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Arm、従来比36%性能向上のプライムCPUコア「Cortex-X925」

Armが発表したCSS for Client、従来のTCS2xなどとは異なり年号は付かなくなる(出典:ArmCSS for Client: The Foundational Platform for AI-Powered Consumer Experiences、Arm)

 英Armは、5月29日(米国時間)に記者会見を行ない、スマートフォンやPCといったクライアントデバイス向けSoCのIPデザイン群「CSS for Client」の2024年版を発表した。

 このCSS for Clientでは、プライムCPUコアはCortex-X925に、高性能CPUコアはCortex-A725、GPUがImmortalis-G925に強化されており、それぞれ性能が引き上げられている。あわせて、従来のTCS(Total Compute Solutions)から、サーバー側の製品で採用されてきたCSS(Compute Subsystems)へとブランドが刷新されている。

プライムと高性能CPUコアを更新。第5世代GPUも改良し性能向上

CSS for Clientのハイレベルの進化点(出典:ArmCSS for Client: The Foundational Platform for AI-Powered Consumer Experiences、Arm)
【表】TCS23とCSS for Clientで提供されるIPデザイン群
TCS21TCS22TCS23CSS for Client
CPUプライムコアCortex-X2Cortex-X3Cortex-X4Cortex-X925
CPU高性能コアCortex-A710Cortex-A715Cortex-A720Cortex-A725
CPU高効率コアCortex-A510Cortex-A510Cortex-A520Cortex-A520
DSUDSU-110DSU-110DSU-120DSU-120
GPUMali-G10Immortalis-G715Immortalis-G720Immortalis-G925
プロセスノード最適化5nm4nm4nm3nm

 近年のArm CPUは、big.LITTLEやDynamiQとして知られている、複数のCPUコアを1つのクラスターとして扱うデザインが一般的だ。シングルスレッドの性能が必要な時にはプライムコア(Cortex-X)を、大量のデータを並列処理するときにはコア数が多い高性能コア(Cortex-A7xx)を、そしてアイドル時の省電力を実現したい時には高効率コア(Cortex-A5xx)に切り替えて利用し、性能と電力効率のバランスを実現している。

 今回のCSS for Clientでは、このうちプライムコアと高性能コアが更新された一方、高効率コアはTCS23のCortex-A520で据え置かれている。

 プライムコアのCortex-X925は、TCS23のCortex-X4の後継となる製品。CPU内部の改善などにより、従来と比較してシングルスレッドの性能が上がっており、総合的に36%の性能向上を実現していると説明している。

 なお、名称はその延長線上で考えればCortex-X5になりそうに思えるが、今回から高性能コアのA7xx、高効率のA5xxと統一される形で「X9xx」というブランドスキームに変更されたため、X952という製品名が与えられている。

 Cortex-A725も同様で、Cortex-A720デザインをベースにして、L2キャッシュの容量が増やされるなどの改良が加えられ、IPCが向上している。

 GPUについては、新たにImmortalis-G925を採用。2023年にImmortalis-G720で導入した第5世代GPUアーキテクチャの進化版で、内部アーキテクチャの最適化などにより、3Dグラフィックス性能が37%向上したと説明している。

 こちらもブランドスキームが変更されており、そのほかのバリエーションはミッドレンジ向けがMali-G725(6~9コア)に、ローエンド向けはMali-G625(1~9コア)となっている。

CSS for Clientのレファレンス構成(出典:ArmCSS for Client: The Foundational Platform for AI-Powered Consumer Experiences、Arm)
従来世代との性能比較、AIなどで大きな効果があると説明(出典:ArmCSS for Client: The Foundational Platform for AI-Powered Consumer Experiences、Arm)

 こうした24年版のCSS for Clientは、TSMCおよびSamsung Electronicsのプロセスノードへの最適化が行なわれている。TCS23では4nmへの最適化オプションがあったが、CSS for Clientでは3nmへの最適化が用意されており、顧客となる半導体メーカーが両ファンダリの3nm向けに設計、製造をしやすくなると説明している。

新しくTSMCとSamsung Electronicsの3nmに最適化が進められる(出典:ArmCSS for Client: The Foundational Platform for AI-Powered Consumer Experiences、Arm)

 Armによれば、CSS for Clientはすでに顧客となる半導体メーカーに提供されており、顧客が製品を設計し、製造に入れる状態だという。例年だと、5月頃に発表されたArmのIP群は、年末までに投入されるQualcommやMediaTekなどのハイエンドスマートフォン向け製品に用いられ、搭載製品も年内が登場することが多いため、CSS for Client採用製品も同様の2024年内の登場が期待される。

ブランド名が刷新され、年号表記も廃止に

TCSからCSSへの進化(出典:ArmCSS for Client: The Foundational Platform for AI-Powered Consumer Experiences、Arm)

 Armでは、Arm ISA(命令セットアーキテクチャ)のライセンス提供に加え、マイクロアーキテクチャ(ハードウェア仕様)までを設計し、その設計図を顧客に提供するIPデザインのライセンス提供も行なっている。CPUコアのデザインだけでなく、複数のCPUをクラスター化して利用するDSU、GPUなども含め、さまざまなIPデザインを用意しており、さらにそのIPデザインをファンダリのプロセスノードに最適化した物理的な設計までまとめて供給している。

 このようなパッケージ化されたデザインを、ArmではこれまでTCSの名称で展開してきた。本来であれば2024年版は末尾に年号を付けた「TCS24」になるはずだったが、今後はサーバー向け製品のCSSにブランドを変更し、クライアント向けの意味を付けた「CSS for Client」へと改められる。なお、このCSS for Clientでは製品名に年号が付かなくなるという。