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月は地球上のマグマの海から作られた?

巨大衝突のシミュレーション結果。赤がマグマオーシャン由来、オレンジがマグマ下の固体岩石由来、青が衝突した天体由来の材料成分。グレーは両天体の金属のコア成分

 国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC) 付加価値情報創生部門 数理科学・先端技術研究開発センター、理化学研究所 計算科学研究センター、イェール大学(Department of Geology and Geophysics, Yale University)、神戸大学大学院 理学研究科 惑星学専攻、東京工業大学 地球生命研究所ら研究グループは、月が地球上のマグマの海から作られた可能性があると発表した。

 太陽系には地球に加えて水星、金星、火星の3つの岩石惑星が存在するが、その中でも月のような大きな衛星を持つ惑星は地球だけであるため、月は何かしらの特別な現象によって形成されたと考えられている。

 巨大衝突仮説はこの現象の候補として有名で、約46億年前の原始地球に火星サイズの天体が衝突し、そのエネルギーで蒸気のように散らばった岩石(円盤)が重力によって月を形成したとするものだ。

 しかし、アポロ計画で月から持ち帰られた岩石に含まれる元素の同位対比を調査すると、地球のものとほぼ一致することが明らかになっており、これは月と地球は同じ岩石で構成されていることを意味する。一方、コンピュータシミュレーションの結果によれば、月は地球ではなく衝突してきた天体が材料になると予想されてきた。この2つの結果は矛盾しており「同位対比問題」として議論されてきた。

 研究グループでは、当時地球の表面をマグマオーシャン(マグマの海)が覆っていたと仮定しシミュレーションを実施。マグマオーシャンの有無によって衝突後の円盤(月の材料)に含まれる原始地球由来の物質の割合がどの程度変化するかを調査した。

 シミュレーションではスーパーコンピュータ「京」と効率的な粒子計算が行なえるソフトウェア「Framework for Developing Particle Simulator(FDPS)」を使用。計算手法には従来広く使われてきた「Smoothed Particle Hydrodynamics(SPH)法」を改良した「Density Independent Smoothed Particle Hydrodynamics(DISPH)法」を用いた。

 この結果、地球にマグマオーシャンが存在する場合、衝突後の円盤の形成にマグマオーシャンの存在が大きく影響を与えることが分かった。

月の材料になる物質の質量と起源の時間進化

 天体が衝突すると、地球上に存在するマグマオーシャンがジェットのように吹き出し、この吹き出したマグマが円盤になることで地球由来の物質の割合が多い円盤ができあがる。すなわち、巨大衝突時に原始地球にマグマオーシャンが存在すれば、同位対比問題の矛盾が解消されることになる。衝突した側の天体については、最初の衝突のあと再衝突を起こし地球と合体する。

シミュレーション結果から得られた円盤の質量と原始地球由来の物質の割合。赤がマグマオーシャンあり、青がなしの場合。

 今回の研究結果は、現在の地球がどのように形成されてきたかを明らかにする手がかりになるとしている。地球以外の惑星でも巨大衝突仮説は発生したと考えられているため、ほかの太陽系の惑星の研究にも応用の可能性があるという。

 また、今回使用された計算手法は津波遡上の解析にも非常に有用で、防災や工学での活用も期待される。

シミュレーションの映像