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家のWi-Fiが遅い原因ってこれ?ちょっと本気のアクセスポイントで解決してみた

Wi-Fi 7対応のアクセスポイントとネットワークスイッチ

 自宅に固定回線を引いているけれど、Wi-Fiルーターは固定回線を導入した当時のもの、という方によく出会う。なんとなくネットワークの調子が良くないと感じるときはルーターを再起動する、みたいなその場しのぎの対策で使い続けているパターンも結構あったり。

 そうしたトラブルの原因はいくつか考えられるが、たとえば数年前と今とでは、インターネットにつながるデバイスが大幅に異なることが影響している可能性がある。PCやスマホ、タブレットだけでなく、スマート家電やスマートホーム機器なども含めれば、思った以上に大量のデバイスがルーターを介してネットにつながっていたりするものだ。

 古いルーターだと使用可能な帯域幅や周波数帯が限られているのに加え、そもそもルーターとしての処理能力が足りず、大量のWi-Fiデバイスの通信を処理できなくなっているかもしれない。そうならないように、デバイスの進化や時代に合わせて、Wi-Fiルーターも定期的に見直して新しいものにアップグレードすることが大事だ。

 というわけで、せっかく今新しくするなら、PCやスマホ側の環境も整いつつあるWi-Fi 7を選びたいところ。その上で、 接続可能なデバイス数の面で最も有利な「法人向けWi-Fiアクセスポイント」を候補の1つとして推したい。 なぜ法人向けの、しかもルーターではなくアクセスポイントがいいのか、そして実際にどれくらいパフォーマンスが出るものなのか、といったあたりを紹介していこう。

これからのWi-Fiルーターで重要なのは通信速度ではなく「最大接続台数」だ!

ネットギアのWi-Fi 7対応アクセスポイント「WBE750」

 今回扱う製品は、筆者が自宅(仕事場の)ネットワークに導入したネットギアの「WBE750」というもの。これは法人向けのWi-Fi 7対応アクセスポイントで、Wi-Fiの合計最大スループットが18.4Gbps、バックホール(有線LAN接続)は最大10Gbpsに対応するハイエンドモデルだ。

 そのぶん価格もハイエンドらしい11万円超(2025年5月購入時)。しかし単なるアクセスポイントなので、一般的なルーターが持つ機能はほとんど備えておらず、単体でインターネットにアクセスできるわけではない。必ずルーターと組み合わせる(LANケーブルで接続する)必要がある点に注意が必要だ。

法人向けWi-Fiアクセスポイントのメリット

 なぜ法人向けの、しかもWi-FiルーターではなくWi-Fiアクセスポイントをおすすめしたいのか。「筆者宅の固定回線がauひかりで、プロバイダから貸与されるルーター以外使えず、そこにWi-Fiルーターを追加して二重ルーターにしたくない」という事情もあったりするのだが、それよりも下記に挙げたメリットがはるかに大きい。

  1. 圧倒的な最大同時接続数
  2. 設置する方法や場所の自由度が高い
  3. 高度な設定と機器管理が可能

  一番のポイントは、冒頭で触れた「大量のデバイスの通信を処理」するのに向いた製品であること。 法人向けのネットワーク製品は、大勢の人がPCやスマホを使用するオフィス、商業施設、もしくは多数の通信機器が稼働する工場での使用が前提となることから、基本的にそれに対応できるキャパシティを備える。

 そうしたスペックは、時代とともにネット接続デバイスが急速に増えてきている家庭においても有効なはずだ。帯域幅の広さをウリにしているWi-Fi 7対応製品はとかく通信速度が注目されがちではあるけれど、一般家庭であっても中規模オフィス並みのデバイス数に達していることもある今、通信速度だけでなく、どれだけの「最大接続台数」を実現しているかも重視したい。

 では、実際のところ法人向けWi-Fiアクセスポイントである WBE750の最大接続台数がどうかというと600台である。 細かく言うと、2.4GHz、5GHz、6GHzの周波数帯それぞれで最大200台ずつという仕様だ。

 対して 一般的な家庭向けWi-Fiルーターは(具体的な数値が公表されていないケースが多いものの)概ね20台前後、もしくは30台前後とされている。 実に20倍、30倍もの開きがあるわけだ。

製品ページにあるスペック。最大接続台数は600で、家庭用製品と比べればまさに桁違い

 たとえば筆者宅ではスマートホーム機器が多く設置されていることもあり、今のところは常時25台前後がWi-Fi接続している。ここにメーカーなどからお借りするレビュー用のデバイスが加われば一時的に30台を超えることも少なくないため、この時点で家庭向けのWi-Fiルーターのほとんどが選択肢から外れてしまう。

管理画面で表示した直近1週間の接続台数推移(一瞬0台になっているところは、後述の速度計測前に念のため再起動したため)

 加えて、最大接続台数はあくまでも目安だ。その最大数に近づくにつれ動作がどんどん不安定(デバイスのWi-Fiが突然切断されるなど)になっていくこともある。

 今後のことを考えると、たいていの環境では現在の接続台数から減ることはなく、増える方向にしか変化しないと思われるため、将来を見据えて余裕も見ておきたい。その意味で、法人向けWi-Fiアクセスポイントのようなキャパシティの大きなものが圧倒的に有利、かつ不可欠なのだ

  みなさんの環境でも「高速なルーターのはずなのに不安定」という場合は、接続台数が多くなりすぎていないか確認し、必要なら対策したい。

 Wi-Fiルーターを追加してメッシュネットワーク化で負荷分散を図る方法もある。が、電波の届く範囲を広げるという意味では有効でも、最大接続台数のキャパを稼ぐという点では、特定のルーターに接続が集中してしまえば効果が薄く、根本的な解決にならない。結局のところ最大接続数の大きなWi-Fiルーターやアクセスポイントに乗り換えるのが、力技ではあるが一番手っ取り早いのだ。

壁・天井固定とPoEに対応し、設置する方法や場所の自由度が高い

  法人向けアクセスポイントの2つ目のメリットである「設置する方法や場所の自由度が高い」という点 は、ルーター本体とは別の独立した筐体であるという構造的なところが大きい。

単体アクセスポイントは、ルーターにLANケーブルでつなげられる範囲であれば、どこにでも設置できる

 通常のWi-Fiルーターだと、大元の固定回線のケーブルが届く範囲、かつ有線LANで接続する機器からも離れすぎていない場所に置くことが基本。その中で、宅内の可能な限り広くにWi-Fi電波の届く位置を考える、ということになるだろう。しかしこれだと、ある程度広さのある家の場合、PCやスマホなどのデバイスから見たときに最適な配置にすることが難しい。

 一方、独立して設置できるWi-Fiアクセスポイントで制約となるのは、LANケーブルや電源ケーブルの届く範囲かどうか、という点だけ。Wi-Fi電波を宅内の隅々までカバーできる場所、あるいはデバイスをよく使うエリアで受信感度が高くなるような場所に狙って設置しやすい。

 法人向け製品だと壁や天井への固定が考慮された設計になっていることが多い、という特徴もあって、より効果的で、邪魔になりにくい位置に設置できる利点もある。

WBE750の電波の出力方向や強度などのデータは明示されているので、設置の参考にできる

 また、 WBE750ではPoE(Power over Ethernet)による給電が可能になっていることも、設置の自由度のさらなる高さにつながっている。 別売のACアダプタから電力供給することも可能だが、PoE対応のネットワークスイッチなどがあれば通信と給電を兼ねた1本のLANケーブルを配線するだけで済むため、近くに電源コンセントがなくてもよい。制約が「LANケーブルが届くかどうか」のみに絞られ、Wi-Fi電波的に最も都合の良い設置場所を探れるだろう。

本体背面にあるPoE対応の10Gbps LANポート(左)と、別売ACアダプタ接続用のDC端子(右)

クラウド経由で高度な設定と機器管理が可能

  3つ目の「高度な設定と機器管理が可能」 というのは、これもやはり法人向け製品ならではの要素。まず高度な設定の代表例として挙げられるのが、複数のSSIDに対応していることだ。WBE750の場合、SSIDは最大8個まで作成でき、SSIDごとに有効・無効にする周波数帯、セキュリティ(認証)のタイプ、通信速度制限などの設定を変えることができる。

WBE750の管理に利用する「Insight」

 家庭向けのWi-FiルーターでもメインのSSIDとゲスト用のSSIDを設定できるものはあるが、それをより細かくフレキシブルにカスタマイズできるイメージ。

  仕事用デバイスは6GHz帯を有効にしたメインのSSIDを利用し、ほかのデバイスは2.4/5GHz帯のみ有効にして通信速度の上限を抑えたサブ的なSSIDを利用する、 というような使い分けも考えられる。こうすれば仕事用デバイスの通信を優先的に処理し、Web会議など重要な通信が妨げられることもない。

最大8個のSSIDを設定できる
SSIDごとにレート制限なども可能

 これらの設定は、LAN内からアクセスポイントの管理画面に(Webブラウザで)直接アクセスして行なえるほか、クラウド経由でもOKだ。WBE750はネットギア製品共通の「Insight」と呼ばれるクラウド管理機能に対応し、遠隔から制御できる。

 Wi-Fi接続しているデバイスの種類や接続数の推移などをグラフィカルに表示して稼働状況を把握でき、トラブル発生時にはメール通知するようにして、迅速な復旧が図れるようにもなっている。

 このあたりは、複数拠点に設置した、複数のネットワーク機器の監視と設定を効率よく行なえるように、というまさに法人向けのニーズを満たすためのものでもあるので、一般家庭だと恩恵を感じる部分は少ないかもしれない。

 しかし、利用状況の分析を通じて最適なネットワーク設定にしていける上、外出中に自宅Wi-Fiに何らかのトラブルがあってもいち早く対処できるという意味では、活用しがいのある機能だ。

スマホからの管理も可能

家庭内で使う際にはデメリットもある

 ただ、そのような強力なメリットがある反面、 個人宅での利用においてはデメリットもある。1つは「(機種によっては)導入コストが大きい」こと、もう1つは「設置難易度が高くなる場合がある」 ことだ。

 1つ目の「導入コストが大きい」については、そもそもWBE750がオーバースペックであることと、PoE給電が基本となっている点が影響している。最大スループット18.4Gbps、最大接続数600台は、個人宅向けとしては(今のところ)明らかにやり過ぎだ。

 最初のほうで触れた通り11万円超の実売価格についても、家庭用のハイエンドなWi-Fi 7ルーター(複数台のメッシュ構成)に勝るとも劣らないお値段で、「だったら後者のメッシュWi-Fiを選ぶ」という人も多いはず。

 その上、設置自由度の高さというメリットが得られるPoE接続は、同時にデメリットにもなる。PoE給電しようとすれば、当然のことながらPoEに対応するネットワークスイッチなどが必要で、対応機材がなければそこにも追加コストがかかる。

 最大10Gbpsに対応するWBE750のポテンシャルを最大限に発揮しようとすれば、PoE++対応かつ10Gbpsで通信できるネットワークスイッチが必要で、たとえば同じネットギア製品なら「MS510TXUP-100AJS」が該当する。価格はこちらも11万円超だ(2025年5月購入時)。

10GbpsとPoE++に対応するスマートスイッチ「MS510TXUP-100AJS」
10ポートあるうち6ポートが10Gbps、さらにそのうち4ポートが最大60WのPoE++対応となっている

 ネットワークスイッチの代わりに、データ通信に電力を上乗せして送り出すPoEインジェクタを利用する方法もとれる。10GbpsとPoE++に対応するインジェクタは数少ないものの1万4,000円ほどで販売されている製品があるので、これならコストを抑えられるが、それでも合計13万円ほどは覚悟しなければならない。もちろん別売のACアダプタ(実売数千円)を使う手もあるけれど、配線を減らせるというPoEの利点を失うことになる。

 また、「設置難易度が高くなる場合がある」というのは、一般的なWi-Fiルーターのように棚などに置いて使うことを想定したパッケージになっていないことによる。付属しているのは壁や天井に固定するためのアタッチメントのみだ。本体を立てたり、平置きしたりして使うのはどちらかというと「イレギュラー」なので、どうしてもそうしたければスタンドを手作りするしかない(その場合は背面側に熱がこもらないよう通風性を考慮する必要もある)。

WBE750に付属するアタッチメントはこれだけ

 とはいえ、設置自由度の高さというメリットを上手に生かすことができれば、トータルコストで見たときには妥当なレベルになる可能性もある。通常のWi-Fiルーターなら複数台でメッシュ構成にしないと宅内全体に電波を行き渡らせることができない環境でも、最適な場所に設置しやすいWi-Fiアクセスポイントなら1台で事足りる、というケースもあり得るからだ。

 さらに、PoE接続による配線の容易さや見た目の良さ、メンテナンス性の高さは、単純にコスト比較だけで語れる部分ではなかったりもする。初期コストが20万円を軽く超えると確かに厳しいが、求めるものによっては高くない、というのが筆者の考えだ。

壁に設置し、LANケーブル1本だけで配線。見た目のすっきりさはいつ見ても気持ちがいい

Wi-Fi 6E→Wi-Fi 7で速度、電波範囲はどう変わるのか

 続いては、現時点でハイエンドクラスの性能を持つWi-Fi 7対応のWBE750が果たしてどれくらいの性能を発揮してくれるのか、テストしてみることにする。筆者宅でこれまで使用していた1世代前のWi-Fi 6E対応アクセスポイント、ネットギア「WAX630E」と比較する形で、宅内の各所における通信速度と電波強度を計測してみた。

左が1世代前のWAX630E。WBE750は高性能化しながら筐体の大幅な小型化を実現した
重量も約100g軽量化

 ちなみにWAX630Eはバックホールが2.5Gbpsで、Wi-Fiの合計スループットは最大約7.8Gbps。WBE750は先ほど説明した通り、バックホールが10Gbpsで、Wi-Fiの合計スループットは最大約18.4Gbpsとなる。

筆者宅の1Fと2Fの大まかな間取りとWi-Fiアクセスポイントの設置場所

 宅内各所における通信速度の計測にはiperf3(具体的なクライアント側のコマンドは下記)を使用した。10GbpsでLAN接続したPC(サーバー)と、Google Pixel 8 Pro(クライアント)の2台の間で通信させている。なお、確実にWi-Fi 7(6GHz帯)で接続できるよう、Wi-Fiアクセスポイント側では6GHz帯のみ有効にした。

iperf3 -c <サーバーアドレス> -w 800K -P 10

 また、電波強度の計測にはアイ・オー・データ機器のAndroidアプリ「Wi-Fiミレル」を使用している。計測した電波強度をヒートマップ的に表現してくれるものだ。というわけで、通信速度と電波強度の計測結果は下記の通り。

【WAX630E】Wi-Fi 6E時の通信速度と電波強度の計測結果
【WBE750】Wi-Fi 7時の通信速度と電波強度の計測結果

 従来のWAX630Eは、6GHz帯の場合に電波の届く範囲が極端に狭く、それほど広くない宅内であっても6GHz帯で通信できる機会は限られていた。複数台導入してメッシュネットワーク化しない限りは、本来のWi-Fi 6Eの性能を生かせない、というのが実情ではあった。

  しかしWBE750では、ヒートマップの色合いを見ると一目瞭然、電波のカバー範囲が大きく改善されている。通信速度はその改善度合い以上に向上しており、WAX630Eだと1箇所でしか1Gbpsを超えられなかったところ、WBE750は計測した13箇所中8箇所で1Gbps(1,000Mbps)以上を記録。全体的にスピードアップが図られた。

 おまけでWi-Fi 7時のインターネット回線の速度もチェックしてみた結果が下記。Pixel 8 ProとデスクトップPCの2台で、「Speedtest by Ookla」を使用した。計測位置はデスクトップPCの場所に合わせている。

 先ほどの画像で言うと1Fの「1.09Gbps」を記録した付近だ。WBE750本体からの直線距離は概ね5mといったところで、間に引き戸や階段といった障害物がある。それでもスマホで1Gbps前後、PCで2Gbps超を記録した。

Google Pixel 8 Proでのインターネット通信速度(Wi-Fi 7)
デスクトップPCでのインターネット通信速度(Wi-Fi 7)

 ちなみにこれらのテスト中、普段使用しているほかのデバイスはオンのままにしている。家族のノートPCやタブレット、スマートホーム機器など20台以上が稼働している中でのテストだったので、デバイスの多い環境でも「1Gbps超がいつでも普通に出る」ことは実証できているのではないだろうか。

これからのデバイス増加に対応するためにもキャパの大きいアクセスポイントを

 かかったコストがコストだけに、快適になって当然と思われるところもあるかもしれない。しかし、通信の高速化はともかく、最大接続台数に余裕を持つことがこれからの家庭内Wi-Fi環境においてますます重要なポイントになってくる、ということは改めて強調しておきたい。

 スマートホーム機器を次々に追加しつつ、PC複数台にスマホとタブレット、ゲーム機など、マルチデバイス・マルチウィンドウは当たり前のみなさんにとって、それらすべてがスムーズにインターネットにつながる環境であることが最も大事なはず。

 同じように最大接続台数に強みを持つ法人向けWi-Fiアクセスポイントには、より安価な製品もある(もっぱら家庭向けを謳うWi-Fiアクセスポイント製品は今やほとんど存在しない)。 既存のルーターの機能・性能に不満はないがWi-Fi周りをアップデートしたい、最大接続台数を大きくとって将来に備えたい、ということであれば、ぜひとも法人向けWi-Fiアクセスポイントを検討してほしいところだ。