回線の敷設が難しい場所にブロードバンド回線を提供するのに用いられるFWAだが、日本では工事が不要な手軽さで人気を獲得。光回線を引くのが難しい、あるいは引き込まれている回線がVDSL方式で速度が出ないなど、賃貸の集合住宅に住む人を中心に支持を得ているようだ。

 もっとも、スマートフォンと同じモバイル回線を利用しているので、光回線のように高速かつ安定した通信は得にくい。だが最近では5Gによって下り(ダウンロード)の通信速度が最大で数Gbps、実測値でも数百Mbpsを超えるサービスが増え、かなり高速になってきている。

 それに加えて「CPE(Customer Premises Equipment)」と呼ばれるFWA専用の据え置き型デバイスは、スマートフォンより大きい分、より大きなアンテナを搭載できることから通信性能を高めやすい。常に家に置いておくのは難しいモバイルWi-Fiルーターや、スマートフォンのテザリングよりも安定した運用がしやすいのもポイントだ。

 FWAと言えばKDDI傘下のUQコミュニケーションズが提供している「UQ WiMAX」や、ソフトバンクの「Softbank Air」などがよく知られるところだが、現在はNTTドコモや楽天モバイルもFWAサービスを提供している。では実際のところ、各社はどのようなサービスを提供しているのか、携帯4社が提供するFWAサービスと最新のCPEを確認してみよう。

 なお、ここで紹介する各CPEの詳しい性能は下表にまとめているので、そちらも確認してほしい。

【表】各社ホームルーターのスペック
NTTドコモKDDIソフトバンク楽天モバイル
サービス名home 5Gau ホームルーター 5GSoftBank AirRakuten Turbo
端末名HR02Speed Wi-Fi HOME 5G L13 ZTR02Airターミナル5Rakuten Turbo 5G
メーカーシャープZTEOPPOSercomm Corporation
最大通信速度(理論値)5G : 下り4.2Gbps、上り218Mbps
4G : 下り1.7Gbps、上り131.3Mbps
下り4.2Gbps、上り286Mbps下り2.1Gbps、上り非公表5G : 下り2.1Gbps、上り218Mbps
4G : 下り391Mbps、上り76Mbps
対応バンド5G : n28/n78/n79
4G : 1/3/19/21/42
5G : n3/n28/n41/n77/n78
4G : 1/3/18/41
5G : n77
4G : 1/41/42
5G : n77
4G : 3
Wi-FiWi-Fi 6Wi-Fi 6Wi-Fi 6Wi-Fi 6
有線LAN1000BASE-T×1
2.5GBASE-T×1
1000BASE-T×1
2.5GBASE-T×1
1000BASE-T×21000BASE-T×2
同時接続台数66(Wi-Fi×64、有線LAN×2)34(Wi-Fi×32、有線LAN×2)130(Wi-Fi×128、有線LAN×2)130(Wi-Fi×128、有線LAN×2)
WPS
QRコード接続
NFC接続---

NTTドコモ「home 5G」

「home 5G」に対応した「HR02」は、Wi-Fiルーターとしては珍しいシャープ製。CPEとしては珍しくダークグレーのカラーを採用しているのも特徴的だ

 NTTドコモのFWAサービス「home 5G」は、実は提供開始時期が2021年8月からと、FWAとしてはかなりの後発。それゆえ提供開始当初より5G対応を強く打ち出しているのだが、実は標準でプラチナバンドの800MHz帯にも対応していることから、つながりやすさの面では他社より優れている。

 その料金プラン「home 5Gプラン」は月額4,950円で、通信量は基本的に無制限。スマートフォン向けの「eximo」や「irumo」(3GB以上)とセットで契約すると「home 5Gセット割」が適用され、料金が月額1,100円引きとなる。

背面の有線LAN端子は2つだが、5Gの高速通信を意識してか、一方の端子は2.5GBASE-Tに対応している

 また、対応するCPEの最新モデルはシャープ製の「HR02」となり、最大通信速度は5Gで下り4.2Gbps、上り218Mbps。WPSやQRコードによるWi-Fi接続に対応するほか、「Wi-Fi EasyMesh」への対応、そして2.5GBASE-Tに対応する有線LAN端子が備わっているのも特徴と言えるだろう。

KDDI「auホームルーター5G」

auホームルーター5G向けの最新CPE「Speed Wi-Fi HOME 5G L13 ZTR02」はZTE製。形状はスタンダードだ

 こちらはKDDIのauブランドで提供されているものだが、サービス内容は基本的にUQ WiMAXと共通しており、「スタンダードモード」と「プラスエリアモード」という2つのモードが用意されている点が他社サービスと大きく異なる点だ。

 前者はプラチナバンドの800MHz帯が利用できない代わりにデータ通信量が無制限で利用でき、後者は800MHz帯も使えるのでauのスマートフォンとほぼ同じエリアで使える一方、月当たりの通信量が30GBまでという制限が設けられている。

背面の有線LAN端子は2つ。「MODE」ボタンは長押しすることで「スタンダードモード」と「プラスエリアモード」の切り替えができる
NFCを用いたWi-Fi接続にも対応しており、本体上部にNFCのアンテナが備わっている

 その料金プランとなる「ホームルータープラン 5G」は月額5,170円。auユーザーであれば「auスマートバリュー」、「UQ mobile」ユーザーであれば「UQ自宅割」の適用対象となり、月額550~1,100円(料金プランによって異なる)の割引が受けられる。

 対応する最新のCPEは中国ZTE製の「Speed Wi-Fi HOME 5G L13 ZTR02」で、最大通信速度は下り4.2Gbps、上り286Mbps。有線LANポートの1つが2.5GBASE-Tに対応するほか、QRコードやWPSだけでなくNFCによるWi-Fi接続にも対応。専用アプリ「ZTELink JP」を用いることでスマートフォンからルーターの管理ができるのもポイントだ。

ソフトバンク「SoftBank Air」

SoftBank Air対応の「Airターミナル5」はOPPO製。ややサイズが大きめだが、8本のアンテナを活用した独自のアンテナ技術で通信性能を高めているという

 「SoftBank Air」は、UQ WiMAXと同様、この分野では比較的古くから提供されているサービス。現在は5Gにも対応しており、専用の料金プラン「基本料金 Air 4G/5G共通プラン」は月額5,368円でデータ通信は無制限となる。

 もちろん「ソフトバンク」「Y!mobile」ブランドの各料金プランとのセット契約による割引にも対応しており、料金プランにもよるが最大でソフトバンクでは月額1,100円(おうち割 光セット)、Y!mobileでは1,650円(おうち割 光セット(A))の割引が受けられる。

背面の有線LAN端子は2つ。USB端子はモバイル回線による固定電話サービスを実現する「おうちのでんわ」用のユニットを接続するためのものだ

 対応する最新のCPE「Airターミナル5」は中国OPPO製。8本のアンテナを搭載し、そのうち電波強度が強い4本のアンテナを選んで通信する独自の技術で通信性能を向上させているのがポイントで、最大通信速度は下り2.1Gbpsだが上りは非公表となっている。

 QRコードやWPSによるWi-Fi接続に対応する一方、4Gのプラチナバンドである900MHz帯には非対応であるなど対応周波数帯が少なく、通常のソフトバンクのエリアと比べると利用できる範囲が狭い点には注意したい。

楽天モバイル「Rakuten Turbo」

Rakuten Turbo対応の「Rakuten Turbo 5G」はSercomm製。ほかのCPEと比べるとコンパクトで外観もシンプルだ

 楽天モバイルもFWAサービスの「Rakuten Turbo」を2023年より提供開始しており、同社の4Gや5Gのネットワークを固定回線の代わりに活用できる。料金は月額4,840円で通信量は無制限となっており、「Rakuten最強プラン」とのセット契約による割引はないものの、同時に利用することで適用されるキャンペーンなどがいくつか実施されている。

電源や接続回線などを示すLEDランプは上部に用意されている
背面の有線LAN端子は2つで、ほかにはWPS用のボタンやリセットボタンなどが備わった、シンプルな構成となっている

 その専用端末となる「Rakuten Turbo 5G」は台湾のSercomm Corporation(サーコム)製で、最大通信速度は下り2.1Gbps、上り218Mbpsとなる。他社製品と比べると目立つ機能や特徴があるわけではないが、サイズが比較的コンパクトであり、QRコードやWPSによるWi-Fi接続に対応するなど基本的な要素はしっかり押さえられている。なお2024年6月にサービス開始したばかりのプラチナバンドである700MHz帯には対応していない。

5Gの“穴”が多い住宅地、上り速度に不満が残る

 だがFWAを利用する上で、最も気になるのは実際に自宅に設置した時のパフォーマンスではないだろうか。そこで実際に4社からCPEをお借りして、筆者の自宅に設置しどれくらいのパフォーマンスが出るのかを検証してみた。

 具体的には各社のCPEとパソコンを有線LANで接続し、以下の2つの測定を実施している。

  • Speedtest by Ooklaでのスピード測定(サーバーは「IPA CyberLab」に固定)
  • 筆者が作成したMP4動画ファイル(約90MB)を「Googleドライブ」にアップロード、ダウンロードし、完了するまでの時間を計測

 これらの測定を、周辺が建物に囲まれており電波の入りが悪そうな1階の隅と、比較的電波が入りやすいと思われる見通しが良い2階の窓際でそれぞれ3回計測し、平均化したデータを掲載している。

 その結果が以下のグラフになるのだが、その内容を見て分かることは、1つにCPEを設置した環境によって通信速度がかなり変わってくること。設置場所によってCPEが拾う周波数帯の電波が変わるだけに、いかに高速に通信ができる環境に設置するかが、性能をフルに発揮するには重要なポイントと言えるだろう。

「Speedtest by Ookla」のスピード測定結果(1階)
「Googleドライブ」へのファイル送受信時間(1階)
「Speedtest by Ookla」のスピード測定結果(2階)
「Googleドライブ」へのファイル送受信時間(2階)

 また最適な場所は、使用する携帯電話会社によって大きく変わってくることにも注意が必要だ。実際筆者宅での調査でも、NTTドコモは1階に設置すると下り通信速度が顕著に落ちているのに対し、ソフトバンクは逆にアップするなど、利用するサービスによって大きな違いが生じている。

 そしてもう1つは自宅周辺のネットワーク整備状況、より具体的に言えば5Gの「Sub-6」による整備が進んでいるか否かによって、通信速度が大きく左右されることだ。Sub-6とは主として6GHz以下の周波数帯を指し、日本では3.7GHz帯~4.5GHz帯が割り当てられているのだが、これら周波数帯はいずれも4Gより帯域幅が非常に広く、5Gらしい高速大容量通信が可能だ。

 だがSub-6の基地局はその特性上、多くの人が集まってスマートフォンを利用する事が多い、都市部の商業施設や鉄道路線のトラフィック対策を優先して整備が進められている。住宅地の整備は後回しにされる傾向が強いことから東京23区内であってもスポット的に整備されていないエリアが多く見られ、筆者宅も各社のエリアマップを見るとその“穴”に見事にはまってしまっていた。

KDDIはかねて、5GのSub-6のエリアをスマートフォンの利用が多い大都市部の鉄道路線や商業施設を中心に整備してきたことをアピールしているが、裏を返すとFWAのニーズが大きい住宅地の優先順位は低いことも示している

 そうした場所は4Gのみ、あるいは5Gではあるものの、4Gから転用した周波数帯で整備された「なんちゃって5G」とも呼ばれるエリアで、通信速度は4Gと変わらない。それでも下りの通信速度は、動画配信サービスのストリーミング再生くらいであれば十分対応できそうなのだが、問題は上りの通信速度である。

 実際ファイルアップロードの測定に際しても、100MBを切るファイルをアップロードするのに数分かかるケースがいくつか生じており、最も悪いNTTドコモの場合は6分を超えてしまっていた。少なくとも筆者宅では、上りのニーズが大きい映像のライブ配信や、ビジネス用途でFWAを導入するのは現時点では厳しいと言わざるを得ない。

携帯4社のエリアマップから筆者宅周辺を切り取ったもの。ソフトバンクはSub-6の整備が進んでおらず、NTTドコモとKDDIも整備が途上。地図上では整備が進んでいるように見える楽天モバイルも、実際には4Gでしか接続できなかった

「Sub-6」が充実したエリアでも4G接続になる場合が

 では、もっと環境が整った場所ではどうなのか。今回はPC Watch編集部の協力を得て、都心にあるインプレス社内でも同様の調査を実施することができた。実際その周辺を各社のエリアマップで確認してみると、筆者宅周辺と比べSub-6で整備された5Gのエリアが非常に充実しており、Sub-6より高速通信が可能な28GHz以上の「ミリ波」で整備されているエリアも散見される。

携帯4社のエリアマップからインプレス本社がある神保町駅周辺を切り取ったもの。NTTドコモは4Gのエリアが一部残るものお、ほかはおおむねSub-6で多くのエリアがカバーされており、ミリ波のエリアも散見されるなど充実度は高いように見える

 ただここで1つ、注意が必要なのがCPEの扱いである。というのも各社のFWAサービスは、モバイル回線を用いてはいるもののサービス自体は固定回線という扱いなので、あらかじめ登録した住所以外で使うことは禁止されており、引っ越しなどの際には登録している住所を変更した上で使う必要がある。

 実際各社のCPEにはGPSなどの位置測定機能が備わっており、住所変更をせずにほかの住所で使用すると、最悪の場合利用停止措置が取られてしまう場合もある。今回は各社の承諾を得て端末とSIMをお借りしているのだが、それでも場所を変えて接続する際にはSIMの差し替えが求められるケースがあったことを付け加えておきたい。

FWAサービスは登録した住所以外での利用が禁止されているため、今回のテストではSIMを差し替える必要が生じた。ちなみにSIMスロットは各社のCPEともに底面にある

 ただ固定回線扱いになることで、CPEの割引はかなり融通が効く。実際楽天モバイルを除いた3社のCPEは、通信契約とセットで購入することで、分割払いの端末代に相当する金額を毎月の通信料金から割り引く「月々サポート」「毎月割」「月月割」といった割引を適用できる。これら割引はすでにスマートフォンでは禁止されているものだが、移動して使わないことを条件とすることでCPEでは認められているようだ。

 前置きが長くなったが、実際インプレス社内での測定結果はどのような結果になったのだろうか。下表を参照いただきたいが、意外にもエリアマップ上ではSub-6やミリ波での接続が可能であるように見えたNTTドコモや楽天モバイルが、4Gでの接続となってしまっていた。

 それでも筆者宅よりは通信速度、特に上りの通信速度は全体的に速い傾向にあることが分かる。こうした点からも、CPEの設置場所とその周辺のネットワーク環境によって、通信速度が大きく左右されることが理解できるのではないだろうか。

「Speedtest by Ookla」のスピード測定結果(インプレス社内)
「Googleドライブ」へのファイル送受信時間(インプレス社内)

環境に大きく左右されるFWA、契約時に注意すべきは

 一連の測定結果から、FWAサービスを快適に利用する利用する上では、設置場所と自宅付近のネットワーク整備状況が非常に重要だということが理解できるだろう。ただ4社の電波状況を実際に確認するのは至難の業であるし、契約前に無料でCPEを借り、実際に通信を試すことができるサービスを提供しているのはUQコミュニケーションズの「Try WiMAX」くらいである。

「UQ WiMAX」のWebサイトより。UQ WiMAXは無料で15日間サービスをお試しできる「Try WiMAX」を提供している。KDDI回線によるFWAを試したい場合は大いに活用したい

 それだけにFWAを契約する際は、事前に4社のエリアマップを確認し、確実に電波が入るかどうかを確認しておくべきだろう。だがそれでも今回の測定結果を見ても分かるように、契約した後に「地図上ではSub-6が入っているのに、実際に使ってみたら4Gしか入らなかった」というケースは十分起き得る。

 そうした時に活用したいのが電気通信事業法の確認措置制度、いわゆる「8日間キャンセル」だ。これは販売店で十分な説明がなされずに契約してしまった場合、あるいは利用先での電波のつながり具合が不十分だった場合に、8日以内であれば所定の手続きをすることで契約解除できる仕組み。契約時の事務手数料や日割りでの月額料金などは支払う必要があるものの、解約時に違約金を支払う必要はなく、契約に付随する端末を割賦で購入していてもキャンセルして返品可能だ。

 なお、確認措置制度の対象に楽天モバイルは含まれていないのだが、楽天モバイルもRakuten Turboに関して「通信速度や製品にご満足いただけない場合は製品の返品や製品代金の返金が可能」としており、他社と同様8日以内に問い合わせればキャンセルは可能だとしている。

 ただいずれの会社のサービスも解約に一定の条件があり、よく知らないと後からトラブルになる可能性もあるため、事前に解約の条件もしっかり確認した上で契約することを忘れないようにしたい。

楽天モバイルのWebサイトより。確認措置制度の対象ではない楽天モバイルも、通信速度に満足できない場合は8日以内であれば返品・返金が可能だとしている