イベントレポート

メタバースは「バズワード」卒業?ソニーのXR HMDで産業界はクリエイターやエンジニアの生産性が向上するとシーメンスがアピール

Industry Metaverse(産業用メタバース)をテーマにしたシーメンスの基調講演

 ドイツのシーメンスは、CESの前日基調講演に同社CEO ローランド・ブッシュ氏が登壇し、「Industry Metaverse(産業用メタバース)」をテーマに講演を行なった。

 ずっとバズワード(言葉としては流行っているけど、実態はないということを示す英語)と言われてきたメタバースだが、シーメンスの講演ではさまざま事例が紹介され、産業用途からメタバースが普及段階に入っていることを印象づけた。

 この中でシーメンスは、Snapdragon XR2+ Gen 2を採用したソニーの産業向けのXR HMDを紹介し、シーメンスが提供する「Siemens Xcelerator」というソフトウェア・ソリューションと組み合わせることで、没入環境で3D CGを作成するなど、クリエイターのワークフローにおける生産性を高めるとアピールした。

 ほかにも、シーメンスは、スポンサーでもあるF1のレッドブル・レーシングとの提携などについて語り、さまざまな産業で産業用メタバースが実際に使われ、クリエイターやエンジニアの生産性を上げることに使われていると強調した。

産業用メタバースは本格的な普及段階に入ったとシーメンスのブッシュCEO

シーメンス CEO ローランド・ブッシュ氏

 CESの基調講演のうち、ほかの基調講演と格式が違う扱いを受けている基調講演が2つある。

 1つは、このリポートで紹介している「前日基調講演」で、開幕前日の夕方に行なわれている。かつてこの枠は、Microsoftのビル・ゲイツ氏(当時は会長)の指定席だったが、今では毎年顔ぶれが変わる形になっている。

 もう1つは展示会開幕初日の朝に行なわれる「開幕基調講演」で、そこには前日基調講演にも登壇しているCTA 社長 兼 CEOのゲアリー・シャピロ氏のほか、CTAが幹部も勢ぞろいし、CESの開幕を高らかに歌い上げる形になる。

 今年は、前日基調講演がシーメンス CEO ローランド・ブッシュ氏、開幕基調講演がロレアル CEO ニコラ・イエロニムス氏が登壇するラインナップになっている。

ブッシュ氏を紹介したCES主催者CTA 社長 兼 CEOのゲアリー・シャピロ氏

 その前日基調講演で、CTAのシャピロ氏に紹介されてステージに登壇したのがシーメンス CEO ローランド・ブッシュ氏。ブッシュ氏は1994年からずっとシーメンスに務めており、要職を歴任した後、2021年の11月にシーメンスの社長 兼 CEOに就任した。

リアルとデジタルをつなぐブリッジになる

 ブッシュ氏は「産業向けメタバースは、地球上のさまざまな課題を解決することが可能だ。持続的成長性、テクノロジの普及などを産業向けメタバースが加速していく」と述べ、産業向けメタバースにより、さまざまな産業の生産性が向上し、エンジニアの生産性も向上し、社会の広範囲に対して好影響を与えていくのだと強調した。

デジタルツイン

 ブッシュ氏は「デジタルツイン、そしてAIとデータの活用……などメタバースを実用にする技術がすでに利用できるようになっている。そうした技術を組み合わせていくことで、産業界における技術開発を加速することができる」と述べ、いくつかの事例などを紹介しながら産業用メタバースがすでに社会を変えているとアピールした。

ソニーのXR HMDとシーメンスのソフトウェア・ソリューションを組み合わせて産業用メタバースを実現

ソニーが開発したXR HMD

 そうした中で、シーメンスが紹介したのが、ソニーとの提携だ。

 シーメンスはソニー株式会社 副社長 新規ビジネス・技術開発本部長 松本義典氏をステージによび、ソニーが開発したXR HMDと、シーメンスのSiemens Xceleratorの一部として提供されるソフトウェア「NX Immersive Designer」を利用して、デザイナーがXR環境においてデザインを行ない、その出来映えを確認したりすることができる様子が公開された。

松本氏はHMDをかぶって登場
ソニー株式会社 副社長 新規ビジネス・技術開発本部長 松本義典氏
XR HMDとNX Immersive Designerの利用イメージ

 ソニーの報道発表によれば、XR HMDはSoCにQualcommが先日リリースしたばかりの最新XR用SoCとなる「Snapdragon XR2+ Gen 2」が採用されており、両眼向けに4K OLEDマイクロディスプレイと、高精度のレンダリングソフトウェアを組み合わせることで、高解像度かつ高精度な没入空間で作業できるという。

 現時点では発売は2024年中とだけ明らかにされており、価格は後日販売パートナーなどから発表されると予定だ。

レッドブル・レーシング チーム代表 クリスチャン・ホーナー氏
マックス・フェルスタッペン選手
レッドブル・アドバンスド・テクノロジーズ テクニカル・ダイレクター ロブ・グレイ氏

 こうしたソリューションは、すでにシーメンスがスポンサーになっているF1の22年、23年の2年連続のチャンピオンチームであるレッドブル・レーシングでもすでに活用されている。

 同チームの代表であるクリスチャン・ホーナー氏、2021年~2023年に3年連続ドライバーチャンピオンとなっている同チームのエース・ドライバーであるマックス・フェルスタッペン選手もビデオでメッセージを寄せたほか、レッドブル・レーシングの開発部門であるレッドブル・アドバンスド・テクノロジーズのテクニカル・ダイレクターであるロブ・グレイ氏がステージに登壇し、ユーザーとして産業用メタバースを活用していることが、レッドブル・レーシングの競争力を高めるのに役立っていると説明した。

Unlimited Tomorrow

 ほかにもフードテックのBlendhub、義手を3Dプリンタで製造して提供しているUnlimited Tomorrowなど、シーメンスが取り組んでいるさまざまな社会課題の解決についても紹介され、「そうした取り組みや産業用メタバースを活用することでよりよい明日を一緒に作っていこう」と、ブッシュ氏は述べ、講演をまとめた。