【UMPC Forum 2009レポート】
2009年はネットブックが法人向けにも展開

丸紅インフォテック 代表取締役社長 天野貞夫氏



 丸紅インフォテック株式会社は、ネットブックの企業向けソリューションを提案するイベント「UMPC Forum 2009」を、東京都の丸紅本社ビルにおいて開催した。2008年1月に初代Eee PCが日本で販売されるようになって以来、ネットブックの興隆は留まるところを知らず、すでに日本のノートPC市場全体の20%を占めるまでとなっている。

 今回のイベントを主催した丸紅インフォテックは、1月に「UMPC推進室」を設置し、ネットブックを含めた小型ノートPC(同社ではそれらを総称してUMPCと呼んでいる)の流通を担っている商社で、コンシューマ市場で1つのブームとなったネットブックを法人向け市場にも展開することを狙っている。今回のイベントではASUSTeK、Acer、HP、Lenovoといった主要なネットブックベンダーなどが参加し、今後の法人市場への意気込みなどについてのパネルディスカッションなどが行なわれた。

●ネットブックは近年まれに見る商材、法人市場へ積極的な展開を

 イベントの最初に挨拶にたった丸紅インフォテック 代表取締役社長 天野貞夫氏は「UMPCは昨年(2008年)から急速に市場規模が拡大しており、2008年には80万台近くが販売され、現在では400億円弱の市場となっている。さらに今年(2009年)にはこのままの勢いが続けば100万台近い市場になると考えており、近年まれに見る商材がでてきたと考えている」と述べ、ネットブックブームの勢いは今後も続いていくだろうという見通しを明らかにした。

 その上で「今年度に法人市場に打って出ていけば、100万台が120万台となるのも夢ではない。今後はPCが1人1台どころではなく、2台持つということが当たり前になる時代をUMPCが切り開いていくのだと考えている」と、イベントに集まった量販店などの関係者に対して、まだまだネットブックには可能性があるとアピールした。

●Windows 7のリリースは2006年11月のVistaリリースから3年以内に

 イベントではいくつかのスピーカーが登壇した。丸紅インフォテックのセッションではネットブック向けのセキュリティソリューションなどが紹介されたほか、ネットブック普及の鍵とも言えるモバイルブロードバンドを提供するUQコミュニケーション、さらには今年中のリリースが予定されているネットブックでも快適に利用できるということを売りの1つにしているWindows 7をアピールしたマイクロソフトなどが、それぞれのビジョンなどについて語った。

 なお、この中でマイクロソフト パートナービジネス営業統括本部 ディストリビューション 営業本部 第一営業主任 吉本冬輝氏は「現時点での公式見解は年内、ホリデーシーズンに間に合うように開発を進めているという言い方をしている。実際にどのくらいなるのか、あまり公式なコメントは残せないのだがお話をさせていただくと、基本Windows 7に関しては2006年の11月にリリースさせていただいたWindows Vistaから3年以内の出荷を目標とさせてもらっている。ただし、この後の開発状況によっては発売日が左右される可能性もあるので、確定的なことは何も言えない」と現状を説明し、注目されるWindows 7のリリース日に関しては、少なくとも11月中、さらに前になる可能性もあると示唆した。なお、清水氏が示したスライドには、RTMの予定が第3四半期、一般向け発売日が第4四半期となっており、Windows 7もいよいよ具体的なスケジュールが見えてきたと言っていいのではないだろうか。

マイクロソフト パートナービジネス営業統括本部 ディストリビューション 営業本部 第一営業主任 吉本冬輝氏現時点でのWindows 7のリリースへ向けた取り組み。このスライドには第3四半期にRTM、一般向け発売は第4四半期となっている。吉本氏によれば「現時点では確実なことは年内リリースということ」だそうだ

●ネットブックの大学一括納入のニーズはあるが、品質とサポートには課題が課題

 また、法人向け市場とともに、ネットブックにとりもう1つの重要な市場と考えられているのが教育の分野だ。例えば、一部の大学などでは、入学時にノートPCの購入を義務づけ、課題の提出などもネットからしか受け付けないなどというところもあるが、そういった大学はまだまだ少数で、すでにビジネス界においてPCを使いこなすことが必要最低限のことになりつつある現状を考えると、今後大学生へのPCの普及は成長を望める市場の1つと言える。そうした観点から京都大学経営管理大学院 教授兼京都大学大学院経済研究科 教授の若林靖永氏が“大学における基礎的情報教育等の状況と大学必携PCの取り組み状況”という講演を行なった。

 若林氏によればすでに社会でPCを使えることは基礎的な素養になっており、そうした人材を産業界に送り出すことが、すでに全入時代を迎えた大学が生き残る上で重要なことであると指摘し、大学側でもそれに応じたクラウドサービスの提供を行なうことを始めていると述べた。

 例えば、クラウドにより、休講などの情報を提供したり、eラーニングサービスの提供、授業で利用する資料などを配布したりといった取り組みが始まっているのだという。しかし、それでもその効果は充分かと言えばそうでもないとする。実際に調査してみると、検索も充分にできないような学生が多かったなど、基礎的なスキルが足りていないことが少なくないのだという。若林氏は「単に学生にPCを持たせるというだけではだめで、学生に使うと得だと思わせる仕組みを用意するなどの取り組みが必要だ」とし、学生にPCを触れる機会を増やしていくことが重要だと指摘した。

京都大学経営管理大学院 教授兼京都大学大学院経済研究科 教授の若林靖永氏ITの基礎的な知識があることが理系だけでなく文系の学生にも求められつつある
現状では大学におけるPCは必携(入学時に強制的に買わせること)は13%程度に留まっているのだというすでに一部の大学ではネットブックを必携PCにした例もあるという甲南大学ではネットブックを必携にして授業などにも役立てているが、学生にはノートPCを常に持ち歩くことがメリットがあることだ思わせることが重要だということがわかってきたという

 また、CIEC(Council for Improvement of Education through Computers、教育・研究へのコンピュータ利用の在り方と可能性を考える団体)調査による、大学奨励ノートPCに求められるスペックなどが公開され、CPUならCore 2 Duo、メモリは2GB、HDDは80~160GBなどであり、OSはWindowsが一番多いが、大学という研究機関という特性もありオープンソースのLinux系も求められているなどの結果が明らかにされた。

 大学などのへのネットブックの一括導入の可能性に関しては「学生やその保護者の家計のことを考えればソフトウェアも含めて10万円以内に抑えたいニーズはある」とのべ、その可能性はかなりあるとのことだったが、同時に「学生が4年間利用するという前提で考えれば、サポートや耐久性などには不安があるのも事実」という大学側の不安もあり、そのあたりをどのように解消していくのかが重要だと指摘した。

大学の一括導入PCに求められているCPU大学の一括導入PCに求められているストレージ大学の一括導入PCに求められているメモリ量
大学の一括導入PCに求められているOS学生の負担を考えると、コミコミで10万円以下という価格帯が重要学校側にはネットブックのサポートや品質を不安視する声もある、そこにどう応えるのかが重要

●企業が求めるスペックをネットブックの枠を超えて実現することが重要

 イベントの最後には、ASUS、Acer、HP、Lenovoの各ネットブックベンダーと、調査会社のGFKジャパンのアナリストによるパネルディスカッションが行なわれた。

 GFKジャパン マーケットインテリジェンス部 アナリストグループ部 シニアアナリストの岩淵真貴氏は「弊社の調査ではネットブックを導入済みの企業は7%に過ぎない。今後導入や検討予定がある企業は33%」と述べ、ネットブックの法人市場には大きな可能性があると指摘した。岩淵氏によれば、企業がネットブックに求めるスペックはバッテリ駆動時間の長さとOSがWindows XP Professionalであることなどで、そのあたりに大きな可能性があるとした。

 日本ヒューレット・パッカード パーソナルシステム事業統括 モバイル&コンシューマビジネス本部 本部長の山下淳一氏は、インテルとマイクロソフトが決めているスペックという制約があることに関しては「メーカーとしてはインテルやマイクロソフトが大上段にスペックをこうしろ決めることにはどうなの、と思う部分はある。メーカーとしてはお客様が欲しいものを提供していくことが大事だ」と述べた。実際にHPはネットブックでもWindows Vista Businessのダウングレード版としてのWindows XP Professionalを提供しているなどを例に挙げ、コンシューマ市場とは異なるニーズに応えていくことが法人向けでは重要だと指摘した。

ASUS、Acer、HP、Lenovoの各社の担当者が登壇してパネルディスカッションが行なわれたネットブックを導入済みの企業は7%で、今後は33%が導入を予定・検討しているネットブックの導入を検討する企業のニーズは、バッテリ駆動時間の長さとOSがWindows XP Professionalであること

(2009年 5月 28日)

[Reported by 笠原 一輝]