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NTT、原子内で動く内殻電子の撮影に成功

~10^-18秒単位の超高速ストロボ利用

 日本電信電話株式会社(NTT)と東京理科大学は16日、これまで困難だった原子内部の内殻電子の動き(ダイナミクス)を観測することに成功したと発表した。この成果は、英国時間の16日付けで、「ネイチャー・コミュニケーションズ」誌で公開される。

 情報化の発展には、通信の高速化と並列処理による大容量化が必要となるが、その高速化を担う鍵の1つとなるのが、高速で変化する物理現象を観測・制御する技術である。原子や分子の移動など高速な現象を捉えられる技術があれば、それらを制御できるようになり、より高速な情報処理の動作原理につながる可能性がある。

 そういった発想の下、NTT物性科学基礎研究所が持つ、世界最短級のパルス幅となるアト秒(10のマイナス18乗秒)単位のパルス発生技術と、東京理科大の持つスペクトル位相干渉法を組み合わせることで、両者は内殻電子の動きを捉えることに成功した。

 内殻電子は、原子の中で原子核に一番近い軌道を持つ電子で、外殻電子より1桁以上高いエネルギーを持ち、動きも高速である。今回両者は、ガス状のネオン原子に、単一アト秒パルスを照射し、2つの光パルスが構築するスペクトル干渉波形を計測。このスペクトル干渉波形には、ネオン原子の内殻電子が作る双極子応答の情報が全て含まれており、これから単一アト秒パルスの情報を差し引くことで、双極子応答の情報を抽出することに成功した。

 玉のような電子の姿が写真に収められたわけではなく、その動きの情報を視覚的に得た形だが、原子の内部のダイナミクスを垣間見たことの意義は大きい。余談となるが、10のマイナス18乗は、漢字の単位では「刹那」が用いられる。文字通り刹那的な現象が今回捉えられた。

 今後は、分子やデバイスで用いる固体での内殻電子の動きを計測する研究を進めるとともに、現在のアト秒パルスの世界最短記録である67アト秒を超える最短アト秒パルスの発生と、それを用いた内殻電子ストロボ撮影法の実現を目指す。

(若杉 紀彦)