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IoTで食用コオロギをスマート飼育。NTT東とグリラスが実証実験
2023年1月19日 20:06
NTT東日本と、徳島大学発ベンチャー企業であるグリラスは、食用コオロギのスマート飼育環境の確立を目指す実証実験を開始する。
2022年5月にオープンした東京・調布市のNTTe-City Laboの中に、食用コオロギの飼育施設を設置。ICTやIoTを活用して、コオロギの飼育における環境要因のデータ収集や分析を行ない、最適な飼育方法を模索する。
グリラス 生産本部長の市橋寛久氏は、「食用コオロギの大量養殖に最適化された飼育方法が確立していないため、コストや環境負荷が膨らむといった課題がある」と前置きし、「現時点では、飼育ケースに入ったコオロギに、人手で餌や水を与えており、効率性が低い。さらに、最適な餌の量が分からないため、人によって与える餌の量に差が出やすいこと、飼育している食用コオロギが熱帯性であるため、年間を通じて30℃の温度管理が必要であり、電力消費量が増え、温度管理にも手間がかかるといった課題がある。人手がかかり、電力消費が大きいことで、割高の食材になっているのが実態だ」と語る。
その上で、「NTT東日本との協業によって、テクノロジーを活用することで、人手による手間の解消、エネルギー使用の最適化によって、これらの課題を解決したい」と述べた。
ICT/IoT技術でコオロギ飼育の課題を解決。データ分析で飼育法の改善も
新たに設置する食用コオロギの飼育施設では、年間5~10万匹の食用コオロギを飼育。コオロギの飼育と密接な関係を持つ温度や湿度、CO2濃度をはじめとした室内の環境データをセンサーによって収集し、センサーと各種電子機器を結んだHEMSによって、可視化および一元管理を行なうことで、コオロギの飼育に最適な環境を自動制御する。
遠隔地からの自動制御や管理が行なえる環境づくりを目指すとしており、2023年度上期を目標に必要技術を選定し、その後、仕様などについて議論をしていくことになる。
また、各種センサーによって収集したデータを、画像認識AIを用いて分析。これにより、コオロギの飼育施設内で発生した異常やその原因の検知、コオロギが食べた餌の量の測定などを行なうことで、飼育方法のさらなる向上や、各種コストの削減、工数のスリム化を目指す。さらに、ここで得られた分析結果をもとに、自動給餌などの高度な飼育方法の開発にもつなげるという。
加えて、環境負荷が少ない飼育を可能にするために、NTT東日本が保有しているDXソリューションや製品などの活用についても検討する。発電ガラスを利用してエネルギーを飼育施設内で調達したり、室内の空気を利用して水を生成したりといった研究も実施。飼育における省人化や効率化を目指す。電圧冷蔵庫や自動清掃ロボットなども活用する予定だ。
NTT東日本では、「グリラスが持つ食用コオロギの飼育に関するノウハウと、情報通信技術を組み合わせて、ソリューションの技術基盤の構築を進める」としている。
今後到来する食糧危機の解決策となる昆虫食
グリラスは、2019年5月に設立した徳島大学発のスタートアップ企業で、徳島大学の30年間に渡るコオロギに関する基礎研究をベースに事業化。食用コオロギの生産や食品としての加工、販売などを行なっている。現在、年間25トンの食用コオロギを飼育し、年間5トンのコオロギパウダーを出荷している。
良品計画(無印良品)の店舗で販売している「コオロギせんべい」は、同社のコオロギパウダーを使用して製品化されている。また、「C. TRIA(シートリア)」の独自ブランドで、「C. TRIA コーンスナック」を商品化。「うま塩味」と「たこやき味」を用意し、徳島県のファミマートで販売している。
社名のグリラスは、食用コオロギであるフタホシコオロギの学術名「Gryllus bimaculatus」に由来しているという。
国連が2019年6月に発表した報告書では、今後30年で世界人口は97億人に増加し、それにともなう食料問題が課題となると指摘している。特に、「タンパク質危機」と称される動物性タンパク質の不足が顕著であり、国際連合食糧農業機関では、その解決策の1つとして昆虫食を推奨している。
昆虫は、既存畜産と比べてタンパク質の生成に必要な餌や水の量が少なく、限りある資源の有効活用が可能になるという。また、牛や豚、鶏と比べても、飼育時の温室効果ガスの排出量が少なく、環境負荷の低いタンパク源に位置付けられている。
その一方で、全世界で年間約9億3,000万トンの食品ロスが発生しており、これは世界で生産されている食品の約3分の1に相当するという。コオロギは、雑食性の生き物のため餌の制限が少なく、食品ロスを餌として活用することも可能だ。
グリラスでは、国内で発生した食品ロス由来100%の餌を独自開発。それを与えてコオロギの飼育を行なっているという。
「コオロギと比較されるバッタは草食であり、しかも干し草などを食べないため、大量に飼育するためには広大な牧草地が必要になる。また、飛び回るために飼育しにくい。その点でも、コオロギの方が雑食で、蓋をあけていても逃げないなど、飼育がしやすい。コオロギを食料とし、その残渣をコオロギ養殖の飼料とし、コオロギの糞は農作物に利用するといったように、循環型のサーキュラーフードの実現にもつながる」とした。
NTT東日本はICT技術や施設などの面から貢献
一方、NTT東日本では、持続可能な社会の実現、ICT活用、アセット活用という点で貢献する考えであり、食用コオロギ事業には直接的には乗り出さない。
NTT東日本 経営企画部 営業戦略推進室 担当課長の篠原弘明氏は、「数ある社会課題の中で、食料問題は重要なテーマの1つである。持続可能な循環型社会の実現のために解決しなければならない社会問題として捉えている。NTT東日本では、情報通信で培ってきたICTを用いて、食用コオロギの大量生産、安定供給に向けた課題を解決していく。そして、NTT東日本管内の約3,000カ所の不動産をコオロギ養殖施設に転用することで、地域の遊休資産の活用、地域貢献や地域活性化にもつながる」とした。
その上で、「NTT東日本が得意するICTやAIを活用することで、食用コオロギや昆虫食に留まらず、世界の食料問題の解決に向けた取り組みに貢献できる技術検討や研究を続けていく。今回の施設は、食料問題や環境問題などの社会課題の解決に貢献する実証の場にしたい」と語った。
食用コオロギの広がりにも、ICTは利用されている。