【CES 2012レポート】ワイヤレス充電の現状や、会場の面白ガジェット

会期:1月10日~13日(現地時間)

会場:米国ネバダ州ラスベガス コンベンションセンター/ベネチアンホテル



●ワイヤレス充電に新しい動き。Duracellブランドを獲得したPOWERMAT

 日本ではNTTドコモが「おくだけ充電」として、スマートフォンやiモード携帯で展開を始めているワイヤレス充電(無接点充電)。スマートフォンではシャープの「AQUOS PHONE f SH-13C」を第一弾として、富士通東芝の「ARROWS Kiss F-03D」、NECカシオの「MEDIAS PP N-01D」なども次々に出荷されている。これらはいずれもWireless Power Consortium(WPC)のワイヤレス充電規格「Qi(チー)」に対応する製品だ。コンソーシアムに参加する企業の製品には相互運用性があり、対応端末、充電台、ポータブルバッテリなど、メーカーを問わずに利用できるのがメリットになる。例えばポータブルバッテリではNTTドコモのほか、パナソニックからも充電台とポータブルバッテリが販売されており、すでに利用しているユーザーもいることだろう。

サウスホールに設けられたPOWERMATのブース。P&Gからの出資により、Duracellを冠するようになり、印象的な銅色のラインがロゴに加わった。

 一方ここ米国ではやや事情が異なり、市場で先行しているのはPOWERMATの製品だ。すでにiPhoneやBlackBerry対応のパワージャケットや充電台などで、400万台以上を売り上げたとされている。ようやく対応製品の出荷がはじまったQiとは対照的だ。QiとPOWERMATの関係については過去の記事が詳しいので併せて参照していただきたいが、要約すると携帯端末のワイヤレス充電に関しては、デファクトスタンダードとして先行しているPOWERMATに対して、他社がコンソーシアムを形成して追い上げを図るといった状況が続いている。日本ではQiによるワイヤレス充電市場が立ち上がったばかりだが、米国ではすでにある程度の普及が進んでいる段階だ。

 さらにPOWERMATは、P&G(プロクター&ギャンブル)からの出資を獲得。P&G傘下である有名乾電池ブランドDuracellのロゴを冠することができるようになり、ブースも製品も「Duracell POWERMAT」にリニューアルされた。日本ではやや馴染みが薄いとは言え、銅色と黒の外装の乾電池を目にしたことは少なからずあるだろう。言うまでもなく米国では一大ブランドであり、POWERMATを知らなくともDuracellなら誰もが知っている。これまではBESTBUYなどの家電量販店を中心に流通してきたPOWERMAT製品だが、今後はDuracellブランドを背景にして、さらに広い小売りチャネルが開くことになる。

 まだ実際に目にしたことはないが、POWERMATの充電台はすでに米国内の一部空港などの公共エリアにも進出しているという。日本でもNTTドコモが実験サービスとしてANAと提携しており、空港ラウンジなどでQi対応の充電台が利用できる。現在はシガーソケットからの充電が主流となっている自動車内においても、センターコンソールなどへ無接点の充電台を設置することに自動車業界も少なからず興味を持っていると言われる。

 いずれも国内で完結してくれれば例え規格が違っていても問題はないのだが、世界市場でみるとそうはいかない。ワイヤレス充電がインフラとして発達してくればくるほど、このねじれはユーザーにもメーカーにも影響を与えることになる。今後も両陣営の動向は注視していくべきだろう。

Duracell POWERMATの製品。iPhone向けのジャケットと充電台は売れ筋の製品。四角いデバイスは、いわゆるポータブルバッテリWireless Power Consortium(WPC)によるQi(チー)対応の製品群。メーカー横断的な対応機器の幅広さがQiのアピールポイントになる
現在のワイヤレス充電の能力はほぼUSBの5V 0.5A出力に準じたものが規格化されているが、将来的にはタブレットあるいはノートPCといった高出力を要求する製品にも対応する規格を策定するという自動車のセンターコンソールを充電台にしたサンプル。現在出荷されている充電台だけでなく、こうした移動中の自動車内や、公共の場所におけるインフラ整備が普及のカギ
QiでデモされたNexus Sのワイヤレス充電。カバーがついているがこれは普通の保護カバーで、ワイヤレス充電の仕組み自体は内蔵するバッテリに搭載されているものと想像される。バッテリや端末そのものへの搭載はジャケットタイプよりも違和感が少ないテーブルなどに充電台を埋め込む事例。こうして置けば、ユーザーが意識することなくバッグ内の端末に自動的に充電が行なわれる

●見えないベールで防水加工するナノコーティング

 複数のブースで注目を集めていたのが携帯端末の防水加工だ。日本では特に「お風呂でケータイ(タブレット)」的なニーズが強く、出荷時点で防水対応をあげる端末は決して少なくない。これらはいずれもパッキングによって液体の侵入自体を防ぐ仕組み。いっぽう、欧米では防水・防塵のニーズはもちろんあるのだが、どちらかと言えば端末自体ではなく専用ケースなどを用いて対応するのが目立つ。必要な人が必要な対応をとるという考え方に近い。

 CESでは、MWC 2011のレポートでも紹介したP2iに加えて、HzO、LIQUIPELなどがブース出展してデモンストレーションを行なった。いずれも技術の基礎的な部分は同じように見えるが、端末にナノレベルの撥水コーティングを一面に行なうことで液体をはじく仕組み。理屈はある程度わかっていても、見た目は素のiPhoneやスマートフォン、タブレット製品までを水の中にドボンドボンとやるデモンストレーションはなかなか見応えがある。どのブースもティッシュペーパーなどの紙に同じコーティングを施して、加工済と非加工で見た目や手触りが変わらないことをアピールしていた。

 感触としてP2iは主に企業導入を目指しており、技術そのものを端末メーカーに一括で売り込みたいという意志が見える。HzOは周辺機器ブランドZAGGのブース内で展示を行なっていることから、企業導入を見据えつつ個人のニーズにも対応していくように思える。LIQUIPELは、わりと明確に個人のアフターマーケットを当初のターゲットにしているようだ。

 この個人対応をするというLIQUIPELによると、防水加工は自社の工場内で行なうということで、持ち込みやセンドバックで受付をするとのこと。例えばiPhoneをロサンゼルスの近郊60Kmほどに位置するSanta Ana市にある同社に持ち込めば、59.95ドルでこの加工を施してくれるという。作業に要する時間はおよそ1時間程度とのこと。加工作業の詳細は明らかにされていないが、おそらく外装へのコーティングだけでなくいったんある程度分解して内部基板へのコーティングも施すものと想像される。実際の効果や経年変化の影響はわからないにせよ、万が一の水没にかける保険と考えれば59.95ドルは意外にお手頃と言える価格かも知れない。

HzOによるデモンストレーションの様子。iPod nano、Galaxy Tabなどにシャワーをかけ続けるほか、時折それらをドボンと水中へと放り込む
P2iのブースと、展示されていた内部基板。加工済のものと未加工のものの水没後の変化を説明している
LIQUIPELブースのデモの様子。どの企業も紙を使って撥水効果の説明をしているが、実態は紙ではなく、紙に施されたナノコーティングの皮膜が効果を示している

 SWISS ARMYのVICTORINOXと言えば、日本でも知られた歴史ある定番のマルチツールである。USBフラッシュメモリを搭載してデジタルツール化したときにも大きな話題を呼んだが、その後も着実に大容量化、ラインナップの細分化などが続いていた。そのVICTORINOXが今回のCESにあわせて発表したのが、SSDを搭載するマルチツール「VICTORINOX SSD」である。同社によると搭載されるのは着脱可能なSSDユニットで、USB 3.0/2.0とeSATAのマルチポートに対応するインターフェイスを持つ。容量は64GB、128GB、256GB、512GB、そして1TBの製品もが発表されている。SSDの最大転送速度はリードが220MB/sec、ライトが150MB/sec。現時点で実際に1TBのSSDがこのサイズに納まっているのかは不明だが、発売時期は2012年秋を予定しているという。1TBモデルの予価は約3,000ドル。

 容量、スペックはもちろんのこと、加えて書き換え可能なLCDの電子ペーパーと256bit AES暗号化技術を搭載する最強・最小のポータブルストレージとなる見込み。マルチツールとしてはナイフ、はさみ、爪研ぎなどがボディに付属。航空機内持ち込み制限のかかる刃物が含まれることから、ボディはこれらの刃物を含まないものも同梱され、必要に応じてSSDユニットを付け替えることで製品の航空機持ち込みにも対応するとのこと。電子ペーパーの書き換えソフトウェアの制限から対応機種はWindowsとされているが、ストレージ自体はMac OSなどでも利用が可能という。

このサイズに1TBのSSD。赤のボディはナイフ、はさみなどを含む正統派マルチツールで、交換用の黒いボディは飛行機内持ち込み用に刃物を含まない。交換して利用する

 フィットネス、ランニング時の心拍数センサーは各社さまざまな試みを行なっているが、VALENCELLの出してきた「V-LINC」が面白い。こうしたフィットネス時の定番アイテムとして、iPhone/iPodを使った音楽リスニングがある。加えてNike+をはじめとするランニングAppはペース指示や走行距離のレポートなども音声で通知される。そこで必要になるのがイヤフォンだ。VALENCELLはこのイヤフォンの装着部分に心拍センサーを設置。このデータとスピード、移動距離、消費カロリーを総合的に管理するとしている。

 デジタルヘルス、フィットネスにおいて、より最適な効果を得るには心拍をはじめさまざまなセンシングが重要になるが、複雑化するとユニット自体が大きく邪魔になってしまうケースもある。必需品とも言えるイヤフォンへの内蔵は確かに優れた提案だ。同社はエンドユーザー向け製品を開発しているわけではなく、あくまでテクノロジーをイヤフォンメーカーやフィットネスAppの開発者に販売することを目的としている。

心拍数のセンサーをイヤフォンの装着部分へと設置する「V-LINC」。ランニングなどの必須アイテムとして定着している音楽プレイヤーとイヤフォンを利用するアイデア

 日本での名称は不覚にも忘れてしてしまったが、一時期日本にも輸入され、ちょっとしたブームを巻き起こした健康&レジャー用品。二重化されたユニット内の重量感のあるボールを慣性で回転させる。あとは手首のスナップと腕の筋力を使って、その回転を維持する仕組み。重量のある内側のボールがジャイロ的に動くので、必然的に手首や腕の筋肉が鍛えられるというものだ。同製品はどうやら米国企業にパテントがあったようで、今回のCESでもデジタルヘルスケアのエリアに出展されている。しかも、次期モデルではBluetooth機能を搭載してAndroid連携を行なうとのこと。デモされていたのは回したら回しただけクルマが速く走るという単純なものだが、どうやら定番のアイテムだけにゲームに限らず面白いAndroid Appが登場することを期待しよう。

この形をみて、ピンとくる人はやや高めの年齢層と思われるが、日本でもそれなりのブームを起こした健康グッズ。Bluetooth搭載という昨今のデバイスの波にのり、どんな発展を遂げるのか興味深い
gogoによる航空機内Wi-Fiソリューション。サービスとして利用してはいても、機材自体にお目にかかる機会はほとんどないので、写真で紹介する。

 以前はBoeingなどが行なっていた航空機内の機内Wi-Fiインターネットサービス。Boeing自体は撤退したが、最近は専業となるgogoが登場して米国内の航空キャリアを中心に横断的なサービスを行なっている。現在導入をしているのは、エアカナダ、AirTran、Alaska Airlines、アメリカンエアライン、デルタ、FRONTIER、ユナイテッド、US Airways、Virgin Americaなど北米エアラインが中心。現時点でこれら航空キャリアのすべての航空機に搭載されているわけではないが、gogoによればすでに1,327機の航空機に導入済みとのこと。価格はエアラインや利用プランによって異なるが、Andoroid、iOS、BlackBerry向けのAppなども提供し、航空キャリアや利用時間に応じたプランの提供を行なっている。ちなみに同社ではCES期間に合わせたプロモーションとして、Las Vegas発着便における無料利用のサービスも行なっていた。

 BtoB事業ながら、強化ガラスのブランド戦略として一躍成功をおさめ、エンドユーザーへのブランド認知も進んだCorningのGorilla Glass。今回CESのホールにブースを設けて紹介されたのは、新製品の「Gorilla Glass 2」。従来のGorilla Glassと同等の強度を20%薄いガラスで実現できるという。

セントラルホールにブースを構えたCorning。これまでGorilla Glassを採用したノートブック製品やタブレット、携帯端末を一堂に展示するとともに、新製品の「Gorilla Glass 2」の耐圧力負荷のデモンストレーションを行なった。
「Karotz」。基本的な設定を終えれば、スタンドアローンで動作する。連携したデバイスからコントロールできるので、留守宅の様子を外出先からカメラでモニタすることなども可能

 Violetの「Karotz」。400MHzのARM 9プロセッサを搭載するiOSやスマートフォンのコンパニオン機器。欧州では昨年に発売されていたが、米国でも販売を開始するという。発売元は、ユーザーに代わってFacebookにログインし、投稿したり情報を取得する初めてのハードウェアとしている。ウサギ型の本体にはマイク、スピーカー、Webカメラ、RFIDリーダー、LEDライトなどを搭載。専用アプリケーションとの連携で、天気やニュースなどユーザーの選択したRSS情報を読み上げるほか、TwitterのメンションやFacebookの内容を読み上げたりできる。言うなれば、タカラトミーから発売された「ついまる」より高機能な製品。

 友だち同士であれば、互いの「Karotz」で会話も行なうことができるらしい。内蔵カメラを使ったチャットや、写真の投稿も可能。これらはすべて専用のAppで行なわれる。Appの起動はデバイス側からだけでなく、専用のRFタグをKarotzにかざすことでも行なえる。また単純な音声認識機能で、音声によるAppの起動もできるとのこと。米国では129.99ドルで販売される。

 iOS、Android端末からFacebook、Twitterなどを通じて、ショートメッセージを21×7ピクセルのLEDに表示できる「Feedair」。Feedair自体はWi-FiでLAN内に接続。例えば会社のデスクに置いておき、出先から帰社予定時間などをつぶやいておくと、Feedairの画面にそれが電光掲示板のように表示され続ける仕組みだ。同名の開発元ではDMやメールをチェックしてもらいことなく、手軽にメッセージを伝える有効な手段としている。3月に出荷予定。残念ながら英語しか表示できない。

(2012年 1月 20日)

[Reported by 矢作 晃]