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グリッドをロボットが走り回る近未来感あふれる倉庫。釣具のハヤブサが公開
2021年12月6日 12:11
兵庫県三木市に拠点を置く釣り具を中心としたアウトドアブランドを展開する株式会社ハヤブサは12月3日、同社が1月から導入しているノルウェー製のロボット倉庫「AutoStore(オートストア)」について、オートストア日本法人とともにセミナーと実機公開を現地の本社兼物流センターで行なった。
AutoStoreは、専用コンテナを高密度に収納し、「グリッド」と呼ばれるアルミ製のレール上を自走箱型ロボットが走り回って、指定された商品を吊り上げて出し入れするキューブストレージを活用したロボット倉庫型ピッキングシステムを提供している会社。システムの名前も会社名と同じ「オートストア」と呼ばれている。
通常の倉庫と違って通路がなく、天井高いっぱいまで容積を活用できることから、オートストアでは「空間を最大限有効活用できる収納・保管・搬送システム」だとしている。
AutoStoreに対しては、ソフトバンクグループが株式の40%を28億ドル(約3,080億円)で出資したと4月に発表しており、10月にAutoStoreがオスロ証券取引所に上場した折にも話題になった。
2万箱が収納された49×38mのロボット倉庫
一般的な物流倉庫でのピッキング作業は、商品が分類された棚がずらっと並べられており、棚の間を作業者がピッキング指示が示されるハンディ端末を片手に歩き回りながら、自分の目と手で行なっている。作業者の歩行距離は1日で10kmにもおよぶ場合も少なくない。
オートストアのようなロボット倉庫は、作業者の歩行距離を少なくできるソリューションの1つで、指定された商品をロボットが定点まで持って来るため、作業者は基本的に入庫・出庫のための「ポート」位置から動く必要がなくなり、歩行距離が大幅に減る。
ロボット自動倉庫のオートストアは導入先によって規模が異なる。今回、ハヤブサは世界でもめずらしいスタイルでオートストアを導入しており、ロボット倉庫の面積のうち6割は架台の上に設置されており、その下は作業スペース(ポート)となっている。
このようなスタイルをとることで、床面の作業スペースを確保しつつ、多品種に対する高速ピッキングを実現した。グリッドエリアは49×38m(67×76列)。この中に「ビン」と呼ばれるコンテナ容器が、架台上は4段、ポート近くでは14段、約4.8m積み上げたかたちで、2万2,933箱収納されている。
グリッド最上部のトラックを動き回り、ビンを上げ下げして入出庫を行なう移動ロボットの台数は76台。ピッキング指示を受けた箱型のロボットは倉庫のグリッドの上を移動し、商品の入ったビンを釣り上げて、作業者が商品ピッキングを行なうポートへと供給していく。ロボットはバッテリで動作しており、動く必要がないロボットは随時、自動で充電する。
架台下にあるポート数は11箇所で、うち入庫が3箇所、出庫が8箇所。今後、さらに3ポートを増設する予定。時間あたりの入出庫量は、入庫が180ビン/時間。出庫が1,712ビン/時間。1出庫あたり16秒で作業者の手元に商品が運ばれてくる。ハヤブサに導入されたオートストアは国内最大規模となる。
保管量は2倍、出庫スピードは3倍。8時間稼働のみで対応可能に
解説は物流関係者向けのオンラインセミナー形式で行なわれた。テーマは「物流イノベーションにおける持続的成長」。
日本法人であるオートストア システム株式会社マネージャーの阪井克来氏が司会を行ない、同社社長の鴨弘司氏が概要を紹介、株式会社ハヤブサ 常務取締役の歯朶哲也氏が質問に答えるかたちで物流を基軸に、コロナ禍による影響や、成長戦略、オートストア導入を決めた理由を述べた。
なお、オートストアの鴨氏が日本法人社長に就任すると発表されたのは2019年11月で、鴨氏はインテル株式会社の執行役員・業務執行統括本部本部長などの経歴を持っている。
ハヤブサは釣鈎の製造を行なう田尻隼人商店として1959年創業。1970年にハヤブサを設立し、今日ではフィッシングブランドの「ハヤブサ」、アパレルブランドの「FREEKNOT」、ペット用品ブランドの「Pet's Republic」の3本柱でビジネスを展開している。
製造は韓国、中国、インド、ベトナム、ミャンマーなどで行なわれており、本社兼物流センターにも海外から半製品としてまずは入庫したあと、全品検品を経た後、製品としてオートストアに入庫されていく。
本社兼物流センター全体の敷地面積は3万754平米。オートストアによって余裕が生まれたことから、2階部分は事務所として利用している。
現在扱っているアイテム数は約2万。以前からクレーン式自動倉庫を導入していたが、アイテム数が増加して、出庫スピードや人手確保において課題を抱えていた。繁忙期は24時間体制で対応していたが、オートストアを導入することで、保管量は2倍、出庫スピードは3倍となり、稼働後は日中8時間稼動での対応で済むようになったという。
新型コロナで需要増も、供給が難しく
どの業界でも新型コロナウイルスの影響は大きい。ハヤブサの事業領域であるレジャー業界も例外ではない。
新型コロナが広がり始めたころ、「3密防止」ということで、インドアレジャーが大きく制限された。その結果、アウトドアレジャーへの新規参入/復帰者が一気に増加。また、緊急事態宣言による「巣篭もり需要」で、新たにペットを飼育する人も増えた。
この結果、アウトドアレジャーの代表である釣り、そしてペットアパレルなどの需要は全体的に増大。ハヤブサでは新型コロナで業績が拡大した。
しかし一方、製造拠点の東南アジアでも新型コロナが蔓延、ロックダウンが起こった。3カ月弱程度のロックダウンにより工場が操業停止になり、増大する需要に対して商品が提供できなくなってしまい、供給バランスが崩れてしまったという。
オートストア自体も好調だったという。もともとグローバルでEコマース需要が急激に伸びていた。いったんロックダウンなどはあったものの、コロナ禍で自動化にシフトチェンジした企業が多く、EC需要もさらに加速させるように伸びていると鴨氏は語った。
会社を長期的に持続可能にするためのテクノロジー
もともとハヤブサではマテハン(マテリアルハンドリング)機器を更新しようと2018年6月ごろから検討を開始していた。そのときは従来使っていた自動倉庫の新型を使う前提で、その周辺機器を探すために、歯朶氏らは物流展示会に参加していたという。
そのときにオートストアに出会い「非常に印象に残った」という。既存の自動倉庫活用の延長で、売り上げ増加に対応できるのか疑問を感じていたためだ。そして日本で最初の導入事例だったニトリなども見学し、導入を決断した。
ハヤブサでは2019年に、2025年までに売り上げ2倍を目指すという方針を発表。2倍にする前提で考えると、既存の倉庫の仕組みでは季節変動時のピーク時には十分に対応できないと考えた。当時はピーク時には、ほぼ毎日24時間倉庫を連続稼働していて、それでいてリードタイムが3日から4日かかっていた。ここでさらに売り上げが2倍となると「とうてい対応できない」と歯朶氏は考えた。
ハヤブサ本社の立地条件の問題もあった。同社の所在地は高速道路のインターチェンジが近く物流には向いている。しかしながら都市部からは離れている。また近隣に大型の工業団地、プレミアムアウトレットやリゾート施設などがあり、そちらで大きな雇用が生まれている。人手は取り合いなので、人材確保は難しくなる。さらにこの先5年10年考えると、ますます難しくなっていくと思われる。
そこで大きな経営目標として、会社を持続的に成長させていくために、以前から気になっていたオートストアの導入に踏み切ったという。大型投資となるので、歯朶氏は社内に対して4点を強調し、何度も説明会を行なったという。
まず1つ目は、ハヤブサの製品のほとんどがオートストアのビンの中に入る小型のものであること。つまり相性がいいと考えられること。
2つ目がオートストアの導入を前提とした全体設計によって、人の動きのうち、実に8割から9割を削減できると見込まれたこと。
3つ目はそれまでは周辺に倉庫を複数借りていて、そのコストが嵩んでいたことや人員の問題である。人員の有効活用によって年間5,000万円程度のコスト削減が可能と見積もられた。
4つ目が釣具の在庫管理をオートストアで行なうことで、従来の倉庫をほかのブランドであるアパレル倉庫に転用でき、大きな職場環境改善が期待できることである。
停電への対応は今後の課題
ハヤブサのオートストア稼働からはすでに約10カ月程度経過している。メリットについてはほぼ想定どおりで動線が大幅に改善され、ピッキング速度が向上し、ミス低減、スペースの有効活用などがあったという。
予想外のメリットもあり、ハヤブサのレイアウトでは作業者の頭上にオートストアがあることから天井が少し低くなっており、冬場の暖房効率が高くなった。
想定外の問題は停電である。2021年10月に関西電力の設備の不具合で停電が起きたときは、オートストアが全停止してしまった。ハヤブサでも、釣り具に関しては、ほぼ全ての製品をオートストアに入れていたため、おおよそ2時間、出荷が全くできなくなってしまった。歯朶氏は「停電対策、BCP(事業継続改革)対策の重要性を改めて認識させられた」と語った。
電力が遮断されてもロボット自体はバッテリで駆動しているので、その場で即座に止まるわけではない。だが、システム全体は動かなくなってしまうので、電力の問題については建物全体での対応が必要だ。
なお、日本は地震が多いが、耐震性は中に柱を建てるなどの対策をすることで、ほぼ問題ないという。これらの施工上の工夫は各代理店が行なっている。
「誰でも気持ちよく働ける環境」が企業の持続可能性に直結する
実際にどのような課題が解決できたのか。まず、人員不足への対策ができた。従来の仕事を半分くらいの人数で回すことができるようになり、時間外労働を大幅に削減。時間外労働は全体で月5、6時間程度となった。
また従来、鉛製品(錘)は落下の可能性があるために全て平置きしていたが、オートストア導入後は、それらも全て中に入れてしまったので、人が歩いてピックアップする負担がなくなるなど、労働環境も大幅に改善した。
顧客に納品するまでのリードタイムも大幅に改善した。歯朶氏は「釣り業界では、日曜日の夜から月曜の朝に注文が入り、それを木/金に出荷するケースがほとんど。このリードタイムを他社よりも短縮することで顧客満足度が上がり、さらに注文が増えてくるということが期待される」と述べた。
オートストアの鴨氏も「人の作業がキーになってくる」と語った。オートストア導入社の約70%が既存作業に導入する。すると人の作業が自動化され、生産性が向上し、ミスが減り、保管効率が高いため賃料が安くなるといったメリットもある。
一方で、今後厳しくなる労働環境の中、売上が増えたときのオペレーションをどう考えるかという観点も重要であり、単に労働力を削減して自動化するだけではなく「誰でも気持ちよく働けるような環境づくりが重要視されている」という。
投資回収については、現時点では業績は伸びているものの、オーバースペックな倉庫となっているというのが実情だという。だが、数年後、さらにその先を見据えての大型投資であり、現場の改善にも大きく寄与していることから「数値だけに捉われない経営改善ができた」と考えているとのことだった。
オートストアの阪井氏は、現在、大河ドラマの主役でお札の顔にもなる予定の渋沢栄一の逸話を紹介した。渋沢栄一は「論語」と「算盤」の両方が重要だと述べていた。現代に置き換えると、コストだけでなく、安全や従業員の健康を重視することで、事業を持続可能にすることが重要というわけだ。
「変化する環境で組織に持続的成長をもたらす秘訣は」と問われた歯朶氏は、「ありきたりではあるが、大切にしていることは他者がやっていないことをやること。新しいことにチャレンジし続けること。現状維持=衰退だと考えている。どんどんやれることを増やしていく先に業績の拡大、成長があると考えている」と述べた。
鴨氏も「倉庫環境の自動化は労働環境改善に繋がる。倉庫でのピッキング作業は1日やると足がパンパンになる。ソーシャルディスタンスが必要な現場もある。職場環境を整えて働きやすい環境を作ることが重要だ」と述べた。
またオートストアはロボット10台の電力消費量が掃除機1台分だと言っていることから、エネルギー的にも環境負荷が低く、加えて「縦横無尽にロボットが動くだけで明るく楽しくなると言われることもある」と述べた。オートストア阪井氏も「リラックスした環境が強靭な企業の土台を作るのかなと感じた」とコメントした。
要件定義を明確にすることが新技術活用のカギ
最後にオートストア導入検討中の経営者に向けてのコメントを求められた歯朶氏は、「まず自分たちが自動倉庫に求める要件が何なのか明確にすること。多くの事例を検証し、実際に見学して担当者にヒアリングできればさらに良い」と述べた。またオートストアの魅力はレイアウトの自由度の高さにもあるとし、「要件定義を行なうことで自社で使い勝手のいいレイアウトを検討できる」と述べた。
架台の上にオートストアを載せる案を考えたのも歯朶氏自身で、それは「とにかくピッキングスピード、回転数を上げたい」と考えたからだという。これはハヤブサのニーズが「膨大な小ロットに対応する」というものだったことから来ている。
そのため、高くグリッドを積み上げるのではなく、浅く横に広くして、ビン数に対するロボット数を多くして、できるだけピッキング回転数を上げることを狙った。
オートストアの特徴の1つは、システムを動かせば動かすほど高頻度に出荷される商品が上のほうに、低頻度商品は下に配置されるように効率化されていくこととされているが、最初から広く浅いほうが速度は速いはずだというわけだ。このハヤブサ側の提案に対し、オカムラとオートストアによるシミュレーションが応えたものだという。
なおハヤブサの物流センターの投資額は全て込みで23億円。オートストアのコストは架台部分も含めて7億7,000万円。このうち架台部分のコストが大きいという。
医療から電子部品まで、様々な業界で活用されるオートストア
このあと、AutoStore日本販売代理店である株式会社オカムラの物流システム事業本部マーケティング部シニアコンサルタントの飯寺亮介氏が、様々な業種でのオートストア活用事例を紹介した。
AutoStoreは1996年に設立された。もともとAutoStore自体の倉庫の改善、空間を有効活用するために開発されたが、2004年から外販を開始。オカムラが日本で販売を開始したのは2014年からで、2021年6月現在では、世界39か国667件の導入事例がある。
うち、日本国内は43件。北米、ドイツ、ノルウェーについで4番目となり、国土が狭い日本にはオートストアは受け入れられていることが分かる。オカムラが手掛けたシステムは国内のオートストアの約9割で、11月現在で37システムが稼動中で、6システムが工事/手配中。
AutoStoreのユーザーは産業用部品、アパレル、電子部品、医療用品、食料品/雑貨など、特に偏りなく、幅広くあらゆる業種で用いられている。日本では小売、卸売、製造業、通信販売、3PLなどに導入されている。
飯寺氏は事例として株式会社ホームロジスティクス(ニトリ)、株式会社ムービング(マルイ)、ファナックパートロニクス株式会社、グローリー株式会社の4事例を紹介した。
国内第1号事例であるホームロジスティクス(ニトリ)では、37×37mの広さでおよそ3万のビンを使っている。オートストア導入により、ピッキング生産性が約5倍に向上。保管スペースは導入前の2分の1になったという。レイアウトも工夫されており、ロボットの走行距離が短くなっている。
ニトリが導入した理由は、担当者がヨーロッパに視察にいったときに、作業者がヘッドフォンで音楽を聴きながら楽しそうに作業をしている様子に衝撃を受けたことがきっかけだったという。
ムービング(マルイ)の事例では保管スペースが3分の1に、生産性は4倍以上となった。
製造業でも活用されている。ロボット量産部品などを取り扱うファナックパートロニクス(産業用ロボット大手ファナックの子会社)では入出庫時間導入前の1/2となり、全体効率が15%以上向上した。
決め手となったのはトレーサビリティがあること。従来のマニュアルピッキングではいつ入荷したものからピッキングしたのか分からず、ロット管理が難しかった。だがオートストアを使うと明確になった。
貨幣処理機や自動販売機を製造するグローリーでは15m四方、5,000程度のビンを使う小型システムを活用。保管スペースが2分の1に、生産性が3割向上し、コスト/時間ロスが削減できたという。小規模でも十分に効率が出せる例として紹介された。
なお、オートストアの実機は、2022年1月19日から21日の会期で東京ビッグサイト東展示棟にて実施される「スマート物流EXPO」のオカムラブースでも公開される予定となっている。また静岡県御殿場市にはオカムラの物流ショールームがあり、毎月第3金曜日に定例見学会を実施している。