ニュース

世の中がAIを受け入れられるようになるまで、レノボはどんなことを考えているのか

 レノボ・ジャパンは26日、都内で「Lenovo Tech World Japan 2024」と題したプライベートイベントを開催し、顧客やパートナー向けに同社の取り組みや戦略、最新ソリューションを紹介。イベントの冒頭で、レノボ・ジャパンの代表取締役社長 檜山太郎氏が基調講演を行ない、AIを取り巻く現状や同社の取り組みなどについて語った。

 檜山氏によれば、今の時代は既にAIの導入を検討する時代から、活用する時代へと変化していく中で、レノボは「Smarter AI for all」というスローガンを掲げ、あらゆるユーザーに対してAI技術を届けて活用してもらうことを目指しているという。

 そのため、1,500億円にのぼるAI技術への投資を行なっており、グローバルにおいてAIのインフラストラクチャプライバイダーとして3位の地位を築いた。また、80以上のAIプラットフォームの用意、4カ所のイノベーションセンター、165以上のAIスタートアップ支援プログラムなど、AIに対してあらゆる手段でさまざまな投資を行なっている段階にある。

 しかしながらこうした積極的な投資を行なっているAIは、すぐさま社会やユーザーに受け入れられるわけではない。檜山氏は、同じAI技術である自動車の自動運転について例を挙げた。

檜山太郎氏
既にAIは導入フェーズに
レノボのAIへの取り組み

 「自動運転ではレベル1からレベル5まで、段階的にAIを導入している。一番低いレベルはドライバーの運転支援からスタートし、やがては限定領域での自動運転、ドライバーありの自動運転、最終的にはドライバーなしの自動運転を実現する。こうして段階を踏むのは、ユーザー側の準備、提供する側の準備、そして法整備、保険制度などが段階的に展開されていくからだ。段階的な展開がなければ、ユーザーの信用を勝ち取れない」。

 一方でコンピューティングにおけるAIレベルの分け方だが、現在実現している、特定業務支援の“レベル1~2”から、よりパーソナルなものになっていくことを目指し(レベル3)、その先に汎用的な知能(レベル5)があるのではないか、と位置づける。そしてこのパーソナル化こそが、コンピュータが登場して以来の大きな転換点だとも語る。というのも、これまでは「人がコンピュータを使いこなす必要があった」が、「AIがあらゆる環境で活用してもらうためにはコンピュータが人に寄り添う形に変わっていかなければならない」ためだとする。

これまでのPCの定義
AIが登場した以降のPCの定義
レノボのAI PC
Copilot+ PC準拠のPCはQualcomm、AMD、Intelの3社で用意
ThinkCentre neo Ultra。なんの変哲もないミニPCのように見えるが、実は独立型NPUのKinara Ara-2が搭載されており、AI処理を高速化できる

 レベル3に相当するAIのパーソナル化とはどんなものなのか。「たとえばAIが今日のスケジュールに応じて目覚ましを勝手にセットしてくれる。朝食を作っていると、夜中に来たメールが何通で、そのうち重要なものは何通、対応すべきメールは何通を提示してくれて、その対応すべきメールも、自分の代わりに文面を考えファイルで資料を揃えて、後はメールを送信するかどうかを尋ねてくるだけ……というような“パーソナルツイン(双子)”の実現ではないか」と檜山氏は想像している。

自動車の自動運転レベル
レノボが考えるAIのレベル分け

 ただ、もちろんこうしたパーソナルツインの実現に賛成だとする意見もあれば、「それが今やってる仕事だ!」とユーザーが反発する意見があるかもしれない。しかし、実現すべきパーソナルツインの姿をユーザーの声とともに探っていくのが現段階のAI開発であり、ユーザーの信用を勝ち取れるAIの実現が、今後開発の焦点になっていくだろうと語った。

では、現時点でレノボが提供できるAIとは?

 レベル3に相当するパーソナル化されたAIとまでは行かないが、それに近いところとして、「AI Now」と呼ばれる独自のローカルAIソフトウェアを紹介した。これはチャットボットのような形で、ローカルのPCに入っているデータなどから、ユーザーが必要としている情報を抜き出すもの。AIとチャットをすることで、今日のスケジュールの概要や、資料作成に必要なデータの収集、そのデータのサマライズなどが行なえる。現時点では英語版のみで、日本国内での展開は未定とのことだが、ローカライズを行なう強い意志は伺えた。

AI Now
AI Nowのデモ。現時点では英語のみの対応だが、スケジュールの抽出やスライドのサマライズが可能だった

 また、AIの活用はローカルのPCだけでなく、エッジやクラウドといったインフラの整備も必要で、その際の電力消費や環境負荷も課題となっている。レノボとしては「Neptune」という2012年頃から開発している水冷技術をサーバーに用いることで、空冷の3.5倍もの冷却効率を実現。空冷と比較して冷却にかかる消費電力を4割ほど削減できるため、環境負荷を軽減できるとした。

インフラの展開
レノボの独自水冷技術Neptune
第6世代Neptuneでは熱回収率ほぼ100%を達成したという

 さらに、デバイスを使った分だけ支払うDaaS(Device as a Service)の「TruScale」の展開や、サーバーからスマートフォンに至るまで、エンドツーエンドのソリューションを取り揃えている点も、他社に対するレノボの強みであると語った。

TruScale DaaS
フルスタックの提供

 ところで、レノボではこうしたAI関連のソリューションを多数揃えているし、企業のCIO(最高情報責任者)からもAIについて認められつつあるが、株主らが求めているのはROI(投資利益率)の実証であり、これがAIの導入の障壁になるケースも多い。

AI CoE ソリューション サービス グループ アジア太平洋代表のアミス パラメシュワラ氏
企業に求められるROI

 そこでレノボでは「AIファストスタート」というプランを用意。これは、レノボがユーザーのデータを駆使してPoC(概念実証)の組み立てからわずか90日以内で本番で運用できるレベルにまでAIを作り、利益を上げることをできるようにするというもの。パートナーの既存のエコシステム(固有の機能を持つ、実証済み/テスト済みのAI)を駆使して実装することで迅速な実現を可能とした。

AIファストスタート

 実際のAIファストスタートの例としては、SAPオフィスにおけるAIヒューマンの実現や、F1のストリーミング映像のAIによる高画質化/自動カメラ切り替えなどを挙げ、企業が“AIの旅”のどの段階にいても、レノボが迅速に支援できることをアピールした。

SAPオフィスでのAIヒューマン
F1でのストリーミング映像の高画質化など
AIによる資料作成の支援などの例も
NEC群馬事業所でのAI導入による修理の迅速化