ニュース

東工大、量子アニーリングによる高精度大規模量子シミュレーションに成功

実験時間(横軸)と欠陥数(縦軸)の関係。緑の破線がノイズのない量子力学理論予測

 東京工業大学 国際先駆研究機構 量子コンピューティング研究拠点の研究チームは、D-Waveの量子アニーリング装置を利用し、高精度な大規模量子シミュレーションに成功したと発表した。

 量子アニーリングは近年、組み合わせ最適化問題以外にも、量子力学の原理に基づき、物質の動きを量子デバイス上で再現し性質を解明する量子シミュレーションへの応用が急速に進んでいる。ゲート方式の量子コンピュータによる量子シミュレーションも研究が行なわれているが、規模が限られていたりノイズの影響が大きいなど課題も多い。

 研究チームでは、1次元物質における量子相転移にともなう物質中の欠陥数の時間変化という課題について、量子アニーリング装置(D-Wave2000Q)を用いた量子シミュレーションを実施。2,000個の量子ビットを1次元の線状に配置した人工量子系を量子アニーリング装置上に実装し、そこでの欠陥の数を実験時間を変えながら測定した。

 この中で、1ns(従来の1,000分の1に相当)程度の短い時間単位で、2,000個の超伝導量子ビットを同期的に動作できる高度なデバイス制御技術を開発。熱雑音の影響が出る前に実験を行なうことで、量子力学に基づく量子相転移の理論の検証を実現した。あわせて、誤差を精密に補正するキャリブレーション技術を開発し、データの信頼性も大幅に向上した。

 これらの技術を利用することで、量子シミュレーションの結果と、ノイズのない理想的な環境を想定した場合の理論の予想とほぼ完全に一致することが確認できた。ノイズの影響を排除しながら大規模超伝導人工量子系を量子力学の理論通りに動作させられることを示した初の例だとしている。

 今回の成果により、ゲート方式量子コンピュータ上でのシミュレーションにおける規模の制約やノイズ、データの劣化などといった問題について、量子アニーリングでは大幅に緩和できることを実証できたという。研究グループでは、大規模な量子シミュレーションによる物質の量子学的特性の理解や、それに基づく物質開発の促進が期待されるとしている。