特集

肩が凝る! 腰が痛い! パソコン操作での疲労蓄積は“姿勢の悪さ”が原因。専門家に正しい姿勢について聞いてきた

デスクワークでの肩こりや腰痛に悩まされていませんか?

着席時の姿勢の悪さが肩こりや腰痛などの原因に

 パソコンを使った日々のデスクワークで、手や腕のあたりに鈍い痛みを感じたり、肩こりや腰痛などといった症状に悩まされたことはないだろうか。基本的にデスクワークは長時間同じ姿勢を維持することなどから、首、肩、腰といった部分に負担がかかりやすい。

 もちろん、とくにこれまで肩こりや腰痛などに悩まされずに生活しているという人も多いだろう。ただ、たとえ諸症状が出ておらず、痛みとして感じていなくても、実際にチェックを受けてみると、各部位が想像以上にガチガチに凝ってしまっている状態であると気づかされることも少なくないという。

 これまでなんともないと思っていても、日々の負担で溜まっていた疲労がジワジワと限界に達したとき、朝起きてほとんど首が動かない、背中が固まってしまって普段どおり屈めない、腰が痛くて椅子に座っていられないといった症状が突如として現われ、治療を受ける事態にまで悪化してしまうかもしれない。デスクワークでのこうした疲労は、三十代や四十代あたりから出やすくなるようだ。

 こんな目に遭わないためにはどうすればいいのか? その予防策はPCを操作する上での“姿勢”にありそうだ。PC Watch編集部では、カラダの仕組みを整える“コンディショニング”を専門に活動している株式会社キネティック アクトで、医学博士/理学療法士を務める岡崎倫江氏と金子雅明氏に、デスクワークをする上での適切な姿勢についてうかがって来た。仕事のパフォーマンスを維持するための予防策としてだけでなく、普段から肩こりがヒドイなど、すでにこういった症状に悩まされている人を含め、快適なデスクワークを心がける上での参考にしていただきたい。

株式会社キネティック アクト代表取締役社長の岡崎倫江氏(左)と、同社取締役の金子雅明氏。おふたりとも医学博士/理学療法士の資格を持ち、トレーナーとして活動されている

正しい姿勢とはどのようなものなのか?

 “正しい姿勢”と聞くと背筋をピンと伸ばしているような、真っ直ぐとした姿勢を思い浮かべてしまいがちだが、椅子に座りながらの作業がほとんどの時間を占めるようなデスクワークにおいて、それは正しくない。背骨は真っ直ぐではなく、多少カーブを描いたかたちになっているため、ピンと伸ばした姿勢は逆に背中が反ってしまうことから、首や肩に負担がかかるのだ。

 後述するが、もちろん背を丸めすぎて猫背になってしまうのもダメだ。感覚的に言うと“お腹あたりに重心”があるような感じで、座るのが理想とのこと。椅子の背もたれを活用するのはなんら問題ないが、背もたれを使いつつもお腹に2、3割は力が入っていたほうがいいという。寄っかかりぱなしだと腹筋といった筋肉が使われないため、猫背な姿勢になってしまいがちだからだ。

 なお、そういった正しい姿勢を無理に維持し続けるのも逆効果だという。てっきりお手本とされる姿勢を常に保つことが良いのだと思いがちだが、われわれは普段から立っているときや座っているときでも、無意識的に姿勢を変えたり、座る位置を変えたりして、体の負担を調節しており、むしろこれをして体をほぐすほうが良いのだ。

 そのさいに、人によっては足を組んだりすることがある。長時間足を組んだ姿勢を普段から続けていると骨格が曲がってしまう恐れがあるが、短時間であれば問題はないそうだ。また、足を組んでいるときに、組んだ足のほうのお尻に体重がかかるようにすれば、バランスが取れる。とはいえ、姿勢を崩したさいには、少ししたらまた理想の姿勢を意識して戻すように心がけたい。

 それでは、身体への負担を減らすためにどういった姿勢をとればよいのか紹介していこう。

キーボードの適切な位置

 まずは、身体に負担をかけてしまうだめな姿勢の例を見ていきたい。以下の図1がそれだ。

図1

 キーボードやマウスを操作しながら、こういった座り方をしている人はわりと見かけるのではないだろうか。筆者自身、左のようにグテーンと背もたれに身体を預けてしまう姿勢をやってしまいがちだし、右のように頭を突き出して猫背になっている人も社内でよく見かける。むしろ美しい佇まいで着席し、作業している人のほうが少ないくらいかもしれない。

 これらの姿勢を続けた場合に自分の身体にどういった問題が生じてくるのか? この両方の例で共通しているのが、肘から先の前腕を机の上に載せている点だ。この状態だとお腹に力が入らないため、腹筋が使えない。腹筋が使われないと、上半身を支えるために、首や肩の筋肉の負担が増加し、過剰な緊張がかかってしまう。首回りと肩回りがガチガチに凝ってしまう人にありがちな姿勢という。

 こうした不自然な姿勢では首の骨が真っ直ぐになるいわゆる“ストレートネック”も生じやすい。この状態だと首で頭の重さを支えきれずに、肩などに負担をかけてしまうので、こちらも首や肩のこりを悪化させてしまう原因になる。

 なお、ノートPCを使っている場合は、デスクトップPCの操作時よりも頭が下を向きがちだが、背がまっすぐの状態から少し頭が下がる(角度的に10~15度)くらいの位置に留めておくと負担がかかりにくい。

 逆に、キーボードを手前に置きすぎている例として以下の図2を見てみよう。

図2

 図2は、机の手前にキーボードを置いて操作している構図で、こちらもわりと見かける。奥行きのない机で操作をする必要がある場合など、ノートPCの利用時も含めてこうなりやすい。

 この姿勢で注意すべきなのが手首への負担である。手首を腕の支えにして机に載せてしまっていると、手根管(しゅこんかん)という神経と筋肉と血管の通り道を圧迫し、手の筋肉や神経に負担がかかってしまう。

図3

 また、キーボードが接近していることで、背中に力みが生じ、首のみが前に倒れるかたちとなることから、体を起こしても肘が後方に位置して肩甲骨を過剰に引きつけた状態になる。すると、首肩(首筋から肩の部分)に常に負担がかかってしまう。前述してきたように首や肩が凝ってくるのだ。

 この場合は、キーボードの位置をもう少し奥へ置き、手首や首肩への負担を減らしたい。ノートPCを使っている場合も同様に身体を近づけすぎないようにすべきだ。

 これを踏まえ、理想的なキーボードの位置を考えると以下の図4のようになる。

図4

 キーボードを近すぎず遠すぎずの位置に置き、腕の中央部分を机に付けた状態で、キーボードを打てれば上半身への負担が少なくすむ。もし支柱になった腕の部分に圧迫感を感じるなら、椅子の肘掛けを使って腕の重さを分散すればいいだろう。椅子の高さについては後述するが、昇降機能を使って肘の曲がり角度が90度になるようにすれば、肩が不自然に上がってしまい、無駄に力が入ってしまうのを防ぐことができる。

負担の少ない肩の角度

 次に、肩の角度にも注目したい。

 肘が体に当たるくらい脇を締めたり、上の図2で示したように手が体の中心近くに来るような位置でキーボードを操作すると、運動連鎖で肩をすくめ、背骨が曲がり、猫背になりやすい。そして、さらに脇を締めてしまうと、手首を小指側に傾けた状態で動かすようになることから、手関節部の腱鞘炎を引き起こしやすくなる。

 これを避けるためには、図5のようにするのが理想とされる。肘を体につけず、拳1つ分くらい空けて腕を広げ、さらに肘を拳1つ分だけ前に出すとよい。背筋だけでなく、肩の角度も意識することで、より負担の少ない姿勢を保てるだろう。

図5

手首の角度によっては腱鞘炎に

 キーボードを操作する手首の角度によっては、腱鞘炎が発症しやすくなる。腱鞘炎は手首や指の酷使で起きる病気で、腱とそれを覆う腱鞘がこすれて炎症を起こし、痛みを誘発する。

 以下の図6のように、手首が外側や下に向いたり、手首が上がりすぎる(手関節背屈20度以上)位置でキーボードを操作している場合は注意したい。母指(親指)側では短母指伸筋腱(たんぼししんきんけん)や長母指外転筋腱(ちょうぼしがいてんきんけん)という箇所に腱鞘炎を生じやすく、小指側では尺側手根伸筋腱(しゃくそくしゅこんしんきんけん)に腱鞘炎が生じやすい。

図6
図7

 腱鞘炎を患った場合、仕事を続けつつ回復を待つことになり、完治させるまでに時間を要してしまうし、治ったとしても同じような身体の使い方をしていれば再発もしやすい。

 手首の腱鞘炎を避けるためには、以下の図8のように手を置くのが望ましく、手の甲の中央と腕の中央のラインが真っ直ぐになり(図8左)、手首が10~20度ほど上がっていると手首への負担が少ない。

図8

 なお、手首に痛みを感じる場合は、肘の近くの筋肉を揉むことでコリをほぐすことができる。これは手首を動かす筋肉は肘からはじまっており、肘に近い筋肉の根元をほぐすことで筋肉全体が緩むからだ。

椅子の高さを整える

 最後に椅子の高さについて知っておきたい。これまで示してきた姿勢を維持するには適切な椅子の高さが必要となる。

 図9左のように、椅子が低くキーボードが手前にある状態だと、肘の曲がり角度が90度以上になり、手関節部が机で体を支える支点となるため、手根間症候群などの手首への負担が増加する。肩も上がってしまい、常に首や肩への負担が加わっている状態になる。また、図9右のように、キーボードが身体から遠いと、肘が伸びてしまい、腕が前方に上がりやすくなる。そのため、肩の屈曲角度(あがり)が大きくなり、肩や首前面の筋肉の負担が増える。

図9

 一方で、図10のように椅子が高すぎる場合、キーボードが近いと画面を見るために常に頭を前方に位置させ、下を向いた状態になりがちになり、首後面に負担がかかる。逆に図10右のように背もたれにもたれ、キーボードが身体から遠くなっている場合は、肘が伸びてしまい、自然と肩を上げた状態になるため、肩前面に力が入りやすく、肩や首前面に負担をかけてしまう。

図10

 さらに言うと、この座り方だとお尻が前方にずれやすいため、ずれないようにするために自然と膝を伸ばしてももの前やふくらはぎに力を入れてしまいがちである。それによって足が疲れ、足にだるさを感じるようになってしまう。

理想的な姿勢でパフォーマンスを高めよう

 ここまでの例を踏まえた上で、理想的な椅子の高さを示したのが図11だ。すでに示してきた肩や手首などを含めた理想的な姿勢が取れる椅子の高さで、図の説明にあるように(1)背筋を無理なく伸ばす、(2)骨盤をやや前傾気味にする、(3)膝を90度よりやや曲げる、(4)肩の上がりがないことを満たしているか確認しよう。

図11

 ここまでで自身の姿勢を顧みて改善すべきところは見つかっただろうか。前述したように、デスクワークによって起こる肩こりや腰痛などの身体の不調は30代あたりから出やすくなるという。

 普段から不自然な姿勢で仕事をしていると、知らず知らずのうちに特定の筋肉への負担が増え、気づいたときにはズキズキとした痛みを感じるようになる。また、痛みがある箇所をかばいながらの姿勢を取っていると、今度は別の筋肉への負担が増え、肩こりだったものが腰痛へと連鎖してしまうこともあるようだ。

 身体に痛みがあると集中力が削がれ、仕事で本来の力を発揮しにくくなる。今、すでに肩こりなどに悩まされている人や、自分は肩こりなどとは無縁だと思っている人も、健康のために今一度自分自身の姿勢について見つめ直してみてはいかがだろうか。