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スパコン「富岳」が本日より共用開始
2021年3月9日 14:46
理化学研究所(理研)のスーパーコンピユータ「富岳」が、2021年3月9日に完成し、共用を開始した。それを記念したオンラインイベント「HPCIフォーラム~スーパーコンピュータ『富岳』への期待~」が開催された。イベントでは、関係者によるテープカットも行なわれた。
理化学研究所の松本紘理事長は、「富岳が科学の大海原に向けて出発することになる。富岳は、飛び立つ準備が万端である。満を持して、共用を開始する。今後、国民に愛される富岳になりたい」と、富岳の共用開始を宣言した。
また、共用開始となった3月9日は、世界初の有人宇宙飛行を行ったユーリイ・ガガーリン氏の誕生日であることにちなみながら、「地球が青かったという言葉と同じく、富岳も青い。そして出発するときには、『さあ、行こう』という言葉で、勇気を振り絞った。富岳も最初のスイッチが入り、いよいよ共用がはじまる」などとした。
さらに、「富岳は、多くの方々の力によってできあがったものであり、速さはもちろん、使いやすさ、安定性を主眼に開発されたものである。富岳という名称は、性能の高さと、応用範囲の裾野の広さを示したものである。とくに、富士通の力量がなければここまでこなかったと思っている。コロナ禍にも関わらず、これだけのスパコンを搬入し、設置し、滞りなく進められたことは関係者の努力によるものだと考えている」とした。
また、「富岳はSociety 5.0において、サイバー空間とフィジカル空間をつなぎ、人々の暮らしを豊かにする上で重要な役割を果たす。京の100倍近い性能を発揮し、幅広いアプリケーションの利用を想定して開発されたものである。armを採用しており、多くの人が日常利用しているアプリケーションも動くほどの汎用性がある。京では、AIやビッグデータの解析ができなかったが、富岳はそれを十分にできる性能を持っている。健康・長寿、防災・環境、エネルギー、産業競争力強化、基礎科学の推進などでの効果が見込まれている」などと述べた。
富岳は、文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)」の中核システムとして、開発、整備を進めてきたスーパーコンピュータ。理研と富士通が、2014年から共同で開発に着手し、2020年5月にすべての筐体の搬入を終了。その後、共用開始に向けた開発と利用環境整備などを進めてきた。
この間、一部リソースを活用して、「新型コロナウイルス対策利用」などに利用。「ウイルス飛沫感染の予測とその対策」の研究などで成果をあげる一方で、スーパーコンピュータの性能ランキングである「TOP500」、「HPCG」、「HPL-AI」、「Graph500」の4部門において、2020年6月と11月の2期連続で、2位に圧倒的な差をつけて、世界第1位を獲得している。
高度情報科学技術研究機構の田島保英理事長は、「AIやビッグデータを含めて計算科学の適用範囲が広がるなかで、超高性能計算の富岳が本格稼働することは、新たな時代が訪れを感じる。人が外部脳としてスパコンを手にすることで、見えないものや、時間や空間の果てにも思いを巡らせることができるようになる。富岳が、広く、深く使われ、生命、生活、産業といった点からも、社会全体を一新するような成果を期待している」と述べた。
ビデオメッセージで参加した文部科学省の萩生田光一大臣は、「当初予定では、来年度の共用開始であったが、国民の期待も高いことから補正予算を活用して整備を前倒しし、年度内にフルスペックで利用を開始することにした。
2020年春からは整備作業と並行して、新型コロナウイルスの治療薬候補の探索や、飛沫・換気シミュレーションなどの緊急的な研究を進めてきた。この間、富岳が4部門で世界ランキング1位を獲得した。関係者の献身的な取り組みに敬意を表する。富岳はひと足早い山開きを迎えることになる。研究者はもちろん、産業界の方々にも富岳の世界トップクラスの性能を最大限に引き出し、まだ誰も登ったことがない頂を目指して、大いに活用してもらいたい。
また、富岳は裾野が広い山であり、できるだけ多くの方に活用してもらえるように、文部科学省としても環境整備を進める。コロナ対策はもちろん、宇宙や生命の真理の解明や、日本が直面する地震や豪雨といった災害対策、健康医療、エネルギー、材料、モノづくりといった経済を支える分野において、世界をリードする成果が生み出されることに期待している。富岳を国民共有の財産として、次世代科学技術を担う若手研究者はもちろん、GIGAスクール元年を迎える児童生徒にも世界一の性能を体験してほしい。富岳が国民に愛され、期待に応えていくことを祈念している」と述べた。
ス―パーコンピュータ推進議員連盟の甘利明会長は、「4部門世界1位はさすがである。性能の高さと汎用性ではほかを寄せつけない。鼻が高い。ラグシュアリーカーでありながら、F1グランプリやラリー選手権を制してしまったようなものだといえる。デビュー前から新型コロナ対策にも貢献しているが、これは富岳の能力の100分の1でしかない。創薬や災害対策にも貢献するだろう。
これまではどんなスパコンを使ってもできなかった被害規模や避難経路も富岳が解析してくれるだろう。被害の極小化でも社会貢献するだろう。富岳は、国内外の全人類のために縦横無尽の活躍をするポテンシャルを十二分に持っている。胸をときめかせて富岳の活躍を見守りたい」とした。
自由民主党 科学技術・イノベーション戦略調査会長であり、ス―パーコンピュータ推進議員連盟の渡海紀三朗幹事長は、「東日本大震災や事業仕分けなど、困難な時期もあったが、関係者の努力で共用開始ができるようになった。政府では、2021年度からの5カ年計画である第6期科学技術イノベーション基本計画の策定に向けた作業が進んでいる。Society 5.0の実現を図る段階であり、そこに富岳が担う役割は大きい。まさに富岳の出番であり、その節目での本格稼働は頼もしい」と挨拶した。
兵庫県の井戸敏三知事は、「日本のテクノロジーの粋を集めた富岳が、科学者の夢や希望とともにいよいよ共用が開始される。新型コロナウイルス対策では、早くも世界一の実力が発揮されている。本格稼働後はさらに幅広い分野での活用が予定されており、このなかには、兵庫県内の企業や大学の研究も含まれている富岳が設置されている兵庫県で、富岳による最先端の研究が数多く進み、新たな知見が誕生することを期待している。富岳の産業利用の促進と、IT人材の育成に取り組み、計算科学とデータ科学の拠点形成を目指す。富岳が兵庫、神戸のシンボルとして、基礎科学の発展と産業競争力の強化に貢献することを期待している」と述べた。
神戸市の久元喜造市長は、「富岳の高度な処理能力によって、世界的名声を獲得していることは、神戸市としても喜んでいる。富岳を活用した創薬などにより、世界の人々の命や健康などに貢献することを期待している。地球温暖化への対応など、持続可能な社会に向けてのテクノロジーの進展が期待され、富岳が幅広く活用され、日本のみならず、グローバル社会で積極的な役割を果たすことを期待している」と語った。
富士通の時田隆仁社長は、「富岳の開発には多くの挑戦を伴った。富岳のCPUは、当初、10nmを予定していたが、必要とする性能を実現するために開発の途中段階で7nmに変更した。開発計画にも大きな影響を与えたが、研究者やエンジニアの情熱と努力で乗り越えることができた。
また、新型コロナウイルスの広がりにより、部材の供給が滞るという困難もあった。関係者が一丸となって対応し、サプライヤーの協力により、当初のスケジュール通りに納めることができた。そして、8年半ぶりに世界ランキング1位の座を日本に取り戻すだけでなく、初の4冠を獲得し、日本の科学技術の力を世界に示すことができた。
開発を担当した富士通にとって、今日を迎えられたことは、喜びもひとしおである。富岳が本格的に利用され、Society 5.0を支える新たなイノベーションや価値を創出する基盤として、多くの課題解決につながる成果を生み出すことに期待している。富士通は富岳の安定的な運用を支えるとともに、富岳が生み出す成果を通じて、イノベーションによって、社会に信頼をもたらし、持続可能な社会を実現する」と語った。