イベントレポート

Intel、最大144コアの「Xeon 6 6700E」を正式発表

左がGranite Rapidsこと128基PコアのXeon 6 6900P、中央がSierra Forestこと144基EコアのXeon 6 6700E、右が同じSierra Forestだがダイが2つになっている288基EコアのXeon 6 6900E

 Intelは、6月4日から台湾・台北市で開催中のCOMPUTEX TAIPEI 2024に出展。本日11時(現地時間)から行なわれている同社CEO パット・ゲルシンガー氏の基調講演の中で同社の最新製品やソリューションなどを発表している。

 この中で、Intelは薄型軽量ノートPC向けの次世代SoCとなるLunar Lakeの技術概要を発表したほか、これまで開発コードネーム「Sierra Forest」で呼ばれてきたデータセンター向け製品を「高効率コア搭載 インテルXeon 6 プロセッサー 6700Eシリーズ」(英語名ではIntel Xeon 6 processors with Efficient-cores 6700E Series、以下Xeon 6 6700E)として正式発表した。

 Xeon 6 6700Eは、PC向けのハイブリッド・アーキテクチャで使われている2種類のCPU(Pコア、Eコア)のうちEコアを採用した製品で、電力効率が従来の製品に比べて大幅に改善されているため、クラウドサービス事業者(CSP)で採用が進むデータセンター向けのArmプロセッサーに対する競合製品として投入されることになる。

Xeon 6には2種類のCPUコアと、2種類のCPUソケットがある

Xeon 6 6700E、Sierra Forestの1ダイ(144コア)版。上下のダイはI/Oタイル

 今回Intelは、「インテルXeon 6 プロセッサー」という製品ファミリのうち、最初のシリーズとしてXeon 6 6700Eを発表した。

 従来、IntelのXeonブランドは、「第4世代Xeon スケーラブル・プロセッサー」となど製品名に世代名と「スケーラブル」が入っていたが、この世代から世代を表わす数字はXeonの後に、そしてスケーラブルの文字は外された。この変更は4月に行なわれたIntel Vision 24という年次イベントで既に発表されている。

 今回発表されたのはそのXeon 6の技術的な詳細と、正式な製品発表として、そのうちXeon 6 6700Eというシリーズが発表されたことになる。

 Xeon 6には、開発コードネームでSierra Forest、Granite Rapidsの2つが用意されており、前者にはEコアが、後者にはPコアが採用されている。また、6700シリーズ用、6900シリーズ用の2つのCPUソケットが用意されており、それぞれにEコア版、Pコア版が用意されている形になる。

ヒートスプレッダがついた状態のXeon 6 6900E(Sierra Forest、2ダイ)、2025年第1四半期に正式発表予定
ヒートスプレッダが外されたXeon 6 6900E
Granite Rapids、3ダイ版となるXeon 6 6900P、第3四半期に正式発表予定

 こうした構成が可能になっているのは、Sierra Forest、Granite Rapidsのダイ構成にある。両製品はダイのうちI/Oタイルはまったく同等のものを2つパッケージ上に搭載しており、パッケージ上のI/O配置などはまったく同等になっている。

 また、メモリコントローラはCPUタイルの内部にあるが、これも構造などは共通で、CPUのアーキテクチャによる若干の違いをマザーボードのファームウェアで吸収することで、ピン互換を実現しているのだ。

Xeon 6のハイレベルの概要、左が6700シリーズのパッケージで、右が6900のパッケージ。同じCPUパッケージの場合にはピン互換になっている

 このため、Xeon 6には以下の製品群があることになる。

【表1】Xeon 6の製品シリーズのスペック
Xeon 6 6700EXeon 6 6700P/6500P/6300PXeon 6 6900EXeon 6 6900P
開発コードネームSierra ForestGranite RapidsSierra ForestGranite Rapids
CPUソケット6700用6700用6900用6900用
ソケット数1~21~2/4~81~21~2
ダイ構成1xCPU+2xI/O1~2xCPU+2xI/O2xCPU+2xI/O3xCPU+2xI/O
CPUコアCrestmontRedwood CoveCrestmontRedwood Cove
CPUコア数(最大)14486288128
製造プロセスノード(CPUタイル)Intel 3Intel 3Intel 3Intel 3
製造プロセスノード(I/Oタイル)Intel 7Intel 7Intel 7Intel 7
MCR DIMM対応-対応-対応
メモリチャンネル数881212
PCIe Gen 5最大88レーン最大88レーン最大96レーン最大96レーン
UPI最大4レーン(24GT/s)最大4レーン(24GT/s)最大6レーン(24GT/s)最大6レーン(24GT/s)
最大TDP350W350W500W500W

 第4世代Xeon SP(Sapphire Rapids)、第5世代Xeon SP(Emerald Rapids)では、2.5DチップレットとなるEMIBを採用して、チップレット構造をデータセンター向け製品でも初めて導入した(それまではモノリシック構造)。今回のXeon 6ではそれをさらに進めて、PCI ExpressなどのI/Oタイルを分離し、それをパッケージ内に2つ実装する形で、CPUタイルと混載している。

Xeon 6のダイバリエーション
各シリーズの特徴
Xeon 6 ダイの構造

 CPUタイルは、Sierra Forestが1つないしは2つ、Granite Rapidsは1つ~3つ、および別に小型版のタイルが1つという4種類の構成が用意されており、それぞれの製品に採用される形となる。

 従来の第4世代Xeon SPやそのバリエーションになる第5世代Xeon SPではCPUタイルにI/Oも統合されていたため、構成の柔軟性がやや低かったが、Xeon 5ではI/Oタイルを分離したことでその問題が解決したと言える。

 なお、CPUタイルはIntel 3で製造され、I/OタイルはIntel 7で製造される。クライアントPC向けのLunar LakeがTSMCのノードで製造されるようになったが、データセンター版は依然としてIntelのプロセスノードで製造されることになる。

Granite RapidsはRedwood Cove、Sierra ForestはCrestmontでAVX512/AMXには未対応

Pコア(Granite Rapids)がRedwood Cove、Eコア(Sierra Forest)がCrestmont

 今回のXeon 6に採用されているCPUコアは、Pコア(Granite Rapids)がRedwood Cove、Eコア(Sierra Forest)がCrestmontになる。いずれも昨年Core Ultraとして発表されたMeteor LakeのCPUコアに採用されているものになる。それぞれのCPUコアの詳細に関しては、以下の記事で詳しく紹介しているのでご参照いただきたい。

 1つだけ注意したいのが、Crestmontの命令セットだ。IntelのEコアは現状、Lunar Lakeに搭載されている最新版の「Skymont」も含めてAVX512やAMX(Advanced Matrix eXtentions)には対応しておらずAVX2(256bitのAVX)までにしか対応していない。その1つ前の世代になるCrestmontもそれは同様なので、Sierra Forestも、AVX512とAMXには未対応になる。

CrestmontのSierra ForestはAVX512とAMXには未対応

 このことは、AIのようにピーク性能を重視する環境で使う場合には性能が低下するという意味で大きな問題になるがだが、Sierra Forestがターゲットしているマイクロサービス(たとえばDockerなどのコンテナーやWebサーバーなど)では「ないよりはあった方がいいが」という程度に過ぎない。

 ただ、AVX512とAMXに対応したアプリをSierra Forest上で動かしても、AVX512/AMXは使われないで演算されるだけなので、ソフトウェアが動かないというソフトウェアの互換性上の問題は発生しないので、利用する側からするとAVX512やAMXを使ってガチガチに性能を引き上げようとしている場合でなければ大きな問題ではないし、必要ならGranite Rapidsを選べば良いということだ。

 CPUタイルの構造はモジュール化されており、ダイ単位でメッシュ構造になっている。ダイとダイを接続するEMIBがL3キャッシュとCPUコアを、パッケージ全体で共有することができるようになっている.NUMAのドメイン構成は第4世代、第5世代同じようにパッケージ全体で構成することもできるし、ダイ1つ1つで構成したりなど柔軟な構成が可能になっている。

MCR DIMM(昨年9月のIntel Innovation 23で撮影)

 メモリ周りも拡張されている。第5世代Xeonでは8チャネルのメモリコントローラが搭載されていた。6700シリーズに関しては8チャンネルで同じだが、6900シリーズは12チャンネルにメモリチャンネルが増やされており、メモリ帯域が上昇する。

 同時に(Pコアだけだが)通常のDIMM(DDR5-6400)だけでなく、MCR DIMMも利用することが可能でその場合は8800MT/sの転送レートが利用でき、さらにメモリ帯域幅を引き上げることが可能だ。

CXL 2.0に対応する

 また、いずれの環境も、新しくCXL 2.0に対応(第5世代XeonではCXLに対応したが1.1にのみ対応)し、CXLメモリと呼ばれるCXL上でデータの同一性が確保されるCXL Type3がサポートされる。これにより、従来のDDR4 DIMMを使い回して、メインメモリの容量を拡張するなどの使い方が可能になる。

 もちろん性能や低遅延ではDDR5 DIMMやMCR DIMMにまったく敵わないが、インメモリデータベースのように性能よりもメモリ容量というアプリケーションで大きな効果を発揮する。

Xeon 6 6700Eは第2世代Xeon SPと比較して性能では2.6倍、電力効率4.2倍、ラック数では3分の1になる

Xeon 6 6700Eの性能

 Intelは、今回発表したXeon 6 6700Eの性能を、第2世代Xeon SPと比較して2.6倍、電力効率は4.2倍になっていると説明している。同じ性能でよければ必要なラック数は3分の1になると説明しており、4年間で8万 MWhの電力を削減することが可能で、3万4千 mtのCO2削減が可能になると強調している。

 なお、Xeon 6 6700EのSKU構成は以下の通り、従来のXeon製品に比べるとシンプルなSKU構成になっている。

【表2】Xeon 6 6700EのSKU
CPUコアベースクロック全コア/ターボ時最大ターボ時L3キャッシュTDP最大ソケット数DDR5メモリ(1DPC)TDXキーUPIPCIeレーン数DSAIAAQATDLB長寿命提供
6780E1442.2GHz3GHz3GHz108MB330W2640020484882222
6766E1441.9GHz2.7GHz2.7GHz108MB250W2640010244882222
6756E1281.8GHz2.6GHz2.6GHz96MB225W2640010244882222-
6746E1282GHz2.7GHz2.7GHz96MB250W2560010244882222-
6740E1122.4GHz3.2GHz3.2GHz96MB250W2640010244882224
6731E962.2GHz3.1GHz3.1GHz96MB250W1560010240882222-
6710E642.4GHz3.2GHz3.2GHz96MB205W2560010244882224

 Intelがこうしたことを強調するのは、CSPが続々と独自にデザインしたArm CPUを自社のデータセンターに導入していることを強く意識しているものと見られている。昨年(2023年)の11月にMicrosoftが「Cobalt 100」を、そして今年(2024年)の4月にはGoogleが「Google Axionプロセッサ」をそれぞれ導入している。その2社に先だって、AWSは昨年の11月には「Graviton4」を投入している。

Microsoft Cobalt 100(5月のMicrosoft Buildで撮影)
Google Axion(4月のGoogle Cloud Next'24で撮影)
AWS Graviton4(昨年11月のAWS re:Invent 23で撮影)

 そうしたCSPはいずれも、「x86プロセッサと比較して高い電力効率を実現し……」のような形でそのメリットをアピールしており、今回のXeon 6 6700EがターゲットにしているマイクロサービスなどにArm CPUを利用している現状だ。Intelとしてはそうしたトレンドに歯止めをかける必要があったわけで、その答えがXeon 6 6700Eということになる。

Intel 副社長 兼 Xeon Eコア製品担当 事業部長 ライアン・タブラ-氏

 ただし、Intelもすべて予定通りにいっているかと言えばそうではない。今回IntelはXeon 6 6700Eを正式発表することはできたが、Granite RapidsことXeon 7 6900Pはもともとの予定だった、Sierra Forestのすぐ後からややずれ込んで第3四半期になったし、Sierra Forestの目玉だった2ダイ/288コアのXeon 6 6900Eは来年の第1四半期になってしまったのは誤算だ。

 Intelはそれがどういうことで発生しているのか(そもそも予定通りなのか遅れなのか)に関して明確にはしていないが、Intel 副社長 兼 Xeon Eコア製品担当 事業部長 ライアン・タブラ-氏は「今回のXeon 6は顧客からの引きが非常に強く、準備が整ったものから順次投入することにした」と述べ、顧客の必要なものから投入することにしただけだと述べるに留まった。

IntelのXeon 6製品展開計画
第3四半期に投入が計画されているXeon 6 6900Pの概要

 今後、第3四半期にPコア/128コアのXeon 6 6900Pを第3四半期に、Eコア/288コアのXeon 6 6900Eを25年第1四半期に、そしてPコア/最大86コアのXeon 6 6700P、6500P、6300PというPシリーズのメインストリームからバリュー向けをリリースする。

 また、同じ第1四半期にはXeon 6 SoCというネットワーク事業者向けのSoC版もリリースする計画になっているとロードマップを明らかにしている。