イベントレポート
富士通、フランス版“らくらくスマホ”や量子ドットレーザーHMDを展示
~エアタイピングで入力できる「ジェスチャーキーボード」も
(2013/3/1 12:40)
MWC 2013では、日本の携帯端末メーカーもブースを構え、最新端末や各種技術展示を行っていた。ここではその中から、富士通の展示について紹介しよう。
フランス版“らくらくスマートフォン”「STYLISTIC S01」
富士通ブースでは、欧州向けのスマートフォン新機種「STYLISTIC S01」という製品が、ブースのかなりのスペースを割いて展示されていた。
このスマートフォンは、日本では「らくらくスマートフォン F-12D」として販売されている製品で、日本と同じくシニア層をターゲットとしている。フランスの通信事業者Orangeと提携し、フランスで発売される。搭載プロセッサやRAM/ROM容量、バッテリ容量など、ハードウェアの仕様は日本版とほぼ同じで、IPX5/8準拠およびIP5X準拠の防水/防塵機能もそのまま対応している。
もちろん、らくらくスマートフォンの最大の特徴でもある、フィードバックが感じられるタッチパネル「らくらくタッチパネル」も搭載。さらに、グルメや旅行、ヘルスケアなどの情報を提供するポータルサービス、友人と情報を共有できるフォーラムサービス、写真共有サービスなどを富士通が無償で提供するという。
このあたりは日本向けモデルとほぼ同じではあるが、グローバルモデルでは1点日本向けモデルと大きく異なる部分がある。それは、グローバル版ではGoogle Playに対応しているという点だ。欧州では、多くの人が日常からPCを使うことが多く、高齢者でもアプリを使うことに慣れていたり、セキュリティに対するリテラシーが高いため、ユーザーの利便性を優先させGoogle Playに対応させたそうだ。
今回、富士通株式会社ユビキタスビジネス戦略本部長代理 商品企画・プロモーション担当の松村孝宏氏に、ブースで話を伺う機会を得た。松村氏によると、Orangeとらくらくスマートフォンの商談を行なっていたのは、2012年のMWCの時だったという。
「当初は、当社が持つラインナップ全てを提案していましたが、他の製品との差別化が難しかったり、欧州ではブランド力もなかったため、受け入れられませんでした。それなら、ハイエンドではないものの、もう1つの柱である“らくらくフォン”シリーズを海外展開したらどうかということで、昨年(2012年)のMWCで各国のオペレータと商談を始めました」(松村氏)。
高齢化の問題は、日本だけでなく欧州各国でも同じだ。そのため、それまでARROWSなどのハイエンドモデルには興味を示さなかったオペレータも、らくらくフォンシリーズには強い興味を示したという。しかも富士通には、累計1,000万台を超えるセールスを記録しているらくらくフォンシリーズによる、シニア市場への強みがある。そこで、端末、サービス、販売ノウハウ全てを一括で提供することで、今回の参入に成功したそうだ。
今後、全世界で高齢化が一気に進んでいくと予測されている。もちろん、現在ITリテラシーの高い人々も歳を取る。とはいえ、そういう人たちは、高齢になっても、その時の最新のサービスを使いたいと思うものだと、松村氏は指摘する。「らくらくフォンシリーズはもちろんですが、現在ITリテラシーの高い人たちが高齢になった時に、いちばん選ばれる商品を提供したい、それが我々の夢です」(松村氏)。
一方、日本で販売されているハイエンドスマートフォンについてもお伺いしたところ、「やはり日本人はハイエンドが好きなんだな、と思います」と松村氏。この言葉から、日本で3月22日に発売となった、富士通製ハイエンドスマートフォン「ARROWS X F-02E」の売れ行きが好調なことがうかがえる。
富士通は、もともとスーパーコンピュータやメインフレームなどハイエンドの会社であり、そういったハイエンドの技術を活かせることが、エンジニアにとって大いに意義があるという。ただ、ハイエンドのパワーが、今後違う方向に使われていくようになる可能性もあると松村氏は指摘する。例えば、らくらくスマートフォンをユニバーサルに使ってもらえるように、ARROWS Xと同じプラットフォームを搭載し、見えないところでハイエンドのパワーが使われるようになることも考えられる。とはいえ、やはりARROWS Xのようなハイエンド機種が牽引していかないことには、これまでとは違う方向に進んでしまうので、今後もハイエンドに全力で取り組んでいくと松村氏は語った。
また、今後については、採用するSoCは最高のものを取り入れていく考えを示した。以前は、クアッドコアプロセッサの選択肢がなかったが、今は選択肢があるため、これからはきっちりベンチマークして決めると松村氏。こういった姿勢は、ハイエンド企業である富士通らしい部分と言えそうだ。
らくらくタッチパネル搭載タブレットを参考展示
次に、タブレットの参考展示モデルを紹介しよう。富士通ブースでは、LTE対応のAndroidタブレット「ARROWS Tab F-05E」と、Windows 8タブレット「ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J」の、2機種のタブレット製品が展示されていたが、それら以外にもう1台、未発表の参考展示モデルが展示されていた。
これは、ARROWS Tab F-05Eをベースとしたものに、らくらくスマートフォンと同じ「らくらくタッチパネル」を装着したものだ。実際に操作してみると、らくらくスマートフォンと同じように、タッチ操作時にフィードバックが感じられる。タッチパネルの基本的な仕組みはらくらくスマートフォンと同じだが、タブレットではスマートフォンよりも液晶パネルの面積が広くなるため、液晶面のしなりなどを考え、タッチを認識したらすぐにフィードバックを返すというように、フィードバックのタイミングを調整しているそうだ。
今回は参考展示で、商品化が決まっているわけではないそうだが、今後商品化に向けて研究を進めていくそうだ。
レーザープロジェクタ利用のウェアラブルデバイスやジェスチャーキーボードの技術展示
スマートフォンやタブレットなどの製品以外には、いくつかの技術デモ展示が行なわれていた。その1つが、「Laser Head Set」と呼ばれるウェアラブルデバイスで、富士通研究所と、日本で量子ドットレーザーを開発している株式会社QDレーザ、東京大学のコラボレーションで開発されたものだ。
Laser Head Setは、ヘッドフォンに小型の映像投影装置が取り付けられており、それを装着することで、視界の中に映像が浮かび上がって見える、というもの。Googleが開発している「Google Glass」を想像するとわかりやすいだろう。
ヘッドフォンには、映像を投影する超小型のレーザープロジェクタが取り付られており、その映像をハーフミラーで反射させて網膜に直接照射して、視界の中に映像が浮かび上がるように見える。例えば、PCやスマートフォンを接続すれば、それらの画面の映像が視界の中に浮かび上がって見えることになる。
レーザーを直接網膜に照射するとはいえ、照射されるレーザーの出力は150nW(ナノワット)で、安全基準の1/250と非常に低出力のため、安全性に問題はないとしている。
実際に見える映像は、自分がどこを見ていてもきちんと焦点が合って見える。近くを見ていても遠くを見ていても、映像だけは常に焦点が合って見えた。これは、液晶などの表示装置を利用するウェアラブルデバイスにはない特徴だ。また、投影される映像の解像度はXGA(1,024×768ドット)と、映像も十分視聴に耐えるクオリティを実現している。ただし、レーザーの出力が弱いため、映像が暗く感じる点が課題という。今後は、出力を上げることなく、明るく見えるための技術を開発したいとしている。
ブースでは、映像を表示するデモが行なわれていたが、PCやスマートフォンの映像を表示させてそれらを操作したり、拡張現実技術と組み合わせ、周辺のお店情報やナビゲーションを表示するといった応用も簡単に実現できそうに感じた。
展示されていたのは、まだ開発初期段階で、大型のヘッドフォンに取り付けられるとともに、プロジェクタも比較的大きいものとなっていた。ただ2014年のMWCでは、普通の眼鏡とほとんど変わらない外見の小型なデバイス「Laser Eye Ware」を展示したいとしており、今後の展開が非常に楽しみだ。
また、「ジェスチャーキーボード」のデモ展示も興味深かった。これは、PCやタブレットなどのカメラを利用して、キーボードのない場所でも文字入力を可能にするシステムだ。Webカメラを利用して利用者の手を撮影しつつ、両手の指の位置を割り出すことで、何もない場所でタイピングを行っているジェスチャーで文字入力が行なえる。富士通製のPCでは、内蔵のWebカメラを利用し、ジェスチャーで動画などの再生コントロールやボリューム調節などを行なう機能が搭載されているが、このジェスチャーキーボードはその発展型と言っていいだろう。
キーボードの映像を光で投影し、その映像のキーを押すようなジェスチャーでキー入力を行なう、投影型のバーチャルキーボードはすでにいくつか製品が発売されているが、それらはキーの場所が明確に決められており、その決められた場所を指で押すようにジェスチャーしなければ特定の文字を入力できない。それに対し、展示されていたバーチャルキーボードでは、前後左右の指の動きをカメラで撮影し、その指の動きから入力しようとしている文字を割り出して入力が行なわれるため、より扱いやすくなるという。
ただし、キー入力時の指の動きは個人差があるため、チュートリアルのような形で、利用者の指の動きを学習させたうえで利用するというように、ある程度は利用者に合わせて調整する必要があるそうだ。また、現時点では認識率は80%ほどと、まだ快適なタイピングが可能と言えるレベルには達していない。それでも、今後開発が進めば、タブレットやスマートフォンなど、キーボードを持たないデバイスでの新たな文字入力方法として期待できそうだ。