イベントレポート
マルチプラットフォームに本格的に舵を切るAdobe
~Adobe MAXでPhotoshop CC for iPad登場。フォントの無制限利用も提供
2018年10月16日 12:52
Adobe Systemsは、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスにあるロサンゼルス・コンベンションセンターにおいて、同社のサブスクリプション型クリエイター向けツール「Creative Cloud」のユーザーなどを対象にした年次イベント「Adobe MAX」を10月15日~10月17日(現地時間)の3日間にわたり開催している。
現地時間10月15日午前9時からは初日の基調講演が開かれ、同社の新製品や今後製品として投入する開発中製品の開発意向表明が行なわれた。
Adobeのビジョンはマルチデバイス、マルチプラットフォームへ
基調講演の冒頭に登場した、Adobe Systems CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏は、「Adobeの使命はより多くのクリエイターに優れたツールを提供することだ。クリエイターは、デザイナーやイラストレーターだけでなく、学生や映画ディレクターなどさまざまな人達がいる。彼らはそれぞれ語るべき内容を持っており、Adobeはそうした彼らの想いを後押ししていく」と述べ、今後も優れたクリエイターツールを提供し続けると強調した。
その上でナラヤン氏は「ところが、現在のクリエイティブツールはキーボードとマウスに制限されている。Adobeとしてはそれを解放して、どんなデバイスでも、どこでもクリエイターが思いのままに創作活動ができることを可能にするツールを提供していきたい」とする。
そして、「それがこれからのCreative Cloudのビジョンだ」と述べ、キーボードやマウスといった従来型のUIにとらわれない新しいかたちのデバイスやモバイルに、マルチプラットフォームで対応していくことがこれからのAdobeが目指すところだとした。
XDが音声認識コンテンツの作成に対応、TypeKitはAdobe Fontsへ名前が変わり機能拡充
その後登壇したのは、Adobe Systems CPO(最高製品責任者) 兼 Creative Cloud担当上席副社長 スコット・ベルスキー氏。ベルスキー氏はAdobeがCreative Cloudを導入してからの歴史についてふれ、デスクトップアプリケーションだけでなく、BeHanceなどのコミュニティサイト、AI/マシンラーニングプラットフォームとなるAdobe Senseiを導入してきた経緯を説明。
「今回はそのなかでも大きな進化になる。デスクトップからマルチデバイス、マルチプラットフォームへとCreative Cloudが変わっていく」と述べ、具体的な進化について各製品担当から具体的な進化への説明が行なわれた。
今回の基調講演に先駆けて、現地時間同日午前6時には、Creative Cloudの各アプリケーションがバージョンアップされており、基調講演ではその内容説明が行なわれた。
Photoshop CCではコンテンツに応じた塗りつぶしの機能が用意されていたり、フレームツールにより直感的なレイアウトが可能になる点などが説明された。また、デザインツールのXDでは、コンテンツに音声認識機能を実装する機能が紹介され、それをAmazonのEchoから音声認識で利用する様子がデモされた。
また、従来のTypekitとして提供されてきたCreative Cloudのフォント機能が「Adobe Fonts」とブランド名が変更され、従来は100フォントまでしか同期できないなどの制限が撤廃され、無制限で利用できるようになったことなどが説明した。
2019年に登場予定のPhotoshop CC for iPad、フル機能を持つPhotoshopがiOSに
ついで紹介されたのは、今回のAdobe MAXの目玉と言える、Photoshop CC for iPad。その名のとおりiPad向けのPhotoshopだが、従来のPhotoshopブランドで提供されていたPhotoshop Mix/Fix/SketchなどのiOS/Android向けのモバイルアプリケーションが機能限定版で、それぞれのアプリケーションも機能で限定されていたのに対して、今回発表されたPhotoshop CC for iPadの特徴は、(基本的に)フル機能のPhotoshopであることが大きな違いになる。
デスクトップ版のPhotoshopと同じ機能を有しており、Photoshopの特徴とも言えるレイヤー機能、ブラシ、さらにデスクトップアプリと同じようにPSDファイルを開けるため、完全にデスクトップアプリケーション代わりとして利用可能だ。
Creative Cloud Syncの機能を活用して、Windows/macOSのデスクトップアプリケーションとファイルをクラウドを経由して同期することもできる。
Photoshop CC for iPadは2019年に提供開始される予定で、CCと名前がついている以上、Creative Cloudのサブスクリプションの一部として提供される見通しだ。
ベルスキー氏は「今回のPhotoshop CC for iPadは、30年の集大成であるPhotoshopのコードを研究し、多くの議論を重ねて作り上げた製品」と述べ、開発に多くの時間をかけたことを示唆した。
その上で、このPhotoshop CC for iPadを開発するにあたりデバイスメーカーであるAppleと協力したことを明らかにし、Appleワールドワイドマーケティング担当上級副社長 フィル・シラー氏壇上に呼び、AdobeとAppleの協力関係に関しての話が繰り広げられた。
AdobeとAppleは一時期競合関係にあったため、AdobeのイベントにAppleの関係者が登壇するのは異例なことで、シラー氏が壇上に呼ばれると、会場からは大きな驚きの声が上がった。
最後にベルスキー氏はシラー氏に「Content Aware Phill」と書かれたジャケットを渡すと、会場からは大きな笑いが起きた。というのも、Photoshopに搭載されている有名な機能で「Content Aware Fill」という機能があり、そのFillに引っかけてフィル・シラー氏のファーストネームである「Phill」としたジョークで、Photoshopに詳しい参加者が多いAdobe MAXでは大ウケしていた。
Premiere Rush CCが正式発表、PhotoshopとIllustratorの機能を併せ持つProject Geminiは2019年に
Lightroom CCやPremiere CCなどのバージョンアップが紹介された後、今回のCreative Cloudのバージョンアップのなかで、唯一の新製品となる「Premiere Rush CC」を発表した。
Premiere Rushは、これまでProject Rushの開発コードネームで開発されてきた製品で、Premiere Pro譲りのプリセットを持った編集機能を持っていながら、初心者でも簡単に扱える容易なユーザーインターフェイスを採用していることが最大の特徴だ。
YouTuberや動画サイトの編集者といった、Premiere Proを使いこなすほどの専門知識はないが、手軽にかつ高品質なインターネットで公開する動画を作成したいというニーズに応えることができる。
今回公開されたのはWindows/macOS版のデスクトップアプリケーションと、iOS(iPad/iPhone)版のアプリケーションで、今後Android版も順次公開される予定。日本ではCreative Cloudのコンプリートプランのサブスクリプションを持っているか、Premiere Pro単体のライセンス(月額2,180円、税別)ないしはRushの単体版(月額980円、税別)を契約する必要がある。
なお、Premiere Rush CCスタータープランと呼ばれるデスクトップアプリ/モバイルアプリを利用できる体験版も用意されており、プロジェクトは無制限で作成できるが動画の書き出しは3プロジェクトまでと制限がつけられている。
また、Adobeが2019年にリリース予定と開発意向表明を行なったのがProject Gemini(プロジェクト・ジェムナイ、開発コードネーム)だ。Project Geminiは、iOS版が先行して開発されているドローとペイントを1つにしたようなツール。Adobeのアプリケーションで言えばPhotoshopとIllustratorを1つにしたようなソフトウェアと考えればわかりやすい。
Photoshopのようにビットマップとして描画することもできるし、Illustratorのようにベクターデータとして描画することも可能になっている。今回のAdobe MAXでは絵の具を混ぜるように複数の色を塗り重ねて混ぜたり、Photoshopのブラシを利用して、水彩画のように書く様子などがデモされた。
プログラムの素養がないデザイナーでも簡単にARコンテンツが作れるProject Aeroも2019年に投入へ
基調講演の最後に登壇したのがAdobe 上席副社長兼CTO(最高技術責任者)のアベイ・パラスニス氏。パラスニス氏はAdobeがAppleが6月に開催した開発者会議WWDCで概要を明らかにした、AR作成ソフトウェア「Project Aero」(プロジェクトエアロ)を紹介した。
Project Aeroには3つの特徴があり、1つ目はCreative CloudアプリとしてほかのCCアプリと連携しながらARコンテンツが作成できること、2つ目がデスクトップアプリとモバイルアプリの両方に対応していること、そして3つ目がAppleと協力して業界標準化を目指しているusdzファイル形式を利用できることで、ほかの環境でも使えるARコンテンツを作成可能だ。
デモではCreative CloudのアプリケーションであるPhotoshop CCやDimension CCで作成した3Dデータを読み込んで、それを元にARコンテンツを作るという作業が公開された。これまでこうしたARコンテンツを作成するには、プログラミングの素養が必要で、Creative Cloudでデザインを行なうデザイナーなどには高いハードルになってしまっていた。
しかし、彼らが使い慣れたPhotoshopやDimensionで元データを作り、Project Aeroに読み込ませるだけで簡単にARコンテンツを作れてしまうので、ARに興味があるデザイナーには要注目と言える。
デモではPhotoshopでレイヤーを作成したPSDファイルをProject Aeroで読み込み、Z方向の重み付けをするだけで、簡単にARが作れる様子が公開され、多くのクリエイターから拍手喝采を浴びていた。
Project Aeroは2019年に投入予定で、現在ベータ版として用意されているのはiOS版だが、Adobeでは将来的にはほかのプラットフォーム(たとえばWindowsとかAndroidとか)にも展開する可能性があると説明している。