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なぜMeteor Lakeでは2種類のEコアがあるのか

Meteor LakeのCPUコアは、Pコア、Eコア、低電力Eコアの3種類が搭載されており、低電力Eコアだけで動作するとアイドル時の低消費電力を実現(出典:Architecting Our Next Gen Power Efficient Processor、Intel)

 Intelは、9月19日(現地時間)よりアメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼ市にあるサンノゼ・コンベンションセンターで、同社の年次イベント「Intel Innovation 2023」を開催する。Intelはその開幕に先立って報道発表を行ない、年内に発表を予定している次世代クライアントPC向けプロセッサ「Meteor Lake」の概要を明らかにした。

 その概要に関しては別記事で説明している通りで、コンピュートタイル(CPU)、グラフィックスタイル(GPU)、SoCタイル(SoC)、IOタイル(I/O)の4つのチップがベースタイルと呼ばれる基礎チップ上で3D方向に積載される3Dのチップレット技術(Intel Foveros)によりSoCが構成されている形になっている。

 いわゆるCPUに該当するのがコンピュートタイルで、Intelの最新プロセスノードであるIntel 4で製造されるチップとなる。Intelのハイブリッド・アーキテクチャに基づく、Pコア(Performance Core、高性能コア)であるRedwood CoveとEコア(Efficiency Core、高効率コア)のCrestmontから構成されている。

PコアはL1/L2キャッシュを改良したRedwood Coveを採用している

4つのタイルがベースタイルの上に3D積層されているMeteor Lake(出典:Architecting Our Next Gen Power Efficient Processor、Intel)

 Intelは、第12世代インテルCoreプロセッサ(以下第12世代Core、Alder Lake)で、「パフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャ」と呼ばれるハイブリッドなCPUアーキテクチャを導入した。

 具体的には、第11世代インテルCoreプロセッサ(以下第11世代Core、Tiger Lake)以前のCoreプロセッサのCPUとして採用されてきた低レイテンシで動作するCPUをPコアと定義、従来はAtomプロセッサ向けに投入してきたCPUデザインをEコアと定義、その2つの種類のCPUを1つのダイの上に搭載する形で、ハイブリッドコアのCPUを実現した。

【表1】IntelのCPUアーキテクチャコードネーム
ブランド第10世代Core第11世代Core第12世代Core第13世代CoreCore Ultra
開発コードネームIce LakeTiger LakeAlder LakeRaptor LakeMeteor Lake
PコアSunny CoveWillow CoveGolden CoveRaptor CoveRedwood Cove
Eコア--GracemontGracemontCrestmont

 Pコアの系列は、第10世代Core(Ice Lake)で導入されたのがSunny Coveで、第11世代のWillow Cove、そして第12世代のGolden Coveとなっており、後ろに“Cove”がつくため通称「Coveシリーズ」と呼ばれている。

 一方EコアはAtom系列だが、「Silvermont」、「Airmont」、「Goldmont」、「Tremont」、「Gracemont」のように、こちらは“mont”が後ろにつく形になるので、通称「Montシリーズ」と呼ばれている。

 今回のMeteor Lakeで導入されたのは、いずれもその後継の最新版となり、より改良され、性能が向上した「Redwood Cove」、「Crestmont」の2つになる。

Redwood Cove(出典:Architecting Our Next Gen Power Efficient Processor、Intel)

 Redwood Coveは、Golden Coveの後継。Intelは詳細を明らかにしていないが、公開されたブロック図を見る限りは6ワイドアロケーションで、12個の実行ポートを持つように見え、その点ではアーキテクチャ的にGolden Coveと大きな違いはないように見える。

 IntelはRedwood Coveの特徴を、電力効率の改善、内部の帯域幅の改善、パフォーマンスを管理するモニタリングユニットの改善、より詳細なフィードバックがIntel Thread Directorに対してできる点などを挙げており、普段詳細な説明をするIntelにしては抽象的な表現にとどまっている。

 ただ、明快なGolden Coveからの改良点としては、キャッシュ階層の見直しが挙げられる。

【表2】Golden CoveとRedwood CoveのL1/L2キャッシュの違い
Golden CoveRedwood Cove
L1命令/CPUコア48KB64KB
L1データ/CPUコア32KB48KB
L2キャッシュ/CPUコア1.25MB2MB

 Golden CoveではCPUコア1つあたりL1キャッシュが48KB(命令)+32KB(データ)、L2キャッシュは1.25MB(第13世代で採用されたRaptor Coveでは2MBに増やされた)という階層になっていた。それに対してRedwood CoveではL1が64KB(命令)+48KB(データ)、そしてL2キャッシュは最初から2MBになっている。こうしたより演算器に近い方の階層のキャッシュが改良されているのがRedwood Coveの特徴と言えるだろう。

 ただし、Intelはこれ以外の情報(たとえば、Redwood CoveのL3キャッシュに関して、CPUコア数に関して)などは明らかにしなかった。Intelが公開したブロック図などを見る限りは、6コアとL3キャッシュらしき部分が見えるが、現時点ではあくまで推測に過ぎないことはお断わりしておく。

EコアはCrestmont、SoCタイルにも低電力Eコアを搭載し、3Dハイブリッド・アーキテクチャに

Crestmont(出典:Architecting Our Next Gen Power Efficient Processor、Intel)

 新しいEコアになるCrestmontに関しても同様だ。IPCの向上や分岐予測の改善、そしてIntel Thread Directorへのフィードバックの改善をアピールし、特に具体的に新しい何かは明らかにしなかった。

 キャッシュ階層に関しては、従来のGracemontと同じ64KB(命令)+32KB(データ)、L2キャッシュは最大4MBとなり、基本的には大きな変更はない。

 なお、拡張命令に関しては、Crestmontでも、AVX256までの対応となり、AVX512にも対応しないことになる。Pコア側のRedwood Coveに関してはAVX512に対応していると思われるが、Eコア側がAVX256までの対応となるため、SoC全体としてAVX256までのサポートに限定されることになる。

 ただし、AVX256の追加命令となるVNNI命令を実行する際のポート数が増えるなどにより、AI推論時の性能は向上するとIntelは説明している。

デュアルコアのCrestmontが低消費電力で動くような設定がされてSoCタイルに実装されている(出典:Architecting Our Next Gen Power Efficient Processor、Intel)
3つの種類のCPUコアがあることになるため、3Dパフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャと呼んでいる(出典:Architecting Our Next Gen Power Efficient Processor、Intel)
低電力Eコアだけで動くとWindows OSがアイドル時などに従来よりも低消費電力で動作する(出典:Architecting Our Next Gen Power Efficient Processor、Intel)

 Meteor LakeのEコアで特徴的なのは、コンピュートタイルではなく、SoCタイルと呼ばれるSoCの中核チップにも、Intelが低電力Eコア(LP E Core)と呼んでいる、デュアルコアのEコアが用意されていることだ。

 このEコアもベースになっているのはCrestmontで、SoCタイルのプロセスノードであるTSMC N6(6nm)に最適化され、周波数などを抑えるなどして、低消費電力で動作するような実装を行なうことで、低消費電力で動くようになっていることが大きな特徴だ。

 これにより、Meteor Lakeでは、Pコア、Eコア、そして低電力Eコアという3つの種類のCPUが存在することになる。Intelはこのハイブリッド・アーキテクチャを「3Dパフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャ」と呼んでいる。

Intel Thread Directorの仕組み(出典:Architecting Our Next Gen Power Efficient Processor、Intel)
第13世代Coreからはスケジューリングのやり方が改良されている。まずは低電力Eコアだけで動かそうとし、性能的にそれでは足りない場合にコンピュートタイルのCPUを使う仕組み(出典:Architecting Our Next Gen Power Efficient Processor、Intel)
従来と同じようにIntel Thread Directorを利用するにはWindows 11が必要(出典:Architecting Our Next Gen Power Efficient Processor、Intel)

 第12世代/第13世代CoreのIntel Thread Directorでは、CPUからのフィードバックを元にして、高い処理性能を必要とするスレッドをPコアに割り当て、そうではないものをEコアに割り当てるなどの処理を行なっていた。それに対してMeteor LakeのIntel Thread Directorでは、まずできるだけSoCタイルの低電力Eコアに割り当てる。そして低電力Eコアでは処理しきれない場合に、コンピュートタイルのEコアやPコアに割り当てるという仕組みを採用している。

 つまり、低電力Eコアで十分な場合には、コンピュートタイルはオフになるので、少ない消費電力でOSのアイドル状態などに対応できることになる。

 この点が今回のMeteor LakeでのCPUの大きな強化点と言え、ノートPCのようにバッテリで動いている時にはできるだけ少ない電力で動き、ACアダプタを接続して多少高い消費電力であっても高い性能で動くという理想が実現することになる。