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大規模量子コンピュータにおける性能低下の起源を特定。産総研

原子位置の乱れがノイズ発生の起源であると発見

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)は12日、大規模集積量子コンピュータ制御回路のトランジスタが、演算性能を低下させる起源を特定したと発表。技術の詳細は6月15日のVLSIシンポジウムで発表する。

 量子コンピュータの大規模集積化において、現状では冷凍機外部に設置されている量子ビット素子の制御機能を集積回路化し、冷凍機内に設置、極低温で動作させる必要がある。制御用集積回路はノイズに弱いアナログ回路で、発生するノイズは量子コンピュータの性能を低下させる原因となる。しかしこれまで、集積回路を構成するトランジスタを極低温下で動作させた場合のノイズ発生の起源は不明だった。

 今回の研究では、300mmウェハ上に制作したトランジスタを用いて、極低温下によけるノイズ発生現象を統計的に実験評価。原子サイズの欠陥に付随して生じる微小な原子位置変位が、極低温動作トランジスタのノイズ発生の起源であると特定したという。

 これまでの研究では、ノイズ発生起源の“場所”はトランジスタを構成するゲート電極直下のシリコン-酸化膜界面付近であることは分かっていたが、起源特定には至らなかった。これは大型のトランジスタを用いて、多数のノイズ発生の起源から平均したノイズを観測していたためだという。

 今回の研究は、ノイズ発生の起源が極少数のみ含まれるような微細トランジスタを用いることで、発生の起源ごとに生じているノイズを区別して観測することに成功。原子1つが抜けて欠陥ができると、周りの原子がわずかに動き原子位置が乱れるため、電流の変動とノイズ発生に繋がることが解明できた。常温環境下ではほとんど影響がなかったが、極低温動作では、このような微小な原子位置の乱れまで考慮する必要が生じるという。

 今回の研究成果から、ノイズ発生起源削減技術を用いた制御用集積回路やシリコン量子ビット素子を用いた大規模集積量子コンピュータの実現を目指すとしている。

トランジスタの模式図とシリコン-酸化膜界面の電子顕微鏡写真
1つの発生起源から生じるノイズを観測した実験データ
統計の結果得られたノイズ発生温度とトラップエネルギーとの関係