ニュース
「分身ロボットカフェDAWN ver.β」常設実験店が日本橋に誕生
2021年6月22日 06:05
株式会社オリィ研究所は21日、難病や重度の障害、子育てなど様々な理由で外出困難な人が、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を遠隔操作して接客を行なう「分身ロボットカフェ DAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)常設実験店」を東京・日本橋にグランドオープンすると発表し、協賛各社とオープニングセレモニーを行なった。6月21日は「世界ALSデー」でもある。
オリィ研究所は「人類の孤独をリレーションテックで解決する」をミッションとし、「その場にいる存在感」を共有するための遠隔操作型の分身ロボット「OriHime」を中心としたロボットの製造、および分身ロボットを活用した就労支援サービス「AVATAR GUILD(アバターギルド)」の提供を行なっている会社。「OriHime」はカメラとマイクとスピーカーを内蔵しており、操作している人とコミュニケーションが取れるロボット。
オリィ研究所は2018年11月に「分身ロボットカフェ」第1回実験を10日間開催した。当時は10人のパイロットが参加した。その後、2019年に2度、2020年に1度と店舗での実験を重ねて、パイロット数も増え、延べ4回の期間限定出店で来店人数は累計5,000人にのぼった。
そして今回、50人のパイロットが参加する常設実験店の設置へ踏み切った。今回の常設化においてはクラウドファンディング「GoodMorning」で資金を募集。2021年3月25日から5月9日までの期間中に2,156人から 44,587,000円の資金を集めたことでも話題になった。
各社協力のもと様々な実験が行なわれるプラットフォーム的店舗
今回の常設実験店では、過去の実験時のように分身ロボット「OriHime」、「OriHime-D」による接客サービスのほか、新たに川田テクノロジーズ株式会社とカワダロボティクス株式会社との共同開発中の、遠隔操作による作業が可能な分身ロボット「テレバリスタ OriHime×NEXTAGE」 を初導入する。ALSを発病したためにバリスタの仕事を断念したパイロットがテレバリスタを遠隔操作するなど新しい働き方を探索する。なお分身ロボットカフェでは遠隔接客を行なうロボット操作者を「パイロット」と呼んでいる。
常設実験店を構えるのは三井不動産株式会社が地域と協働しながら街づくりを進めている「日本橋EASTエリア」。住所は東京都中央区日本橋本町3丁目8-3 ライフサイエンスビルディング3(旧名:東硝ビル)の1Fで、日本橋EASTエリアの玄関口に位置する。面積は約300平方m(内カフェエリア:190平方m)。席数は約70席。カフェ店舗としては「TAILORED CAFE(テイラード カフェ)」を運営する株式会社カンカクとの共同運営で、一般向けの営業開始は6月22日からとなる。なお、オリィ研究所は本社も同ビル内に移転している。
シックな空間デザインと、ロボットが人と人の繋がりを取り持つ様が感じられるコミュニティデザインを両立させた店内レイアウトは、オヤマツデザインスタジオ株式会社が担当した。店舗内はバリアフリー対応で店内段差なし。店内導線、什器・家具類は車椅子に配慮された設計で、ストレッチャータイプ・電動を含む車椅子での入場も可能。
また、人工呼吸器などの医療機器や電動車椅子の充電用に電源貸し出しも可能。店内にはオストメイト・介助ベッド附設のバリアフリートイレを設置している。バリアフリー化は三井不動産の協力と、一般社団法人WheeLog(ウィーログ)のバリアフリー監修による。
売りはローストビーフ。嚥下調整食にも対応
以前の分身ロボットカフェで提供されるのは飲み物のみだったが、常設実験店では食事も提供される。看板メニューはローストビーフを使った「ロービーバーガー」。吉藤オリィ氏が肉好きであることから選ばれたという。
いっぽう、嚥下調整食など食事支援が必要な客に対してはミキサー・チョッパー・カトラリーなどの器具の貸し出しのほか、ドリンクメニューの中に嚥下対応ドリンクをラインナップし、とろみ調整剤の提供も行なう。これらは嚥下障害がある子を持つ親たちによるコミュニティ「スナック都ろ美(スナックトロミ)」が監修している。
店舗内は4エリア。予約不要のエリアも
店内で目立つのは壁面を飾る180型LEDディスプレイだ。店舗は4つのエリアに分かれており、使い分けができる。カフェエリアはA、B、Cの3種類。まず、Aエリア「OriHime Diner(オリヒメ・ダイナー)」は時間入替・予約制。OriHimeが席に伺いオーダー・ドリンクサーブなどを行ない接客する。客は遠隔で働くOriHimeパイロットと話をしながらダイナーをイメージしたオリジナルフードやTAILORED CAFEプロデュースによるスイーツや飲み物を楽しめる。
Bエリア「BAR & Tele-Barista(バー・アンド・テレバリスタ)」も時間入替・予約制だ。こちらでは元バリスタのパイロットが「テレバリスタOriHime × NEXTAGE」を遠隔操作する。そして客の好みに合わせたコーヒーとチョコレートを選び、コーヒーを淹れて提供する。コーヒーをいれるあいだ、パイロットとの会話を楽しむこともできる。テレバリスタが分身ロボットカフェに導入されるのは今回が初めて。
Cエリア「CAFE Lounge(カフェラウンジ)」は予約不要。完全キャッシュレスのパーソナライズドカフェ「TAILORED CAFE」のスペシャルティコーヒーやホットサンドなどの軽食を楽しめる、気軽に日常使いができる席。時間貸ラウンジ席もある。Wi-Fi・電源完備で予約もできる。CエリアからAエリア、Bエリアの様子を見ることもできる(エリア内への立ち入りはできない)。
それと、予約不要の「PRゾーン」があり、ここにはスポンサー企業PRコーナーとオリィ研究所製品体験コーナーが設置されている。なお、店名の「DAWN」は、この取り組みがもたらす「絶望の夜を経ての暁」を表し、「ver.β」には「現状に飽き足らず、常に失敗と改良を繰り返し、変化・成長し続ける研究プロジェクトである」という決意が込められているとのこと。
目指すのは脱分断。新しい挑戦で大量の失敗を作り出す実験カフェ
株式会社オリィ研究所 共同創設者 代表取締役所長の吉藤オリィ氏はセレモニーで「念願だった常設実験店をオープンすることになった。親友で秘書だった番田雄太の話をさせていただきたい。彼は交通事故で首から下が動けなくなった。移動できない、外出ができない彼は『出会いと発見がないことが一番のハンディキャップなんだ』と言っていた。
彼はOriHImeを遠隔操作することでお金を稼いでいたが、『世の中は身体至上主義だ』と言っていた。現在の社会は『体を運ぶこと』を前提としてデザインされている。肉体労働をテレワークで行なうことができないかということで番田雄太と一緒に考えていたのが『分身ロボットカフェ』だった。しかし人は生きている限りどこかで外出困難になる。我々は移動困難になったあと、どう生きていくかロールモデルを持っていない。この分身ロボットカフェを通して身体が動かなくなったとしてもどうすれば自分らしく生きていけるかを探っていきたい。
番田は3年前に亡くなってしまったが同志が集まっているのがこの分身ロボットカフェ。我々が目指すのは『脱分断』。一緒にカフェを作ってきた仲間たちと働き、仲間意識を持てる社会を作っていきたい。我々は今まで『できない』と言われた多くのことを『できる』に変えてきた。遠隔地にいても働けるようにしたい」と述べて、遠隔操作される「OriHime D」を呼び込んだ。
分身ロボットのパイロットの一人で、島根県松江市在住の三好史子さんは「OriHime D」を遠隔操作して、挨拶に登壇。三好さんは「これまで働けるとは思っていなかった。カフェで働くようになって繋がりが増えて自分にできないことはないと考えるようになった。誰もが人との関わりを持ちながら働くことが当たり前の社会にしていきたい」と語った。
最後に吉藤氏は「我々の感じる不自由を次世代に遺さない。このカフェは『大量の失敗』を提供する。新しい挑戦を行い大量の失敗を作り、繰り返しながら、この研究を続けていきたい。これからもご注目をお願いしたい」と挨拶を締めくくった。
続けて、アドバイザーの乙武洋匡氏が登壇。乙武氏は第1回から分身ロボットカフェに携わっており感無量だと語り、「今から25年前、大学1年生になった私はアルバイトでもしたいと考えた。できる仕事とできない仕事があるが、喋るのは得意なのでテレフォンアポインターならできるのではないかと考えたが、3社続けて落ちてしまった。障害者は仕事するのが難しいと実感した。悔しかったし、焦った。
幸い、大学時代に出版された本が多くの人に読んでもらえたので仕事を続けることができているが、あの本がなければ今でも仕事を続けられているかどうか自信がない。吉藤氏が語ったように『体を動かすこと』が前提の社会だからだ。自分で身体を動かすことができない人はマイノリティになってしまう。その状況を変えてくれたのがこの分身ロボットカフェだ」と述べて、以前、カフェでの接客を受けたときの経験エピソードを語った。そして「常設店になったことを考えると胸がいっぱいになるし、私自身の老後に希望が持てる」と述べた。
さらに特別協賛社の日本電信電話株式会社、バイオジェンジャパン株式会社、三井不動産株式会社の3社代表者が登壇。日本電信電話株式会社 ダイバーシティ推進室 室長の池田円氏は、「NTTは2019年に大手町に分身ロボットカフェをオープンしたときにも協賛しており、今回が2回目。そのときに私も初めてパイロットの皆様に会うことができた。病院に何年も入院している方が『また働けるとは思わなかった』と語ってくれたのを聞いて、なんと素晴らしいICTの使い方なんだと思った」と述べた。
NTTグループでは2020年から本社受付業務に「OriHime-D」と障碍者による受付業務の本格導入を行なっている。今回のカフェでも、NTTのコミュニーケション基盤構想を実現するための実証実験を行なう。低遅延技術によってパイロットのストレスを減らし、ロボット適用領域を拡大することを目指す。
バイオジェン・ジャパン株式会社 代表取締役社長のAjai Sulekh(アジェイ スレイク)氏は「バイオジェン・ジャパンは神経疾患薬の開発に取組んでいる製薬会社。神経難病と共に生きている方が夢や希望を持っていけるよう、様々な取り組みを応援している。不可能を可能にというビジョンを掲げている製薬会社。オリィ研究所と同じビジョンを持っていると考えている。この分身ロボットカフェの成功を祈っている」と語った。
三井不動産株式会社 ライフサイエンスイノベーション推進部 部長の三枝寛氏は「弊社はこの場所の提供という形で協賛している。我々は日本橋に賑わいを作りたい、ライフサイエンス領域を盛り上げたい、この2点を理由として協賛している。日本橋には130社のライフサイエンス関連企業が集積している。ここ日本橋EASTエリアの玄関口である『日本橋ライフサイエンスビルディング3』8Fのラウンジには『OriHime Biz』を設置している。注目度の高い分身ロボットカフェによって、これまで来なかった人たちが来てくれて、新しい賑わいを作ってくれることを期待している」と語った。
分身ロボットカフェ共同事業者である株式会社カンカク 代表取締役の松本龍祐氏は「我々はキャッシュレス・カフェを運営しているスタートアップ。カフェ運営事業だがメンバーの半分くらいはエンジニア」だと自社を紹介。
そして「我々は“Building the Next Ordinary.”(新しいライフスタイルを作る)、つまりテクノロジーで新しいライフスタイルを作り出すことをミッションとしている。カフェの運営にもテクノロジーを導入してDXに取組んでいる。分身ロボットカフェ『DAWN』の取り組みは利便性を増すだけではなく、生活を一変させる取り組みだと思っている。だからぜひやらなければと思った。飲食店や接客の新しい姿を指し示せる可能性を感じている。新しい取り組みが満載の店舗なので最初はスムーズにいかないかもしれない。ぜひ多くの方の応援を頂きたい」と語った。
選択肢を増やす実験店
今後、オリィ研究所では2年間を目処に「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」で様々な実証実験を行なっていく。まずはビジネスモデルの検証を行ない、通年での顧客ニーズの変化を見る。現在はコロナ禍だが、コロナ禍ならではのニーズもあるのではないかと考えて、例えばOriHimeを使って客が遠隔からログインして来客したり、日本橋観光のためにOriHimeを貸し出すといった、「食だけではない実験」も行なっていく。「選択肢を増やす」ことをコンセプトとしており、椅子などもそれぞれ種類を変えたりしているという。苦労した点については「様々あったが、特にネットワークの不安定さには悩まされた」と吉藤氏は語った。
パイロット数は現在50名で、調子がいい人は週に2~3日、2~3時間程度働いているとのこと。パイロット目線では従来よりもメニューが増えて細かくなったため覚えることは増えたが、今までは基本的に選択してもらうだけだったのに加えて、「プラスでこんなのもおすすめですよ」とオプションなどを追加することで売上向上に貢献するといったやりがい、頑張りがいが増えたとのことだった。