京速コンピュータ「京」、性能目標の10ペタフロップスを達成

「京」ロゴマーク。書は武田双雲氏

11月2日 発表



 独立行政法人理化学研究所(理研)と富士通株式会社は2日、現在開発中の京速コンピュータ「京」が、性能目標として定めたLINPACK性能10ペタフロップス(Peta FLOPS:毎秒1.051京回=10,510兆回の浮動小数点演算数)を実現したと発表し、記者会見を行なった。

 LINPACKとは連立一次方程式の解法プログラムで、スパコンの世界的な順位を示す「TOP500」リストを作成するためのベンチマーク・プログラム。これで今回「京」は10.51PFLOPSを達成した。「TOP500」リストは毎年6月と11月に発表されるが、前回6月のランキングで「京」は8.162PFLOPSの性能値で世界1位を獲得していた。

 「京」は文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」計画のもと開発されている次世代スーパーコンピュータ。2012年11月の共用開始を目指しており、愛称の「京」は1秒間に1京回、すなわち10PFLOPSの目標性能を表している。ワットあたりの性能が世界最高のスカラ型の「SPARC64 VIIIfx」をCPUに使っており、計算ノードネットワークには「Tofu」と呼ばれる独自の6次元メッシュ/トーラス構造ネットワークを新規に開発して運用性を向上させている。

 今回の計測に用いられたシステムは864筐体(CPU数88,128個、理論演算性能は11.28PFLOPS)をネットワーク接続した最終構成で、実行効率は93.2%を達成した。これは2011年6月にTOP500に登録した93.0%を上回る。今回の集計結果は、11月12日~18日に米国ワシントン州シアトルで開催されるハイパフォーマンス・コンピューティング(高性能計算技術)に関する国際会議SC11(International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis)で発表される予定だ。

「京」の最新整備状況(提供:理化学研究所)

 理研と富士通では性能目標値である10PFLOPSを達成したことと、実行効率が前回を上回ったことに加えて、88,128個のCPUなどから構成されるシステム全体が29時間28分にわたって無故障で動作したことは「世界最大級の超大規模システムの安定性を実証することになった」としている。

記者会見に出席した4名。左から渡邊貞氏、平尾公彦氏、佐相秀幸氏、追永勇次氏

 会見には理研からは計算科学研究機構 機構長で次世代スーパーコンピュータ開発実施本部 副本部長の平尾公彦(ひらお・きみひこ)氏と、次世代スーパーコンピュータ開発実施本部 プロジェクトリーダー 兼 副本部長 計算科学研究機構 統括役の渡邊 貞(わたなべ・ただし)氏が出席。富士通からは執行役員副社長の佐相秀幸(さそう・ひでゆき)氏、次世代テクニカルコンピューティング開発本部 本部長代理の追永勇次(おいなが・ゆうじ)氏が出席し、プロジェクトの進捗状況を概説した。

 理研計算科学研究機構機構長の平尾公彦氏は、第3期科学技術基本計画における国家基幹技術として開発されている次世代スーパーコンピュータ「京」の目標性能を達成できたこと、結果を世界に先駆けて発表できたことをたいへん嬉しく思う、と述べた。東日本大震災の影響で部品供給にも影響はあったが、富士通の協力で最小限におさえることができたという。そして「日本の製造業の高い力を誇りに思っている」と語った。今後はシステムソフトウェアの整備に引き続き全力を傾注し、2012年には本格可動を目指す世界最高性能の計算システムを多くの人に京を使ってもらって、ブレイクスルーが起こるように取り組んでいきたいと述べた。

 また開発にあたっては「数々の難局を乗り越えて今日に至った」と語り、「団結力と実行力」によって世界一が達成できたという。最後に「わが国の今後において大きな第一歩となるものと確信している」と述べた。

 富士通の佐相秀幸氏は、「関係者の尽力に感謝する。途中さまざまな困難があったが一刻も速く利用者に届けたい」と述べ、「単に高性能だけではなく、省電力で高信頼性、誰にでも使いやすいものとすることにこだわった」と語り、京の実効効率の高さと高信頼性を改めて強調した。

 理研の渡邊 貞氏から京の現状について解説された。「京」は現在、ハードウェアは完成したが、システムソフトウェアの評価を行なっている段階にある。具体的には大規模環境下におけるコンパイラや管理ソフトなどの機能評価を行なっている段階だ。

 しかしながらできるだけ速く「京」を使った成果を出したいと考えているため、既に、ナノテクノロジー及びライフサイエンス分野において「京」のアプリケーションを開発する文部科学省が進める事業「グランドチャレンジアプリケーション開発」や、同じく文部科学省が進める生命科学・医療および創薬基盤や新物質・エネルギー創成、地球変動予測、次世代ものづくり、物質と宇宙の起源と構造など5分野の「戦略プログラム」に参加している研究者に対し、「京」の一部を試験利用環境として提供している。これらアプリケーション・ユーザーからのフィードバックを受けて技術開発を引き続き行なっていく。

 現在はおよそ2PFLOPSにシステムを分割してテストを行なっているが、その評価は2011年内におおむね終える。そして2012年2月からは全システムとして、それぞれのコンポーネントを繋いで評価を行ない、2012年6月に完成させる。その後、外部ネットワークも含めて運用環境を構築し、2012年11月には全国からの共同利用の形でサービスインの予定だ。

 理研では下記のような成果を出すことを期待として挙げている。

・高速応答かつ低消費電力デバイスが期待される次世代半導体材料、とくに「シリコンナノワイヤ」や「カーボンナノチューブ」などナノ電子デバイス材料の挙動をシミュレーションで解析し、早期開発へ貢献
・膨大な薬剤候補物質の中から、病気の原因となるタンパク質活性部位へ結合して発病を防ぐことが可能な化合物を予測し、新薬の開発期間の短縮や開発コストの削減へ貢献(創薬への応用)
・色素増感型太陽電池の原子・電子レベルの挙動解析シミュレーションによるエネルギー変換効率の高い太陽電池開発への貢献
・地震波伝搬・強震動および津波シミュレーションに基づく人工構造物の揺れの予測、被害領域予測に基づく地震防災予測計画、耐震設計への貢献
・大気大循環モデルを解像度400mの高解像度でシミュレーションすることによる、集中豪雨など局所現象を解明する高精度な気象予測情報の提供

(2011年 11月 2日)

[Reported by森山 和道]