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米デューク大学、サルモネラ菌を用いて脳腫瘍を自死させる手法を発表

 米デューク大学は11日(現地時間)、遺伝子組換えサルモネラ菌を脳血流中に注入することで選択的に脳腫瘍の組織を崩壊させる手法を発表した。

 脳に向かう血液は心臓から送り出された後、脳血液関門というフィルターのようなものを通すことで有害な物質などが脳血流にのることを防ぎ、脳の環境を保っている。

 この脳血液関門があることで、脳腫瘍の治療は脳以外の大半の臓器の腫瘍、つまりガンの治療に比べて大きく遅れをとっていた。なぜなら、手術が困難である上に、脳血液関門を通過しなければ抗がん剤が腫瘍組織に到達しないからだ。さらに、脳血流にのせる薬剤であれば、通常以上に腫瘍だけに限って作用するような性質を持っている必要がある。言うまでもなく、脳は繊細な臓器で、正常な組織が攻撃されてはならないためだ。

 そのような課題を解決するために、デューク大学の研究者らが今回発表した手法ではサルモネラ菌の遺伝子を操作し、2つの性質をもたせることにした。

 1つ目の性質は、サルモネラ菌が活動するために必要な酵素であるプリン(purine)を産生できなくしてしまうこと。これによって、プリンを得るためにサルモネラ菌に、活発でプリンを多くもつ腫瘍組織に集まっていくという性質を付与できる。

 2つ目の性質は、Azurinというタンパク質と、がん抑制遺伝子p53によって腫瘍細胞の細胞死(アポトーシス)を誘導するという性質だ。しかも、この2つは低酸素下でのみ作用するため、活発な腫瘍組織で特に作用するので、腫瘍細胞に対してのみ作用する。

 研究者らは、この手法についてラットを用いた実験を行っていた。膠芽腫という最も悪性の脳腫瘍をもつラットの脳血流に、このサルモネラ菌を注入することで有効性を確かめるもので、約20%のラットについて有効であり、100日以上の延命が認められた。これは人間の10年に相当しているとしている。

 また、有効でなかった80%についても、薬剤は一定の効果をしめしたものの、延命につながらなかったのはサルモネラ菌の移行が一定でなかったことや、腫瘍細胞が死ぬよりも速く増殖しているせいでないかと研究者は予想している。

 研究者らは、この手法はまだ研究の初期段階であり、より多くの試験などが必要であるとしており、今後より強い薬剤(毒素)を最近に産生させることでより強い作用を得ることなどを計画している。

 余談ではあるが、脳血液関門のはたらきの非常に身近な例として、花粉症の薬の眠気を感したことのある人も多いのではないだろうか。

 いわゆる「旧い」第1世代抗ヒスタミン剤の多くは、脂溶性が強く脳血液を透過してしまうため脳内で覚醒をつかさどるヒスタミンの作用を阻害してしまう。結果として眠気という副作用が現れる。つまり、意図的に脳血液関門を透過できない薬剤を作れば眠気の副作用は発現しづらくなる。それがここ20年ほどで登場した「眠くなりづらい」とうたう抗ヒスタミン剤だ。