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【懐パーツ】先進的なのにNVIDIAから存在を抹消された「GeForce FX 5800」

GeForce FX 5800

 今回はNVIDIA初のDirectX 9.0対応GPU、「GeForce FX 5800」を搭載したASUS製ビデオカード「AGP-V9900/TD」紹介しようと思う。

 GeForce FX 5800(Ultra)は、NVIDIAとして初めてDirectX 9.0で策定されたバーテックスシェーダ2.0とピクセルシェーダ2.0をサポートしたGPUである。

 実はDirectX 9.0サポートはATIの「RADEON 9700」シリーズが先行したNVIDIAは遅れて発表する形となったが、代わりにRADEON 9700を上回るさまざまな革新的な機能を実装をしたのである。

 詳細は後藤弘茂氏の記事に譲るが、GeForce FX 5800ではシェーダで実行できる命令数を増やし、プログラマビリティを高め、高速化するよりも、時間をかけて美しいピクセルの出力を追求していった。性能よりも絵にこだわったのは、当時NVIDIAが買収した旧3dfxのエンジニアが多く関わっていたことも関係している。

 しかし、GeForce FX 5800は高性能を諦めたプロセッサではなかった。競合のRADEON 9700 PROのコアクロックは325MHzであったが、GeForce FX 5800 Ultraでは最高500MHzというクロックで圧倒した。RADEON 9700 PROはメモリバス幅を256bit化し、DDRメモリを620MHz駆動とすることで19.84GB/sの帯域幅を実現していたが、GeForce 5800 Ultraはバス幅が128bitながらも、当時最新の1GHz駆動のDDR2メモリを採用することで16GB/sの帯域幅を確保した。

 もちろん、その代償となったのは消費電力と熱であった。RADEON 9700シリーズは従来と同じ1スロットの薄い小型ファンで冷却することができたが、GeForce FX 5800は2スロットを占有するクーラーを採用せざる得なかった。当時TSMCの最新0.13μmプロセスを採用したが、歩留まりが悪いのも仇となった。

 当時、プロセッサがこれだけ発熱することは想定されていなかったので、ファンやヒートシンクの技術のレベルも低く、GeForce FX 5800 Ultraが標準採用したクーラー「FX Flow」は、構造的によく考えられてはいたものの、「熱い」「煩い」と評されてしまった。

 そして何よりも、これだけ大掛かりな実装をしたのにも関わらず、実際のアプリケーション性能はRADEON 9700シリーズと同程度であったことが最大の問題だった。これによりGeForce FX 5800シリーズはほとんど市場に受け入れられず、アーキテクチャ面でテコ入れしたGeForce FX 5900の登場を持って、NVIDIAの製品ページからGeForce FX 5800へのリンク切られ、存在を抹消されたのである(ただし、ページ自体は存在する)。

 NVIDIA自身も失敗作と認めるGeForce FX 5800シリーズだが、筆者的は逆に高く評価している。それはやはり先進的なアーキテクチャ、DDR2メモリの採用、そしてリッチなシェーダ実装である。

 GeForce FX 5800シリーズで有名な3Dデモとして「Dawn」がある。Windows 10でも動くので、一度も実行したことのないGeForceユーザーは実行してみて欲しい。DawnがGeForce FX 5800で実行可能な複雑なシェーダプログラムが使われているかどうか不明だが、13年経過した今でも十分見るに耐える3Dグラフィックスクオリティ。GeForce4 Tiシリーズまでの「ポリポリな3Dです!」な感じデモと比較すると雲泥の差だ。リッチなシェーダプログラムを使えば、美しくリアルな3Dを実現できるのは、この時初めて実証されたと言ってもいい。

今回入手したGeForce FX 5800のカード。残念ながらFX Flowを採用したUltraではない
正面から見たところ。コンデンサの実装が多い
ペリフェラル4ピンで補助電源供給され動作する
カード右上の電源部。固体コンデンサがふんだんに使われている
左上にも電源を実装
部品は裏面も実装されており、特にメモリは発熱が大きかったためか、ヒートシンクが取り付けられている
拡張ブラケットは2スロット占有。ディスプレイ出力はミニD-Sub15ピン、Sビデオ出力、DVI-I端子
ヒートシンクを取り払ったところ
ヒートシンク。今からするとかなりチープな作りだ
GPUから伸びる配線は美しい
GeForce FX 5800。当初熱伝導シートが溶けていて汚かったのでこすり落としたが、そのせいで印刷も少し擦れてしまった
DDR2メモリはSamsungの「K4N26323AE-GC1K」。1Mワード×32bit×4バンクで、1チップ16MB。これを表裏に4枚ずつ実装することで、128MBを実現している。ちなみに型番末尾の「1K」はデータシートになく、NVIDIA向けに早期提供されたモデルかもしれない
電源周りの実装
Intersilの「ISL6225CA」はDDRメモリ用のPWMコントローラである。つまり、メモリ用の電源をGPUとは別に生成する必要があったのだ
Intersilの「ISL6529CR」は2出力のグラフィックスプロセッサ向け電源コントローラである、International Rectifier製の「IRF7811AV」はHEXFET
International Rectifier製のバッファゲートドライバ
左下のIntersil製「ISL6569ACR」はステップダウンDC-DCコントローラである。このように電源回路はかなり大掛かりだ
Silicon Imageの「Sil164CT64」TMDSトランスミッターであり、Single LinkのDVI出力をサポート。解像度は最大1,600×1,200ドットとなる
ON Semiconductorの「MC74ACT08」はクアッド2入力ANDゲート
ミニD-Sub15ピン付近にもMC74ACT08が実装されている
Maxim製の「MAX6649」はオーバーヒートを検知するアラームチップのようだ
NVIDIAのGeForce FX 5800用デモ「Dawn」。このグラフィックスは今でも色褪せない