イベントレポート

産業用PCでもNVIDIA GPUやSnapdragon Xがトレンドに

AdvantechのAI・IoT 共創キャンパスに展示されているIPC用マザーボード、以前からのx86だけでなく、ArmベースのIPCも増えているという

 産業用コンピュータ(IPC)は、PCアーキテクチャを採用しながらOSに組み込み版(組み込み版Windowsや組み込み版Linuxなど)を採用した製品で、自動販売機、ATM、サイネージといったさまざまな用途に利用されている。そのIPC市場で、大きなシェアを持っているのが台湾のAdvantechだ。

 COMPUTEX TAIPEI 2024に合わせて、台北郊外の林口にある同社のIoT部門などの本社施設「AI・IoT 共創キャンパス」において、顧客などを対象にしたイベントを開催し、施設を公開。本レポートではそうした同社の様子、同社CEOによる講演などについてお伝えしていきたい。

市場シェア42.5%のAdvantech

Advantech AI・IoT 共創キャンパスの3号館、2023年に完工した最新のビル。Advantechの本社としてマーケティング部門などが入っている

 Advantechは1983年に台湾で創業された企業で、当初からIPCを主力事業として成長してきた。主にx86を採用したコンピュータを組み込み向けとして提供している。アーキテクチャそのものはPCと全く同じで、x86 CPU(最近はArmの場合も少なくない)、メモリ、ストレージ(HDDやSSDなど)といったコンポーネントは基本的にPCのそれを利用している。

 大きな違いはOSで、一般消費者向けやビジネス向けのPCではWindowsやmacOSなどが採用されているのに対して、IPCでは組み込み向けのWindowsやLinuxが採用されており、サポート期間もPC用のOSに比べて長めに設定されている。このため、既にサポート期間が終了したWindows XPやWindows 7をベースにした組み込み向けWindowsもいまだに現役で動いているという例も少なくない。

 主な応用事例は、意外とありふれたもので、たとえば銀行のATMなどはその最たる例だ。また、最近増えている高機能な自動販売機(たとえばカメラで購買者の年齢を判別してお勧めを変えるような自動販売機)なども、こうしたIPCがベースになっている。また、サイネージと呼ばれる電子広告を表示するディスプレイの裏側でもIPCが動いている例が少なくない。

 よく、SNSなどでそうしたサイネージでWindowsがブルースクリーンを出して止まっている写真などがネタとして投稿されているのを見るが、サイネージの裏側でこうしたIPCが動作しているからそういうことが起きるというわけだ。

 AdvantechはそうしたIPCのマーケットリーダーだ。資料によれば、イギリスの調査会社OMDIAによる2023年のIPC市場におけるAdvantechの市場シェアは42.5%になっている。2023年の売上高は3,084億円、2024年2月時点での時価総額は1.58兆円と、隠れたトップ企業の1つだ。

ソフトウェアのソリューションを充実

Advantech CEO KC・リュー氏

 Advantechのリーダーが、CEOのKC・リュー氏だ。1983年にAdvantechを創業したリュー氏は、それ以降40年に渡り同社をリードしており、現在の世界に冠たるIPCのリーディングカンパニーに成長させてきた。

 リュー氏は「Future Ready Conference」における基調講演において、これから従来のハードウェア・オリエンテッドな企業から、ソフトウェアも含めた総合的なIPCソリューションを提供する企業になっていくと強調した。

 現在はIPCの世界でも、「AI」や「生成AI」はキーワードになりつつあり、生成AIを利用したソリューションを多くの顧客が必要とし始めている。たとえば、Advantechが提供してきたIPCは、従来はIntelのCPUやGPUを乗せた製品がほとんどだったが、今ではそれに加えてNVIDIA GPUが搭載された製品が増えている。つまり、CUDAを利用したAIの推論を行なう製品が求められていることの裏返しと言える。

エッジコンピューティングは3段階で進化していくと、Advantechのリュー氏

 Advantechのリュー氏は「AIを活用するエッジコンピューティングは今後3段階で発展していくと考えている。第1段階はユースケースに対応していくこと。第2段階はバーチカル(垂直統合されていること)なソリューションになる。そして第3段階はアーキテクチャと呼ばれるITにより構築されていく統合された環境だ」と述べ、まずは企業のユースケースに合わせることから始まり、垂直統合的なシステムへと移行し、そして最終的にはIT、つまり個々のハードウェアとソフトウェアを組み合わせて実現していくシステムへと変わっていくと述べ、今後エッジコンピューティングはITベースのシステムに置き換わっていくのだと強調した。

プラットホーム(ハードウェア)、オーケストレーション(ミドルウェア)、セクター/ドメイン(産業別アプリケーション)をそれぞれ提供していく
異なるセクター/ドメイン(産業別)に向けてさまざまなソリューションを提供していく

 そうした市場に向け、Advantechは同社が得意としてきたハードウェアに加えて、ソフトウェアのソリューションも提供する。具体的には産業IoTの向けのWISE IoT、そしてエッジデバイスをサービス化するEdgeSync 360などの提供を開始しており、その上にセクターやドメインなどと呼ばれる個々の産業に合わせた使い方(ユースケース)を提案していくという仕組みを提供しているのだと説明した。

WISE IOTやEdgeSync360などを提供していく

 現在のIoTは従来の垂直統合型から、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークなどをそれぞれ別のベンダーが提供して組み合わせる形へと姿を変えつつある。そうした時代に対応できるよう、クラウドサービス事業者などが提供するセクターやドメインのアプリケーションと、ハードウェアベンダーが提供するハードウェアが協調して動けるような環境として、WISE IoTやEdgeSync 360を提供しており、Advantechのハードウェアを選択する顧客がすぐに応用事例を構築できるような環境を提供しているのだ。

日本の福岡県直方にも工場を設けているAdvantech

左側が2号館で工場セクション、右側が3号館でオフィスとなっている

 そうしたソリューションが、台湾の台北郊外の林口にある同社のIoT事業部本社兼林口工場で展示されている。同社の工場は世界で3カ所あり、それがこの林口、中国の昆山、そして日本の福岡県直方(のおがた)。日本にも工場があると言うと若干意外な感じがあるのではないだろうか。

 実はこの福岡県直方市にある工場は、元々はAdvantechが2018年にオムロンから買収を発表した工場(旧オムロン直方株式会社)がベースになっている。2022年に旧オムロン直方とAdvantechの日本販社(旧アドバンテック日本支社)が合併し、新しいアドバンテック株式会社としてスタートして、現在のアドバンテック日本法人が成り立っている。そのため、日本のアドバンテックは、グローバルのAdvantech支社の中で唯一製造工場と開発拠点を有する支社になっている。

 直方工場では、旧オムロン直方で製造していたオムロンからの受託製品が引き続き生産されているほか、Advantechの日本向けの製品の開発や製造も行なわれているという。4つのSMT(基板製造)ラインと、1つのシステム組み立てラインを有して、日本の顧客からのニーズに応じてAdvantech製品をカスタマイズして製造し、日本の顧客向けに開発した製品などが製造され、日本で販売される形になっているということだった。

3号館の入り口にあるAdvantechツリー、マザーボードの廃材などで作られている
IPCの利用事例を紹介するデモルーム。この事例は病院の患者受付システムのデモ
こちらは医療用のPCとモニター、いずれも医療グレードで作られている
各種IPC

 それに対してAI・IoT 共創キャンパスは、本社工場として機能しており、9つのSMTラインと16のシステム組み立てラインという、本拠地の工場らしい規模の生産ラインを備えている。それと同時に研究開発の拠点や、顧客に同社のソリューションを紹介するショーケースの役割をもっていることが特徴となっている。

 キャンパスは3つのビル群から構成されており、敷地面積は35,000平方mで最初のビルが2014年に設立された。なお、その1号館の様子は以前の記事でも紹介しているので、詳しくはそちらをご参照いただきたい。

コ・ワーキングスペース
体育館、バスケットボールの施設などが用意されているほか、全社集会などにも利用可能
2号館の地下には倉庫、この倉庫の上あたりが工場になっているが、残念ながら今回工場は非公開だった
まるで米国のIT企業のようなオシャレなカフェテリア、工場勤務の従業員の方が工場の服のままで休憩中なのが印象的だった

 その後工場として利用されている2号館が建設され、2023年に最新の3号館が建設され、3つのビルという体制が完成した。3号館にはオフィスやショールーム、カンファレンスセンターなどとして活用されているほか、体育館まで用意されており、ちょっとした運動会のようなイベントも開催されているという。

 また、コ・ワーキングスペースのような場所も用意されており、支社などから本社に出張してきた社員も快適に仕事ができるような環境が用意されている。

NVIDIA GPUによるAIやQualcommのSnapdragon Xなどに拡大中

IPC用のマザーボード、x86からArm、NVIDIA GPUまで幅広くラインアップされている。それだけ現代のIPCの需要は多種多様

 ショールームでは、前出のWISE-IOTやEdgeSync 360に対応した、各種の応用事例などが展示されていた。たとえば、病院の患者受付システム、看護師の医療コンピューター、銀行の顧客受付システムなどなど、多種多彩なアプリケーションが展示されていた。

NVIDIA GPU
IPC用メモリ
IPC用ストレージ
エッジAI環境も、IntelからNVIDIA Jetsonまで幅広くラインアップ
同社の新しいラインアップにはQualcommのSnapdragon Xシリーズも(出典:Advantech)

 また、IPC向けのマザーボードの展示では、IntelのCPU/GPUを搭載したSoCや、NVIDIAのGPUなどを搭載したものが数多く展示されており、現在のIPCの主流がGPUを利用したAIソリューションであることを実感できた。

 同社によれば、最近ではそうしたx86だけでなく、Armベースのソリューションも注目を集めつつあり、一般消費者向けWindowsで注目を集めているQualcommのSnapdragon Xシリーズもラインアップに加えているそうで、今後そうしたArmのIPCというのもより普及していくことになりそうだということだった。