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Adobe、次なる新機能を恒例の「Sneaks」でお披露目

モバイルアプリでキャプチャした画像は実際のサイズと同じようにレンダリングされ、部屋の風景に重ねられるので、実際のサイズがどのくらいか簡単に把握できる

 Adobeは、Experience Cloud向けの年次イベント「Adobe Summit」、Creative Cloud向けの年次イベント「Adobe MAX」という2つのフラッグシップカンファレンスを、それぞれ春と秋に開催している。3月15日(現地時間)からは「Adobe Summit」をデジタル開催しており、3月15日には基調講演などが行なわれAdobeのデジタルマーケティング向けの戦略などが説明された。

 16日にはSummit、MAXの両イベントの中で最も人気のイベントである「Sneaks」(スニークス)が開催され、同社のエンジニアが知恵を絞って考えた未来のアプリケーションが紹介されている。このSneaks、単に未来のアイディアを紹介しているだけでなく、きちんとある程度のPoC(Proof of Concept、実際にコンセプトが動作するかを確認する作業のこと)で行なわれており、実際にソフトウェアとして動作することが確認されたものが紹介されている。

Creative CloudとExperience Cloudのメタバースでの統合を発表、メタバースの即時大規模展開が可能に

 今回のAdobe Summitで、Adobeは企業がデジタルにおける顧客体験を改善するためのソリューションとして「Adobe Real-Time CDP」の新しいサービスを提供するなど、今後1年に渡って順次提供していく「Adobe Experience Cloud」のサービスなどを発表した。

 Experience Cloudは、企業がエンドユーザーにデジタルサービスを提供する上での基盤となるクラウドサービスで、IDの管理やユーザー体験の管理、デジタルマーケティングなどを一括して提供していくための基盤となる。Adobe Real-Time CDPはそうした顧客のデータをより高度に管理することで、企業が自社の顧客などに対してよりリアルタイムにより良いデジタルサービスを提供することを可能にする。

 また、今やバズワードと言っても良いほど注目を集めている「メタバース」向けのソリューションとして、クリエイターツール「Adobe Creative Cloud」と前出のExperience Cloudの新しい統合を行なっていくことを発表。

 Adobeは、Creative Cloudにメタバースのコンテンツを作成するツールを提供している。「Substance 3D」や「Aero」などがその代表例で、例えばAeroを利用すると、現実世界に仮想物体を置くARコンテンツなどを作成できる。今回の統合では、そうしたツールとExperience Cloudのサービス(Commerce、Experience Manager、Analytics、Target)と統合が実現され、クリエイターツールで作成したメタバースのコンテンツを、Experience Cloudを経由して提供されるさまざまなエンドユーザー向けサービスなどに、メタバースの仕組みを導入できる。

 メタバースというと、VR HMDやMR HMDなどのハードウェアやローカルアプリケーションが注目されるところだが、近未来ではWebサービスのような形で提供されるものが中心になっていくと考えられている。クリエイターがAdobe Aeroなどで作成したメタバースコンテンツが、Experience Cloudを経由してエンドユーザーにサービスとしてそれこそリアルタイムに提供されていく形は、メタバースの大衆化を進めるという観点で注目されていいニュースだと言える。

ECサイトの写真画像を、実サイズのARにして部屋に置くことができるProject Right Sizeなどを公開

うっすら表示されている四角形の顔のようなモノがマーカー、人間の目には見えずモバイルアプリからだけ見える

 そうした各種の発表が行なわれたSummitで、Adobeは「Sneaks」と呼ばれる人気のイベントを行なっている。英語で「Sneak」とはこっそりとか内密にという意味で、こっそり開発中のモノをみせるという意味でこの名前がついたイベントになる。春のSummit、秋のMAXというイベントで年2回行なわれており、開発中の技術やツールなどを公開する場となっている。

 現在はCOVID-19によるパンデミックの影響でAdobeのイベントも全てオンラインになっているが、リアルイベントとして行なわれていた頃には、参加者はビール片手(他のセッションではアルコールの持ち込みは禁止だが、このSneaksだけは例外的に許されている)に、面白いネタには拍手喝采を送ってリラックスして見る、そうしたイベントになっている。

 3月16日にAdobeが公開したSummit 2022でのSneaksでは7つのプロジェクト(Adobeの用語で、発表前製品のコードネームのこと)が公開された。

Project Right Size

専用のアプリを利用してECサイトをキャプチャすると、実物大のARコンテンツを取り込める。実際には人間の目には見えないARマーカーを読んでいる

 ECでの返品問題は、EC事業者などにとって大きな悩みの1つだが、その最大の理由はサイズの問題だとされている。買って見たら、思ったより大きくて部屋に入らなかったというのは極端かもしれないが、机の上に置けないから返品ということは少なくないようだ。

 Project Right Sizeはそうした問題を避けるためのソリューションだ。Webサイトに掲載するデジタル製品画像に人間の目に見えないARマーカーを埋め込み、顧客がその写真をモバイルアプリで撮影すると、自宅の環境に実物大の商品をレンダリングで再現できる。

 例えば、Amazonで買おうと思っているコーヒーカップと、楽天で買おうと思っているトースターも、それぞれProject Right Sizeに対応した写真があれば、実物大のサイズで部屋に重ねて表示することができる。

読み取ったARのカップをPCに重ねているところ

 楽しみにして買ってみたはいいけど、サイズがまったくあわなくて返品という、買う側も、売る側も悲しいことが発生することを防ぐ事ができる。

Project Design Decoder

 Project Design Decoderは、全世界で3億人いるとされている視覚障害者の方向けの機能。マシンラーニングとコンピュータビジョンの機能を利用して、オンラインショッピングより使いやすくする機能。弱視の方や、色覚障害の方にとって認識しにくい商品画像をECサイト上で検出し、それらをそうした方々でも認識しやすい表現に瞬時に変換することができる。

Project Demand Detector

 ECサイトの利用者にとっての最大のストレスは、欲しいモノを探しているのに、欲しいモノが見つからないどころか欲しくもないものがサジェスチョンされるというところではないだろうか。そしてその結果として、ユーザーは他のECサイトに言ってしまい、運営者としてはビジネスチャンスのロストという最悪の展開を迎えることになる。

 そうしたことを防ぐのがProject Demand Detectorだ。Project Demand DetectorはAI機能を利用して、数百万件のデータを分析し、サイト訪問者が探している需要の高い商品を検出する。在庫が切れている商品の中でも需要が高いと考えられる商品をピンポイントで特定でき、足りない商品を早めに発注したりなどが可能になる。

Project KPI Pop

 KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)は現代のマーケティング担当者なら、日々この数字とにらめっこが仕事と言い換えても過言ではないだろう。売り上げ、サイト訪問者数、来店者数……KPIとなる数字は業態によって異なっているが、このKPIも1つや2つのうちは理解も簡単だが、それが複数に増えていくと、どのKPIを重視していいのか……という本末転倒な事態になりかねない。

 そこで、Project KPI PopはAdobe SenseiのAI機能を利用して何百万のデータを分析して、顧客にとって何が響いているのかなどを迅速に特定し、次に撮るべき最善のアクションを奨励する。

Project Winning Scores

 顧客のユーザー体験を向上させるためには、アンケートの実施やその結果を得ることが必須。しかし、効果的なアンケートの実施となると頭を抱える担当者も多いのではないだろうか。このProject Winning Scoresはそうした担当者の頭を悩ますアンケートで何を聞けば良いかをAdobe SenseiがAdobe Analyticsのデータを活用して考えてくれる。

Project Quick Connect

 企業のマーケティングキャンペーンを可視化して、効率の良いマーケティングキャンペーンを打つためのツール。Experience Cloudに統合されており、企業の担当者は容易に状況を把握できるようになる。

Project Style Blast

 企業のデジタルマーケティングの担当者にとって、メールを利用した効果的なマーケティングは、ビジネスの成績に直結するだけでなく、ユーザーに反感を持たれるようなマーケティングを行なうと逆効果になってしまう。そこで、Project Style Blastでは、送った相手に好感を持たれるようなコンテンツをAIが特定し、そうしたメールを送るまで簡素化する。