やじうまPC Watch
【懐パーツ】ALiのAladdinVを搭載したSocket 7マザーボード「MSI MS-5169」
~ベースクロック100MHzに対応したSuper 7の先駆けに
2020年4月13日 11:18
MSIはもともと「Micro-Star International」が正式社名で、現在も社名はそのままだが、ブランド名は「MSI」が利用されており、本誌などのPC媒体も略称を使うことが通例になっている(なお日本法人の英語での社名は「MSI Computer Japan」となっている)。
そのMSIが1998年の2月から日本で販売を開始した製品が「MS-5169」という製品だ。現在のマザーボードは、たとえばZ370チップセット搭載のゲーミングマザーボードであれば「Z370 GODLIKE GAMING」のように、チップセット名などが入って用途がわかるような製品名が採用さているが、1990年代には型番で呼ばれることのほうが多かった。MS-5169もそうした製品の1つで、ALiの「AladdinV」をチップセットとして採用しており、日本市場で販売されたSocket 7用マザーボードとしてははじめてCPUのベースクロック100MHzに公式対応していたことが特徴となる。
こうしたCPUのベースクロック100MHzに対応していたSocket 7のマザーボードは、「Super 7」(Socket 7を超えるSocket 7の意味)と呼ばれており、最終的にはAMDがK6-2でサポートすることになる。今回紹介するMS-5169はバージョン2とセカンドリビジョンの製品で、公式にK6-2/300MHzなどのベースクロック100MHzのSocket 7用CPUに対応している製品となる。
Super 7プラットフォーム用として人気を集めたAladdinVを搭載したMS-5169
Socket 7とは、IntelがP54C(Pentiumプロセッサ)向けに導入したSocket 5がベースになっているCPUソケット。Socket 5がCPUにかける電圧が1系統しか持てなかったのに対して、Socket 7ではI/Oとコアに2系統の電圧をかけることが可能で、必要に応じて電圧をかけられたため、より省電力を実現できた。チップセットとCPU間のFSBの電気信号はP5バスと呼ばれる初代Pentium(P5)で導入された技術が利用されている。
利用できるプロセッサは当初はIntelのPentium(P54C)、MMX Pentium(P55C)の2製品だけだったが、後に互換メーカーが多数のプロセッサを投入し、当時の選択肢はたくさんあった。現在もx86互換メーカーとして現存しているAMDの「K5」、そしてK6シリーズ(K6、K6-2、K6-III)などは手軽に手に入るアップグレードパスとして人気を集めた。また、CyrixからはM1のコードネームで知られる6x86/6x86MXやM-II、IDTからはWinChipシリーズ(WinChip C6、WinChip 2など)、Rise TechnologiesからmP6などがリリースされ、互換プロセッサ花盛りという時代だった。
IntelがPentium IIプロセッサでいち早くP6バスという新しいFSBに移行したのに対して、AMDやCyrixなどの互換プロセッサベンダーは、P5バスの利用を続けた(IntelのP6バスは独自のIPにより保護されており、Intelはサードパーティがそれを利用するのはIP侵害であると主張していたことも影響している。このため、AMDは次のK7世代から独自のFSB=実際にはDECからライセンスを受けたEV6バスを導入した)。
このときにサードパーティのCPUベンダーにとって問題となったのは、P5バスの動作クロックがあまり速くなかったことだ。このため、CPUとチップセットの帯域幅が課題になっており、GPU(当時はGPUという言い方をしていなくて3Dビデオコントローラなどと呼ばれていた)とCPUが大量のデータをやりとりする3DゲームではP5バスの帯域幅がボトルネックになっていた。そこで、AMDがサードパーティのチップセットベンダーとして協力して進めたのがSuper 7構想で、Socket 7で利用されているFSBの動作クロック周波数66MHzを100MHzなどに引き上げ、それを解消しよう試みた。
ALiのAladdinVもそうしたチップセットの1つだ。ALiはもともとの社名が「Acer Laboratories Inc」だったことからもわかるように、Acerの半導体部門が切り離され子会社としてスタートした会社だった。1990年代にはPC用チップセットのメーカーとしても知られるようになり、そのブランド名「Aladdin」とともにPCユーザーに知られるようになった。AladdinVの特徴は、Super 7用のチップセットとしてはじめてP5バスの100MHz動作を実現したことだ。
実際、今回の「MS-5169」が秋葉原で販売開始された時の僚誌AKIBA PC Hotline!の記事は、「AladdinV搭載マザーボード「MS-5169」がついにデビュー 期待のSocket 7 100MHzマザーが一部のショップに少量入荷」と紹介しており、100MHzへの対応が当時としてはニュースだったことを伺わせている。
ただし、FSB100MHzに正式に対応したCPUが登場したのは、その年の5月にAMDがK6-2/300MHzを投入してからで、それまではもともとはFSB 66MHzのPentiumをクロックアップするのに使ったり、Cyrixが導入していた6x86の一部モデルで導入さていた75MHzや83MHzといった中間の設定などで使われていた。
なお、ALiはその後PCチップセット部門がULiとして独立。NVIDIAに買収され、現在はNVIDIAの一部となっている。
PBキャッシュ512KB、EDOにも対応したSDRAMソケットなどを搭載
そのSuper 7用のAladdinVを搭載したMS-5169、今となってはかなり懐かしい当時のMSIの外箱を採用している。当時のMSIのマザーボードの外箱は皆このテイストで、一見してMSIだとわかるものになっていた(そもそもこの外箱は全製品共通で、シールなどによりどの製品かわかるようになっている)。
フォームファクタはATXになっており、I/Oパネルはシリアル×2、パラレル、USB×2、PS/2×2となっており、オーディオ関連の入出力が見当たらない。つまり、オーディオ機能は未搭載で、SoundBlasterシリーズなどのサウンドカードを別途利用するのが前提になっていた。
メモリソケットはSDRAMが利用可能で、PC66と呼ばれていた66MHzのSDRAM、PC100と呼ばれていた100MHzのSDRAMを利用可能になっている。なお、SDRAMに加えて、EDO(Extend Data Output) DRAMも利用可能になっているのも特徴だ。
また、Socket 5/7ではL2キャッシュがCPUの外側(P6ことPentium Pro以降の製品ではL2キャッシュはCPUパッケージ上に統合されるようになり、その後ダイに統合された)に搭載されており、2つのSRAMチップ(256KB)がCPUソケットとI/Oパネルの間に搭載されている。当時流行していたPB(Pipeline Burst)キャッシュがそれで、キャッシュからCPUへのデータ転送がバースト転送により次々と送り込まれることによりレイテンシを削減することが可能になっていたため、この名称がついていた。
CPUにかける電圧、クロック倍率(FSBのクロックに対してCPUの動作クロックを設定する倍率のこと)、FSBのクロック周波数などはジャンパピンを利用して設定できるようになっており、マザーボードのPCBにはシルク印刷でそのことが書かれている。今なら、そうした設定はBIOSセットアップなどからソフトウェア的に設定できるので簡単だが、この時代はPCのケースを開けて、このピンを物理的に変えなければオーバークロックもできなかったので、オーバークロックもかなり面倒な時代だった。