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トロント大学、小型プールを泳ぐラットの短経路を無線経由で学習させるシステムを試作【VLSI 2023レポート】
2023年6月19日 10:55
カナダのトロント大学(Univ. of Toronto)を中心とする研究グループは、小型プールを泳ぐラット(大型のネズミ)の脳に電気刺激を与えて目的地への最短経路を学習させるシステムを試作し、2023年6月13日に国際学会VLSIシンポジウムでその概要を発表した(論文番号C1-1)。
小型プールでネズミ(普通はラット)を泳がせて目的地(水深を浅くした部分、水面上に顔をのぞかせた部分などで、ネズミが泳がずに休める小さなプラットフォーム)に到達させる実験は「水迷路(Water Maze)」として知られる。プールの液体はミルクのように不透明であったり、水のように透明であったりする。プラットフォームへ至る手がかりを何らかの手法でネズミに与えることで、ネズミの学習能力と記憶能力を測定する。
トロント大学などの研究グループが考案したシステムは、ラットが泳ぐ方向(角度)が目的への角度と比べて大きく外れているときに電気刺激(ラットにとって嫌な刺激)を脳に与え、泳ぐ角度を修正させて目的地への経路を学習させる。学習を繰り返すと、ラットが目的地に到達するまでに泳ぐ距離が短くなることが期待できる。
イメージセンサーとFPGAでラットの泳ぐ方向を推定
小型プールの直径は6フィート(約183cm)あり、上方からイメージセンサでプールの水面全体を撮影する。撮影画像(フレーム)の分解能は160×160画素、撮影速度は100fpsである。ラットの背中には赤色のマーカーが取り付けてあり、マーカーの位置変化から泳ぐ方向を推定する。
ラットの背中には前述のマーカーのほかに、イメージセンサーのユニット(センサーユニット)とUWB無線で信号を送受信するユニット(無線ユニット)が取り付けてある。さらに背中の皮膚直下には、ラットの脳に電気刺激を与えるユニット(電気刺激ユニット)が埋め込んである。無線ユニットと電気刺激ユニットの間は、電磁コイルによって信号を送受信する。
電気刺激による学習の繰り返しでラットの泳ぐ距離を大幅に短縮
ラットの進む方向と、目的地に直進する方向には当然ながら、ズレがある。このズレが一定の角度を超えると、電気刺激(ラットによって嫌な刺激)を与えて泳ぐ角度の修正を図る。ラットの泳ぐ方向がおおむね適切な時は、外部からの電気刺激は与えず、そのままにしておく。なお電気刺激ユニットの大きさは長さ20mm×幅9mm、消費電力は93μW。電気刺激ユニットの電力は、無線ユニットから電磁コイル経由で供給する。
実験結果によると、不透明なプールで電気刺激を与えなかった場合、ラットが泳ぐ距離は膨大な長さになった。また泳ぐ時間がかかりすぎて実験を中止することもあった。目的地に到達したラットが泳いだ距離の平均は直線距離(最短距離)の15倍~20倍にも延びていた。
ところが電気刺激を使った学習を繰り返した結果、不透明なプールで泳ぐ距離は、電気刺激なしでも直線距離の5倍前後に減少した。5倍前後というのは、透明なプールで目的地がラットから見えている場合とほぼ等しい。目的地が見えなくても、学習の繰り返しによって泳ぐ距離が短くなり、目的地が見えている場合と同じ水準にまで下げられることを実証した。