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IBMとRapidusが、日本で2nmの最先端半導体を製造するに至った背景と目標

(左から)Rapidusの東哲郎会長、Rapidusの小池淳義社長、米IBM シニアバイスプレジデント IBM Researchディレクターのダリオ・ギル氏、日本IBMの山口明夫社長、日本IBM常務執行役員 最高技術責任者兼研究開発担当の森本典繁氏

 IBMとRapidusは、戦略的パートナーシップを締結し、12月13日、都内で記者会見を行なった。IBMの2nmノード技術の開発を共同で推進し、2020年代後半には、Rapidusが建設する日本国内の製造拠点に導入し、量産を開始することになる。

 Rapidusの小池淳義社長は、「Rapidusのコアは、IBMと提携し、2nmのテクノロジーを収得し、日本で生産することである。これを正式に発表できたことはエキサイティングである。IBMとRapidusが、心から信じあって、ブロジェクトを成功させる。今日のこの日は、日本の産業界、半導体業界はもちろん、米国や世界の人たちにとって、絶対に忘れられない日になると確信している」と、半導体産業において節目の日になることを強調。

 また、米IBM シニアバイスプレジデント IBM Researchディレクターのダリオ・ギル氏は、「5nm以下のプロセスにおいては、米国も、日本も生産能力はゼロであり、高度な半導体の製造能力を有していないことは大きな課題である。このプロジェクトにより、地政学的リスクのバランスが取れ、半導体のサプライチェーンが耐性のあるものになる。簡単ではないが、このプロジェクトを成功させることは重要である」と意気込みを語った。

IBMの半導体
半導体技術に注力するIBM
日本には5nm以降の先端ノードの商用量産能力を有していない日本

 IBMでは、2021年に世界初となる2nmノードのチップ開発技術を発表。現在、最も先進的な7nmチップに比べて、性能は45%向上でき、性能が同じ場合には、75%のエネルギー効率向上が達成できるという。

 ギルシニアバイスプレジデントは、「次世代トランジスタ技術であるNanosheet(ナノシート)によって、2nmノードを実現する。パートナーとともに、約15年間に渡って築いてきた世界初の技術である。すべての電子機器やコンピュータが依存する技術になり、世界をリードすることができる」と自信をみせる。

技術革新の必要性
IBMのナノシート

 一方、Rapidusは、次世代半導体の量産製造拠点を目指すため、国内トップの技術者が集結し、国内主要企業の賛同を得て、2022年8月に設立。キオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTT、三菱UFJ銀行の国内8社が出資し、総額73億円の資本金でスタート。経済産業省が2022年度予算で700億円を助成する。

 Rapidusの小池社長は、「IBMからナノシートという新たなテクノロジーのライセンスを受けることができ、これまでにできなかったことが実現できるようになる」とし、「2023年からは米ニューヨーク州アルバニーのAlbany Nanotech Complexに、Rapidusの社員を派遣し、基礎研究を一緒に行ない、学ぶことになる。設計やプロセス、デバイス、バックエンドなど、いくつかのグループにわけ、詳細を研究し、習得していく。日本が得意なモノづくりと融合して、最先端半導体の量産を実現する」と語る。

IBMからの技術ライセンス
Rapidusの共同研究

 Rapidusの技術者は、IBMおよび日本IBMの研究者と協働し、新たなトランジスタの構造や構築について学ぶほか、前工程、後工程、パッケージング技術のコラボレーションも行なう。クリーンルーム施設を活用した研究、実験を行ない、日々の研究データを収集しながら、プロセスの仕様を固める作業を反復的に行なうことになる。

IBMとのパートナーシップの実現

 また、「IBMにも、モノづくり技術をフィードバックし、この技術を活用して、日本でパイロットラインを構築する。2020年代後半に向けて、スピードを兼ね備えたファブを建設し、量産を通じて、世界に貢献できる日本発のモノづくりによる半導体を供給していくことになる」(Rapidusの小池社長)と述べた。

 R&Dでは数兆円の投資が必要であり、パイロットラインでも数兆円の投資が必要だとしている。

 さらに、「Rapidusが、TSMCやSamsungと異なるところは、スピードである。いかに速く作るかが鍵になる。顧客の設計のサポートを速く行ない、半導体の前工程であるウェハのマニファクチャリングも速く行なう。競合の半分や3分の1の期間で作ることができる自信がある。また、バックエンドの3Dパッケージングについても、世界一のスピードで提供する。最大のスピード、世界で一番速いサイクルタイムを実現する。これを実現できるのは、IBMのテクノロジーがあるためだ。日本がサステナブルな世界を作ることができ、世界展開ができるようになる」などと語った。

 Rapidusの小池社長が語るように、今回のIBMとのパートナーシップは、Rapidusにとってコアになるものだ。

 Rapidusの東哲郎会長は、「IBMとの連携は、Rapidusにとって重要なだけでなく、日本にとって重要である」と前置きし、「約10年前に、IBM、ニューヨーク州立大学、東京エレクトロンによって、米ニューヨーク州アーバニーでのナノプロジェクトがスタートした。2年前には、IBM幹部との電話会議で、日米連携の可能性について打診があり、そこから具体的な話が始まっている。これは、IBMが、日本を大事にし、信頼していることの証である。信頼は、未来を形成する上で重要である。経済産業省、政府、海外研究機関、サプライヤーがサポートし、米国政府も強くサポートしている。恵まれた環境で出発する。成功に向けて最大の努力をしたい」と語る。

 また、小池社長も、「数年前に、新たな2nmで、新たな世界を作ろうという話があった。この技術の可能性を検証するために、エンジニアが集まり、真剣に議論をして、IBMの2nmの技術に、日本のモノづくりの力や、速く作るスピードを加えることで、日本が10年、15年遅れているこの分野の技術をキャッチアップできると考えた。FinFETからNanosheetには大きなジャンプアップがあった。これを収得して、自分のものにすることが大事であり、我々の役割は、これを量産技術にすることである。IBMとともに研究し、日本のモノづくりの成果へとつなげることに自信を持っている。政府に対しては、IBMとの提携がコアになることを十二分に説明して、経済産業省から700億円の補助を得た」と振り返る。

IBM Researchの取り組み
世界初となる2nmテストチップを2021年5月6日に発表

 米IBMのギルシニアバイスプレジテントは、「IBMはテクノロジーイノベーションを起こすだけでなく、信頼できるパートナーとして長期的な成功を目指している。日本政府の支援を得たことは重要なことである」と語った。

 当初のプロジェクトネームは「Mt.FUJI」であり、社名のRapidusは、ラピッドのラテン語だ。Rapidusのロゴマークは、富士山をモチーフとし、そこにスピードを感じさせる線をデザインし、世界のエコを考えてグリーンを施したという。

 「Rapidus には、3つのポイントがある。1つは将来を見据えて、人材をしっかりと育成すること、2つめは半導体を、狭い世界で考えるのではなく、どんな最終製品を作るのかを考え、意識をすること。3つめはグリーン化であり、半導体を使って、生活を豊かにし、便利にし、幸せになる世界を目指す。便利になっても、エネルギー消費が増えたら意味がない。Nanosheetテクノロジーは、エネルギーをマイナスにできる可能性がある技術であり、半導体の量は増えても、エネルギーがマイナスになる世界を作りたい」と語った。

 一方で、米IBMのギルシニアバイスプレジデントが指摘するように、地政学的リスクの観点からも、今回の提携は大きな意味を持つ。

記者会見の様子

 東会長も、「デジタル社会がボーダレスに垣根を超えて、全世界や社会の隅々にまで行き渡る時期に来ている。デジタル社会を健全に正しく導き、人類、社会に大きな豊かさと幸せをもたらさなくてはならないが、いまは、大きな不安と不透明さ、脆弱性があるのも事実だ。地政学的なリスクだけでなく、産業構造にも偏りがある。間違えれば、一瞬にして、世界が混乱を来すリスクがある。健全な形での国際連携、バランスの取れた国際連携をすることが世界にとっても重要であり、日本にとっても重要である。今回の連携はその点でも意義がある」とする。

 ギルシニアバイスプレジデントは、「半導体技術は、近代的な生活の土台とを形成しており、コロナ禍では、その重要性がさらに高まっている。半導体の進歩に依存しない業界はない。IBMのメインフレームの進化も、先進的な半導体に依存したものであり、過去10年間で3倍に性能を進化させ、その結果、銀行、通信、医療などにおけるトランザクションも大きく増加している。半導体は、すべての産業におけるパワーの源である」としながら、「米国、欧州、日本には、高度な半導体生産設備がない。それを改善するために、政策レベルでの調整や投資が行なわれているが、今回の戦略的パートナーシップは、日米政府のコーディネーションによって実現する打開策の1つになる。リカバリーには時間がかかるが、2020年代の後半には、よりレジリエントなサプライチェーンを実現することができる」と述べた。

 なお、日本IBMの山口明夫社長は、「日本IBMは、2020年に、量子コンピュータを日本に設置し、日本のお客様にいち早く使ってもらえるようにし、そのための研究も一緒に行なってきた。その成果を世界に展開し、変革をリードしたいと考えている。今回の提携は、それに続く第2弾となるものであり、最先端半導体の研究開発、製造において、高い技術を持った日本の企業と連携し、次世代半導体を作り上げ、様々な社会課題を解決するための活動に取り組みたい。今後は、半導体の確保や、電力消費量の削減が大きな鍵になる。技術力が高い日本で次世代半導体を生産することで課題を解決し、日本の成長に貢献したい」と語った。

ニューヨーク州に2兆円以上の投資