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愛称は「アンビシャス・ゴー」。高校生による人工衛星「Clark sat‐1」が完成、2023年秋に打ち上げへ

 学校法人創志学園 クラーク記念国際高等学校、国立大学法人東京大学大学院工学研究科、Space BD株式会社の3者は、2021年に発表した高校生による人工衛星開発・打上げを目指す「宇宙教育プロジェクト」による人工衛星「Clark sat‐1」を完成したと発表し、2023年3月17日に完成披露記者会見を行なった。

 開発した衛星「Clark sat‐1」は1Uサイズと呼ばれる10cm角サイズ。いわゆるキューブサットだ。重さは0.94kg。カメラを搭載し、地球を撮影する予定。また搭載した音声データやイラストデータを地球へ送る通信機能を持つ。五面に太陽電池が貼られており、テグスでアンテナが展開する仕組み。愛称は「Ambitious Go(アンビシャス・ゴー)」。

 2021年10月から開発を行ない、各種申請手続きやJAXAによる審査などを経て2023年3月に完成した。これからJAXAに引き渡される。衛星運用用に東京板橋にある「CLARK NEXT Tokyo」の屋上にアンテナを建て、管制局の設置工事も行った。打ち上げは2023年秋以降を目指す。

 衛星はまず国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げられ、その後、秋頃を目処にきぼう実験棟からロボットアームを使って放出。放出後1カ月程度で宇宙での運用が始まる予定。生徒たちの協議により、人工衛星のミッションは4段階に設定されており、2段階目の通信成功を「フルサクセス」とする。また衛星から受信した写真データを活用したモザイクアート作成などを行なう予定。衛星そのものは数年持つが、徐々に軌道を外れるので運用寿命は半年から1年と想定されている。

開発された「Clark sat‐1」のモックアップ。10cm角、0.94kg。
五面に太陽電池パネルが貼られている
打ち上げ時にはアンテナは巻かれていて、ニクロム線を焼き切って展開する
公募した結果、愛称はクラーク博士にちなみ「アンビシャス・ゴー」に

 クラーク記念国際高等学校は1992年開校の1万人以上の生徒が学んでいる広域通信制高校。「宇宙教育プロジェクト」事業は2022年の開校30周年記念事業として、東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授の中須賀真一氏の指導のもと行なわれたもの。宇宙飛行士の山崎直子氏も「プロジェクトアンバサダー」を務めた。

 全国の学習拠点から宇宙に興味がある生徒を集めて「宇宙探究部」を組織し、東京大学、Space BD株式会社と共同で、高校生主体の人工衛星の企画から運用までを行っている。参加生徒は有志123名。在校生から公募した。

出席者たちによる記念撮影
手前が「宇宙探究部」の学生たち

大志を乗せて宇宙へ 宇宙教育プロジェクト

クラーク記念国際高等学校 校長 吉田洋一氏

 記者会見の司会は、クラーク記念国際高等学校の本村百絵さんと和島優仁さんの2人らが行なった。はじめにクラーク記念国際高等学校 校長の吉田洋一氏が2022年4月からの取り組みを紹介。「思いを乗せて宇宙へ挑戦してほしい」と語った。

人生の選択にも活かせる学習成果

宇宙飛行士 山崎直子氏

 宇宙教育プロジェクトアンバサダーの宇宙飛行士の山崎直子氏は「宇宙探究部の皆さんは、たくさんの学びがあったと思う。地道なことの積み重ねが大きな夢に到達するための道。クラーク記念国際高等学校が宇宙へ挑戦することは夢やチャレンジを重視する風土があるから。これから活動の幅も広がると思う。宇宙に限らず、挑戦したい人が増えると嬉しい。色々な方のご縁と連携でここまでやってこれた。全ての方に感謝し、高校生たちが前へ向けるよう応援したい」と語った。

 また「自分が高校生の時には高校生が人工衛星を作るなんて思いもよらなかった。純粋に羨ましいなと思っていた」と述べた。そして「世界的にも本当にアンビシャスな成果。学生のうちから、チームでやり遂げたことは大きな財産になると思う」とコメントした。

東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授 中須賀真一氏

 指導している東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授の中須賀真一氏は「アンビシャス・ゴー、良い名前ですよね」と話を始めた。「これから宇宙へ打ち上げ、衛星が動くことで新たな学びがある。開発や利用の話だけではなく、ミッションをどうやって決めていくか、運用なども講義した。大学生レベルの宿題も出したが生徒たちは解いていた。CanSat実験も楽しかった。問題解決の非常に良い鍛錬になったと思う」と述べた。

 東大の研究室見学そのほかも行なったという。中須賀氏は「成果をどのようにこれからの衛星、人生に活かしていくかは生徒さん次第。ぜひ東大に来てください。うちでさらに鍛えてあげます」と述べ、「社会には色んな課題がある。ここで学んだことを人生、進路の選択に最大限活かしてほしい」と呼びかけた。そして「僕らも最初に衛星のビーコンを聴いたときは涙が出るほど嬉しかった。ぜひクラークの皆さんにも味わってほしい」と祝福した。

 小型衛星開発のパイオニアである中須賀氏も「学生が衛星を作ることは思いもつかなかった」という。そして「あるものを実現するにはどう計画しなければならないのか、そのために何の勉強が必要なのか。宇宙は問題解決のためには非常にいい教材。『絶対に成功させたい』と思うから。これが良い鍛錬につながる。彼らはまさにそれを経験した。他の高校にもやってもらいたい」と述べた。

Space BD株式会社代表取締役社長 永崎将利氏

 宇宙ベンチャーの立場で手助けしたSpace BD株式会社代表取締役社長の永崎将利氏は「このプロジェクトをどう活かすか、3つのキーワードがある。先駆者、本物に触れたこと、そして実践的だったこと」と述べた。

 「高校生が主体者として衛星を開発して打ち上げるのは日本では初めての試みだった。宇宙開発はいま盛り上がっている。先駆者にしか見られないものを経験できたと思う。いつか実感できるところが来る。二つ目は本物に触れたこと。中須賀先生、山崎直子さん、アークエッジ・スペースさんなどに助力してもらった。この価値はいまは実感できないかもしれないけど、すごく貴重だったことを実感できる時が来る。最後に実践的だったこと。センサーの使いこなし、安全審査プロセスなどを学んだ」と振りかえり、「これからの経験はどういう人生を歩もうが素晴らしい経験になる」と祝福した。

運用も生徒主体で実施予定

お披露目された「Clark sat-1」とクラーク記念国際高等学校 宇宙探究部の甘露寺さくらさん(左)、山根充輝さん(右)

 人工衛星のアンベールはクラーク記念国際高等学校 宇宙探究部の甘露寺さくらさん、山根充輝さんが行なった。続けて、衛星の詳細設計を行なった株式会社アークエッジ・スペース ジェネラルマネージャー 辻正信氏が「高校でキューブサットを打ち上げるのは世界的にも珍しい」と触れて解説。辻氏は「運用を行なうのは生徒の皆さん。ぜひ頑張ってほしい」と激励した。

株式会社アークエッジ・スペース ジェネラルマネージャー 辻正信氏

4段階のミッションで構成、基地局は板橋の屋上

クラーク記念国際高等学校 クラークネクスト東京キャンパス長 成田幸助氏。手にしているのは2022年7月に刊行した広報誌「SPARK

 クラーク記念国際高等学校 クラークネクスト東京キャンパス長の成田幸助氏は、4段階のミッションを解説。まず、「ミニマムサクセス」はISSからの放出。2段階目の「フルサクセス」は衛星との通信成功。3段階目の「エクストラサクセス」はカメラでの地球撮影とイラスト・音声データの地球の送信。4段階目の「エクストリームサクセス」は宇宙デブリの撮影だ。成功の可能性は極めて低いが、生徒たちが今回のプロジェクトで一番興味を持った点が宇宙の環境問題であったことから、こうなったという。

 衛星は地上の基地局から運用される。基地局は東京・板橋の屋上に設置されており、生徒主体で運用される。成田氏は「高校生が宇宙に触れる機会はなかなかない。先生方に教えて頂きながらバックアップしていただきながら進行している」と述べ、全国の生徒たちから構成される「宇宙探究部」の活動を紹介した。

基地局は東京・板橋の「CLARK NEXT Tokyoキャンパス」の屋上に設置
宇宙プロジェクトの建て付け

 有志123名から構成される宇宙探究部は、人工衛星開発チーム、国際広報チーム、打ち上がったあとのミッションを考える宇宙ミッションチームの3つに分かれている。生徒たちは講義を受講し、CanSatプログラムやワークショップをこなしたりしながら開発を進めた。今後は、打ち上げ、放出を経て「2023年冬には無事に運用できる体制に持っていきたい」と考えているという。

これまでとこれからのスケジュール

 また、地球と宇宙を題材にした探究学習型イベントを実施。生徒たちが地球・宇宙のために何ができるか考えるなどの活動を行なった。また、山崎直子さんからミッションをもらい、ディスカッションして、プレゼンを行なうような教育も行なったとのこと。

 活動は基本的に全国横断の活動なので放課後を使って、オンライン主体で行なったという。開発においては開発期間そのものが短期だったことから「短期間での開発には苦労した」とのことだった。

地球と宇宙を題材にした探究型学習イベントも実施
全国の学生が探究学習を行なう試みも実施された

トライアンドエラーや試行錯誤を学んだ学生たち

宇宙探究部は123名、3チームに分かれて活動

 宇宙探究部の甘露寺さくらさんは英語と日本語で活動を振り返り「後輩たちの活動を楽しみにしている」と語った。山根充輝さんは「今回のプロジェクトは通常の衛星開発より早いペースで行った。さまざまな方に特別授業を通して宇宙開発について学んできた。失敗してもやり直す『トライアンドエラー』の考え方や問題解決について学んだ」とコメントした。

 本村百絵さんは「自分達の手で人工衛星を飛ばすという目標のもとさまざまな活動をしてきた。私は国際広報誌の発刊に携わった。試行錯誤して悩むことがあったが自身の財産になったと感じている。多くの人の支えがあって今日を迎えられた。それらに感謝し、今後の発展を願っている」と語った。

 和島優仁さんは「いまこの場に立てていることを誇りに思う。宇宙から見た地球の景色を撮影し、多くの人に地球の状況を伝えたい。人工衛星から撮影した今のリアルな状況がわかる写真をもとに現状を知ってもらい、環境問題の解決に貢献したい」と述べた。

宇宙探究部 甘露寺さくらさん
宇宙探究部 山根充輝さん
宇宙探究部 本村百絵さん
宇宙探究部 和島優仁さん

会見では応援ソングとダンスのパフォーマンスも披露

学生たちと関係者による記念撮影

 会見の最後には、クラーク記念国際高校パフォーマンスコースの学生たちとラッパーの晋平太さんによる応援ソング「Satelite.AMBITIOUS」の披露も行なわれた。高校生たちによる想像以上の激しいパフォーマンスに、記者たちもやや驚いた様子だった。