イベントレポート
Curie出荷など新ビジネスでの進展をアピールしたIntel基調講演レポート
~IoT関連で新たなパートナー企業との提携を多数発表
(2016/1/8 06:00)
CESで最も格式が高い基調講演は、開幕前日に行なわれる“キックオフキーノート"と呼ばれる開幕基調講演だ。この枠は、常に業界のリーダー企業が勤めており、MicrosoftがCESに参加していた時代にはほとんどがビル・ゲイツ氏ないしはスティーブ・バルマー氏(いずれも元会長)が務めてきた。また、年によってはIntelがこの枠に登場することもあり、MicrosoftかIntelが常連となっている。ただ、2012年を最後にMicrosoftはCESへの出展をやめており、その後の2013年にはQualcommが1年担当した後、2014年からはIntelがこの開幕基調講演の座を占めている。
今年(2016年)も、Intel CEOのブライアン・クルザニッチ氏がこの開幕基調講演の講演者になっており、Intelが強力に推進しているIoT事業に関するさまざまなソリューションが紹介される講演となった。
セグウェイに乗って登場したクルザニッチ氏
基調講演の冒頭でステージに立ったのは、CESの主催者であるCTA(Consumer Technology Association)の社長兼CEOのゲリー・シャピーロ氏。2014年に初めてクルザニッチ氏が基調講演に登場した時には、クルザニッチ氏の姓を正しく発音できないというトラブルに見舞われたシャピーロ氏だが、3回目となる今年は滑らかに発音することができ、勢いよく同氏の名前を呼んで紹介した。
そうして呼ばれたクルザニッチ氏は、セグウェイに乗って登場し、そのままシャピーロ氏と握手すると、今度はシャピーロ氏にそれに乗って退場するように強要し、会場は大きな笑いに包まれた。結局微妙な顔をしたシャピーロ氏は、言われるままにセグウェイに乗せられて退場していった。
クルザニッチ氏は「家電は新しい時代に入った。そうした中でIntelは3つのトレンドがあると信じている」と述べ、現在のデジタル家電の潮流について説明した。クルザニッチ氏は、
- SMART and CONNECTED(スマート化と常時無線接続)
- SENSIFICATION OF COMPUTING(センサーを活用したコンピューティング)
- AN EXTENSION OF YOU(新しいユースケースの提案)
が現在の家電でのトレンドと位置付け、それぞれ「実に革命的な事が起こっている」とし、さまざまな楽しい変化が起きていると指摘。Intelがドローンを利用して行なった花火ショーについてのビデオを見せ、多くのドローンをマルチチャネルで操作しながら見せたデモがギネスの記録に登録されたことを説明した。
そうした中で、今回の基調講演では、スポーツでのITの活用、健康促進活動、創造力の開放という3つの分野での実例について紹介していった。
Curieの製品版が出荷開始、各種スポーツなどでリアルタイムセンシングが可能に
スポーツという分野では、Intelが主催して世界レベルのeスポーツの大会となっているIntel Extreme Mastersの取り組みを紹介し、Rainbow Six Siege(レインボーシックス シージ)の大会で唯一女性ゲーマーだけで構成されたチームの代表がステージに登場し、クルザニッチ氏とゲーミングについてのデモを行なった。
同チームはIntelがスポンサードしている女性プロゲーマーチームで、RealSenseの3D機能を利用して自動的に背景を切り取り、女性ゲーマーの顔だけをTwitchの配信にリアルタイムに反映するというデモを披露。さらに、RealSenseのカメラを利用してクルザニッチ氏の顔のデータをゲームのキャラクターに反映させるというデモ、そして3Dカメラで撮影したスポーツの映像を利用して視聴者がアングルを自由に変えるデモなどが行なわれた。
引き続きクルザニッチ氏は、昨年(2015年)のCES 2015でIntelが発表したCurie(キュリー)についての説明を行なった。クルザニッチ氏は「昨年発表したCurieだが、10ドル以下の価格設定で出荷開始した」と述べ、既にCurieの製品版の出荷を開始したことを明らかにした。そしてCES 2015の基調講演でも行なったBMXバイクにCurieのモジュールを内蔵して、BMXバイクの動きなどをモーションセンサーなどを利用してデータ化する機能をデモ。やはり昨年同様にBMXバイクが飛び上がる台の間にクルザニッチ氏が立って、それでも大丈夫という芸をやって見せた。
今年はもう1つの具体例としてスノーボードの競技であるXGAMESの例を示し、スポーツ放送局EPSN社長のジョン・スキッパー氏とXGAMESにおけるCurieの利用方法を紹介した。スキッパー氏によれば男子スノーボードのスロープスタイルとビックエアの両競技において、スノーボードにCurieのモジュールを組み込み、空中回転、ジャンプの高さや距離、スピード、着地時の力のかかり方など、演技データをリアルタイムで視聴者に見えるようにしたという。
その後、飲料メーカーRed Bullの子会社でさまざまな文化やライフスタイルを紹介するRed Bull Media HouseのCTOであるアンドレアス・ガル氏が登壇し、スポーツ選手の体にCurieを利用したセンサーを装着しておくことで、選手にかかるGやスピードなどをリアルタイムに観客が確認できるようになり、ショーなどがこれまでよりも楽しめるという様子をアピールした。
OakleyのスマートアイウェアやNew Balanceを紹介
引き続き健康促進という観点からは、2つのスポーツブランドとの提携がアピールされた。1つは昨年のCESで発表されたOakley(オークレー)との提携だ。OakleyとIntelが共同で開発した音声で操作できるリアルタイムのコーチング機能を備えたスマート・アイウェア「Radar Pace」が紹介された。要するに、トレーニング用のサングラスだが、トレーニング時にこんなふうにした方が良いとか、分析やフィードバックがサングラスからされるというスマート機能が搭載されているのだ。トライアスロンの世界的な大会であるIRONMANで3度の世界チャンピオンに輝いたクレイグ・アレクサンダー氏が壇上に呼ばれてそのデモを行なった。
もう1つは「NB」のロゴでよく知られているスポーツ用品ブランドのNew Balanceとの提携だ。New Balance CEOのロバート・ディマルティーニ氏が壇上に呼ばれ、共同で開発したRealSenseを利用して制作された3Dプリンティングによるカスタムメイドのミッドソールを備えたランニングシューズをデモした。そのシューズは2人のCEOが実際に履いており、それによって実際にデモするという趣向だ。加えて、2016年末の年末商戦に向けてスポーツ向けのスマートウォッチを開発する計画であることを公表した。
さらに、DAQRIが開発したスマートヘルメットも紹介され、ヘルメットに組み込まれているARの機能を利用して、エンジニアが故障箇所を発見したら、その修理方法をヘルメットのディスプレイに表示させながら修理する様子などがデモされた。
Yuneecの「Typhoon H」というRealSense搭載ドローンが今年前半に発売に
創造力の開放というテーマでは、いくつかの発表が行なわれた。グラミー賞を主催するThe Recording Academyとの複数年に及ぶパートナーシップで、6回のグラミー賞受賞のアーティストであるレディー・ガガ氏とIntelが協業して、技術の開発を行なっていくとクルザニッチ氏はアピール。
また、米国のTV配給会社であるMGMテレビジョン&デジタルグループの社長であるマーク・バーネット氏が登壇し、IntelとMGM テレビジョン&デジタルグループが共同で行なっていくメイカー向けのコンテスト「America's Greatest Makers」に関して紹介した。
このほか、クルザニッチ氏はYuneec社のドローンであるTyphoon H(タイフーンエッチ)を紹介。Typhoon Hでは4Kのカメラが下部に付いているほか、RealSenseのカメラを搭載し、それを利用した衝突回避機能が用意されている。今年の前半に販売が開始される予定だという。さらに、Ninebotのセグウェイを紹介し、AtomプロセッサとRealSenseカメラを搭載したことにより、障害物があっても自律的に避けて走行したりという様子がデモされた。
ダイバーシティやオンラインハラスメント防止、コンフリクトフリーの実現などに取り組む
講演の最後に、クルザニッチ氏は同氏が率いるIntelが、昨年から行なっているダイバーシティ(多様性)の確保への取り組みの成果を発表した。ダイバーシティとは、多くの企業で幹部に男性が多かったり、少数民族の採用が進んでいなかったりといった多様性が確保されていないという指摘に対してのアクションを意味する。日本でも、政府による“すべての女性が輝く社会づくり”などの取り組みが行なわれるなど、世界各国でダイバーシティへの取り組みに注目が集まっている。
昨年のCES 2015での基調講演でも、Intelがダイバーシティへの取り組みを進めていくとしたが、Intel社内でそれが大きく進んだとアピールした。さらに今年はオンラインハラスメントと呼ばれるオンライン上での嫌がらせの防止に向けて、米国のメディアであるVox MediaとRe/code、Born This Way Foundationと協力して新しい計画を策定していくとした。
そして、ここ数年Intelが取り組んできた、コンフリクトフリー(紛争地域の鉱物を使わずに製品を生産すること)への取り組みについて触れ、既に実現したマイクロプロセッサにおけるコンフリクトフリーだけでなく、マイクロプロセッサ以外の製品でもコンフリクトフリーになったことが証明される見通しだと明らかにした。コンフリクトフリーとは、コンゴ共和国などの紛争地域で産出される鉱物が、双方の陣営の資金源になったりするため紛争の原因となっているという悪い流れを断ち切る試みで、先進国の企業の多くが取り組んでいる課題だ。
コンフリクトフリーを実現するには、Intel自身だけでなく、サプライチェーンと呼ばれる下請けでの原料の製造から納品までを含めてチェックする必要があるため、その実現にはさまざまな困難があるのだが、ついにマイクロプロセッサだけでなく、そのほかの製品でもコンフリクトフリーが実現され、それが第三者機関により証明が行なわれる見通しであることをクルザニッチ氏は明らかにした。