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東大、磁気メモリのブレイクスルーを果たす革新的素材を発見

~高密度/高速化可能で廉価な磁気メモリとして期待

(a)ホール効果、(b)自発磁化を持つ場合の異常ホール効果(b)、(c)自発磁化を持たない異常ホール効果

 東京大学 物性研究所は29日、次世代磁気メモリとなり得る革新的な材料を発見し、世界初の室温下における反強磁性体での異常ホール効果を観測したと発表した。

 磁気メモリ(MRAM: Magnetoresistive Random Access Memory)は、記憶素子に磁性体を使う不揮発性のメモリで、書き込みの速さや消去不要であること、そしてNANDなどと違い、原理的に劣化が起きないとされる特徴を備えている。ただし、磁性体同士の磁気的な干渉によって高密度化が困難といった問題を抱えていた。

 同研究所の中辻知 准教授らの研究グループは、マンガンとスズの化合物である「Mn3Sn」を使うことで、室温下において世界で初めてスピンの向きを反対に揃えた反強磁性体で、巨大異常ホール効果の発生に成功した。異常ホール効果は、単純な構造で磁性体からデータの読み出しを行なえる手段としてその利用を考えられたが、発生する電圧がメモリ素子として用いるには小さすぎたため、これまで開発は行なわれてこなかった。

 今回の反強磁性体を用いた巨大異常ホール効果のホール抵抗率は、金属ながら室温で50nm薄膜において1Ωを凌ぐ値とされ、実用が可能であると判断。これにより、磁気メモリの高密度化と高速化を実現できるようになり、メモリの動作原理に関する革新的な進展が望めるとする。また、このマンガン化合物は廉価かつ毒性がないことから結晶育成が容易であるため、研究開発の急速な展開が期待できるという。

 今後は、磁気メモリ素子の書き込み動作として、磁性体中の磁化方向を変化させるためのスピン注入磁化反転の研究が課題となっており、これを達成することでさらなる実用化への道が開かれるとのこと。

 本研究はJST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の「新物質科学と元素戦略」研究領域における研究課題「スピンのナノ立体構造制御による革新的電子機能物質の創製」の一環として行なわれた。

(中村 真司)