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0.5V未満で動作するグラフェン膜のNEMSスイッチ。待機消費電力の飛躍的軽減に期待

今回開発されたNEMSスイッチ

 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学は10日、炭素1原子層厚のグラフェン膜を使い、0.5V未満の電圧で動作するNEMS(ナノ電子機械システム)スイッチを開発したと発表した。

 現在のシリコン集積回路の基本素子はMOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)によって支えられているが、微細化に伴いオフリーク電流(トランジスタをスイッチオフした状態での漏れ電流)の増大が深刻な問題となっており、オフリーク電流によりシステム待機時の消費電力(スタンバイパワー)は稼働時の消費電力(アクティブパワー)と同等になっている。

 このスタンバイパワーの低減のために、デバイスや回路、システムすべてのレベルでさまざまな対策が検討されている。このうちデバイスレベルでは、トンネルトランジスタや負性容量電界効果トランジスタといった新原理のスイッチングトランジスタが提案され、研究開発が進んでいるものの、未だMOSFETを凌駕するオフリーク電流特性の実現に至っていない。

 水田教授、マノハラン元講師らの研究チームは、これまで原子層材料であるグラフェンをベースとしたNEMS技術による新原理のスイッチングデバイスを開発してきており、2014年には、2層グラフェンで形成した両持ち梁を静電的に動かし、金属電極上にコンタクトさせて動作するグラフェンNEMSスイッチの原理実験に成功していた。しかしオン/オフ動作を繰り返すうちに、グラフェンが金属表面に張り付く(スティクション)問題が発生し、繰り返し動作に限界があった。

 今回の開発では、制御電極表面に単層の六方晶窒化ホウ素原子層膜を備えることで、グラフェンと電極間に働くファンデルワールス力を低減させ、スティクションの発生を抑制。安定したオン/オフ動作を5万回繰り返すことに世界で初めて成功した。また、5万回を超えても、5桁に近いオン/オフ電流比、電流スイッチング傾き≈20 mV/decの急峻性が維持され、経時劣化が極めて小さいことも確認できたという。

オン/オフ繰り返し動作の結果

 加えて、素子構造の最適化を行なうことで、スイッチング電圧0.5V未満という従来のNEMSスイッチと比較して2桁低い低電圧化を実現。さらに、オン/オフ電圧のずれ(ヒステリシス)も解消したとしている。

 今回開発されたNEMSスイッチの優れた性能と信頼性の高さから、今後超高速/低消費電力システムの新たな基本集積素子やパワーマネジメント素子として期待されている。加えて、製作においては大面積化が可能なCVDグラフェン膜とhBN膜を採用しているため、大規模集積化や量産への展望も広がるとしている。