イベントレポート

Intelプロセッサで利用可能なのはWindowsだけではない

~シリコンフォトニクスでの100Gbps通信デモも

会期:4月10日~11日

会場:中華人民共和国 北京市 国家会議中心

 Intelは、中華人民共和国北京市にある国家会議中心において同社製品の開発者向け技術イベントIntel Developer Forum(IDF) 2013 Beijingを4月10日~11日(現地時間)の2日間に渡り開催した。

 2日目の4月11日(現地時間)も基調講演が開催され、副社長兼システムソフトウェア事業部事業部長のダグ・フィッシャー氏、さらにはCTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)のジャスティン・ラトナー氏が登壇し、ソフトウェア周りのビジョンや未来のコンピューティング技術に関する説明を行なった。

 この中でフィッシャー氏は「IntelはWindowsだけをサポートしているわけではない、Androidも、Chrome OSも、Tizenもサポートしており、今後もそうしたWindows以外のプラットフォームのサポートを拡大していく」と述べ、詰めかけた中国の開発者に向けて、AndroidやTizenといったプラットフォームでもIAの採用を検討して欲しいと呼びかけた。また、HTML5に対応したアプリケーション開発環境として「Intel HTML5 Development Environment」を用意し、開発者に無償で提供することを明らかにした。

 CTOのラトナー氏は、100Gbpsで通信可能なシリコンフォトニクス(光通信が可能な半導体モジュールのこと)の開発に成功したことを明らかにし、その模様を録画したビデオを公開した。

Intel ArchitectureはWindowsだけのためじゃない

 Intelのシステムソフトウェア開発を担当する事業部(システムソフトウェア事業部)の事業部長であるダグ・フィッシャー氏は、自身の基調講演をIntelに寄せられている疑問に対して答えを与える形で講演を進めていった。例えば、「PCは起動が遅くて、スマートフォンと同じようには使えないんですよね?」、「IntelはPCの会社で、Windowsしかサポートしていないの?」などに対して答えていく形式で話を進めていった。フィッシャー氏はこれらの疑問に対して「明確にノーだ」と述べ、それがなぜノーなのかを実際のデモで証明していった。

 例えば、PCは起動が遅いという疑問に対しては、Windows 7ベースのシステムと、Windows 8ベースのシステムを比較。Windows 8のFastBootに対応したシステムでは圧倒的に高速に起動できたり、Windows 8のConnected Standbyに対応したシステムでは、スマートフォンと同じように待ち受け状態にしたままサスペンドにしておけることなどをデモして、PCの使い勝手が改善していることをアピールした。

 また、IntelプロセッサではWindowsしかサポートされていないということに対しては「我々はAndroid、Chrome OS、TizenなどWindows以外のプラットフォームを積極的にサポートしている。例えば、AndroidやChrome OSのオープンソース開発では、Google以外で最大の貢献者になっている」とし、MedfieldやClover Trail+などIntelプロセッサ搭載スマートフォンやタブレットで3Dゲームなどをプレイして見せて、スムーズに動く様子をデモした。

 フィッシャー氏は「これらのOSでは我々の競合のCPUでしか動かないと考えているユーザーも少なくないが、ほとんどのアプリケーションは我々のCPUでも快適に動作する。さらにIAで快適に動作するアプリケーションを作りやすいように、開発社向けのソリューションを用意している」と、Intelが用意している開発環境などを紹介した。

 IntelはAndroid開発者向けに「System Studio for Android、Graphics Performance Analyzer(GPA)」、「Hardware Accelerated Execution Manager(HAXM)」などの開発環境を用意しており、今回紹介されたのはGPA、HAXMそれぞれのグラフィックス性能のチューニング用ツールと、IA Androidのエミュレータ環境になる。GPAは3月に行なわれたGDC(Game Developer Conference)で発表されたツールで、Android用3Dゲームアプリを開発する際に利用できる。HAXMはIA版Androidのエミュレータ環境で、CPUの仮想化アクセラレーション機能(VT-x)を利用するので、ARM版のエミュレータをPCで動かすよりも圧倒的に高速に実行できるという。

 このほか、フィッシャー氏はChrome OSやTizenなどにも触れ、「Intelはすべてのプラットフォームでソフトウェア開発者に対して最適な開発環境を提供していきたい」と述べ、こうした開発環境の充実がIntelプロセッサの環境を選ぶメリットだとアピールした。

Intel副社長兼システムソフトウェア事業部事業部長ダグ・フィッシャー氏
IA(Intel Architecture)も大きく変わりつつある
LenovoのIdeaPad Yoga13にWindows 7(左)とWindows 8(右)を入れて比較しているところ。右のWindows 8はすでにMetro UIが起動しているが、Windows 7はまだ
IAではWindowsだけでなく、Android、Chrome OS、Tizenもサポートされている
Clover Trail+の特徴を説明するスライド
Graphics Performance Analyzerを利用してAndroid向けグラフィックスアプリケーションの分析をしているところ
Hardware Accelerated Execution Manager(HAXM)を利用すると、CPUの仮想化技術を利用してアクセラレーションできるので、Androidエミュレータを物理マシンのCPU処理能力の速度で実行できる
同じマシンでIA Android(左)とARM Android(右)のエミュレーターを起動しているところ。左のIA版はアプリケーションが起動しているが、右のARMはまだ起動していないことがわかる
Windows、Android、Chrome OS、Tizenとフルラインナップでサポートする

HTML5アプリケーションの開発を容易にする開発環境を無償で提供

 現在のモバイル環境(タブレットやスマートフォン)には、複数のOSやプラットフォームが存在しており、あるOSのアプリケーションは、別のOSでは利用することができない。そうした状況を大きく変えてくれそうなのが、W3Cで規定が進んでいるHTML5だ。HTML5では、現在ローカルにインストールするタイプのアプリケーションでないと実現できなかったリッチなユーザーインターフェースをHTMLで実現することができるようになる。

 IntelはHTML5に以前からコミットメントを深めており、HTML5を自社のプロセッサなどに最適化していく意向であることを、IDFなどで明らかにしている。フィッシャー氏は「IntelはW3Cの規格策定にも協力しているし、今後も開発者に向けて、より容易にHTML5アプリケーションを開発できる環境を提供していきたい」と述べた上で、Intel HTML5 Development EnvironmentというHTML5アプリケーションの開発環境を無償で提供することを明らかにした。

 フィッシャー氏によれば「HTML5 Development Environmentは、iOS、Android、Windows 8、Windows Phone 8など複数のOSをサポートしており、開発者はこれらのプラットフォームに対応したHTML5アプリケーションを容易に開発することができるようになる」と述べ、実際にそれらの環境で動作するHTML5 Development Environmentで作成したHTML5アプリケーションをデモしてみせた。

 フィッシャー氏はさらにHTML5 Development Environmentを利用すると、Amazon、Apple、facebook、Google、Microsoftなどのアプリストアで容易に公開できるようになる」と述べ、単にHTML5アプリを開発するだけでなく、それをアプリストアで公開することもできるようにすると説明した。HTML5 Development Environmentは開発社向けWebサイト(Intel Developer Zone)からダウンロードできる。

 このほか、フィッシャー氏はセキュリティについても触れ、Intelが推進しているハードウェアベースのセキュリティ機能(Intel IPT=Identity Protection Technology)に、中国最大のクレジットカードブランドであるUnionPayが対応したことを発表した。Intelプロセッサを搭載したスマートフォンを使ってNFCで決済する場合によりセキュアに決済を完了させることができると、フィッシャー氏はアピールした。

 最後にフィッシャー氏は「ムーアの法則はまだ死んでいない。PCは形をどんどん変えて進化していく、ぜひ開発者の皆さんにもそれに参加して欲しい」とまとめ、詰めかけた開発者に、より魅力的なソフトウェアの開発を呼びかけた。

複数のプラットフォームで動くアプリケーションの仕組みとして期待されているHTML5
2015年にはモバイルアプリケーションの80%がHTML5になると予想されている
IntelはW3CでのHTML5仕様の策定にも参加している
HTML5 Development Environmentを発表、無償で開発者に提供する
HTML5 Development Environmentの画面。簡単にHTML5アプリケーションを作ることができる
作成したアプリケーションはWindows 8、iOS、Android、Windows Phone 8など異なるOS環境でそのまま実行できる
HTML5 Development Environmentにはアプリストアに公開することを容易にするツールなども用意されている
中国のクレジットカードで最大手のUnionPayとIntel IPTの利用で提携することを発表
UnionPay副社長のホンフェン・チャイ氏(右)とNFCを利用した自動販売機でジュースを買うデモを行なう

100Gbpsの転送速度を実現したシリコンフォトニクスをデモ

 CTOのジャスティン・ラトナー氏は、Intelの未来のコンピューティングに関するビジョンを説明した。ラトナー氏は「我々はコンピューティングの未来として、持続可能な社会、より高度なモバイル体験、ビッグデータの活用などを実現しなければならない」と述べ、それぞれのテーマで説明を行なった。

 持続可能な社会やモバイル体験の向上という点では、今後都市のデジタル化が進んでいくだろうと述べ、より効率よくエネルギーを消費したり、電波の効率利用などの観点からの話が行なわれた。ラトナー氏は、デモとして天候の変化などにより、ユーザーの端末に通知して、より良いルートを示唆するなどのデモを行なったり、中国のキャリアと協力して開発しているC-RANと呼ばれるクラウド技術を利用した基地局の有効活用などについて説明した。

 そして、コンピューティング関連の話題としては、Intelが開発を続けているシリコンフォトニクスで、100Gbpsの通信速度を実現したことを明らかにした。

 シリコンフォトニクスが実用化されると、現在比較的大きな通信装置が必要な光通信が半導体レベルでできるようになり、通信速度を飛躍的に高めることができるなどのメリットがあるだけでなく、コストも大幅に削減できる。

 今回ラトナー氏は、同社のカリフォルニアにある研究所において、同社が開発した半導体モジュールを利用して100Gbpsで通信できた様子のビデオを公開した。また、このデモでは、IntelがCorningと共同で開発した新しいコネクタとケーブルが利用されており、そのコネクタを利用すれば最終的には1.6Tbpsにまで対応できるとラトナー氏は説明した。

 ラトナー氏によれば、シリコンフォトニクスに関しては、2013年後半にさらに大きな発表を予定しているとのことで、9月にサンフランシスコで開催される予定の秋のIDFで何らかの発表がされるだろう。

Intel CTOジャスティン・ラトナー氏
持続可能な社会を実現するためのさまざまな取り組み
ある場所に水がたまって通れなくなったら、それをユーザーの端末に自動で通知する実験
C-RANとよばれる仕組みを導入してより効率の良い基地局を実現する
Intelが開発を続けているシリコンフォトニクス
100Gbpsを超える通信を実現したシリコンフォトニクスは世界初
より詳しいアップデートは2013年後半、おそらくIDFで明らかになる

(笠原 一輝)