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タカラトミーの変形月面探査ロボ「SORA-Q」、販売へ。本物は2023年度中に2回の月探査ミッションを予定
2023年4月14日 06:14
株式会社タカラトミーは2023年4月13日、JAXAらと共同開発した変形型月面探査ロボット「SORA-Q(ソラキュー)」の1/1スケールモデル「SORA-Q Flagship Model」を2023年9月2日から一般販売すると発表し、東京都内で記者会見を行なった。
直径約8㎝で、リチウムイオンを電池を内蔵。実際に月に行くロボットと同じ変形、同じ動き(バタフライ、クロール走行)をする。重さは約175g。月に行くモデルは250gだが、玩具用として一部パーツをプラスチックに変更することで軽量化した。専用アプリを使って操作し、画像撮影もできる。アプリでは操作のほか、月面探査の疑似体験や、月や宇宙飛行士に関する知識を得ることができる。
価格は2万7,500円で全国の玩具店やネットショップ、公式サイトで販売される。なお、月面探査する場合はレゴリスと呼ばれる細かい砂上を走行するが、これは屋内専用となっている。
「宇宙兄弟」コラボモデルも限定販売
あわせて、タカラトミーモール限定で300個限定の「SORA-Q Flagship Model -宇宙兄弟 EDITION-」(3万3,000円)も発売される。予約受付は「SORA-Q Flagship Model」が4月13日から、「SORA-Q Flagship Model -宇宙兄弟 EDITION-」が4月28日から。
宇宙航空の魅力を地上へ届ける「JAXA LABEL COLLAB」
「SORA-Q」は、JAXA が進めている産官学のさまざまな異分野の人材/知識を集めた組織で宇宙探査に係る研究の展開や定着を目指している「宇宙探査イノベーションハブ」との共同研究の成果。「SORA-Q Flagship Model」も宇宙航空の魅力を地上の生活へ届けるためのブランド「JAXA LABEL COLLAB」付与商品として販売される。
2023年度に2つのミッションで月面を探査予定
実際の「SORA-Q」は、2つの月探査ミッションで用いられる。一つ目は、現在月に向かっており、最短で2023年4月26日(日本時間)にも月面着陸予定とされている日本のispaceが行なう民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」による月着陸船のペイロードの1つとしてのミッション。
こちらのミッション名は「民間企業の月着陸ミッションを活用した月面でのデータ取得(Lunar surface data Acquisition Mission for Pressurized rover Exploration:略称 LAMPE(ランプ))」。有人与圧ローバの研究開発等に必要な月面データを取得すること、および民間企業の月探査への参入を促進することを目的としている。
このほか、2023年度中に打ち上げ予定のJAXAの小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」に搭載されて月へ向かう予定だ。こちらは「変形型月面ロボット(LEV-2)」として搭載され、自動で走行し、LEV-1というもう1つの探査機と連携して撮影した画像のうち良質なものを地上に送信する。IMUとエンコーダからの走行結果もあわせて送信され、評価予定だ。詳細はこちら。
タカラトミーの変形小型ロボットが月面探査する理由
会見ではまず、株式会社タカラトミー キャラクタービジネス本部執行役員 高原文彦氏が「6年間の企画開発期間を経てお届けできるようになった。タカラトミーでは『トランスフォーマー』などで変形ロボットのギミックを培ってきた。玩具で培った’小型・軽量化技術を取り入れて宇宙に羽ばたく。我々はおもちゃ会社。世界中の子どもたちに向けて『SORA-Q』を通じて宇宙への夢と面白さを身近に感じてもらいたい」と紹介した。
ゲストとして呼び込まれた篠原ともえさんは、オリジナルデザインの服を着用して登壇。天体と宇宙愛好家として知られる篠原ともえさんは「宇宙はインスピレーションの源。月に2回も! わくわくする壮大なミッションでぜひ注目したい」と語った。
プロジェクト詳細はJAXA宇宙探査イノベーションハブの平野大地氏が紹介した。前述のとおり「SORA-Q」は2023年度に2回のミッションを予定している。開発が始まったのは2015年に研究提案公募にタカラトミーが応募したことから。2019年にはソニー、2021年には同志社大学が参画し、それぞれの小型化技術やセンサー技術、ボード開発技術などを持ち寄って、小型で、かつ、温度差が激しく細かい砂で覆われている過酷な月面環境で稼働可能な走行用の形状に変形するロボットを開発した。宇宙船に搭載するには小型にする必要があるが、小型にすると踏破性に課題が出てくる。変形することで踏破性が向上する。
まず「LAMPEミッション」では有人与圧ローバ研究開発に資する月面データを収集すること、そして民間の月探査参入促進を目的とする。ロボットはランダー(月着陸船)に搭載されたバネを使った放出機構によって放出され、遠隔操作で変形展開する。
2023年8月以降の打ち上げを目指す「SLIM」でのミッションでは、月面における小型ロボットの探査技術の実証と着陸状況や周辺情報の取得を目的とする。自己位置推定アルゴリズムの検証も行なう。こちらでは「LEV-2」という探査機として搭載され、別の「LEV-1」と連携して画像を地上に送信する。
タカラトミーの高原氏は「自分は宇宙に憧れていた時代の子供。子ども時代から自分も宇宙大好き。科学館に連れていってもらったりしていた。夢を叶えるというところはわくわくしている」と語り、同社の50年前の玩具商品を紹介した。
動かして遊べる「1/1スケールモデル」で月面探査を体験できる
「SORA-Q」発売モデルの紹介は、株式会社タカラトミー アライアンスキャラクター 事業本部 AC事業部 部長の赤木謙介氏が行なった。赤木氏は「動かせて遊べる1/1スケールモデル」だと語った。スマホを使って操作するときの「月面ARモード」で使われているのは本物の月データを使っており、月面体験ができるものだと述べた。「モノ」ではあるが「コト消費」に近いものだと考えているという。
ゲストとして呼び込まれた宇宙飛行士の野口聡一氏は「SORA-Q」を片手に「ちょうどボールと同じサイズなので投げたくなる」と冗談を飛ばすいっぽう、「宇宙で使われる機材は触った時に手を切らないように面取りされている。この面取りの感じは宇宙製品の感じに近い。すごくリアルだ」とコメントした。篠原ともえ氏も操作体験して大興奮。「簡単に気持ちのまま操作できるのがすごくいい。買います!」と語っていた。
操作を体験した篠原ともえさんは「一生懸命進んでいる姿が健気。どれくらいの試行錯誤があったんだろう。愛らしいな」とコメント。そして「挑戦する企業の努力に感動している。宇宙への挑戦は人類の止められない気持ちだと思うので、挑戦をしている企業を見ると 本当に勇気をもらえる。こういう活動をもっと知りたいし、このプロジェクトを知ってもらいたい。挑戦する気持ちを見てもらいたい」と語った。
野口聡一氏は「宇宙を応援するにはいろんなスタイルがある。見て楽しむだけではなく参加する喜びもある。これは月面探査する世界初の変形ロボットを自分の家で楽しめる。他人事ではなく、自分の家で追体験できる。自分の関わっているプロジェクトなんだと思えることはすごく大きい。月面パイロット、月面ナビゲーターになったつもりで、隣の部屋に置いたロボットを操縦したら、月と地球の遠隔ミッションそのもの」と評価。そして「いま世界的に月探査が盛り上がっている。様々な課題はあるけれど、次のことを考える挑戦に満ちた年だと思う」と語った。