イベントレポート

クールで安めのPCI Express 5.0 SSDがようやく登場へ?

Phisonのブース

 台湾にて開催中のCOMPUTEX TAIPEI 2024にて、数多くのメーカーがSSDの新製品を展示していたためまとめて紹介していきたい。

PCI Express 5.0のメインストリームへの展開、省エネ化とiPhone 15 Proを意識するコントローラメーカー

 まずはSSDの心臓部となるコントローラメーカーから紹介していきたい。

 今回COMPUTEX 2024ではPhison、SiliconMotion(SMI)、Realtekが出展している。

PCI Express 5.0をメインストリーム向けに展開するPhison

 まずはいち早く「PS5026-E26」という製品でPCI Express 5.0のコントローラを展開したPhisonから紹介する。

 Phisonでは、ハイエンド向けであるPS5026-E26に加えてメインストリーム向けとなる「PS5031-E31T」が展示されていた。

 このPS5031-E31TだがPS5026-E26よりも少し控えめな性能となってはいるが、巨大なヒートシンクが不要でノートPCにも使用することができるようになる。簡単に仕様を比較すると以下の通りだ。

PS5031-E31TPS5026-E26
リード10GB/s以上12.5GB/s
ライト10GB/s以上10GB/s
ランダムリード1,500K IOPS2,000K IOPS
ランダムライト1,500K IOPS1,500K IOPS
チャネル数4ch8ch
製造プロセスTSMC 7nmTSMC 12nm
DRAM-LPDDR4

 なお、PS5031-E31Tのリード/ライトがどちらも10GB/s以上となっているのは、現在の3,600MT/s NAND世代を使った場合約10GB/sとなるからであり、今後4,800MT/sのNAND世代が登場すると14GB/sに達するという。2024年の第3四半期に登場する予定だ。

 また、外付けSSDに目を向けてみると、USB4のSSDコントローラとなる「PS2251-21」紹介され、Phison自身がPS2251-21を採用した製品として「Talos Pro-M」を展示していた。

 Phisonはコントローラメーカーであるとともに、SSDなどフラッシュメモリを使った製品のOEM/ODMメーカーでもあるため、このままロゴだけもしくは筐体だけ変わった状態で発売されることもあるだろう。

 PS2251-21はUSB4という点が一番の特徴だが、最大16TBまで容量を認識できるところも大きい。

USB4からNVMeに変換することなく動作できるコントローラ。こちらも世界初
PS2251-21のスペック
PS2251-21を使った外付けSSD、Talos Pro-M
MagSafeの機構を使い固定し、iPhone 15 Proで使用することを想定している。

 今回ハイエンド向けとなるPS5026-E26の後継についてアナウンスはなかったが、開発はしているようで、2025年の第4四半期くらいではないかとのことだ。

熱くならないハイエンド向けで攻めるSiliconMotion(SMI)

SiliconMotionのブース

 続いてSiliconMotionだ。先ほど紹介したPhisonとSiliconMotionの2社についてはUSBフラッシュメモリやSDカードのコントローラなどをSSDが一般的になる前から手がけている言わばフラッシュコントローラの老舗である。

SM2508のスペック

 今回SiliconMotionがPhisonの対抗馬として展示していたコントローラがPCI Express 5.0のハイエンド向けとなるSM2508だ。

SM2508の主な仕様
リード14.5GB/s
ライト14GB/s
ランダムリード2,500K IOPS
ランダムライト2,500K IOPS
チャネル数8ch
製造プロセスTSMC 6nm
DRAMLPDDR4/DDR4

 TSMC 6nmプロセスで製造され、LPDDR4もしくはDDR4のDRAMに対応し、8チャネル仕様となっている。この仕様より、PhisonのPS5026-E26と同じくハイエンド向け仕様となっていることが分かる。

 SM2508の特徴を一言で言えば「ハイエンド向けだけれど熱くない」である。

 超大型ヒートシンクから解放されることにより、これまで搭載不可能だったノートPCにも搭載ができるようになるだろう。

ということでSiliconMotionはPCI Express 5.0で先行するPhisonを意識している内容で猛烈にアピールしている。なお、この動画は筆者に届いたプレス向け資料と同一である

 ブースでは実際にベンチマークのデモを見ることができた。

 デモ環境ではSM2508をヒートシンクなしの状態で動作させており、発熱の少なさをアピールしていた。ただ、たとえばこれを45℃に設定した恒温槽の中で24時間連続リード/ライトし続けたらどうなるかは不明だ。

コントローラにヒートシンクは取り付けられていない
CrystalDiskMarkでほぼスペックに近い結果となっている

 また、USB 3.2のSSDコントローラとなる「SM2232」の展示もあった。こちらは、SM2230の後継品となり、最大4TBから8TBにアップしている。

SM2322のスペック
iPhone 15 ProでProRes 4K 60フレームで約2時間録画できる(サンプルのSSDは2TB)

SATAだけれど省エネなコントローラをアピールするRealtek

8TBのSSDを使えばたくさんProRes 4K 60fpsで撮影できる

 Realtekは“SATAだけれど低い消費電力で動作”するSSDコントローラとなる「RTS5736DL」を展示していた。

 最大8TBをサポートし、もっとも電力消費の激しい書き込み時でも1.5W程度で済む。そろそろ読者も気づいて来る頃だと思うが、こちらは「iPhone 15 ProのProRes 4K 60fps録画」を見据えた提案である。

書き込み時でも1.5W程度に収まる。あとカニのシールがかわいい。グッズ化しないだろうか……
SSDのサンプル
USB to SATA変換基板を使えばiPhone 15 Proで認識ができる。アイドル時は1W以下だ。

 今回RealtekはPCI Express 5.0のSSDコントローラの展示はなく、Gen4で4チャネル、DRAMレスな「RTS5776DL」が2024年の第4四半期にエンジニアリングサンプル出荷、という情報くらいであった。

 ただロードマップ上ではPCI Express 5.0で4チャネル、DRAMレスな「RTS5781DL」が2025年第1四半期にエンジニアリングサンプル、時期は未定ながらもPCI Express 5.0で8チャネルの「RTS5782」が登場する予定だ。

 RTS5781DLについてはメインストリーム向けということもあり、消費電力に重きを置いた設計になるという。性能についてもPhisonのPS5031-E31Tに近い物になりそうだが、2025年第1四半期にエンジニアリングサンプルとなると、他社よりも遅れて出てくる感は正直ある。

RealtekのSSDコントローラのロードマップ

SSDメーカーによるPCI Express 5.0 SSDとiPhone 15 Proを意識したSSD

 続いてSSDを実際に販売するメーカーによる、PCI Express 5.0 SSDとiPhone 15 Proを意識したSSDを紹介していく。

Nextorage

 ソニーの流れを持つNextorageからは、開発中のPCI Express 5.0 SSDとなるハイエンド向けの」New X Series」とメインストリーム向けの「G Series HE」がneweggのブースで展示されていた。

 その中でもG Series HEはPhisonのPS5031-E31Tが採用されている。PCBを見る限りPhisonブースで展示されていた物とパターンやシルクが同一のため、コントローラと基板、NAND含めてPhisonから調達している可能性はあるだろう(元々ソニーのUSBメモリなどはPhisonが製造していたので納得できる話ではあるが)。ただ展示されているものはあくまでも開発中のため発売時にどうなるかは不明だ。

 一方のNew X SeriesはDRAM搭載となるため、SSDコントローラはPS5031-E31Tではないと考えられるが、現状展示されているものは現行品と変わらなかったため今後に期待したい。

PS5031-E31Tを搭載したG Series HE
PCI Express 5.0 SSDのスペック表とNew X Series
ROG AllyのようなポータブルゲーミングPC向けとして外付けSSDのG Series Portable、2230サイズのG Series MEも展示されていた。

SK hynix

 SSDメーカーでもあり、NANDやコントローラまで自社で手がけるSK hynix

 独自コントローラの「ALISTAR ACNT093」を搭載したコンシューマ市場向けとなる「Platinum P51 SSD」とPCメーカーへのOEM向けとなる「PCB01」が最新のPCI Express 5.0に対応したSSDとなる。基本的に仕向け先が異なるだけで性能は同一とのことだ。

新製品のPlatinum P51 SSDと現行品のPlatinum P41 SSD、外付けSSDのBeetle X31 SSD
コントローラのALISTAR ACNT093は DRAMもサポートしている模様。オールSK hynix構成だ。

ESSENCORE

 SKグループ傘下となるESSENCOREのブースでは、KLEVVブランドの「GENUINE G560」というPCI Express 5.0 SSDが展示されていた。

 こちらはPhison製のPS5026-E26が採用されている。

SK hynixとはラインナップが異なる

ADATA XPG

 ADATAブースでは、昨年(2023年)のCOMPUTEX TAIPEI 2023の目玉になっていた「Project NeonStorm」を引き続き展示していた。特に変わった様子はなかったのだが、搭載されるSiliconMotion SM2508のサンプルが上がってきたためか基板の展示もあった。

 Project NeonStormはSSDの熱をヒートスプレッダ経由で移動させ、水冷ケース、中空のアルミチューブ、そして両サイドの小型ファンで排熱という、いわゆる「爆熱仕様のSSDコントローラをパワーで解決する」ソリューションだったが、肝心のSM2508が思いのほかクールなヤツだったため完全にオーバースペックになっている。今後の動向に期待したい。

オタク心をガッチリと掴む仕様だが、性能を生かせる時は来るのだろうか……
各部品の説明

 また、もう1つのPCI Express 5.0 SSDとなる「LEGEND 970 PRO」は、昨年ではPhison PS5026-E26が採用される予定だったが、今年の展示では「InnoGrit IG5666」に変更されている。InnoGrit IG5666は12nmプロセスで製造されるSSDコントローラだが、市場に搭載製品は執筆時点では出荷されていない。

空冷ファン付きのため安定した冷却が期待できそう

Lexar

金のNM1090 PROと銀のNM990

 Lexarブースでは、3種類のPCI Express 5.0 SSDが新たに展示をされていた。

 ハイエンド向けとしてはSiliconMotion SM2508を搭載した「NM1090 PRO」とMaxio製コントローラ(JMicronのSSD部門がスピンアウトしたメーカー)を搭載した「NM990」が展示されている。

 また、メインストリーム向けとしてこちらもMaxio製コントローラを使った「NM980」も展示されている。NM980はPCI Express 5.0 SSDではあるが、速度がリード8GB/s、ライト7GB/sと抑えられており、同じMaxio製コントローラを使ったNM990との違いはコントローラの違いという。

 型番までは教えてもらえなかったが、NM980に実装されているSSDコントローラの形状が長方形だったため、おそらくこちらが4チャネルの「MAP1802」となる。よってNM990は8チャネルの「MAP1806」と推測している。

 なお、これらすべてヒートシンクフリーを謳っており、扱いやすい製品になりそうだ。発売時期については2024年の第4四半期から2025年の第1四半期頃を想定しているそうだ。

スペック表、NM1090はPhison製のコントローラを搭載している。
NM1090 PROのベンチマークができるようになっていた
メインストリーム向けのNM980も登場する

MSI

 MSIブースではPhisonのPS5031-E31T搭載を謳ったPCI Express 5.0 SSD、「SPATIUM M560」が展示されている。こちらも基板をよく見るとPhisonブースの物と同一のPCBを使用している。

 また、外付けSSD製品としてiPhone 15 ProでProRes 4K 60fpsで撮影できるようになる「DATA MAG」も展示されていた。

SPATIUM M560
1TBと2TBモデルが準備されるようだ
iPhone 15 Proを意識した外付けSSDはMSIからも登場する

Silicon Power

 Silicon PowerブースではPCI Express 5.0 SSDとしてUS85が展示されている。

 こちらはDRAMレス仕様でリード12GB/s、ライト10GB/sとなる製品で、ノートPCなどへの搭載も見込んだメインストリーム向けの製品となる。

 コントローラについては教えてもらえなかったが、PhisonでもSiliconMotionでもないとのこと。

メインストリーム向けPCI Express 5.0 SSDとなるUS85
iPhone 15 ProでProRes 4K 60fpsの撮影ができるようになるMX10
4TBまでのラインナップも準備され、ガチな構成向けとなるPX10。

Transcend

 TranscendブースではSiliconMotion SM2508を搭載したPCI Express 5.0 SSDが展示されている。型番まどまだ未定。

型番などはまだ決まっていないようだ

PATRIOT

 PATRIOTブースではMaxio製のDRAMレスコントローラとなるMAP1802を搭載した「Viper PD573」が展示されていた。また、ほかにもiPhone 15 Proを想定した外付けSSD製品なども展示されていた。

リード最高14GB/s、ライト最高12GB/sとなっているが、4800MT/sのNANDが必要になると考えている。
ProRes 4K 60fps対応はもうおなかいっぱいだが、Apple FindMyに対応した外付けSSDは面白そうだ

AGi

 AGiブースでは、PCI Express 5.0 SSDとしてSiliconMotion SM2508を搭載したSSDを展示していた。発売は2024年の第3四半期から第4四半期を予定しているという。

 なお、使用するNANDはソリダイムとのことだ(元々IntelのSSD部門と関係が深かった影響による)。

スペック表などの展示はなかった

振り返り

 最新のPCI Express 5.0 SSDについては、ハイエンド向け、メインストリーム向け共に巨大なヒートシンクが不要な製品が年末くらいから2025年にかけて発売されそうだ。

 特にこれまで搭載不可能だったノートPCにもPCI Express 5.0 SSDが使用できるようになると、ゲーミングノートPCはもちろんのこと、一般的なノートPCにも採用されていくことで性能の底上げに貢献できるだろう。ユーザーが体感できるかは分からないが……。

 外付けSSDについては、大容量のNANDのサポートやUSB4対応などこちらも性能は向上する一方で使用シーンについてはどこも「iPhone 15 ProでProRes 4K 60fpsが撮影できる」を売りにしているように思えた。

 確かに外付けSSDがなければこのモードで撮影はできないので必要にはなるのだが、そんなカジュアルな見た目の外付けSSDを使うユーザーがProRes使います? と思わずにはいられなかった。

 ここまで筆者がCOMPUTEX TAIPEI 2024で確認したSSD製品の一部を紹介してきたが、目玉となる次世代CPU(のチラ見せ)やチップセットに合わせてSSDの進化を感じることができた。おそらく来年(2025年)のCOMPUTEX TAIPEI 2025ではPCI Express 5.0 SSDやUSB4のSSDについてはより普及に向けた展開が進むと考えられる。どこまでラインナップが変わるのか楽しみだ。