イベントレポート
クールで安めのPCI Express 5.0 SSDがようやく登場へ?
2024年6月10日 10:23
PCI Express 5.0のメインストリームへの展開、省エネ化とiPhone 15 Proを意識するコントローラメーカー
まずはSSDの心臓部となるコントローラメーカーから紹介していきたい。
今回COMPUTEX 2024ではPhison、SiliconMotion(SMI)、Realtekが出展している。
PCI Express 5.0をメインストリーム向けに展開するPhison
まずはいち早く「PS5026-E26」という製品でPCI Express 5.0のコントローラを展開したPhisonから紹介する。
Phisonでは、ハイエンド向けであるPS5026-E26に加えてメインストリーム向けとなる「PS5031-E31T」が展示されていた。
このPS5031-E31TだがPS5026-E26よりも少し控えめな性能となってはいるが、巨大なヒートシンクが不要でノートPCにも使用することができるようになる。簡単に仕様を比較すると以下の通りだ。
PS5031-E31T | PS5026-E26 | |
---|---|---|
リード | 10GB/s以上 | 12.5GB/s |
ライト | 10GB/s以上 | 10GB/s |
ランダムリード | 1,500K IOPS | 2,000K IOPS |
ランダムライト | 1,500K IOPS | 1,500K IOPS |
チャネル数 | 4ch | 8ch |
製造プロセス | TSMC 7nm | TSMC 12nm |
DRAM | - | LPDDR4 |
なお、PS5031-E31Tのリード/ライトがどちらも10GB/s以上となっているのは、現在の3,600MT/s NAND世代を使った場合約10GB/sとなるからであり、今後4,800MT/sのNAND世代が登場すると14GB/sに達するという。2024年の第3四半期に登場する予定だ。
また、外付けSSDに目を向けてみると、USB4のSSDコントローラとなる「PS2251-21」紹介され、Phison自身がPS2251-21を採用した製品として「Talos Pro-M」を展示していた。
Phisonはコントローラメーカーであるとともに、SSDなどフラッシュメモリを使った製品のOEM/ODMメーカーでもあるため、このままロゴだけもしくは筐体だけ変わった状態で発売されることもあるだろう。
PS2251-21はUSB4という点が一番の特徴だが、最大16TBまで容量を認識できるところも大きい。
今回ハイエンド向けとなるPS5026-E26の後継についてアナウンスはなかったが、開発はしているようで、2025年の第4四半期くらいではないかとのことだ。
熱くならないハイエンド向けで攻めるSiliconMotion(SMI)
続いてSiliconMotionだ。先ほど紹介したPhisonとSiliconMotionの2社についてはUSBフラッシュメモリやSDカードのコントローラなどをSSDが一般的になる前から手がけている言わばフラッシュコントローラの老舗である。
今回SiliconMotionがPhisonの対抗馬として展示していたコントローラがPCI Express 5.0のハイエンド向けとなるSM2508だ。
SM2508の主な仕様 | |
---|---|
リード | 14.5GB/s |
ライト | 14GB/s |
ランダムリード | 2,500K IOPS |
ランダムライト | 2,500K IOPS |
チャネル数 | 8ch |
製造プロセス | TSMC 6nm |
DRAM | LPDDR4/DDR4 |
TSMC 6nmプロセスで製造され、LPDDR4もしくはDDR4のDRAMに対応し、8チャネル仕様となっている。この仕様より、PhisonのPS5026-E26と同じくハイエンド向け仕様となっていることが分かる。
SM2508の特徴を一言で言えば「ハイエンド向けだけれど熱くない」である。
超大型ヒートシンクから解放されることにより、これまで搭載不可能だったノートPCにも搭載ができるようになるだろう。
ブースでは実際にベンチマークのデモを見ることができた。
デモ環境ではSM2508をヒートシンクなしの状態で動作させており、発熱の少なさをアピールしていた。ただ、たとえばこれを45℃に設定した恒温槽の中で24時間連続リード/ライトし続けたらどうなるかは不明だ。
また、USB 3.2のSSDコントローラとなる「SM2232」の展示もあった。こちらは、SM2230の後継品となり、最大4TBから8TBにアップしている。
SATAだけれど省エネなコントローラをアピールするRealtek
Realtekは“SATAだけれど低い消費電力で動作”するSSDコントローラとなる「RTS5736DL」を展示していた。
最大8TBをサポートし、もっとも電力消費の激しい書き込み時でも1.5W程度で済む。そろそろ読者も気づいて来る頃だと思うが、こちらは「iPhone 15 ProのProRes 4K 60fps録画」を見据えた提案である。
今回RealtekはPCI Express 5.0のSSDコントローラの展示はなく、Gen4で4チャネル、DRAMレスな「RTS5776DL」が2024年の第4四半期にエンジニアリングサンプル出荷、という情報くらいであった。
ただロードマップ上ではPCI Express 5.0で4チャネル、DRAMレスな「RTS5781DL」が2025年第1四半期にエンジニアリングサンプル、時期は未定ながらもPCI Express 5.0で8チャネルの「RTS5782」が登場する予定だ。
RTS5781DLについてはメインストリーム向けということもあり、消費電力に重きを置いた設計になるという。性能についてもPhisonのPS5031-E31Tに近い物になりそうだが、2025年第1四半期にエンジニアリングサンプルとなると、他社よりも遅れて出てくる感は正直ある。
SSDメーカーによるPCI Express 5.0 SSDとiPhone 15 Proを意識したSSD
続いてSSDを実際に販売するメーカーによる、PCI Express 5.0 SSDとiPhone 15 Proを意識したSSDを紹介していく。
Nextorage
ソニーの流れを持つNextorageからは、開発中のPCI Express 5.0 SSDとなるハイエンド向けの」New X Series」とメインストリーム向けの「G Series HE」がneweggのブースで展示されていた。
その中でもG Series HEはPhisonのPS5031-E31Tが採用されている。PCBを見る限りPhisonブースで展示されていた物とパターンやシルクが同一のため、コントローラと基板、NAND含めてPhisonから調達している可能性はあるだろう(元々ソニーのUSBメモリなどはPhisonが製造していたので納得できる話ではあるが)。ただ展示されているものはあくまでも開発中のため発売時にどうなるかは不明だ。
一方のNew X SeriesはDRAM搭載となるため、SSDコントローラはPS5031-E31Tではないと考えられるが、現状展示されているものは現行品と変わらなかったため今後に期待したい。
SK hynix
SSDメーカーでもあり、NANDやコントローラまで自社で手がけるSK hynix
独自コントローラの「ALISTAR ACNT093」を搭載したコンシューマ市場向けとなる「Platinum P51 SSD」とPCメーカーへのOEM向けとなる「PCB01」が最新のPCI Express 5.0に対応したSSDとなる。基本的に仕向け先が異なるだけで性能は同一とのことだ。
ESSENCORE
SKグループ傘下となるESSENCOREのブースでは、KLEVVブランドの「GENUINE G560」というPCI Express 5.0 SSDが展示されていた。
こちらはPhison製のPS5026-E26が採用されている。
ADATA XPG
ADATAブースでは、昨年(2023年)のCOMPUTEX TAIPEI 2023の目玉になっていた「Project NeonStorm」を引き続き展示していた。特に変わった様子はなかったのだが、搭載されるSiliconMotion SM2508のサンプルが上がってきたためか基板の展示もあった。
Project NeonStormはSSDの熱をヒートスプレッダ経由で移動させ、水冷ケース、中空のアルミチューブ、そして両サイドの小型ファンで排熱という、いわゆる「爆熱仕様のSSDコントローラをパワーで解決する」ソリューションだったが、肝心のSM2508が思いのほかクールなヤツだったため完全にオーバースペックになっている。今後の動向に期待したい。
また、もう1つのPCI Express 5.0 SSDとなる「LEGEND 970 PRO」は、昨年ではPhison PS5026-E26が採用される予定だったが、今年の展示では「InnoGrit IG5666」に変更されている。InnoGrit IG5666は12nmプロセスで製造されるSSDコントローラだが、市場に搭載製品は執筆時点では出荷されていない。
Lexar
Lexarブースでは、3種類のPCI Express 5.0 SSDが新たに展示をされていた。
ハイエンド向けとしてはSiliconMotion SM2508を搭載した「NM1090 PRO」とMaxio製コントローラ(JMicronのSSD部門がスピンアウトしたメーカー)を搭載した「NM990」が展示されている。
また、メインストリーム向けとしてこちらもMaxio製コントローラを使った「NM980」も展示されている。NM980はPCI Express 5.0 SSDではあるが、速度がリード8GB/s、ライト7GB/sと抑えられており、同じMaxio製コントローラを使ったNM990との違いはコントローラの違いという。
型番までは教えてもらえなかったが、NM980に実装されているSSDコントローラの形状が長方形だったため、おそらくこちらが4チャネルの「MAP1802」となる。よってNM990は8チャネルの「MAP1806」と推測している。
なお、これらすべてヒートシンクフリーを謳っており、扱いやすい製品になりそうだ。発売時期については2024年の第4四半期から2025年の第1四半期頃を想定しているそうだ。
MSI
MSIブースではPhisonのPS5031-E31T搭載を謳ったPCI Express 5.0 SSD、「SPATIUM M560」が展示されている。こちらも基板をよく見るとPhisonブースの物と同一のPCBを使用している。
また、外付けSSD製品としてiPhone 15 ProでProRes 4K 60fpsで撮影できるようになる「DATA MAG」も展示されていた。
Silicon Power
Silicon PowerブースではPCI Express 5.0 SSDとしてUS85が展示されている。
こちらはDRAMレス仕様でリード12GB/s、ライト10GB/sとなる製品で、ノートPCなどへの搭載も見込んだメインストリーム向けの製品となる。
コントローラについては教えてもらえなかったが、PhisonでもSiliconMotionでもないとのこと。
PATRIOT
PATRIOTブースではMaxio製のDRAMレスコントローラとなるMAP1802を搭載した「Viper PD573」が展示されていた。また、ほかにもiPhone 15 Proを想定した外付けSSD製品なども展示されていた。
振り返り
最新のPCI Express 5.0 SSDについては、ハイエンド向け、メインストリーム向け共に巨大なヒートシンクが不要な製品が年末くらいから2025年にかけて発売されそうだ。
特にこれまで搭載不可能だったノートPCにもPCI Express 5.0 SSDが使用できるようになると、ゲーミングノートPCはもちろんのこと、一般的なノートPCにも採用されていくことで性能の底上げに貢献できるだろう。ユーザーが体感できるかは分からないが……。
外付けSSDについては、大容量のNANDのサポートやUSB4対応などこちらも性能は向上する一方で使用シーンについてはどこも「iPhone 15 ProでProRes 4K 60fpsが撮影できる」を売りにしているように思えた。
確かに外付けSSDがなければこのモードで撮影はできないので必要にはなるのだが、そんなカジュアルな見た目の外付けSSDを使うユーザーがProRes使います? と思わずにはいられなかった。
ここまで筆者がCOMPUTEX TAIPEI 2024で確認したSSD製品の一部を紹介してきたが、目玉となる次世代CPU(のチラ見せ)やチップセットに合わせてSSDの進化を感じることができた。おそらく来年(2025年)のCOMPUTEX TAIPEI 2025ではPCI Express 5.0 SSDやUSB4のSSDについてはより普及に向けた展開が進むと考えられる。どこまでラインナップが変わるのか楽しみだ。