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クラーク記念国際高校、高校生による人工衛星の開発/打ち上げを目指す「宇宙教育プロジェクト」

 クラーク記念国際高等学校と国立大学法人東京大学大学院工学研究科、Space BD株式会社は、高校生による人工衛星開発・打上げを目指す「宇宙教育プロジェクト」を開始すると発表し、7月1日に記者会見を行なった。開発する衛星は10cm角サイズのキューブサット。衛星開発・運用を行うプロジェクトを通して、未来社会で活躍するリーダーの育成と、教育カリキュラムの作成を目指す。参加生徒は在校生から公募し、最大100名。

 クラーク記念国際高等学校は1992年開校の1万人以上の生徒が学んでいる広域通信制高校。「宇宙教育プロジェクト」事業は2022年の開校30周年記念事業として行い、打ち上げも2022年度中を目指す。東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授の中須賀真一氏の指導のもと実施し、「プロジェクトアンバサダー」として宇宙飛行士の山崎直子氏が就任する。

宇宙探求部を創部してプロジェクトにあたる
開発する人工衛星は10cm角の小型衛星

情熱をコアにたくさんの人のアイデアが繋がって誕生

司会進行の2人。鈴木梨々子さんと山根充輝さん

 会見では司会進行役等として、クラーク記念国際高等学校 宇宙探求部の生徒たちも4人登場。クラーク記念国際高等学校校長で冒険家の三浦雄一郎氏はビデオコメントで登場し、宇宙への挑戦はクラーク記念国際高等学校のモットーである「夢・挑戦・達成」の一環だと述べた。

クラーク記念国際高等学校校長 三浦雄一郎氏
三浦氏は著名な冒険家

 学校法人創志学園 学園長の大塚敏弘氏は1992年に開校したクラーク記念国際高等学校について紹介。通信制高校でありながら毎日学校に通う全日型コースを導入していることが特徴だと述べ、「宇宙探求部を創部し、高校生による宇宙への挑戦が始まる。宇宙へ夢を持ち挑戦を行なっていくきっかけになってほしい」と語った。

学校法人創志学園 学園長 大塚敏弘氏
クラーク記念国際高校の概要

 クラーク記念国際高等学校 宇宙探求部の甘露寺さくらさんは「宇宙探求部のきっかけは宇宙飛行士の山崎直子さんからもらったアドバイス。アンバサダーになって頂けてたいへん嬉しい」と述べた。

 宇宙飛行士の山崎直子氏は「私だけのアイデアではない。生徒の探求学習に熱意を持っていた学校法人創志学園の増田専務やアスコムの高橋社長、たくさんの人のアイデアが繋がったもの。たくさんのアイデアが出た。人工衛星の打ち上げサービスを行なっているSpace BDの永崎さん、何より宇宙プロジェクトに主体的に取り込みたいと考えた生徒の力が大きい。宇宙を目指すのは難しい。だからこそ多くの学びと喜びがある。実際に関わる生徒はその過程一つ一つを大切にしてほしい。この挑戦を自身の探求、何かやってみようという原動力に繋げてほしい。アンバサダーとしてこのプロジェクトを応援したい」とあいさつした。

 学校法人創志学園の増田専務は質疑応答の中で「コロナ禍で多くの課外活動がなくなった。何か元気なプロジェクトがないかなと考えた。一方コロナのなかで我々は地球市民でもあるということを認識させられた。はやぶさ2が帰ってきたときにワクワクし、なぜかそのときに山崎直子さんに会いたいと考えて、アスコムの高橋社長を通じてお会いした。そのなかで高校生でも人工衛星を飛ばせるという話が出てきた」と経緯を紹介。「新しいムーブメントを作るときに情熱と人の縁は大事。もう1つ、フォロワーも重要。今回、みんなが『それ面白いね』とフォロワーになってくれた」と語った。

クラーク記念国際高等学校 宇宙探求部 甘露寺さくらさん
宇宙飛行士 山崎直子氏
学校法人創志学園 増田哲也氏

 続けて、同 宇宙探求部 鈴木海仁さんは「高校生が開発するためには教えてくれる先生が必要。名乗りをあげてくれたのがSpace BDの永崎社長」と紹介。

 Space BD株式会社 代表取締役社長の永崎将利氏は「このプロジェクトをスタートできて大変うれしい。情熱をコアにして『この人がいなかったらできなかった』という人たちの思いが繋がった。高校生が主体になって衛星を打ち上げる教育プロジェクトにしていこうという発端は情熱であり人の縁。いろんな方の思いを受けながらやっていくことを楽しみにしている」と語った。

 そして「Space BDは日本初の宇宙商社。私自身、起業家として教育事業からスタートした。宇宙と教育をくっつけていこうとしている。このプロジェクトを象徴として教科にも落とし込んでいく。生徒は学力だけではない色々な気づきを得ていく。クラークの大きなチャレンジにパートナーと伴走し、色々な宇宙関係者と繋げながら素晴らしいチャレンジとしていきたい。そして『チャレンジはかっこいい』という動きが広がってくれるといいなと思っている」と語った。

クラーク記念国際高等学校 宇宙探求部 鈴木海仁さん
Space BD株式会社 代表取締役社長の永崎将利氏

宇宙探求部を創部。高校生による宇宙への挑戦

宇宙教育プロジェクトの概要

 今回の「宇宙教育プロジェクト」は「人工衛星班」と「宇宙探求学班」に分かれている。「人工衛星班」は実際に衛星を開発する。一方「宇宙探求学班」は宇宙を舞台にした探求プログラムを開発していく。両者を東大の中須賀教授が指導しながら、衛星の開発とカリキュラムの開発を同時に進めていく。

 人工衛星の開発運用にチャレンジするするために「人工衛星班」は「宇宙探求部」を創部。3つのチームがある。企画開発運用まで行なう人工衛星開発チーム、広報を担当する国際広報チーム、実際に企画を実行するための宇宙ミッションチームだ。

東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授 中須賀真一氏

 小型人工衛星の研究開発の専門家である東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授の中須賀真一氏は、「たいへんワクワク、光栄に思っている」と意気込みを語った。「高校生たちに、きわめて低コストで短期開発ができる超小型衛星を開発してもらう。衛星開発にはたくさんのステップがある。宇宙で活動するためには粘り強く1つ1つこなしていく必要があるし、プロジェクトマネジメントやドキュメントで残していく作業も必要。プロジェクトを通して、どんな分野にいっても最後までやり遂げられる大人に育ってもらいたい。一番大事なことは、衛星開発はしんどい、でも楽しむことがとても大事だということ。楽しむ中で新しいアイデアが生まれてくる。そんな支援をしていきたい」と語った。

 宇宙探求部 鈴木海仁さんも、「先日のプレ講義もとても楽しかった」と感想を述べた。それに対して中須賀教授がすかさず「本当?」と突っ込むと、思わず笑顔で「本当です」と答えていた。

宇宙教育プロジェクトのロードマップ

未知の世界で主体的に設定した問題を自ら解決する力を養う

クラーク記念国際高等学校 阿部賢太氏

 カリキュラムを実際に担当するクラーク記念国際高等学校の阿部賢太氏は、「未来の社会を生きるために必要なスキルを身につけさせたい。これからの社会では自ら考え行動することが必要とされている。このような力を養うために日々探求学習に力を入れている」と語った。

 今回のプロジェクトも「答えのない問いに向かい、創造し、挑戦することが大きな目的。宇宙は未知の可能性が秘められた領域。宇宙は答えがない問いだと思っている。だから楽しく、さらに追求したいと子供達の興味関心が掻き立てられるような教材を作っていきたい。今回、子供達に探求学習で宇宙のことを知ってもらって、さらに学んでみたいと感じる教材を開発したい」と述べた。

 カリキュラム開発のポイントは2つ。宇宙探求部が進める人工衛星の開発から得られるリアルな体験のフィードバックと、専門的かつ教育的視点から東大の中須賀教授が指導してくれること。

 中須賀教授は改めて、「1kgの小型衛星を使ってどんなミッションができるか、この中で何ができるか考えることがとても大事。たとえば環境問題に貢献する衛星ができるかもしれない。探求を通して生徒に考えてもらいたい。ミッションを設定するのは自分。外から問題が来るのではなく、自分で設定する。それを解決する。この問題解決プロセスがとても大事。いまの日本の教育を知識を覚えさせているだけ。問題解決のためにどんな知識が必要かわかった上で勉強していくプロセスを生徒には経験してもらいたい」と語った。

 また「先には大きな喜びがある。(大学の)私たちも最初に衛星がビーコンの音を送ってくれたときに学生たちは泣いていた。この感覚を生徒さんに経験してほしい。次に大変なことがあっても、その先にある嬉しいことのために頑張れる、そんな思いで教材開発に貢献していきたい」と語った。

 衛星開発には電子回路設計や構造設計などの専門知識が必要で、大学生であれば基本的な授業を受けた上で入っていくが、高校生はベースがない。そのため必要なときに必要な知識を教えていく点は大学生よりも難しいが、教え方次第だと考えているという。

失敗は成功するまで続ければ失敗でなくなる

意気込みを書いた色紙を手に記念撮影

 最後に、宇宙探求部の生徒4人から日本語/英語交えてコメントがあった。鈴木梨々子さんは「初めて宇宙に興味をもったのは天体望遠鏡を覗いたとき。月はとても綺麗だったことを覚えている。だが中学高校と成長するにつれて宇宙を見上げることは少なくなった。このプロジェクトを聞いて、宇宙についてもっと知りたいと考えた。受験も控えているが宇宙が大好きだったので参加した。高校生主体での打ち上げ/運用ということで英語も使ってたくさんの方に広報していく。宇宙に目を向ける機会のお手伝いをしていければ」と語った。

 山根充輝さんは「もともとものづくりが好きでロボティクス講座に入っている。宇宙ではロボットが活用されている。自分もISSのロボットアームや惑星探査ローバーに興味があったが、これまでは関わることはできなかった。昔思った夢と、この思いを胸に頑張っていこうと思う」と述べた。

 甘露寺さくらさんは「中須賀教授は失敗は途中でやめれば失敗だが、何回もやり直せば間違いではないと教えてくれた。失敗しないように挑戦を頑張っていきたい」と語った。

 鈴木海仁さんは「コロナのせいで暗い日常を送っているが高校生を代表して言いたい。高校生は世間が思っているほど落ち込んでおらず、上を見ている。上を見ている高校生としての姿を伝えられるよう努力していきたい」と述べた。