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Intelの逆襲。Panther Lakeが導くAI新時代

Panther Lakeの特徴

 インテルは10月30日、都内で記者向け説明会を開催し、同社の2025年の動向の振り返りや新たな施策、そして次期プロセッサであるPanther Lakeの技術的な概要についての解説を行なった。

リップ・ブー・タン新CEOの元で再始動したIntel

 発表会の冒頭では、インテル代表取締役社長の大野誠氏が挨拶。直近では、東京本社オフィスが有楽町の国際ビルから東京・丸の内の永楽ビルディングに引っ越ししたことや、9月から完全ハイブリッドワークの形態より週4日出社を義務付けたことなどを振り返った。

 一方、Intel本社では3月より新しいリップ・ブー・タンCEOのもと、社内外からの起用で経営陣も大幅に刷新。新たな戦略強化のもと経営改革が進み、第3四半期の決算でガイダンスを上回る業績を達成できたこと、ソフトバンクおよびNVIDIAから投資を受けバランスシートが改善し健全な運営が維持できていることなどを説明した。

大野誠氏
インテルの新オフィス
リップ・ブー・タンCEO
新経営陣

 そして10月前半には、報道関係社向けに「Intel Technology Tour 2025 in Arizona」を開催。オレゴン州およびアリゾナ州の10月に稼働開始したFab 52にて、最先端のIntel 18Aプロセスが量産開始となったことを語った。Intel 18Aは過去15年間で最高水準の歩留まりを実現したといい、クライアントやエッジ向けではPanther Lake、データセンターではClearwater Forestにその最新プロセスが採用されていることを紹介。特に、要とも言えるCPUタイルの製造が、一部外部製造から内製に戻ったのはトピックであり、これにより柔軟なサプライチェーンを実現し、コスト競争力や安定供給が可能であることを市場に示すものだとアピールした。

Intel Technology Tour 2025 in Arizona
Intel 18Aの歩留まり向上
Fab 52の様子
Panther Lake
Panther LakeとClearwater Forest

 一方でこれから市場でもっとも期待されているのがやはりAIだ。その中でもエージェンティックAI、AIロボットのようなフィジカルAIには大きな期待が寄せられており、この期待はIntelにとっても例外ではない。こうしたAIは、高スループット、低レイテンシ、コストパフォーマンスおよび電力効率の両立など、要件が多様化している背景がある。

 たとえばエージェンティックAIでは、同一のGPUだけで学習と推論を行なうモデルではコストパフォーマンスが低いことが課題となっている。Intelとしては推論処理に注力し、スケーラブルなハードウェアを利用してコスト効率を上げるヘテロジニアス(異種混合)システムを駆使して対応。オープンなAIソフトウェアスタックの提供でヘテロジニアスに対応しつつ、最大160GBのLPDDR5xメモリや電力あたりの性能を重視したXe 3Pアーキテクチャ、およびFP4/MXP4からFP32/FP64まで幅広いデータタイプに対応できるデータセンターGPU「Crescent Island」の提供でこの市場に応える。

 一方でフィジカルAI(ロボティクス)向けとしては、開発者向けのリファレンスボードを提供することで、採用企業の市場投入までの時間の短縮、拡張性と再利用性のためのモジュール設計、オープンなエコシステムコラボレーションを実現。加えて、ライブラリやフレームワーク、推論エンジンなどを統合したAIスイートの提供により、開発やイノベーションの促進、TCOの改善につなげていきたいとした。

AI進化の変遷
エージェント型AI(エージェンティックAI)の増加
AIワークロードの拡大
現在のエージェンティックAI
トークンあたりのコストが課題に
ヘテロジニアスで対応する今後のエージェンティックAI
スケーラブルなヘテロジニアスシステム
AI実行のロードマップ
データセンター向けのCrescent Islandは推論処理に特化したGPU
そのほかのAIの拡大
ロボティクスAI向けのリファレンスボード
ロボティクス向けのAIスイート

Panther Lakeで拡大するAI PC市場

 続いて同社執行役員 技術・営業統括本部本部長の町田奈穂氏が、AI PCの今後の展望について紹介。「優れたAI PCは優れたPCから始まる」と同社のスローガンを掲げ、これまで使ったアプリケーションをAI対応に拡張させるためには互換性が重要であるとした上で、電力効率の向上や堅牢な構成を目指しているとした。

 同社がAI PCと定義しているのはNPUを搭載したPCを指すのだが、Core Ultraシリーズ1(Meteor Lake)のチップレット構成で本格的にAI PCを構築して以降、電力効率を劇的に向上させたLunar Lakeや、デスクトップ/クリエイター/ゲーマー向けのArrow LakeといったCore Ultraシリーズ2を投入してきたことを振り返った。

 国内市場においては、2024年でまだ29%しかなかったAI PCのシェアが、2025年には37%にまで達した。そして2026年にはついに過半数を超え、2029年には87%まで達する見込みであることを紹介した。なお、2025年はこれまでWindows 10サポート終了やコロナ禍の際に導入したPCの買い替え、そしてGIGAスクール第2期の特需によって出荷台数が牽引されてきたが、年末商戦でも出荷台数の増加を見込んでいる。

町田奈穂氏
AI PCの進化
AI PC市場は2026年で過半数に。このうちPanther Lakeによる貢献が大きいとする

 こうしたAI PCの拡大には、PCを提供するパートナー各社の協力が欠かせないが、プレゼンではNECパーソナルコンピュータ、エプソンダイレクト、サードウェーブ、Dynabook、デル・テクノロジーズ、日本HP、VAIO、パナソニック コネクト、富士通クライアントコンピューティング、マウスコンピューター、ユニットコム、レノボ・ジャパンから寄せられたCore Ultraシリーズに対する期待のコメントが紹介された。

各社のコメント

 また、ハードウェアのみならずソフトウェアベンダーやISVとも協業を続けており、現時点では350社以上から900種類以上のAIモデルのサポートがあり、提供できている機能も500に迫る勢い。町田氏は、国内AI PC向けソリューションの開発支援を強化すべく、11月から「PEAR Experience by Intel」と呼ばれるAIアプリ開発ワークショップを開催し、AIアプリなどをさらに進化させるべく、Panther Lakeを今後投入すると発表。Panther LakeはLunar Lakeが持つ高い電力効率と、Arrow Lakeが持つスケーラブルなパフォーマンスを併せ持つのが特徴で、最新のIntel 18Aプロセスに基づいて製造され、CPUやGPU性能も向上したのがポイントであるとした。

PEAR Experience by Intel
Panther Lakeの特徴

Panther Lakeの技術について改めておさらい

 発表会の後半は、IA技術本部部長の太田仁彦氏によるPanther Lakeの技術解説が行なわれた。既にIntel Technology Tour 2025 in Arizonaでも明らかにされたものだが、改めておさらいしておこう。

 先述の通り、Panther Lakeが目指したのはLunar Lakeの電力効率とArrow Lakeのスケーラブルな性能の融合である。そのために拡張性と効率性の両立を実現するために設計されたコヒーレント・ファブリックの「第2世代拡張ファブリック」を採用するのがポイントだ。

太田仁彦氏
Panther Lakeのアーキテクチャの狙い

 この第2世代拡張ファブリックは統一の拡張プロトコルを採用することにより、IP非依存、かつパーティショニング非依存の接続を実現している。つまり、同じチップ内のコア間の接続にも使えるし、チップをまたいだコンピューティングタイル/GPUタイル間の接続にも使える。今回のGPUタイルは4コア版がIntel内製、12コア版がTSMC製と違うわけだが、第2世代拡張ファブリックであれば問題なく接続できるわけで、それによって柔軟な拡張を実現したとしている。

 Panther LakeはIntelのチップレット技術であるFoverosに基づいて製造されており、コンピューティング・タイル、GPUタイル、プラットフォームコントローラータイル、フィラータイル(空きスペースの段差を埋める機能がないタイル)、ベースタイルによって構成されている。

Lunar LakeとArrow Lakeの統合
第2世代拡張ファブリック
GPUタイルを分離させたのがPanther Lakeの最大の特徴となるが、インターコネクトには同じ第2世代拡張ファブリックを採用
Panther Lakeの構造

 特徴の1つとも言えるのが対応メモリの強化で、LPDDR5であれば最大速度は9,600MT/sで最大容量は96GBまで、DDR5であれば最大速度は7,200MT/sで最大容量は128GBとなっている。Lunar LakeはLPDDR5のみの対応で高速ではあったのだが、CPUのパッケージに集積されているためメーカーが容量などを柔軟に選べないのが弱点だった。それが1つ解消されたことになる。

 また、Lunar LakeとArrow Lakeでは2つのパッケージに分かれていたが、Panther Lakeでは1つに統合しつつ、3つのチップ構成の違いによるバリエーションを用意。これによりOEMメーカーは基本設計を踏襲しながら、用途に合わせてCPU構成が選べるようになった。さらに、Lunar Lakeの電源管理IC(PMIC)もオンチップだったが、Panther Lakeでは別となり、メーカーが性能の要求やターゲットに応じて電源設計を柔軟に選択できるようになったとしている。

対応メモリが高速化
同一のピン配置で設計しやすくしつつ、電源管理ICの柔軟性を高めた

 用意されるコンピューティングタイル、GPUタイル、プラットフォームコントローラータイルのバリエーションの主な違いは、以下のようになっている。

コンピューティングタイルGPUタイルプラットフォームコントローラータイル
Pコア4基+Eコア4基Xeコア4基PCIe 5.0 x4+PCIe 4.0 x8
Pコア4基+Eコア8基+省電力Eコア4基Xeコア4基PCIe 5.0 x12+PCIe 4.0 x8
Pコア4基+Eコア8基+省電力Eコア4基Xeコア12基PCIe 5.0 x4+PCIe 4.0 x8

 なお、一番下のXeコアが12基積んであるモデルに関してなぜかPCIeのレーンが真ん中のXeコアが4基のモデルより少ないのだが、既に高性能なGPUコアを内蔵しているため、ディスクリートGPUを接続するためにPCIeが使われる可能性が低いことを見込んでの設定だろう。

3種類のバリエーション
一番コンパクトなCPU 8コア版
CPU 16コア版。ディスクリートGPUとの併用を見込んでいるため、PCIeレーンはやや多い
CPU 16コア+Xe 12コア版。こちらは内蔵GPUを使うことを想定しているからか、PCIeレーンは逆に少ない

 CPUコアに関しては、PコアがCougar Cove、Eコアおよび低電力EコアがDarkmontとなっている。いずれもIntel 18Aに最適化した設計で、消費電力を抑えながら性能を向上させ、クロックあたりの性能も最適化した。GPUでも新しいXe3アーキテクチャを採用し、最大120TOPSの性能を実現。16MBのL2キャッシュの搭載、12基のレイトレーシングユニットを備えている。また、「NPU 5」は、面積あたりの性能向上を図っており、従来のLunar Lakeと比較して40%向上した。新たにFP8フォーマットもサポートし、最近のAIモデルのニーズに応えるとしている。

 このほか、AIベースのノイズ除去やAIベースのローカルトーンマッピング、スタッガードHDRのハードウェアアクセラレーションといった機能を備えた「IPU 7.5」、AV1 4:4:4のエンコードとデコードを持つ「インテルXeメディア・エンジン」なども特徴とした。

 一方、電力効率向上のために、これまで以上のワークロードを処理できる低電力Eコア、NPUやメディア・エンジンからもアクセス可能な8MBのメモリーサイドキャッシュ、スケジューリングモデルの最適化などを図ったインテルスレッド・ディレクター、さまざまなOSに対応できる電力管理機能なども備えている。これらの改善により、マルチスレッド性能およびGPU性能で最大50%以上の向上を図りつつ、SoCとしてLunar Lake比で10%、Arrow Lake比で40%消費電力の削減を実現したとまとめた。

新しいアーキテクチャによる性能向上
CPUのクラスタリング
Xe3アーキテクチャのGPU
NPU 5は面積あたりの性能向上がトピック
IPU 7.5
インテルXeメディア・エンジン
低電力Eコアの設計。余談だが、Panther Lakeからは低電力EコアもCinebench時といったワークロード時に動作するという(従来は動作しなかった)
メモリーサイドキャッシュの搭載
スレッド・ディレクターや電力管理機能も強化
Panther Lakeの概要